ジャン=ポール・ベルモンド、1933年4月9日生まれ87歳。
謂わずと知れたフランス映画界のスーパースターだ。
誰もが顔を知る世界的スターだが、いざ思い返してみると、あなたはどんな映画を思い浮かべるだろうか?
『勝手にしやがれ』の、セピア色のくわえ煙草のミシェルではないか?
『気狂いピエロ』の、顔にペイントを施したフェルディナンではないか?
ジャン=リュック・ゴダール監督の「ヌーベルバーグの顔」とも言えるこの2作品は、かえってジャン=ポール・ベルモンドを矮小化しているきらいがある。
極端な話、上記の2本以外ベルモンドの主演作を観ていないという映画ファンも多いのではなかろうか。
だが、ベルモンドといえば、1960~70年代はスティーブ・マックイーン、クリント・イーストウッドと双肩したアクション映画界の生きる伝説であり、フランスではアラン・ドロンを遥かに凌ぐ人気を誇った国民的スーパースターだ。
ジャン=ポール・ベルモンドの身体を張ったスタントがなければ、ジャッキー・チェンやチョウ・ユンファ、トム・クルーズ作品は生まれていなかったかもしれないのだ。
この秋、そんなベルモンドの魅力を余すことなく伝えうる8本もの名作が、数十年というミッシングリンクを経て、スクリーンに甦る。
「ミッシングリンク」などと大袈裟な!と言われてしまうかもしれないが、さにあらず、日本ではリバイバル上映どころかソフト化されていなかった傑作の数々である。
しかも、現代の技術で驚くほどクリアに生まれ変わったリマスター版での上映なのだ。
『大盗賊』
(原題:CARTOUCHE)
貴族から金を巻き上げ、貧しい人々に分け与えたカルトゥーシュは、18世紀のパリに実在した民衆に大人気の義賊だった。
『リオの男』(63)『カトマンズの男』(65)『おかしなおかしな大冒険』(73)でもタッグを組んだ、フィリップ・ド・ブロカ監督との記念すべき初コンビ作品。
ベルモンドのアクション、格闘シーンも堪能できる見所いっぱいの大作で、クラウディア・カルディナーレの可憐さも観逃がせない。
フランスでは古典的名作として名高い映画だが、日本ではDVD・ブルーレイ化されておらず、今回の4Kリマスター版は57年ぶり(!)の日本公開となる。
2011年に世界遺産に登録された、南仏コース地方の景観にも注目してほしい。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、クラウディア・カルディナーレ、ジャン・ロシュフォール、オディール・ヴェルソワ、ジェス・ハーン、ノエル・ロクヴェール、マルセル・ダリオ
監督:フィリップ・ド・ブロカ/脚本:フィリップ・ド・ブロカ、ダニエル・ブーランジェ、シャルル・スパーク/音楽:ジョルジュ・ドルリュー/撮影:クリスチャン・マトラ
<1961年・フランス映画/フランス語/カラー/シネスコ/116分>
提供:キングレコード 配給:エデン
CARTOUCHE a film by Philippe de Broca © 1962 / STUDIOCANAL - TF1 DA - Vides S.A.S (Italie)
『大頭脳』
(原題:LE CERVEAU/THE BRAIN)
フランス映画界コメディの巨匠ジェラール・ウーリー監督とベルモンドが組めば、面白くないはずがない。
仏伊合作映画『大頭脳』は、フランス、イギリス、イタリアの怪盗紳士(?)達が織りなす、抱腹絶倒の娯楽大作に仕上がっている。
大小問わずガジェットは遊び心に溢れていて、アニメーションのパートが挿入される等、サービス精神いっぱいの作品。
デヴィッド・ニーヴン(『ピンクの豹』63『007 カジノ・ロワイヤル』67)、イーライ・ウォラック(『荒野の七人』60『続・夕陽のガンマン』66)など、国際的なスター競演にも注目。
日本でDVD・ブルーレイ化されたことはなく、今回がHDリマスター版による51年ぶりの日本劇場公開となる。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、デヴィッド・ニーヴン、イーライ・ウォラック、ブールヴィル、シルヴィア・モンティ、フェルナンド・バロワ
監督・脚本:ジェラール・ウーリー/音楽:ジョルジュ・ドルリュー/撮影:ウラジミール・イワノフ
<1969年・フランス、イタリア合作映画/フランス語/カラー/シネスコ/115分>
提供:キングレコード 配給:エデン
