井筒和幸監督の映画は、出演者に「新しい顔」をもたらす。
『ガキ帝国』の、島田紳助・松本竜介(紳助竜介)。
『二代目はクリスチャン』の、志穂美悦子。
『岸和田少年愚連隊 BOYS BE AMBITIOUS』の、矢部浩之・岡村隆史(ナインティナイン)。
『パッチギ！』の、高岡蒼佑、沢尻エリカ。
『ヒーローショー』の、後藤淳平・福徳秀介(ジャルジャル)。
皆揃いも揃って、他の映画や媒体での印象とは懸け離れた表情を見せる。
「人間を描くこと」は、井筒監督の真骨頂だ。
井筒監督の手に掛かると、登場人物は途端に人間臭くなる。
出演者たちは、他人を「生きる」ことになるのだ。
井筒和幸監督作品は無法者やはみ出し者が多く登場するが、ただ単にスタイリッシュに犯罪行為を描いたりはしない。
井筒監督が生みだした人々は皆、生きるために藻掻く。
役者の面構えが変わってくるのも、当然と言えよう。
井筒監督が撮る映画は、単なるエンターテイメントではない。
重厚で、骨太で、熱量を宿した、ハード・エンターテイメントだ。
井筒和幸監督の最新作『無頼』は、太平洋戦争の敗戦から平成に至るまで、時代を駆け抜けた無法者たちの群像劇。
もちろん井筒和幸という映画作家が描くのだから、そんじょそこらのヤクザ映画ではない。
焼け野原からの高度経済成長、オイルショック、バブル経済とその崩壊──目まぐるしく動いたダイナミックな時代をヤクザ者たちの目を通して描いた、「もう一つの昭和史」である。
今回、主役に抜擢されたのは、EXILEのメンバーとしてテレビや舞台で活躍する松本利夫(MATSU)。
これまでの井筒作品の主人公たちに勝るとも劣らないほどの面構えで、昭和の激動を駆け抜けたアウトロー・井藤正治という難役を見事に演じきった……否、生ききった。
これまでも『LONG CARAVAN』『晴れのち晴れ、ときどき晴れ』で主演を務めた松本だが、『無頼』は間違いなく彼の代表作となる。
そんな正治の妻・佳奈を演じるのは、柳ゆり菜。
『純平、考え直せ』など映画女優としてメキメキ頭角を現してきた柳だが、『無頼』での「姐御」役は別格だ。
彼女の持ち味である目力が、井筒監督の演出により迫力ある気っ風の良さと化し、松本と双璧をなすほどの輝きを放っている。
脇を固めるのは、木下ほうか、ラサール石井、升毅、小木茂光、隆大介、中村達也といった名優の競演。
どの貌も他作品とは一線を画した面構えを見せており、本編で語りきれない個々の人生が透けて見えてくるようだ。
だが、本当の意味での変貌を見せたのは、正治のもとに集まるあぶれ者たち、オーディションを中心に選出された若手俳優の面々かもしれない。
阿部亮平、遠藤雄弥、佐藤五郎、久場雄太、火野蜂三、木幡竜、ペ・ジョンミョン、駒木根隆介、松浦祐也……
とにかくもう、切りがない。
オーディションに3000人以上が集まったという『無頼』、出演者の総数は400人を超えるのだ。
新型コロナ(COVID-19)禍により開催が議論された東京オリンピックを強行しようとする令和の世に、井筒和幸監督のパッチギが強烈に炸裂する。
「オリンピック音頭2021」でも作って浮かれるのだろうか……リバイバルなら、こちらを聴くと良い。
『無頼』の主題歌は、泉谷しげる自ら新録した「春夏秋冬〜無頼バージョン」。
泉谷は、『無頼』予告編のナレーションも担当している。
井筒監督は146分という長尺をもって、井藤正治という一人のヤクザ者を通して、激動の昭和史を裏から観せてくれる。
『無頼』がスーパー16mmで撮影されたのは、井筒監督の想念を、名も無い人々の怨念を受け止める為にフィルムという「厚み」が必要だったからかもしれない。
綺羅星の如く集結した数多の男たちの生き様、死に様を重厚に活写した『無頼』は、エンターテイメントでありながらも、人間賛歌であり、鎮魂歌でもある。
フランシス・フォード・コッポラ監督の『ゴッドファーザー』、『ゴッドファーザーpart2』を続けて観たような、満足感に包まれた鑑賞体験が出来る。
映画『無頼』、まさに井筒和幸という映画人の集大成だ――。
映画『無 頼』
12月12日(土)〜K's cinema シネマロサ ほか
12月26日(土)〜シネマスコーレほか
全国ロードショー
【Ｒ15+】
監督：井筒和幸
松本利夫（EXILE）
柳ゆり菜
中村達也
ラサール石井
小木茂光
升毅
木下ほうか
清水 伸
松角 洋平
遠藤 かおる
佐藤 五郎
久場 雄太
阿部 亮平
火野 蜂三
木幡竜
隆 大介
三上 寛
外波山文明
森本 のぶ
プロデューサー：増田 悟司 小木曽 仁 湊谷 恭史
脚本：佐野 宜志 都築 直飛 井筒 和幸
製作・配給：チッチオフィルム
配給協力：ラビットハウス
制作プロダクション：サムアス24
2020年／日本／146分／カラー／ビスタサイズ／5.1ch／R15+
©2020「無頼」製作委員会／チッチオフィルム
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