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私たちは、ついつい映画を分類したがる。


やれ、「この映画は、戦争映画の頂点だ」とか。

「あの作品は、群像劇の到達点だ」とか。


実際、観たい作品の選別に、映画をインデックス化するのは、とても便利だ。

だが、ちょっと考えてほしい。


例えば、あなたが好きなラブストーリーは、音楽映画としても一級品ではないか?

あなたが大好きなホラー映画は、コメディ作品としても有名ではないだろうか?


映画は、総合芸術であるから、一筋縄ではいかない。

むしろ、色々な要素が詰め込まれた作品を好む向きも多いだろう。


今回ご紹介するのは、古厩智之監督の最新作『のぼる小寺さん』。

人気同名漫画の実写作品で、スポーツクライミングに青春を懸ける高校生に扮するのは、映画初主演となる元モーニング娘。の工藤遥である。


『のぼる小寺さん』ストーリー

放課後、5人の生徒が教室に居残っている。


親に言われるまま運動部に入ったものの、楽そうだという理由で選んだ卓球部を後悔している、近藤(伊藤健太郎)。


友達には打ち明けられないでいるが、写真撮影に夢中の、ありか(小野花梨)。


コミュニケーションが苦手で、いつも一人で読書している、四条(鈴木仁)。


不登校気味で、もっぱら学外で友人と遊んでいる、梨乃(吉川愛)。


周囲に打ち解けることが出来ず、何となく自分を持て余している4人は、小寺さん(工藤遥)のことが気になって仕方ない。


そんな小寺さんは、中学から始めたスポーツクライミング以外眼中にない――。


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古厩智之監督といえば、『灼熱のドッジボール』(92)でぴあフィルムフェスティバル(PIFF)のグランプリを受賞して以来、『ロボコン』(03)、『武士道シックスティーン』(10)、『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』(13)など、良作を次々と世に送り出している。

脚本は、『けいおん!』(11)、映画『聲の形』(16)、『夜明け告げるルーのうた』(17)の吉田玲子。

青春真っ只中の若者たちを活写するのに、これ以上ない才能が集結した。


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物語の語り部、近藤に扮するのは、モデル出身で今や同世代の俳優の中でも頭一つ抜けた感のある、伊藤健太郎。

『デメキン』(17/山口義高監督)、『犬猿』(18/吉田恵輔監督)、『惡の華』(19/井口昇監督)など着実にキャリアを重ねる伊藤だが、今作は代表作と呼ばれることになるだろう。


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田崎ありか役は、『南極料理人』(09/沖田修一監督)、『おじいちゃん、死んじゃっ たって』(17/森ガキ侑大監督)、『SUNNY 強い気持ち・強い愛』 (18/大根仁監督)、『宮本から君へ』(19/真利子哲也監督)の、小野花梨。

物語を客観視するような、そんなありかの視点に感情移入する観客も多いに違いない。


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四条には、『4月の君、スピカ。』(19/大谷健太郎監督)、『小さな恋のうた』(19/橋本光二郎監督)の、鈴木仁。

伊藤健太郎と同じくモデル出身の鈴木だが、今作の演技により俳優の仕事が増えるのは間違いない。


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倉田梨乃を演じるのは、『虹色デイズ』(18/飯塚健監督)、『十二人の死にたい子どもたち』(19/堤幸彦監督)、『転がるビー玉』(20/宇賀那健一監督)の、吉川愛。

どこか浮世離れした主人公の魅力を引き出す難役だが、キャリアに違わぬ見事な演技で今作を盛り上げている。


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そして、そんな彼らの心を奪い続ける主人公、小寺さん役は、最年少で10期メンバーに加入した元モーニング娘。の、工藤遥。

ハロー!プロジェクト卒業後は、「快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー」(EX)、舞台「魔法使いの嫁」主演など女優業に専念する工藤遥だが、映画初主演となる本作が彼女の名刺代わりの作品になることは間違いない。


『のぼる小寺さん』で、主人公・小寺さん初めクライミング部の面々が打ち込む、ボルダリング。

ボルダリングといえば東京オリンピック公式種目であるスポーツクライミングの一つで、日本代表選手にメダル候補が集まっていることからも注目競技となっている。


主演・工藤遥は3ヶ月強の猛特訓を経て、吹き替えなしのフリークライミングで圧巻のパフォーマンスを見せる。

トップアイドルに君臨した工藤は、その経験を本作でも遺憾なく発揮した。


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そう。

『のぼる小寺さん』は、「アイドル映画」という狭いジャンルに分類してしまっても、構わない。


アイドル・工藤遥を目当てで観に来た方は、フリークライミングの魅力に気付くと良い。

また、古厩智之監督の演出力に圧巻されると良い。


そして、『のぼる小寺さん』を「ボルダリング映画」という狭い狭い枠に嵌めてしまっても、構わない。


クライマーやフリークライミング愛好家は映画館へ来て、若手俳優たちに魅了されると良い。

「NEO かわいい」CHAIのバンドサウンドに、嵌っても良い。


映画を、どんなに小さく、狭く捉えてしまっても、構わない。

それが取っ掛かりとなるなら、観てみると良い。

大きな魅力ある要素に、次々と気付かされるものだから。


そんな一筋縄ではいかない映画が、今日も劇場で、あなたを待っているのだ――。


映画『のぼる小寺さん』

7月3日(金)より

新宿バルト9

ミッドランドスクエアシネマ

など全国ロードショー


監督:古厩智之

脚本:吉田玲子

原作:珈琲『のぼる小寺さん』(講談社アフタヌーンKC刊)

音楽:上田禎 

主題歌:CHAI「keep on rocking」>Sony Music Entertainment (Japan) Inc.<


製作:映画「のぼる小寺さん」製作委員会(VAP テレビ東京メディアネット ビターズ・エンド C&Iエンタテインメント)

制作プロダクション:C&Iエンタテインメント 配給:ビターズ・エンド 


©2020「のぼる小寺さん」製作委員会 ©珈琲/講談社


2020年/日本/カラー/アメリカンヴィスタ/5.1ch/101分