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『ミセス・ノイズィ』ストーリー

吉岡真紀(篠原ゆき子)は、大ヒット小説を書いて一世を風靡した、「かつての売れっ子作家」。
裕一(長尾卓磨)との結婚、出産を理由に書かなくなるのを好しとせず日々創作活動に打ち込んでいるが、スランプに悩んでいる。
引っ越しを心機一転にと新作に取り組むものの、マンションの隣には、早朝から大騒音で布団を叩く若田美和子(大高洋子)が住んでいた。
日に日にストレスを溜めていく真紀は、執筆も思うように進まない。
そして、美和子の行動が娘・菜子(新津ちせ)にまで影響を及ぼすと、隣人との諍いは益々ヒートアップする。
だが、このことは小説家として真紀の転機となった。
親戚の直哉(米本来輝)のアドバイスもあって、真紀は迷惑な隣人をモデルに新作を書き始めるのだった。
小説のタイトルは、「ミセス・ノイズィ」――。

『ミセス・ノイズィ』は、天野千尋監督6年ぶりとなる待望の新作である。
【第32回東京国際映画祭】スプラッシュ部門で大反響となり、劇場公開が熱望されていた。

天野監督自らが脚本を書いたオリジナル作品『ミセス・ノイズィ』、あらすじを読むと私たちの記憶にある事件が思い起こされないだろうか?
そう。今から15年ほど前に起きた奈良騒音傷害事件、いわゆる「騒音おばさん事件」である。

当時、テレビのワイドショーを中心にセンセーショナルな報道(?)をされたので、今も記憶に新しい人も多いだろう。
天野監督は時代設定を現代に移したことにより、事件が内包する問題点を改めて浮き彫りにした。

もしも令和の世に、あの不可解な事件が起きたなら……そんな大胆な着想を、天野監督は自らの手腕でブラックコメディに仕上げて見せた。
そして、ドラマは段々とミステリーの様相を呈しはじめ、やがて……天野千尋という類稀な映画人の、ストーリーテリングを、ディレクションを、存分に味わってほしい。

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騒音に悩まされる主人公・吉岡真紀を演じるのは、『共喰い』(13/青山真治監督)『湯を沸かすほどの熱い愛』(16/中野量太監督)『楽園』(19/瀬々敬久監督)の篠原ゆき子だ。
エキセントリックでいて、なおかつ繊細に役を表現する彼女の演技には、場面によっては直視が困難なほど熱い共感を覚える人も多いはずだ。

迷惑な隣人・若田美和子役には、『できる子の証明』(13/原田裕司監督)『スキマスキ』(15/吉田浩太監督)の大高洋子。
大高は、篠原とのW主演と言って良いほどの輝きを放つ。

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そして、大高と共にオーディションで抜擢されたという、美和子の夫・若田茂夫役の宮崎太一にも注目だ。
これほどの難役であるにも拘わらず、主演二人に勝るとも劣らない存在感を見せつける。

また、吉岡裕一役の長尾卓磨(『ヴィタール』(04/塚本晋也監督)『海街diary』(15/是枝裕和監督))のニュートラルな立ち位置。
多田直哉役の米本来輝(『悪の教典』(12/三池崇史監督)『鈴木先生』(12/ 河合勇人監督))のトリッキーな立ち位置。
真紀を囲む男性陣も、物語に欠かせない対比を見せる。

さらには、和田雅成、田中要次、洞口依子、風祭ゆきと、名優が脇を固める。

そして、そして、吉岡菜子役を見事に演りおおせた、新津ちせを忘れる訳にはいかない。
米津玄師プロデュースの『パプリカ』を大ヒットさせた「Foorin」のメンバー“ちせ”として知られる彼女だが、『3月のライオン』(17/大友啓史監督)『駅までの道をおしえて』(19/橋本直樹監督)など女優業でも活躍中。
恐るべき天才子役の名を、また一人記憶しておく必要ができた。

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コメディとしてだけではなく、ミステリーとしても、そしてサスペンスとしても傑作に仕上がっている『ミセス・ノイズィ』。
本作は、数々の「If」「もしかしたら」が溢れる映画だ。

もしかしたら、隣人が……
もしかしたら、家族が……

沸き起こる「If」は、いつしかスクリーンの境界線を越えて、貴方自身の領域にも踏み込んでくるだろう。

もしかしたら、自分も、なるかもしれない。
…被害者に?
……加害者に?

現実世界へのメタファーが溢れる映画は数あれど、『ミセス・ノイズィ』が奮っているのは、真紀という主人公の存在である。
小説家と映画監督という違いはあるものの、真紀は誰あろう、天野千尋監督自身を思い起こさせるキャラクターだ。
「真紀は、天野監督そのものだと思いました」と、篠原ゆき子がコメントしているのも興味深い。

真紀は、『種と果実』という大ヒット作を書いたものの、長いスランプに悩んでいた。
水沢玲(真紀のペンネーム)ファンは、作品を待ちわびていたことだろう……これは正に、天野監督の作品を待望していた私たち映画ファンと同じだ。

そして6年後、真紀は新作小説『ミセス・ノイズィ』で、見事な復活劇を見せた。
天野千尋監督作品、前作『うるう年の少女』は2014年公開……これはもう、偶然の一致で片付ける訳にはいくまい。

ここに至っては、12月4日(金)映画『ミセス・ノイズィ』公開初日に同時発売される、『ミセス・ノイズィ』小説版(天野千尋 著/実業之日本社文庫/680円+税)を読まない訳にはいくまい。
ただのノベライズ版ではなく、劇中で平積みされていた水沢玲の『ミセス・ノイズィ』を読むことができるのかもしれない……もしかしたら!

なんという見事な、復活劇なのだろう。
久しぶりに踊る天野千尋監督の掌の上は、こんなにも楽しく、こんなにも目頭が熱くなる――。

映画『ミセス・ノイズィ』

12月4日(金)〜
TOHOシネマズ 赤池
TOHOシネマズ 木曽川
TOHOシネマズ モレラ岐阜
ほか 全国ロードショー

【配給】アークエンタテインメント

©「ミセス・ノイズィ」製作委員会

『ミセス・ノイズィ』公式サイト