今から数十年も前のことになるが、亡父がカメラ店を営んでいた。
昭和50年代、ムービーはフィルムが主流で、町のカメラ屋にもシングル8やエルモなど、8mmフィルム用の機材が並んでいた。

当時、地元の子供会などから頼まれ、父は度々フジカスコープの映写機とスクリーン、そして市販されていた映画(と言っても、15分くらいのダイジェスト版)を数本携え、近所の公民館や神社の拝殿などで8mm映画の上映会を行っていた。
筆者も役得とばかりに連いていっては、暗幕の張られた簡易「ミニマムシアター」を堪能していたのだが、小学校の中学年にもなると店に戻る父親に代わり映写係を手伝うことになっていた。

フジカスコープSDシリーズは名機で、10歳やそこらの子どもが容易に操作できたのだ。
挿入口の可動部をカチッと押し込んだら、フィルムの先端を突っ込めばOK。
「光学」「磁気」の切り替えさえ合っていれば、音声も機械任せ。
あと映写技師(?)のやることと言えば、排出口から出てくるフィルムを巻き取り用リールにセッティングするだけだった。

小学校の高学年くらいになると操作に慣れきって、その日集まった子ども達の男女や年齢構成を見測り、上映作品を変更するようになった。
すっかり興行主気取りの痛い小坊だった訳だが、フォーカス合わせだけは親父に如何しても敵わなかった。

幻燈の暗闇を夢にまで観た映画ファンも多かったろう。
新型コロナウイルス(COVID-19)による緊急事態宣言が全面解除となり、映画館がいよいよ戻ってくる。

今回vol.8は、【家で観る映画】最後の10作品となる。


『ワイルドバンチ』

サム・ペキンパー監督

(Amazonプライムなどで視聴可能)

高校時代に『ヤングガン』という映画を観てから西部劇が大好きになってしまいました。
荒野、砂埃、街並み、テンガロンハット、腰には拳銃。
あの世界観にすっかり魅了されたものです。
自分もそういう映画を作りたいと思い、小道具として買ったモデルガンで家で拳銃をクルクル回す練習をして、
早々に落として壊してしまったりしておりました。

そんな西部劇の中でも特にバッキバキなのがワイルドバンチ。
強盗団のベテランリーダーが主人公で、悪対悪の構図のストーリー。
善人でもないしおっさんだし薄汚くて汗臭さまで伝わってくるけど、なんだか好きになってしまう強盗団の面々。
彼らを追うのが元々強盗団の仲間だった男で、
部下がどうしようもなくて苦労してたりするのが切なくてかわいそうになってくる。
そんな愛おしい人物描写に感服してしまいます。

監督は男の生き様を描き続けた巨匠サム・ペキンパー。
クライマックスの敵の本拠地へ向かって歩いていく演出がほんとにかっこいい。
そして銃撃戦はもうほんとにバッキバキで、油断してると何が起こっているかわからなくなる激しさ。

自粛で外出もままならない日々をお過ごしだと思いますが、
広い荒野とバッキバキの銃撃戦でストレス解消してはいかがでしょうか?

1589809366476
木場明義(こばあきよし/映画監督)

1973年9月1日生まれ
東京都出身埼玉県育ち。
1997 大正大学文学部日本語・日本文学科 卒業
1999 映像塾 卒業
現在、自主映画を中心に映像制作を続ける。
映画制作団体イナズマ社主宰。
長岡造形大学非常勤講師。

SFやファンタジーの要素を日常に注ぎ込んだようなコメディタッチの作品を得意とし、国内外の映画祭で多くの受賞、入選歴がある。
代表作『サイキッカーZ』『つむぎのラジオ』『ヌンチャクソウル』他

6月6日(土)より池袋シネマ・ロサにてオムニバス作品『地元ピース!幻想ドライビング』が3週間レイトショー公開予定!