LE CERVEAU a film by Gerard Oury © 1969 Gaumont (France) / Dino de Laurentiis Cinematografica (Italy)
『恐怖に襲われた街』
(原題:PEUR SUR LA VILLE)
コミカルな演出を一切封印しシリアスに徹した、ハードボイルド作品の逸品。
ゴダール映画のベルモンドに馴染んだ映画ファンには、こんな毛色の作品が取っつきやすいかもしれない。
ベルモンド初の刑事役で、本格派のミステリー・スリラー。
ノンスタントで挑んだ危険なシーンは、文字通り手に汗を握る場面の連続だ。
日本ではソフト(DVD・ブルーレイ)化されておらず、今回のHDリマスター版は45年ぶりの日本劇場公開となる。
製作・出演:ジャン=ポール・ベルモンド、出演:シャルル・デネ、アダルベルト・マリア・メルリ、ジャン・マルタン、レア・マッサリ
製作・監督・脚本:アンリ・ベルヌイユ/音楽:エンニオ・モリコーネ/撮影:ジャン・パンゼ
<1975年・フランス映画/フランス語/カラー/ヨーロピアン・ビスタサイズ(1:1.66)/126分>
提供:キングレコード 配給:エデン
PEUR SUR LA VILLE a film by Henri Verneuil © 1975 STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Inficor - Tous Droits Réservés
『危険を買う男』
(原題:L’ALPAGUEUR)
『恐怖に襲われた街』に続き、ジャン=ポール・ベルモンドがノースタントで熱演したアクション・エンターテインメント。
ベルモンドが演じるのは、秘密裏に公的機関に雇われ、違法行為も厭わずトラブルを解決していく一匹狼の「ハンター」。
フランス語の慣用句“C'est la vie !(セ ラ ヴィ)”には、本当に様々な意味がある。
本作でベルモンドがつぶやく「C'est la vie !」は、『気狂いピエロ』で繰り返された「C'est la vie !」とは全く違うニュアンスだ。
劇場公開以来、再公開やソフト化が待たれていた幻の傑作で、今回のHDリマスター版は43年ぶり待望の日本劇場公開となる。
製作・出演:ジャン=ポール・ベルモンド/出演:ブルーノ・クレメル、ヴィクトール・ガリヴィエ、ジャン・ネグローニ、パトリック・フィエリ、ジャン=ピエール・ジョリス
監督・脚本:フィリップ・ラブロ/製作:ジャン=ポール・ベルモンド/音楽:ミッシェル・コロンビエ/撮影:ジャン・パンゼ
<1976年・フランス映画/フランス語/カラー/ヨーロピアン・ビスタサイズ(1:1.66)/101分>
提供:キングレコード 配給:エデン
L’ALPAGUEUR a film by Philippe Labro © 1976 STUDIOCANAL - Nicolas Lebovici - Tous Droits Réservés
『オー!』
(原題:HO!)
ライバルを事故で失った元レーサー・フランソワは、強盗の運転手から、ギャング・スターへと成り上がっていく。
付いたあだ名は、「アルセーヌ・ルパン+アル・カポネ」。
ドラマを華麗に彩るジョアンナ・シムカスとのロマンス、登場する数々の名車、ネクタイ、コート、ハット等ファッション。
本当に見所いっぱいの、クライム・サスペンス・エンターテインメントだ。
HDリマスター版による日本劇場公開は、51年ぶりとなる。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ジョアンナ・シムカス、シドニー・チャップリン、アラン・モッテ、ポール・クローシュ
監督:ロベール・アンリコ/原作:ジョゼ・ジョヴァンニ、音楽:フランソワ・ド・ルーべ
<1968年・フランス・イタリア合作映画/フランス語/カラー/ヨーロピアン・ビスタサイズ(1:1.66)/107分>
提供:キングレコード 配給:エデン
HO! a film by Robert Enrico ©1968 - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - MEGA FILMS
『ムッシュとマドモアゼル』
(原題:L’Animal)
ジャン=ポール・ベルモンドとラクエル・ウェルチ(『ミクロの決死圏』66『空から赤いバラ』72)演じるスタントマンふたりの恋は、とびきりお洒落で、とんでもなくコミカルで、途轍もなくスリリング!
