ブータン メイン

中国とインドに隣接する南アジアの国家、ブータン王国。

龍王であるジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュクを元首とする立憲君主制国家で、総人口697,000人のうち8割がチベット系民族であり、文化、宗教ともにチベットと密接に関係している。

「ブータン」はサンスクリット語で「高地」を意味する「ブーウッタン」に因むとする説が有力で、その名の通り国土の大半がヒマラヤ山脈南麓の山岳地帯だ。

世界中でブータン(Bhutan)という公式の英語表記が定着しているが、国民は自国のことを「Druk Yul」(ドゥク・ユル=竜の国)と呼ぶという。


1971年の国連加盟まで長らく鎖国政策を布いていたブータンが一躍有名になったのは、翌年から「国民総幸福量」という指標を採用したことによる。

現在、ブータン王国は「世界一幸福な国」として知られている。


そんなブータンの映画が、間もなく公開される。

パオ・チョニン・ドルジ監督の、『ブータン 山の教室』だ。


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『ブータン 山の教室』ストーリー

ブータンの首都・ティンプーで暮らす、ウゲン(シェラップ・ドルジ)。ギターを演奏しステージで歌うのが日課で、オーストラリアに移住することを夢見ている。本業は教師だが、音楽で身を立てることに情熱を注ぐ毎日を過ごす。

ある日、ウゲンは転勤を言い渡される。赴任地は、標高4,800m、人口56人というガサ県ルナナ村の小学校。ウゲンはルナナへの転勤を拒もうとするが、常日頃からの勤務態度の悪さもあってか、彼の意見は聞き入れられない。

丸1日バスに揺られた町で、ルナナ村からミチェン(ウゲン・ノルブ・へンドゥップ)とシンゲ(ツェリン・ドルジ)が迎えに来ていた。宿に一泊して徒歩で更に1日、一行は人口3人という最寄りの村で民家に泊まった。ミチェンによると、ここから先はテント泊だという。

果てしなく続く山道に、ウゲンはずっと不満を漏らす。ルナナ村に到着したのは、5夜を野営した後のことだった。待ち望んでいた新しい教師のために、村長を筆頭にルナナ村の人々が総出で村はずれに集まっていた。

電気すら通っていないルナナの学校は、砂ぼこりが机に積もり、黒板すらない。ウゲンは早々に赴任の辞退を申し出て、村長は落胆しながらも受け入れる。数日後には帰路に付くウゲンは、仕方なく学校に寝泊まりするが、翌朝クラス委員のペム・ザム(ペム・ザム)に起こされる。「先生、始業時間が過ぎています」――


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主演を務めるシェラップ・ドルジは、ティンプーのレーベルに所属するミュージシャンで、『ブータン 山の教室』が俳優デビュー作となる。

学業を中断して音楽の道に進んだそうで、オーストラリアで音楽活動することを夢見ていた時期があったりと、主人公・ウゲンと共通点も多い。


本作で映画デビューを果たした俳優は、他にも数多い。


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土木技士でもあるミチェン役のウゲン・ノルブ・へンドゥップは、実はウゲン役でオーディションに参加していたそう。

主役を獲得することは出来なかったものの、ミチェン役はパオ・チョニン・ドルジ監督がへンドゥップの演技に惚れ込んで追加したキャラクターとか。


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ルナナ村の「歌姫」として大きな役割を担うセデュには、シェラップ・ドルジと同じレーベル所属のミュージシャンである、ケルドン・ハモ・グルン。

ロイヤル・ティンプー・カレッジを一年間休学し、『ブータン 山の教室』で俳優として映画デビューを果たした。


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また、クラス委員のペム・ザム(役名同じ)をはじめ、実際にルナナで暮らす多くの村人が出演している。

彼らの演技指導をしたのは、プロデューサーのステファニー・ライ。

『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(エドワード・ヤン監督/1991年)で映画デビューした女優であり、夫はパオ・チョニン・ドルジ監督だ。


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パオ・チョニン・ドルジ監督は、『ブータン 山の教室』が長編デビュー作となる。

ドルジ監督はインタビューで、単一化される世界でブータンの独自性を意識して本作を撮ったと述べている。


1999年からインターネットやテレビが解禁され、都市部を中心に変化を見せるブータン。

『ブータン 山の教室』では、徐々に薄れつつあるブータン王国の独自性が、圧倒的な映像美で余すことなく描かれる。


壮大な風景。

厳しい自然。

優しい人々。

伝統的な暮らし

気高い動物たち。


そして、

守り継がれる歌。


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ヒマラヤ山麓という荘厳なる環境で、自動車もインフラ設備もなしに現代を生きる、ルナナの人々の営み。

そんな日常が、首都ティンプー育ちの若者の目を通して映し出される。


『ブータン 山の教室』で描かれているもの。

それは、変わらずにいることの貴さである。

そして、持ち続けるべき信念の大切さである。


ルナナの小学校で、男の子が言う。

「将来は、教師になりたいです」

「どうして?」と問われ、彼は答える。

「教師は未来を見ることができると、村長が言ったから」


海外に夢を馳せる、都会の若者ウゲンは、ヒマラヤ山麓で何を見つけたか?

それは、彼の人生を変えるのか?


そして、現代の情報社会を生きる私たちは、『ブータン 山の教室』に何を観るか?

世界は、このままで良いのか?


「多様性」などという言葉を操れるのは、本当の意味での世界市民だけなのかもしれない。

私たちは、まだまだ知らない世界が多すぎる――。


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映画『ブータン 山の教室』

4月3日(土)〜 岩波ホール

4月24日(土)〜 名演小劇場

ほか全国順次公開


配給:ドマ


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『ブータン 山の教室』公式サイト