『タンポポ』

伊丹十三監督

(Amazonプライム TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

潰れかけのラーメン屋を流行るラーメン屋にする物語。ベルギーに移住し、日本を外側からみた時、日本には沢山の文化が発達している事に気づきました、その一つとして食の文化は大変優れていると、日本にいると普通に美味しい物が食べれて、あまり考え無かったが僕達日本人は自然に食をとても愛してる。
本作はそんな日本人の食に対する愛情を独特な構成で作った究極の”フードポルノ映画”
コロナが治った時、どーなっているのか分からないが本物を提供している方々が残っている世の中になってて欲しい。本作で本物を作るって行為を実感して欲しい。

1589811366134
五十川智英(いそかわともひで/パタンナー)

愛知県名古屋市出身。
ベルギー在住。
2010年よりベルギーに住み着く、
Christian Wijnants でパタンナーを始め、現在はDries Van Noten でパタンナーをしながら色々なプロジェクトを進行中。


『羊たちの沈黙』

ジョナサン・デミ監督
 
(TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

私は、ほとんどをリモートワークでこの1ヶ月を過ごした。
朝から時に夜中まで、仕事をし続ける事多く、コロナ以前よりも多忙になった。
ネット会議が爆発的に増えたのが大きな原因。
会議には、当然実働も伴うので、てんてこ舞いになる。
リモートワークが働き方改革になるとは、現状は少しも思えない。

結局、映画を見ることも無く時間が過ぎてしまっている。
それでも、家で過ごすことが多くなっている時に、観る映画とは何かと考え、思い浮かんだのが『羊たちの沈黙』。

アンソニー・ホプキンス扮するハンニバル・レクターは、精神科医でありながら、人を食すため、独房に収監されている。
壁越しに、または、分厚いガラス越しでのみ、他者とのコミュニケーションが許されている。
独房の壁には、確か、自らで描いたフィレンツェの風景があったかと思う。
レクターの心の中には、記憶の中に立てられた宮殿があり、独房にいて外界から遮断されていても美に触れられるようだ。
捜査官や、隣の独房の囚人など、わずかな言葉のコミュニケーションで、殺人、捜査、愛の伝達?を、惹起する。
閉じられた空間の特殊なコミュニケーションという面白さは、今にも当てはまるかもしれない。

しっかり見直してから書きたかったのだが、記憶の宮殿ならぬ、私の記憶の掘っ立て小屋から、思い出しながらこの文章をつづった。
順番が逆になるが、『羊たちの沈黙』また、観てみよう。
同時に、眼精疲労甚だしく、まばゆい新緑と、青い空を私の眼球は欲してもいる。
 
あごう顔写真 1m

あごうさとし
(劇作家・演出家/THEATRE E9 KYOTO 芸術監督)

代表作に『total eclipse』(横浜美術館・国立国際美術館)
今年4月には『無人劇』(THEATRE E9 KYOTO)を演出した。
民間小劇場の運営者による全国的なネットワークとして【全国小劇場ネットワーク】にも参加し、クリエイティブな試みを実践している。
現在は活動のためのクラウドファンディングも行っている。


『キッズ・リターン』

日本映画1996年
北野武監督

(Amazonプライム Hulu TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

「マーちゃん、俺たちは終わっちまったのかな?」
「バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ。」

シンジとマサルは高校時代の友人。ヤクザに憧れるマサルは喧嘩に強くなろうとシンジを誘いボクシングジムに入る。しかし、認められたのはシンジ。マサルはジムを飛び出し、ヤクザの世界へと足を踏み入れる。別々の道を選んだ2人は違う世界で現実を突きつけられる。

胸の奥が痛くなる。
どん底に突き落とされる。
なのに明日も生きようと思える作品。
この映画に何度励まされたことか。
高校時代に初めて観て、震えました。
そのあと何度も何度も何度もこの映画に励まされ、わたしは生きてきました。

自粛期間中「生きる」ということを改めて考えています。
こんないまだからこそ、あえて、観たい作品だと思い、選ばせていだきました。

このような状況ですが、私たちの青春は終わらないし、これからも人生は続いていく。
未来に向かって生きよう。
そして、また、みんなで笑って、映画館にいこう。

1589810728335
小山梨奈(こやまりな/俳優)

福岡県出身
主な映画出演作は、映画『溶ける』(井樫彩監督)『オーロラ・グローリー』(永岡俊幸監督)『ZOB』(竹中貞人監督)『されど青春の端くれ』(森田和樹監督)今年公開予定『クレマチスの窓辺』(永岡俊幸監督)『ファンファーレが鳴り響く』(森田和樹監督) /CM「UHA味覚糖 コロロ 居酒屋編」「フロムエー」「ゼクシィ」等。
好きなものは、落語、遊戯王、サウナ、鹿島アントラーズ。


