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ハンガリーから、社会派ハートウォーミング映画が届いた。

米アカデミー賞©(2020年)国際長編映画賞に選出され、ハンガリー映画批評家賞では3冠に輝いた、バルナバーシュ・トート監督『この世界に残されて』だ。


『この世界に残されて』ストーリー

婦人科医のアラダール・ケルネルことアルド(カーロイ・ハイデュク)は、42歳。

一人暮らしのアパート、勤務先の病院の他は、定期的に孤児院を訪れるくらいの慎ましい暮らしを続けている。

寡黙なアルドは友人も少なく、夜はもっぱら医学書を読みふけるのが日課だ。


孤児であるクララ(アビゲール・セーケ)は、16歳。

保護者である大叔母オルギ(マリ・ナジ)には心を開くことが出来ず、喪った家族との幸せな日々を追慕している。

同世代の者とも打ち解けることがないクララは、学校でも居場所がない。


ある日、クララはオルギに付き添われ、アルドの診察を受ける。

アルドとクララは互いの孤独を感じあい、次第に距離を縮めていく。

周囲の者から関係を詮索されるようになった二人は、社会に翻弄されていくことになる――。


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アルド(アラダール・ケルネル)を演じたカーロイ・ハイデュクは、ハンガリーを代表する名優。

『ハンガリー連続殺人鬼』(16/アールパード·ショプシッツ監督)での怪演も記憶に新しい。

舞台を中心に活躍するハイデュクだが、今作では実に繊細な演技で観客の心を鷲掴みにする。


クララを演じたのは、アビゲール・セーケ。

振り幅の激しい感情を見事に表現し、乱暴な口を利く中にも気品を滲ませる。

映画初主演とは思えない演技力、愛らしい存在感で、2020年ハンガリー映画批評家賞最優秀主演女優賞を受賞した。


メガホンを取ったバルナバーシュ・トート監督は、今作以前は短編映画で高評価を受けてきた映像作家だ。

『この世に残されて』の成功で、今後は劇場公開作品が頻繁に観られそうだ。


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寒波で凍えきる真冬にぴったりの、心温まるハートフル・ムービー。

あらすじを読んだ映画ファンは、きっとそんな風に感じるのではないだろうか。


誤解なきように補足すると、『この世に残されて』は、感動する映画であることは間違いないのだ。

ただ、舞台となったハンガリーが辿ってきた歴史を理解すると、一筋縄ではいかぬ重厚なドラマが顔を覗かせるのだ。


ウラル山脈に囲まれた盆地状の大平原に位置するハンガリーは、古代よりゴート族、フン族、テュルク系遊牧民など多民族がそれぞれ移住、定着を繰り返してきた。

11世紀にイシュトヴァーン1世がハンガリー王に君臨するも、13世紀にはモンゴルの、14世紀にはオスマン帝国の侵攻を受け、17世紀からのハプスブルク家による統治を経て、19世紀にはオーストリア=ハンガリー二重帝国というアウスグライヒ(和協)体制に至る。


第一次大戦の敗北から、一時は共産党による革命政府が成立(ハンガリー・ソビエト共和国)、これを打倒したのは海軍提督であったホルティ・ミクローシュで、彼は摂政として王が空位のハンガリー王国を1944年まで治めた。

第二次世界大戦ではナチスドイツと協調、大戦末期には矢十字軍によるクーデターが勃発、ナチ党の傀儡政権となった。


ナチスのユダヤ民族へのホロコースト政策は、ハンガリー国内でも敢行された。

ハンガリーでナチスドイツに殺害されたユダヤ人は、56万人にも上ると言われている。


日常のふとした刹那フラッシュバックに襲われる、クララ。

家族の写真が残るアルバムに手を触れることさえできない、アルド。


二人は、生きて収容所を出られた、数少ないユダヤ人なのだ。


目の前で妹を殺害されたクララは、別の収容所に送られた両親の死を、未だに受け入れることができない。

アルドもまた、愛する妻と息子を殺害され、収容所に入れられたことを示す刺青は一生腕に残り続ける。


『この世に残されて』は、生き延びてしまった二人が、人間性を取り戻していく物語なのだ。


常に大人びた口調で悪態を吐くクララだが、内容といえば年相応の少女らしいものだ。

化粧をして出かけるクララを心配するアルドは、年の離れた恋人というより、年頃の娘を持つ父親そのものだ。


通常の映画であればコミカルに感じるようなエピソードの一つひとつが、観る者の感情に強く訴えてくる。


だが、そんな奇妙だが温かい関係を築かんとするアルドとクララを、社会は見過ごしてくれない。


1945年ナチスドイツの傀儡であったハンガリー王国は、ソビエト連邦の猛攻により首都ブダペストが陥落、今度はスターリン率いるソ連共産党に支配されることになった。

ハンガリーは、共産圏側の国として終戦を迎えたのだ。


アルドは、周囲からの監視をいつも気にしており、心許せる友人も共産党入りをしたことを知らされる。

クララは、アルドと公園で一緒に過ごしていたことを見咎められ、学校で校長と党員から詰問される。


『この世に残されて』の舞台設定は1948年、終戦後まもない頃だ。

共産党の圧政に対して民衆が蜂起した所謂「ハンガリー動乱」は、まだ8年も先の出来事だ。


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クララの感情の機微を、決して観逃さないでほしい。

思い出の中に逃避するしかなかったクララは、もう一度「この世」に居場所を求めようと足掻いているのだ。


アルドの涙の意味を、是非とも考えてほしい。

永遠に奪われた家族との時間を、「残されて」しまったアルドは束の間ながら噛み締めることが出来たのだ。


「社会派」ハートウォーミング映画

そう呼びたい作品なのだ、『この世に残されて』は――。


映画『この世に残されて』

12月18日(金)シネスイッチ銀座

1月8日(金) 伏見ミリオン座

ほか全国ロードショー


『この世に残されて』公式サイト

https://synca.jp/konosekai/



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