ジャズ喫茶ベイシーmain


世界で一番、音楽を聴くのに相応しい場所は、どこだろう?


こんな質問をしたとしたら、恐らく多種多様な回答が得られるに違いない。


ベルリン・フィルハーモニーホール……

ムジークフェライン……

ボストンシンフォニーホール……

東京オペラシティ・タケミツメモリアル……


軍配がいずこに上がるか、喧々囂々の議論が果てなく続くことは想像に難くない。


ならば、これを「JAZZを聴くのに相応しい」と差し替えたなら、どうだろう?

回答は自ずと集束するであろうか。

それとも、より一層の混沌を生ずるであろうか。


だが、実はその模範解答が、ある。

しかも、日本国内に、だ。


それが、岩手県一関市にある、ジャズ喫茶「ベイシー」である。


外観

昭和初期、ジャズの普及とともにはじまった「ジャズ喫茶」。

当時レコード盤は高価で、輸入盤ともなれば高嶺の花ともいえる存在だった。

ましてや、それを掛けるオーディオ機器ともなれば言わずもがなである。


ジャズに飢えた音キチたちは、至福の時間をジャズ喫茶に求めた。

私語厳禁の店内、小さなテーブルでリクエストをメモ紙に書き、コーヒー1杯で数時間ねばったのだ。


こうしたジャズ喫茶におけるレコード鑑賞文化は日本独自のものだとか。

「日本一のジャズ喫茶」と呼ばれるベイシーは、即ち世界一のジャズ喫茶ということになる。

事実、ベイシーには日本のみならず、世界中からジャズファンが押し寄せる。


そして、ベイシーに集うのはジャズ愛好家だけではない。

オーディオマニアにとっても、ベイシーは聖地である。


店内02

150時間ものフッテージにて、「世界一のジャズ喫茶」ベイシーの魅力を炙り出さんとする蠱惑のドキュメンタリー映画、『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』。

新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で延期されていた公開が、いよいよ9月18日(金)に迫ってきた。


5年にわたり月2回はベイシーに通い詰めたという、星野哲也監督。

バー「ガランス」のオーナーであり、クリエイターでもある星野監督は、本作が初監督となる。


『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩』の「Swifty」とは菅原正二マスターの通り名で、ビッグバンドジャズの巨人・故カウント・ベイシーの命名という。

1942年岩手県生まれの菅原正二は、早稲田大学在学中「ハイソサエティー・オーケストラ」のバンド・マスター、ドラマーとして活動、「全国大学対抗バンド合戦」で3年連続全国優勝、1967年にはビッグバンドとして日本初の米国ツアーを敢行した、筋金入りのジャズマンである。


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星野哲也監督は、かの渡辺貞夫夫妻の仲介により、「ショーちゃん」こと菅原正二マスターと邂逅したという。

親交の深い監督だけに見せる、菅原正二の「素顔」がスクリーンに踊る。


そして、ジャズ喫茶ベイシーの「素顔」もまた、姿を現す。

ベイシーの心臓部、オーディオシステムである。


Turntable : LINN Sondek LP12

Tonearm : SME 3009 Series Ⅱ improved

Phono Cartridge : SHURE V15 Type Ⅲ

Preamplifier : JBL SG520

Electronic Crossover Network : JBL 5232

Power Amplifier : JBL SE400S

Loudspeaker : JBL 2220B(Woofer)

          JBL 375+537-512(Midrange)

          JBL 075(Tweeter)


店内01

店を構えて50年、マスター・菅原正二は、サウンドチェック無しに店を開けた日は一日たりともないという。

ベイシーのサウンドは、50年間アップデートを繰り返してきた到達点なのだ。


究極の音を、至高のJAZZを求めて、ベイシーには世界中からサウンドマニア、JAZZ者が訪れる。

訪問客の中でも極めつけは、店名の由来であるウィリアム・“カウント”・ベイシー(William "Count" Basie)であろう。


謂わずと知れたベイシー伯は、友人・菅原正二が自身の店に自分の名を付けたことに、お墨付きを与えた。

しかも、その時の喜びは、今もベイシー店内の壁に直筆で遺っているのだ。


菅原マスターは当時を述懐し、「1年7ヶ月も、名前を無断使用していた」と、独特のJAZZな言い回しで自嘲する。

そんなマスターの「ジャズな魂」に惹かれ、ベイシーには多くの「ジャズ人」が集う。


店内03

星野哲也監督のインタビューは、菅原正二だけでなく、様々な人々のジャズ観を映し出す。

島地勝彦、鈴木京香、さらには小澤征爾が音楽についてインタビューに答える。


そして、世界的なジャズ・ミュージシャンがベイシーで生演奏を繰り広げる。


渡辺貞夫……

坂田明……

村上“ポンタ”秀一……

ペーター・ブロッツマン……


ポンタが子供のように燥ぎ、坂田がフリースタイル「論」を煙に巻き、ナベサダが実演をまじえてリガチャーを詳細に解説(!)する。

マスターのジャズな魂が、ジャズマンの素顔を引き出すのだ。


星野監督は、ベイシーの「音」を記録したいと考えた。

ジャズ喫茶ベイシーのサウンドを後世に遺すべく、ナグラ社製オープンリールテープレコーダーとヴィンテージマイクを駆使して6mmテープに収めた。


そして、その音を再現できる空間として、映画館を選んだ。

監督の耳に認められた全国の劇場で、ジャズ喫茶ベイシーのサウンドが「再生」される。

東海地方で選ばれた映画館は、名演小劇場(名古屋市東区東桜2丁目23−7)だ。


あなたも、映画館で確かめてほしい。

「レコードを演奏する」とまで言われる菅原正二マスターが、ジャズ喫茶ベイシーで「再生」するのは、サウンドだけでなく「JAZZな生き様」そのものなのかもしれない――。


ジャズ喫茶ベイシー_poster

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』

2020年9月18日(金)〜

アップリンク渋谷

アップリンク吉祥寺

名演小劇場

ほか全国順次公開 


監督:星野哲也

編集:田口拓也

出演:菅原正二、島地勝彦、厚木繁伸、村上“ポンタ”秀一、坂田明、ペーター・ブロッツマン、阿部薫、中平穂積、安藤吉英、磯貝建文、小澤征爾、豊嶋泰嗣、中村誠一、安藤忠雄、鈴木京香、エルヴィン・ジョーンズ、渡辺貞夫 (登場順) ほか ジャズな人々

エグゼクティブプロデューサー:亀山千広

プロデューサー:宮川朋之 古郡真也

配給・宣伝:アップリンク

2019/日本/104分/1.85 : 1/DCP/


©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ


https://www.uplink.co.jp/Basie/