『めがね』

萩上直子監督
 
(Amazonプライム Hulu TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

「大切なことは、焦らないこと」
あん子を作る火を止めてそう言ったサクラの言葉で、わたしの中にある何か大切なものを思い出す。ゆるりと流れる瞬間や、自然の色。そして美味しいごはんやビール。誰にでも共通の時間があるなかで、「こういうの、いいな」そう素直に憧れる世界がそこに映る。柔らかくて、誰も無理をしていない、そのままに、流れるままに、、
「電波届かないところに来たかった」そう言って降り立ったタエコの過去に何があったかは知らない。けれど民宿「ハマダ」で登場する人々と過ごす中で、彼女の心に絡まっていた何かをほぐし、心軽やかに変化していく彼女の姿がとても心地よい。何も起こらないいつもの風景。でもそれが丁寧であり、やさしいのだ。

電車や車の音、人混み、仕事、お金。日々何かに追われるのが当たり前の私たちの日常。そのタイミングで起きた今回のコロナ自粛を機に、わたし本当はどう生きたい?、そう考えるきっかけになった。わたしが求めるのは、この映画を観た時に必ず感じるような心の豊かさなんだと改めて思う。
穏やかな淡い海色と砂浜。そこに映る赤の編み物。言葉だけではない、映像としての「たそがれ」の表現も、ぜひ皆さんに観ていただきたいこの映画の素敵なところです。

1589811093734
志摩 瞳
(しま ひとみ/スペシャルティコーヒー専門店、丸山珈琲 バリスタ)

2016〜2019年ジャパンバリスタチャンピオンシップ、セミファイナリスト
拠点となる軽井沢の店舗勤務を経て、現在は東京西麻布店に所属
世界にコーヒーの魅力を伝えるスペシャリストとして活躍中


『胸騒ぎの恋人』 

Les amours imaginaires (2010)
監督・脚本・編集:グザヴィエ・ドラン Xavier Dolan
撮影:ステファニー・ウィバー=ビロン Stéphanie Xeber-Biron

(TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

『世界で唯一の真実は、愛の衝動だけ。』(アルフレッド・ド・ミュッセ)

フランス19世紀の恋愛作家が遺した言葉の引用から、映画は始まる。

果たしてこの長いブラックの空白のあとにどんな恋愛が繰り広げられるのか、と我々はスクリーンに集中する。
が、期待は大いに裏切られる。次に目にするのは、どこの誰かもわからない人たちのインタビューの連続である。唯一わかるのは、彼らは自分の恋愛について語っている、いうことだけ。失恋、ストーキング、セックス観、ジェンダーマイノリティなど、漠然としたテーマに対して彼らは一貫して苦しんでいる。一つ一つの表情がクロースアップで代わる代わる映し出されたあと、物語はカナダ・モントリオール市内のとあるホームパーティーから始まっていく。

ゲイのフランシス(監督本人が演じている)とマリーは旧来の友人。
ある日、共に主催したホームパーティーに友人の友人としてやって来た青年・ニコラに、二人は同時に一目惚れする。互いの好みをよくわかっているフランシスとマリー。ニコラをめぐり、三人で会う機会が重なっていくなかで、友情と独占欲、愛情と自己承認欲求が複雑に絡み合っていく。

この作品で特段に目を引くのは、《感情》の描写に驚くほどの時間と、細かい演出を割いていることである。ある時はスローモーションを多用し、ある時はフランシスとマリーの些細なリアクションのひとつひとつ、カメラは逃さず捕らえていく。この世界にうんざりするほど溢れている男女の三角関係を、感情(emotion)という主題ただ一択で100分間語りつづけるというのは何ともチャレンジングだし、逆にクラシックでもある。映画のストーリーから「社会」とか「制約」みたいなものを全てカットして、人物の表情や仕草、眼差しや距離感をこれでもかというくらい細かく捕らえ、胸が痛いぐらいに感情を掘り下げている。
監督のドランは、自身のことを『タイタニック』 (1997) 信者であると豪語しているだけあって、陸地から遠く離れた広大な海原で(笑)大いに感情を表現する天才である、と私は思う。

