2014年、ニューシネマワークショップ(NCW)で『わたしはアーティスト』という短編映画がうまれた。

『わたしはアーティスト』は、【2015年SKIPシティ国際Dシネマ映画祭】短編部門でグランプリを、【ぴあフィルムフェスティバル】で審査員特別賞を受賞。


メガホンを取った籔下雷太監督の名は、瞬く間に認知された。


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1984年生まれの新鋭を映画界が放っておくはずもなく、籔下雷太監督は2016年、文化庁委託事業【ndjc:若手映画作家育成プロジェクト】に選出され、短編『戦場へ、インターン』(主演:伊藤沙莉)を監督。

2017年には【東映presents HKT48×48人の映画監督たち】に参加、短編『恋と友情のパターン』(主演:荒巻美咲)を監督した。


そんな籔下雷太監督、待望の長編デビュー作『BOY』(2019年)がいよいよ名古屋でも公開される。

出演は、NCWのアクターズワークショップ【籔下雷太監督・映画出演クラス】に応募した俳優たちだ。


『BOY』ストーリー

佐藤晴人(井口翔登)は、失踪していた3年間を含め、あらゆる記憶を失っていた。

主治医の谷(松木大輔)は記憶喪失の治療経験に乏しく、心理士の沢(綾乃彩)と共に治療法を模索する。


治療の一環として、両親(小川正利、村田美輪子)、兄・淳太(中野貴啓)や元カノ(山本愛生)、友人(窪正晴)らを招き、晴人との会話やロールプレイングを重ねる。

しかし、治療の効果は認められない。


記憶が戻る様子はないが、晴人は広瀬翔子(大咲レイナ)に対しては執着を見せる。

翔子によると晴人の失踪前ふたりは恋人同士とのことで、想い出の場所を巡る晴人と翔子は恋をする真っ最中のように映った。


だが、そんな時、隅田美保と名乗る女性(伊藤羊子)が病院を訪ねる。

美保は、失踪直前の晴人と交際していたと言うのだ――。


boy

『マルホランド・ドライブ』(デビッド・リンチ監督/2001年)、『50回目のファースト・キス』(ピーター・シーガル監督/2004年)、『博士の愛した数式』(小泉堯史監督/2005年)、『アンノウン』(ジャウム・コレット=セラ監督/2011年)……

「記憶喪失もの」、などとジャンル分けのように括ってしまうのは些か口幅ったいが、記憶喪失を扱う映画は古今東西珍しくない。


だが、『BOY』はどんな既存の映画とも肌触りを異にする作品だ。


失くした記憶を取り戻す過程を丹念に描いているが、ミステリー映画だと感じる人はいないだろう。

主人公は失った時間より未来に希望を見出そうとするが、ラブストーリーだと思う向きは少なかろう。

多彩な登場人物が軽妙なテンポで右往左往するが、コメディ作品だと括られることはないだろう。


登場人物は誰も彼も皆、主人公が記憶喪失なのを良いことに、自分を押しつけてくる。


中野貴啓が演じる淳太はここぞとばかりに優越感を満たしてくるし、両親(小川正利、村田美輪子)は行方不明の息子が現れたのを幸いに生活を刷新しようとする。

厚意に託つけて勧誘を迫る大人たち(野口しゅうじ、酒井麻吏)もいるし、借金を取り返す為だけに来た元同僚(安田博紀)も現れる。


恋人たちは、大咲レイナ演じる翔子は愛情の押し売りが過ぎ、美保(伊藤羊子)は今の晴人を見てくれない。

治療にあたる医療チームも、谷医師(松木大輔)は患者に向き合いすぎる傾向にあり、沢(綾乃彩)は只々職務に忠実だ。


井口翔登が演じた晴人はと言うと、真実に辿り着いたものの、「治療中のあなたは良かった」と言われてしまう体たらく。

記憶を取り戻そうと努力した結果、手にしたのは喪失感という皮肉。


SNSやアプリに自分の居場所を求め、パソコンやスマホで武装する現代人は、空虚な存在そのものだ。

だが、虚無感を認めてしまうことで、視界は拓かれるものだ。

晴人だけでなく、観る者の背中をも押す、ラストシーンの台詞を然と胸に刻みたい。


主人公の井口翔登は、全ての共演者たちの「写し鏡」たる難役を、見事に演じきった。

そして、彼が輝いたのは、「現代の偶像」とも言える晴人に、全ての出演者たちがキラキラした自分自身の姿をぶつけたからに他ならない。

そんな演技合戦を引き出した籔下雷太監督の手腕には、本当に畏れ入る。


籔下雷太監督とNCWに集った役者たちが真剣に演り合った『BOY』、名古屋ではシアターカフェ(名古屋市東区白壁4-9)で上映される。


上映スケジュールは、

3/13(土)14(日)20(土祝)21(日)が、15:00~、18:00~の2回。

3/15(月)18(木)19(金)が、15:00~。


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今回の上映では、籔下監督の『吉祥寺ゴーゴー』(17分)が同時上映されることも観逃がせない。

元々フォトグラファーとして活躍している籔下雷太監督の本領が発揮されている珠玉の短編で、映画ファンなら誰もが愛する有名シリーズへのオマージュを感じさせる、映画愛に溢れた作品だ。


また、舞台挨拶の開催が予定されているのも嬉しい。

ただし、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染状況等により変更の可能性もあるので、シアターカフェからの公式インフォメーションをお見逃しなきよう。


3/13(土)15:00/18:00両回:籔下雷太監督、松木大輔さん(『BOY』出演者 谷役)登壇予定 

3/21(日)15:00/18:00両回:籔下雷太監督、きだしゅんすけさん(『BOY』『吉祥寺ゴーゴー』音楽担当)登壇予定 


きだしゅんすけさんと言えば、前田弘二監督作品でも音楽を担当している。

実はシアターカフェでは、3/19に前田弘二監督最新作『まともじゃないのは君も一緒』が公開されるのに合わせ、4月3日(土)から【前田弘二監督特集】を上映する。

上映作品は、『古奈子は男選びが悪い』(50分)『遊泳禁止区域』(20分)『鵜野』(26分)の3作品。


籔下雷太監督は『まともじゃないのは君も一緒』でメイキングを担当し、前田監督も「監督の手腕は正直凄い」と薮下監督を評している。

縁のある両監督のこと、籔下雷太監督の舞台挨拶では前田組の話も聞けるかもしれない。


新しい表現者は、いつも時代に喚ばれて現れるものだ。

籔下雷太監督を、新たな才能が生み出した作品を、どうか目撃してほしい――。


映画『BOY』

監督・脚本:籔下雷太


井口翔登

松木大輔、大咲レイナ、綾乃彩、伊藤羊子

中野貴啓、山本愛生、小川正利、村田美輪子

相馬有紀実、野口しゅうじ、酒井麻吏、窪正晴、安田博紀、大根田良樹


撮影:白川祐介、石津美樹

録音:内田達也 助監督:羽石龍平

制作:白田誠哉、田中佐知彦

音楽:きだしゅんすけ

プロデューサー:加藤啓介、今西祐子

製作・配給:ニューシネマワークショップ 

2019年/日本/78分


映画『BOY』公式サイト

https://www.ncws.co.jp/boy/


©ニューシネマワークショップ


Theater Cafe(シアターカフェ)公式サイト


https://theatercafe.jp