岐阜県 高山市出身の益田祐美子プロデューサーを知ったのは、いつの頃だったか。
古波津陽監督『築城せよ!』(2009年)を観た時だったか、それとも大森研一監督『瀬戸内海賊物語』(2014年)の時だったか。
『シネマの天使』(時川英之監督/2015年)、『サンマとカタール 女川つながる人々』(乾弘明監督/2016年)、『ハイヒール革命!』(古波津陽監督/2016年)、『こいのわ 婚活クルージング』(金子修介監督/2017年)と、益田プロデューサーが手掛けた映画を取材したことがあるが、いつも溢れるバイタリティーに驚かされる。
また、『一陽来復 Life Goes On』(尹美亜監督/2018年)、『ソローキンの見た桜』(井上雅貴監督/2019年)と、次々に良作を製作し続ける手腕に驚かされる。
そして、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界を変えてしまった2021年、またも筆者は益田祐美子プロデューサーの映画に驚かされることとなった。
彼女がプロデュースする作品には毎回驚かされるのだから、前以て心の準備をしてから鑑賞に臨めば良いことは自分でも分かっているのだが、毎回そんな思いを軽く凌駕してくる映画なものだから仕方がないのだ。
益田祐美子プロデューサー最新作、タイトルを『ハチとパルマの物語』という。
『ハチとパルマの物語』は、旧ソ連時代の1977年モスクワのヴヌーコヴォ国際空港で起こった実話を基に作られたという。
書類の不備で飛行機に乗れなかった一匹のジャーマンシェパードは、置き去りにされた空港で2年もの間飼い主を待ち続けたとか。
忠犬ハチ公を思い起こさせるこのエピソードは、今も多くの人々に語り継がれているそうだ。
『ハチとパルマの物語』ストーリー
秋田県大館市にある記念館「秋田犬(あきたいぬ)の里」。オープニングセレモニーでは館長(壇蜜)が見守る中、フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワと愛犬マサルによるメッセージが流れる。そんなニュース映像を見ていたニコライ(アレクサンドル・ドモガロフ)は、遠い日の記憶に思いを馳せる。
ロシアがまだソ連と呼ばれていた頃、飼い主の不注意で一緒に飛行機に搭乗できなくなった一匹のジャーマンシェパードが、空港の滑走路に放たれる。置き去りにされた犬は、整備士セルゲイ(ヴィクトル・イリン)や空港職員ニーナ(ヴァレリア・フョドロビチ)に匿われ、空港に住み着く。犬はパルマと名付けられ、飼い主を乗せてプラハに旅立った飛行機と同型の機体が着陸するたび、飛行機に駆け寄る。
同じ空港に、コーリャ(レオニド・バーソフ)が降り立つ。母を亡くした9歳のコーリャは、ほとんど接点のないまま生き別れていた父ラザレフ(ヴィクトル・ドブロヌラヴォフ)に身を寄せることになったのだ。国内線のパイロットであるラザレフとの再会は、お互い心を開くことが出来ず酷いものだったが、コーリャは空港でパルマと出会う。パルマと心を通わせるコーリャは、セルゲイの図らいで滑走路脇の作業小屋で過ごすようになる。
何度も捕獲されながらも滑走路に戻って飼い主を待ち続けるパルマは、次第に空港のシンボルとなる。パルマの境遇を自分と重ねるコーリャは、パルマのために飼い主を探そうと奔走し始める。飼い主探しはやがて周囲の大人たちも巻き込み、パルマは人気者になっていくのだが――。
主役のコーリャには、オーディションで200人から選ばれたレオニド・バーソフ。
初主演どころか映画初出演とは思えない熱演で観客を惹きつける彼は、今後も注目されること間違いなしだ。
コーリャの父ラザレフには、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018年)のヴィクトル・ドブロヌラヴォフ。
コーリャと共に「成長」していく難役を、見事にこなしてみせた。
そして、物語の語り部であるニコライには、ロシアを代表する名優で、『ボリショイ・バレエ 2人のスワン』(2018年)『ソローキンの見た桜』で日本の映画ファンにもお馴染みの、アレクサンドル・ドモガロフ。
日本からも、渡辺裕之、藤田朋子、壇蜜、山本修夢、高松潤、阿部純子らが出演し、作品を重厚に盛り上げている。
また、本作の主題歌「愛の待ちぼうけ」を手掛けたCHEMISTRYの堂珍嘉邦も出演を果たしているので、是非探してほしい。
監督は、ロシアで俳優としても活躍するアレクサンドル・ドモガロフJr.。
スティーブン・キング作品を原作とした短編『Pustite detei』は、弊サイトでも紹介したことがある。
その名からピンと来るだろうが、アレクサンドル・ドモガロフの息子だ。
ドモガロフ親子のコンビは、今作が初となる。
『ハチとパルマの物語』はロシアでは3月から一般上映されており、ハリウッド大作並みの拡大公開となったそうだ。
公開初週末4日間に39万9千人もの動員を記録し、ディズニー作品などを抑えての首位を獲得したという。
この動員記録は、日露合作映画の歴代トップの快挙だとか。
また、サンクトペテルブルクで開催された【第29回ビバロシア映画祭】コンペティション部門で、作品賞にあたるグランプリを獲得した。
モスクワの空港で飼い主を待ち続けた忠犬パルマのエピソードは、日本人なら誰しも渋谷駅で飼い主を待ち続けた忠犬ハチ公のことを思い起こすだろう。
『ハチとパルマの物語』というタイトルが示す通り、映画ではハチと同じ犬種である秋田犬とロシアの人々との絆も描かれる。
旧ソ連というと、(未だに)心のどこかでネガティブなイメージを抱いてしまう向きもあるだろう。
だが、そんな方にこそ本作をお薦めしたい。
『ハチとパルマの物語』では、ソビエト連邦時代の人々が、良くも悪くも生き生きと描かれている。
言葉も、人種も、文化も、イデオロギーも違う人々が、慌てふためき、涙を流し、笑いあう。
いつしか私たちは、舞台や時代背景を忘れ捨てて、物語に没頭している自分に気付くことだろう。
何度も号泣させられるモスクワのシーンが「動」だとすれば、大館でのシーンは「静」の魅力に溢れている。
ロシアの国民的俳優アレクサンドル・ドモガロフと、日本が誇る名優・渡辺裕之が、異なる言語を操りながらも心を通じ合わせる場面は必見だ。
『ハチとパルマの物語』は、5月21日(金)~23日(日)に秋田県大館市の市民文化会館(ほくしか鹿鳴ホール)で市民向け先行特別上映会が開催される。
23日は、映画に出演した平昌五輪フィギュアスケート金メダリストのアリーナ・ザギトワが舞台挨拶する予定だそう。
そして、いよいよ5月28日(金)からは待望の日本国内ロードショーが幕を開ける。
笑って、泣いて、優しくなれる『ハチとパルマの物語』。
劇場は、感染防止対策を万全にして、あなたの帰りを待っている――。
『ハチとパルマの物語』公式サイト
© 2021パルマと秋田犬製作委員会
アレクサンドル・ドモガロフJr.監督『Pustite detei』についての記事は、こちら
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