感情の演出はもちろん、洗練された衣装や装飾(そのほとんどが監督自身のプロデュース)、何より斬新な音楽の使い方にも注目してぜひご覧いただきたい。

1589808477528
藤井三千
(ふじいみゆき/自主映画監督・映像作家・ディレクター)

愛知県出身 
高校時代よりフランス映画・映画批評に傾倒する。
東京大学大学院在学中、独学で映画制作をスタートさせる。
処女作『た お』(13分)に続き、中編『月を、さがしている』(42分)が渋谷シアター・イメージフォーラムにて特別上映。
同大学院修了後、2015年『鏡』(35分)がドロップ・シネマ・フェスティバル2015にて最優秀監督賞にあたるドロップ賞を受賞する。

その後、岩井俊二監督の現場に従事。数々の映画演出に携わる。

2017年、LGBT映画を扱う『大須にじいろ映画祭』にて藤井三千特集上映が企画される。

その文学性の高い独特のテクストと映像美を特徴に、多数のPVディレクションもおこなう。

2021年春には商業映画デビューも予定されている。


『コンテイジョン』

スティーヴン・ソダーバーグ監督

(Amazonプライム Netflixなどで視聴可能)

ベス・エムホフ(グウィネス・パルトロウ)は、香港出張からアメリカ・ミネアポリスの自宅へ戻って直ぐに発熱と咳を発症、2日後に死亡した。
夫のミッチ(マット・デイモン)がべスを病院へ搬送している間に、彼女の連れ子クラークも同様の症状で急死する。

感染の世界的な急拡大を受け、WHO(世界保健機構)の疫病学者レオノーラ・オランテス(マリオン・コティヤール)が調査に乗り出し、アメリカ人最初の感染者と目されるべスの足取りを追うべく、香港へ飛ぶ。

一方、アメリカではCDC(疾病予防管理センター)が、責任者エリス・チーヴァー(ローレンス・フィッシュバーン)の指示でエリン・ミアーズ医師(ケイト・ウィンスレット)を、ベスを発端に感染が拡大するミネアポリスへと派遣する。

エリンは感染が疑われる人々の隔離に奮闘するが、遂に自らも発症してしまう……。

9年前(2011年)にこれだけのリアリティで、原因不明の伝染病が爆発的速度で全世界へ拡散して行く過程をドキュメンタリー・タッチで描いている事に驚かされる。

マット・デイモンからエリオット・グールドまで、幅広い世代から豪華なスター俳優を揃えていながら、グウィネス・パルトロウやケイト・ウィンスレットといったオスカー・ウィナーにも他のエキストラ役者と同様、ウイルスが容赦なく襲い掛かる。

その非ハリウッド的な「平等さ」が妙にリアル。

映画では終盤に一応、事態は収束へと向かうのだが、ウイルスよりも恐ろしいのは「人間」だとつくづく痛感させられる作劇だった。

起承転結の「起」を最後に回し「承→転→結→起」で、発生源を最後に明かす手法が巧く生きていて、その余りのあっけなさには正直、呆然とさせられる。

ハリウッド大作風に盛り上げず、ただひたすらに「現状」を伝える事に徹するかの様なクリフ・マルティネズの音楽も、映画のリアリズム保持に一役買っていた。

極限状況で人類が最も試されるのは「どこまで平常心を保てるか」だという事を再認識させられる、今こそ観るべき一作。

1589810300338
末長敬司(すえなが けいし/映画監督)

1976年京都市生まれ。
2011年にインディペンデント映画制作団体・星海電影制作公司を設立。

代表作である無名時代の吉岡里帆を主演に招いたSF映画『星を継ぐ者〈ディレクターズカット版〉/Inherit The Stars: The Director’s Cut』(2016年)は、全世界20ヶ国で36ヶ所の映画祭を回り、総ノミネート数59タイトル、総受賞数14タイトルの成績を残した。
現在、最初のバージョンである『星を継ぐ者/Inherit The Stars』〈145分版〉(2015年)が、AmazonプライムやTSUTAYAプレミアム等、合計11社から配信中。


『ペコロスの母に会いに行く』


森崎東 監督

(Amazonプライムなどで視聴可能)

僕の母はアンパンマンの様に丸くとても分厚い手をしている。子供の頃からソフトボール部に入り、ピッチャーを務め、国体の選手にまでなったらしい。
辞めなければ、オリンピックの選手になってたという話は何度も聞いたことがある。
そんな母からビンタを受けたことがある。とても痛かった。母はビンタをする時、下唇を噛みながら少し悲しい顔をしていた。
だからか余計に痛く感じたのかもしれない。