一人二役をこなすベルモンドによるスタントは、いつにもまして危険度マックスだ。
数々のパロディに、エスプリの利いたユーモアセンスも本作の見所。
何より映画愛に溢れた物語は、あなたを必ず虜にする。
日本では未ソフト化(DVD・ブルーレイ)で、今回がHDリマスター版による39年ぶりの日本劇場公開となる。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ラクエル・ウェルチ、シャルル・ジェラール、ジュリアン・ギオマール、ダニー・サヴァル、アルド・マッチョーネ ゲスト出演:ジェーン・バーキン、ジョニー・アリディ、クロード・シャブロル
監督:クロード・ジディ/脚本:ミシェル・オーディアール、ドミニク・ファーブル、クロード・ジディ/音楽:ウラディミール・コスマ/撮影:クロ―ド・ルノワール
<1977年・フランス映画/フランス語/カラー/シネスコ/101分>
提供:キングレコード 配給:エデン
,L’Animal a film by Claude Zidi ©1977 STUDIOCANAL
『警部』
(原題:FLIC OU VOYOU)
南フランス・ニースを疾走する、純白のロータス・セブン。
変死した警官宅を訪れたチンピラ男セルッティ、その正体は「洗濯屋」と呼ばれる凄腕の潜入捜査官だった。
画面分割を多用した演出は、ライバルであるスティーブ・マックイーン主演『華麗なる賭け』(監督:ノーマン・ジェイソン 68年)を彷彿とさせるが、本作はネタバレ厳禁の本格ミステリー・サスペンス。
そこにロマンスと、ユーモアを少々振りかけるのが、フランス流、そして、ベルモンド流。
特集上映の1本として80年に上映されたのみで、正式なロードショー公開されていない本作は、HDリマスター版による40年ぶりの日本劇場公開となる。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、マリー・ラフォレ、ジョルジュ・ジェレ、ジャン=フランソワ・バルメ、クロード・ブロッセ、トニー・ケンドール
監督:ジョルジュ・ロートネル/製作:アラン・ポワレ/脚本:ジャン・エルマン/撮影:アンリ・ドカエ/音楽:フィリップ・サルド/
<1979年・フランス映画/フランス語/カラー/ヨーロピアン・ビスタサイズ(1:1.66)/108分>
提供:キングレコード 配給:エデン
FLIC OU VOYOU a film by Georges Lautner ©1979 STUDIOCANAL – GAUMONT
『プロフェッショナル』
(原題:LE PROFESSIONNEL)
なかなか観る機会のないジャン=ポール・ベルモンド主演作を一同に集めた今回の傑作選の中でも、本作は極めつけ。
日本では劇場未公開、BS放送で数回オンエアされたのみで、DVDどころかVHS化すらされておらず、今回のHDリマスター版が劇場初公開となる。
しかも、『警部』と同じくジョルジュ・ロートネル監督とベルモンドがタッグを組んだ本作は、紛う方なき傑作スパイ・アクションだ。
ロマンスの香りは残すものの、コミカルな演出は極力抑えた本作は、哀愁を強く匂い立たせる。
エンニオ・モリコーネの名曲「CHI MAI」が、哀愁漂う男の美学と見事にマッチしている。
出演:ジャン=ポール・ベルモンド、ロベール・オッセン、ミシェル・ボーヌ、ジャン・ドザイー、シリエル・クレール、ベルナール・ピエール・ドナデュー
監督:ジョルジュ・ロートネル/原作:パトリック・アレクサンダー/脚本:ジャック・オーディアール、ミシェル・オーディアール、ジョルジュ・ロートネル/撮影:アンリ・ドカエ/音楽:エンニオ・モリコーネ
<1981年・フランス映画/フランス語/カラー/ヨーロピアン・ビスタサイズ(1:1.66)/108分>
提供:キングレコード 配給:エデン
LE PROFESSIONNEL a film by Georges Lautner ©1981 STUDIOCANAL
ヌーベルバーグの申し子としてのジャン=ポール・ベルモンドは無論のこと素晴らしいが、生粋のエンターテイナーとしての、過激なアクションスターとしてのベルモンドも知らなければ、その魅力を語り尽くすことは出来ない。
しなやかでいて、タフ。
飄々としていて、物哀しい。
そして、誰よりもカッコいい。
寺沢武一先生は、宇宙海賊コブラをジャン=ポール・ベルモンドから生み出したという。
故モンキーパンチ先生のルパン三世は、ベルモンドがモデルという説もある。
ルパンやコブラの源流がジャン=ポール・ベルモンドにあるということは、ゴダール作品を観ただけではピンと来ないだろう。
それを実感する、またとないチャンスが、『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』だ。
そして、あなたは嘆息することになる。
これほどまでに面白い映画だからこそ、オマージュされ続けているのだ
と――。
『ジャン=ポール・ベルモンド傑作選』
10/30(金)〜
新宿武蔵野館
11/7(土)〜
名演小劇場
ほか全国順次待望のロードショー!
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