『羊飼いと風船』main


中国から、チベットの今を写す映画が届いた。

雄大な自然を繊細な映像美で描きつつ、伝統的な信仰と現代社会の軋轢に翻弄される家族の物語。

『羊飼いと風船』は、地球規模で人々の分断と邂逅が叫ばれる現代に相応しい、時代性と普遍性を併せもつ骨太な人間ドラマだ。


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『羊飼いと風船』ストーリー

タルギェ(ジンバ)、ドルカル(ソナム・ワンモ)の夫婦は、3人の息子、タルギェの父、そして訳あって尼僧になったドルカルの妹シャンチュ・ドルマ(ヤンシクツォ)と共に、チベットの大草原に住んでいる。

学校の長期休みには進んで羊飼いの仕事を手伝う長男。悪戯ざかりで自然の中のびのびと成長する次男、三男。伝統的なチベット仏教の教えを子、孫の世代に伝える祖父。牧羊を営むタルギェ一家は仲睦まじく暮らしているが、チベットも近代化が進み、中国の政策は着実に施行されていた。

そんな中、ドルカルとドルマ姉妹は悩んでいた。ドルカルの妊娠が分かったのだ。ただでさえ貧しい家族だが、一人っ子政策において更に子供が増えると、罰金が課されることになる――。


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『羊飼いと風船』のメガホンを取ったのは、作家としても名高い、ペマ・ツェテン監督。

ヴェネチア国際映画祭をはじめ世界中の映画祭に出品され、常連である東京フィルメックスでは3度目の最優秀作品賞に輝いた本作は、ペマ・ツェテン監督待望の日本劇場初公開作品だ。 

     

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ペマ・ツェテン監督によると、『羊飼いと風船』は、一度は北京の検閲に脚本が引っ掛かり映像化の道が断たれた経緯があるとか。

ツェテン監督は物語を小説化し、時間を置き修正を施した上で再度検閲に持ち込み、ようやく映画化に漕ぎ着けたという。

監督はインタビューで、「プロットがあまりに直接的な内容だったから」ではないかと語っている。


『羊飼いと風船』の初稿がどんな物語であったのか、想像を巡らすのもまた一興だ。


子供たちの無邪気な行動を、父同士の諍いにまで発展させてしまう親世代。

近代化に戸惑うチベット人と、伝統を捨てきれない彼らを蔑む漢人。

旧態依然たる家族生活の下で、懊悩を募らせる女性たち。


世代間、民族間、性差と、人々の生活にはありとあらゆる軋轢が蔓延している。

脚本を間接的な表現にした(?)ところで、物語の本質は映像に溢れ出るのだ。


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ペマ・ツェテン監督は、チベットの今を浮き彫りにする作品で知られ、「チベット映画の先駆者」と呼ばれる実力派。

『静かなるマニ石』(05)『ティメー・クンデンを探して』(09)『オールド・ドッグ』(11)『タルロ』(15)『轢き殺された羊』(18)など、監督作はアッバス・キアロスタミ監督やウォン・カーウァイ監督からも賞賛されている。


そんな繊細かつ骨太なドラマを、キャスト陣がしっかりと支えている。


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ドルカルを演じたソナム・ワンモは、チベットの舞台俳優。ペマ・ツェテン監督作では『轢き殺された羊』に続く出演となる。

タルギェ役のジンバは、俳優業のほか詩人としても活躍する。『タルロ』『轢き殺された羊』に続く出演で、ツェテン作品の常連だ。 

そして、シャンチュ役のヤンシクツォは、俳優、歌手として活躍。ツェテン組には『静かなるマニ石』『タルロ』に出演している。


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空高く上る風船は、まるで自由を象徴するかのように見える。

しかし、青い空に浮かぶ真っ赤な球体は、揺蕩う異分子のようにも映る。


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人は生きていく上で、軋轢を避けて通ることは出来ない。

しかし、空に浮かぶ真紅が青く染め直されることを、私は望まない。

増してや、排除されることを決して望まない。


すべての人が自分らしく生きるには、何を為すべきか……

そんなことを考えつつ、風船を探し空を見上げた――。


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映画『羊飼いと風船』

1月22日(金) シネスイッチ銀座

1月30日(土) 名演小劇場

ほか全国順次ロードショー


配給:ビターズ・エンド


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『羊飼いと風船』公式サイト

http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/