久しぶりにこの映画を観てそんなことを思い出しました。
この映画は僕の大好きな作品の一つです。

「ニワトリはハダシだ」を観て森崎東監督にハマり、特集上映に毎日通っていた日々が懐かしく思えます。僕にとってとても豊かだった時間。
またいつかそんな時間を過ごせることを心から待ちわびています。

1589808923928
柳谷一成(やなぎたにかずなり/俳優)

1989年生まれ。長崎県西海市出身。
主な出演作に『はつ恋』(鶴岡慧子監督)、『彦とベガ』(谷口未央監督)、『追い風』(安楽涼監督)、『轟音』(片山享監督)、『ちかくて、とおい』(登り山智志監督)、舞台『さよなら西湖クン』(和田 憲明演出)などがある。


『グリーンブック』

ピーター・ファレリー監督

(TSUTAYAオンラインなどで視聴可能)

誹謗中傷や煽り.荒らし.罵倒.いじめなどなど。
SNSが発達して以来ネットでも急激に増え、嫌でも身近なものになりました。
同じ価値観や思考でなければ敵とみなし攻撃する。顔が見えない世界だからこそそういう人が増えているのだろうけど、目にするたびに虚しいような寂しいような、そんな気持ちになります。
そもそも自分は自分。ひとはひと。
「理解し合う」というのは難しくても、「知ってあげる」というのは豊かな心で生きられる一つの方法ではないでしょうか。
こんなに色々な人がいて色々な価値観があるんだ!って思えたほうが人生楽しそうじゃない?

人種差別が公然と存在していた世界の映画ですが、人の温もりがどれほどの救いになるか、そして大事なことか。噛み締められる作品です。

この状況を乗り越えて、画面越しではなく直接たくさんの人に会いに行きたいな。

1589812991371
高野逸馬(たかのいつま/ベーシスト)

1992年生まれ 栃木県那須町出身。
都内を中心にアーティストのライブサポート,レコーディング,TV収録などで活動中。
2016年には「花より男子 The Musical」に参加。
現在は主に松山千春のバンドメンバーとしてツアーに参加。
これまでクリスハート,所ジョージ,吉田広大,三浦祐太朗,ダイスケ,相曽晴日,まきちゃんぐ,宮﨑薫 など様々なアーティストのライブ,レコーディングに参加。


『ROOF CULTURE ASIA』

STORROR監督

(Amazonプライムなどで視聴可能)

 「これは映画だ」「これは映画ではない」という言い方をすることがありますが、これは日本独特の文化なのではないかと思います。

 そもそも日本語の“映画”という言葉にぴったり該当する外国語が無い。例えば、映像を意味する英語にはfilm、movie、video、clipなどがあります。この中ではfilmとmovieが“映画”に該当しそうです。でも、filmは企業の広告映像を指す時にもcorporate filmとして使われます。日本語で“企業映画”とは言わないですよね? movieに至っては、filmよりもむしろ文化的に下の扱いをされている感じがします。 映画祭はfilm festivalであり、movie festivalとは言いません。movieという単語には、芸術の形式としての映画というよりも、家族で見る娯楽映画のニュアンスが強く込められているように思います。

 私がアメリカにいたころ、講師や生徒と「これは映画だ/ではない」みたいな話をしたことは一度もありませんし、外国人のインタビューでそういったことを言っているのを読んだこともありません。そもそも映画の始まりはエドワード・マイブリッジが撮影した走る馬の映像だったり、リュミエール兄弟が撮影した工場から労働者が出てくる映像だったりするわけです。それを起源とする以上、動画は全て“映画”であり、「これは映画ではない」と切り捨ててしまうことはせず、その上で個々の作品の芸術的価値を評価する、ということなのだと思います。

 しかし私は日本人ですから、この「これは映画だ/ではない」という議論の呪縛から抜け出すのにかなり苦労しました。日本の映画が一般的に“細かく分業されたチームで作る長編のフィクション”とされていた一方、私は一人で監督・撮影・編集を行なって短編のドキュメンタリーを作っていたため、いつも「映画を作っていない自分は間違っているんじゃないか」という罪悪感を抱えていました。2012年から2017年ぐらいまで、ずっと悩んでいましたね。

