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全世界を席巻している新型コロナウイルスの脅威は、終息が見えないからこそ恐ろしい。

各国政府は都市封鎖や外出禁止など様々な対策を取り、世界経済は混迷の一途を辿っている。


日本でもロックダウンが現実味を帯びて語られる現状だが、そんな今日だからこそ観たい、観るべき映画作品が公開されている。


2014年に公開された、フランスで5人に1人が観たという大ヒットコメディ『最高の花婿』(原題:“Qu'est-ce qu'on a fait au bon Dieu?”)。

日本では、2015〜16年に公開された。


待望の続編もまた、フランスで700万人を動員する大ブームを巻き起こし、2019年のフランス映画興行収入No.1を獲得した。

日本でも熱い「アンコール」に応え、2020年、早くも公開される。


その名も、『最高の花婿 アンコール』(原題:“Qu 'est-ce qu'on a encore fait au bon Dieu?”)。


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『最高の花婿 アンコール』ストーリー

フランス・ロワール地方、シノンの名士クロード(クリスチャン・クラヴィエ)とマリー(シャンタル・ロビー)夫妻と娘たちのヴェルヌイユ一家は、一風変わった「多国籍家族」。

長女イザベル(フレデリック・ベル)の婿ラシッド(メディ・サドゥアン)は、アルジェリア国籍のアラブ人。次女オディル(ジュリア・ピアトン)の婿ダヴィド(アリ・アビタン)は、イスラエル国籍のユダヤ人。三女セゴレーヌ(エミリー・カーン)の婿シャオ(フレデリック・チョウ)は、中国人。四女ロール(エロディー・フォンタン)の婿シャルル(ヌーム・ディアワラ)は、コートジボワール国籍のアフリカン。愛娘たちの夫は、国籍も人種も文化も宗教も、バラバラなのだ。

クロードとマリーが婿達の実家を巡る「世界旅行」から帰ってくると、ヴェルヌイユ家には新たな問題が勃発していた。

フランス国内の「異文化ハラスメント」に悩んでいた婿達が、一念発起。なんと海外移住をするという。ラシッドとイザベルはアルジェリア、ダヴィドとオディルはイスラエル、シャオとセゴレーヌは中国、揃って夫の祖国で暮らすという。間もなく第一子が生まれるシャルルとロールも、インドへ移り住むというのだ。

娘と孫たちとの時間が人生最良のひと時であるマリーは、黙っていられない。仕事をリタイヤし優雅に執筆活動と洒落込むクロードを巻き込み、壮大な引き止め計画を練り始める。

だが、そんなヴェルヌイユ家の面々の思惑とは別のところ、シャルルの実家・コフィ家で、もう一つの大問題が勃発しつつあった――。


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メガホンを取ったのは、フランス・コメディ映画の第一人者フィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督。『最高の花婿』に続いてショーヴロン監督が演出・共同脚本を手掛けたからこそ、フランス・コメディ、コメディエンヌの至宝たるクリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビーという名コンビを生み出したといえる。


ちなみに今作『最高の花婿 アンコール』は、前作『最高の花婿』を観ていなくても充分に楽しめる傑作に仕上がっている。

だが、『最高の花婿』へ「アンコール」を送り続けていた前作からのファンには、前述のクロード・マリー夫妻だけでなく、4人の婿たちとヴィルヌイユ四姉妹が全く同じキャストで戻ってきてくれたのは本当に嬉しい。

しかも、ヴィルヌイユ家だけでなく、アンドレ(パスカル・ンゾンジ)、マドレーヌ(サリマタ・カマテ)夫妻らコフィ家の面々も帰ってきてくれた。

クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビーという名優は言わずもがなだが、主要キャストの面々は『最高の花婿』のブレイクにより、皆売れっ子になっているのだ。


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センシティブな物語を娯楽作品に昇華するフィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督の手腕は、今作でも健在だ。

日本ではエスニック・ジョーク全般がタブー視されるが、習慣、宗教、国籍、政治、人種までをも「ネタ」として取り扱い、しかも抱腹絶倒のコメディに仕上がっている。

もちろんショーