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情報時代を生きる私たちだが、毎日の情報のシャワーを浴び続けて思うのは、自分が如何に何も知らないかということだ。

情報化社会は逆説的に、私たちが一生掛けても何も知り得ないことを示すのみだ。


その気になればありとあらゆる情報を手に入れられる現代だが、人間の本質は無知暗愚たる中世と何ら変わってはいないのだろう。

結局のところ人は、自分が生きていく上で必要な常識、有益な教養、興味のある知識を身に就けようとするのみだ。


そんな暗い無知の大海に溺れる如きの我々だが、思いがけず人生観が変わってしまうほどの発見に出会うことがある。

無知蒙昧を啓(ひら)き、悟ること。

それを、「啓蒙」と呼ぶ。


2018年ベルリン国際映画祭で最高賞と最優秀新人作品賞をダブル受賞し、「金熊賞史上、最も議論を呼んだ問題作」と称された、アディナ・ピンティリエ監督『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』。

日本でも公開と同時にまたたく間に話題となっている今作は、まさに「啓蒙映画」である。


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『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』ストーリー

カメラの前に設えられたフレームに、アディナ・ピンティリエ監督(本人)の顔が映し出される。

監督はローラ(ローラ・ベンソン)に話し掛け、いつしか二人の視点が交差し、入れ替わる。

劇映画とも、ドキュメンタリーともつかない『タッチ・ミー・ノット』の物語は、こうして幕を開ける。


ローラは、入院中の父親を介護するため、日々通院している。

ローラには、悩みがあった。

彼女は他人に触れられると、拒否反応を起こす精神的な障がいを抱えているのだ。


ある日いつものように病院を訪れたローラは、不思議な療養を目にする。

互いに触れ合いながら意見交換する、無毛症の青年トーマス(トーマス・レマルキス)、脊髄性筋萎縮症(SMA)で四肢が不自由なクリスチャン(クリスチャン・バイエルライン)らの姿があった。

患者らは、自らカウンセリングすることによって、パートナーを、自分を見つめていく――。


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『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』は、障がい者やトランスジェンダーなど、所謂マイノリティと呼ばれる人々の性の実情にカメラを向ける異色作である。

ピンティリエ監督が出演し、ローラに(俳優ローラ・ベンソンに、ではなく)インタビューするなど、モキュメンタリーとも、再現ドラマとも違う、独特の物語設定が観る者の目を奪って放さない。

実在する障がい者、セクシュアルマイノリティ、アーティスト、カウンセラー、セックスワーカー達が出演していることも、その唯一無二の作品世界に一役買っている。


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本人役で出演(と書くと、ちょっとニュアンスが違うのだが)し、劇中でも重要な発言をするクリスチャン・バイエルラインは、本作について

「バッシングされるのを恐れていません。 この映画が障がい者などの脆弱な人間を搾取していると非難するとき、彼らは障がい者が感じている欲求について全く知らない人であるというだけです。障がいのある人が、みんなと同じ欲望、夢、刺激に対する好奇心を持っていることを示すことは重要だと思います」

と、語っている。


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『タッチ・ミー・ノット』を監督したアディナ・ピンティリエは、ルーマニアの国立演劇大学であるブカレスト大学出身の映像作家。

世界の映画祭で数々の受賞経験を持ち、フィクション、ドキュメンタリー、ビジュアルアート、あらゆる手法を駆使し、野心的に作品を生み出し続けている。


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人は誰も、自分だけの「オールタイムベスト」を持っている。

だが、そんなフェイバリットとは別次元で、「生涯を変えた作品」に出会えたなら、その人の人生は誰よりも幸福だ。


カフカの「異邦人」で、救われた人もいるだろう。

中川幸夫の「いけ花」で、概念を覆された者も多かろう。

鴨居玲の自画像で、揺さぶられた魂は少なくないだろう。


もしあなたが「生涯の一本」を探しているのなら、『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』を観ると良い。


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ピンティリエ監督は、日本での公開にのぞみ、

「大変な時期ではありますが、私の大切な『タッチ・ミー・ノット』が日本で公開されることをとても嬉しく思っております。いま世界は、多くの偏見に直面し、他者をますます恐れるようになっていますが、この映画は自分とは異なる存在である他者と「仲良く」することを提案しています。私たちの日常的な出会いの中で、力関係が現れ、他者に対する不寛容さや判断の問題が出てきたり、ネガティブなレッテルを貼られたりすることがよくあります。また、彼らが異なる身体や異なる思想を持っているという理由だけで、偏見的な判断をされることが頻繁に起こります。しかし、この映画が私たちを共感の練習へと誘い、他者の皮膚の中に身を置くことで、何かを変えてくれるキッカケとなることを願っています」

と、コメントしている。


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『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』

名古屋では、8/29(土)より名古屋シネマテーク(名古屋市千種区今池1丁目6−13)で公開となる。


未曾有の災禍により、いわれなき偏見と、得体のしれない恐怖が蔓延している今だからこそ、

あなたには出会ってほしいのだ、生涯を変える映画に――。


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映画『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』


ローラ・ベンソン

トーマス・レマルキス

クリスチャン・バイエルライン、グリット・ウーレマン、アディナ・ピンティリエ

ハンナ・ホフマン、シーニー・ラブ、イルメナ・チチコワ

レイナー・ステッフェン、ゲオルギ・ナルディエフ、ディルク・ランゲ、アネット・サヴァリッシュ


監督・脚本・編集

アディナ・ピンティリエ


2018年/125分/英語/ビスタサイズ/5.1ch/DCP

ルーマニア、ドイツ、チェコ、ブルガリア、フランス/R18

原題:TOUCH ME NOT

日本配給・宣伝:ニコニコフィルム

日本配給後援:在日ルーマニア大使館


©Touch Me Not - Adina Pintilie


『タッチ・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』公式サイト