 現在、映像界はとても自由な場所になりました。一般人がスマホで撮影したオンライン上の映像が、プロが集まって制作した劇場映画よりも注目を集めるなんてこと、10年前は誰も想像できませんでした。言うなれば、なんでもありの戦国時代。視聴者の感情を動かすことができるなら、誰がどんな手段を使って作った映像でも良いのです。作品の長さも、見せる場所も関係無し。視聴者に影響を与える映像、それが映画なのだと私は思います。

 というわけで前置きが長くなってしまいましたが、今回オススメするこちらの作品は、まさに今の時代だからこそ生まれたニュータイプの映画です。主役はSTORRORというイギリス人たちのパルクールチーム。パルクールとはまるで忍者のように高い壁を登ったり屋根から屋根へジャンプするエクストリームスポーツなのですが、この作品の中でSTORRORが攻略するのは香港・ソウル・東京の高層ビル群の屋上。一歩間違えたら命を落とすようなアクロバットを実現していく彼らの姿が美しいのは言うまでもなく、さらに全編セルフプロデュース・無許可での撮影で、シネマカメラからGoProのような小型カメラまであらゆるものを駆使し、警備員の目をかいくぐりながら立ち入り禁止の場所に侵入して理想のパルクールを追い求める彼らの挑戦を見ていると「ここまでやっちゃっても良いんだ!」と自分の中の古い常識が打ち砕かれるような感動があります。映像制作に関わる人にこそオススメしたい!

 全編英語で日本語字幕はありませんが、彼らが何を言っているかわからなくても楽しめると思います。たった4ドルで視聴できるので、新しい刺激を求める方はぜひご覧ください。

1589811890371
小倉 裕基(おぐらゆうき/映像作家)

 ロサンゼルスで映画を学び、2014年に東京でフリーランスとして活動を始めました。2017年にオランダに移住し、ヨーロッパを中心に各国で撮影を行なっています。海外での撮影案件のご相談、お待ちしております。
 また、YouTuberとしても活動しています。こちらは米国アカデミー賞公認映画祭の1つであるリーズ国際映画祭で上映された、切手マニアのオランダ人のドキュメンタリーで、このようなドキュメンタリー作品やVLOGなどを投稿しています。チャンネル登録していただけたら嬉しいです!


たかだか数ヶ月というのに、自粛を強いられた期間は永遠に続くかと思われる責め苦のようだった。
映画館、ミニシアター、劇場、芝居小屋、美術館、コンサートホール、ライブハウス……
掛け替えのない場所に、想いを新たにされた方も多かろう。

そんな日々が、間もなく明ける。
ただ、ビフォア・コロナと同様の日々が戻ってくると考える人は少なかろう。

営業再開される施設からも、次々と朗報が齎させるだろう。
だが、再館にあたり、引き続き注意喚起を励行されることが予想される。

各劇場とも、感染症対策として消毒、除菌、換気を徹底するはずなので、スムーズな入退場に気を付けたい。
また、手指の消毒への協力、人数制限への理解を心掛けたい。
そして、しばらくはマスクの着用は継続したい。

もう二度と、掛け替えのない私たちの居場所を失くさないために。

【家で観る映画】をご愛顧くださり、ありがとうございます。
このvol.8を以て、一先ずお開きとします。

80作もの映画をお薦めしてくださった、映画人、ミュージシャン、文筆家、文化人の皆様、
80本もの映画愛に溢れたレビューを、本当にありがとうございました!

「自重」と「繰り返し」との意味を持つ単語、“refrain”。
「自粛」の後、映画館に「戻って」こられるという願いが込められた作品たちだから、弊サイトでは【家で観る映画】のことを『リフレイン映画』と呼んだ。

あなたの人生が、引き続き映画とともにあらんことを。
あなたの映画人生が、今後とも豊かなものであらんことを。

かたちは変わっても、今後も忘れないようにしたい。
それでは、皆様……Do refrain!

【家で観る映画】vol.1

【家で観る映画】vol.2

【家で観る映画】vol.3


【家で観る映画】vol.4

【家で観る映画】vol.5

【家で観る映画】vol.6

【家で観る映画】vol.7

【家で観る映画】vol.8