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新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言、まん延防止措置が各都府県で布かれ、不穏な空気に包まれている2021年のゴールデンウイーク。
5月8日(土)より全国順次ロードショーとなる新作映画が、決して自粛すべきでない「今こそ観るべき映画」なので、公開直前緊急レビューする。

その名も、『なんのちゃんの第二次世界大戦』。

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『なんのちゃんの第二次世界大戦』ストーリー

平成最後の年、とある地方都市・関谷市の市長を務める清水昭雄(吹越満)は、太平洋戦争の平和記念館の設立に邁進している。
そんなある日、「平和記念館設立を中止せよ」という怪文書と共に、少女像の頭部が送り付けられてくる。
市内にはBC級戦犯の遺族が暮らしており、市長が推し進める記念館設立に激しく反発していた。
孫・南野光(北香那)と石材店を営む、南野和子(大方斐紗子)。和子の娘でスナックを営む、南野えり子(髙橋睦子)。とある事件で関谷市に戻ってきた、年長の孫・南野紗江(西山真来)とその娘マリ(西めぐみ)。
南野家の人々は、清水市長の祖父で、戦時中から反戦を主張していたという地元の名士・清水正一(藤森三千雄)の嘘を追求するのだが――。

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監督・脚本・プロデューサーは、『極私的ランナウェイ』(12年)『ひつじものがたり』(16年)の河合健。
1989年生まれの俊英で、瀧本智行監督、熊切和嘉監督、入江悠監督などの作品での助監督経験が、本作でも遺憾なく発揮されている。
河合監督は「平成生まれの僕と太平洋戦争との不透明な距離感。どうか、実感してほしい。」と、今作にコメントを寄せている。

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主人公・清水昭雄市長には、『冷たい熱帯魚』(11年/園子温監督)『友だちのパパが好き』(15年/山内ケンジ監督)『嘘八百 京町ロワイヤル』(20年/武正晴監督)など、映画の規模、役の大小を問わず決して外れを出さない名優、吹越満。
『なんのちゃんの第二次世界大戦』でも、世代間や立場、家族など様々な葛藤に翻弄される主人公という難役を、実に魅力的に演じてみせる。

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脇を確りと固める、きみふい、細川佳央、河合透真の存在感に、また今作が映画初出演となる藤森三千雄に注目してほしい。

そして、もう一つの主人公・南野家の人々にも刮目してほしい。

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南野家を支える長老・和子には、『恋の罪』(11年/園子温監督)『葛城事件』(16年/赤堀雅秋監督)『おじいちゃん、死んじゃったって』(17年/森ガキ侑大監督)など、圧倒的なキャリアを誇る大方斐紗子。
エキセントリックな感情の振り幅をこれでもかと見せつける大方の熱演は、社会派ドラマもミステリーもコメディも内包する『なんのちゃんの第二次世界大戦』の中核を成す。

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和子と生活を共にする孫娘・光には、『ひつじものがたり』『黒い乙女Q』(19年/佐藤佐吉監督)などの、北香那。
初主演した『震動』(12年/平野朝美監督)での好演で、強烈な印象を残した北。
『震動』では役柄上しゃべることが出来なかったが、今作では抑え気味の台詞にも拘らず、ミュージカル出身ならではの凛とした発声で物語を引き締めてみせる。

故郷を離れていた年長の孫・紗江には、『へばの』(08年/木村文洋監督)『乃梨子の場合』(15年/坂本礼監督)『おだやかな日常』(14年/内田伸輝監督)『れいこいるか』(20年/いまおかしんじ監督)など、主演もヒロインも脇役も何でも来いの、西山真来。
今作では、実にトリッキーな難役を事もなくこなし、さすがの存在感を見せつける。

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また、ロケ地である淡路島ならではのキャスト達も見逃せない。
和子の長女・えり子役に抜擢されたのは、淡路島出身のフィナンシャルプランナーにして現職の洲本市議会議員・髙橋睦子。
また、紗江の娘・マリにはオーディションで淡路島出身の小学生・西めぐみが選ばれた。
えり子もマリも、初めての映画出演とは思えないほどの好演・怪演を見せるので、どうかお楽しみに。

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南野家には、焼け跡世代、シラケ世代、ロスジェネ世代、ゆとり世代、脱ゆとり世代、と様々な世代が揃っている。
一人ひとり、それぞれの「なんのちゃん」が、各々違う観点から第二次世界大戦と向き合っているのが面白い。

そして、「なんのちゃん」全員に、謂わば「行政の代表者」である清水市長は翻弄され、大いに頭を抱えさせられる。

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思えば、第二次世界大戦から今日まで、地球上から戦争が消え去ったことはないのだ。
中東戦争、朝鮮戦争、アルジェリア戦争、ベトナム戦争、オガデン戦争、中越戦争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争、クロアチア戦争、コンゴ戦争、イラク戦争……
紛争、動乱まで含めてしまうと、書ききれない程になってしまう。
内戦に至っては、スーダンのように1955年から現在に到るまで停戦状態が10年程しかない国もある。

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立場が変われば、見方も変わる。
マスコミにもSNSでも、いつも二枚舌(ダブルスタンダード)は幅を利かせ、しかもそれは私たち一人ひとりも同様に毒されている。

いじめ被害者が命を断った事件では加害者を徹底的に曝しあげるのに、国家間での賠償問題となると「不可逆的に解決済み」と吐き捨てる。
ダブスタは、誰しもが罹り得る現代病なのだろう。

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『なんのちゃんの第二次世界大戦』は、5月8日(土)〜ユーロスペース(東京都渋谷区円山町1-5)にて公開となる。
緊急事態宣言真っ只中の東京、ユーロスペースでは5月8日の封切り映画は今作だけだ。

名古屋では、5月22日(土)〜名古屋シネマテーク(名古屋市千種区今池1-6-13)。
初日5/22には、河合健監督の舞台挨拶が予定されているそう。
ただし、このご時世なので最新情報に注意してほしい。

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『なんのちゃんの第二次世界大戦』に興味を持つような映画ファンに限って、よもやそんなことはないとは思うが……
ラストシーン、なんのちゃんの台詞にハッピーエンドを感じる者は、ややもすると罹っているのやもしれぬ……「ダブスタ病」に――。

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映画『なんのちゃんの第二次世界大戦』

吹越満
大方斐紗子/北香那/西めぐみ/西山真来/髙橋睦子
藤森三千雄/きみふい/細川佳央/河合透真

脚本・監督:河合健

プロデューサー:河合健 ラインプロデューサー:大村義宏
撮影:向山英司 照明:加藤あやこ 美術:野々垣聡
助監督:塩﨑竜朗 録音:村原孝麿
スタイリスト:冨田しおり ヘアメイク:原田珠里/源田稚奈
音楽:今村左悶 編集:小林由加子 スーパーバイザー:橋本直樹
製作:敷島総研株式会社/第一工芸株式会社/株式会社グリッター/河合健
製作プロダクション:株式会社ウィルコ
特別協力:淡路市/洲本市/南あわじ市/(一財)淡路島くにうみ協会
淡路島フィルムオフィス/洲本オリオン
配給・宣伝:なんのちゃんフィルム

2020/112分/カラー/日本/ビスタ/5.1ch/DCP

©なんのちゃんフィルム

『なんのちゃんの第二次世界大戦』公式サイト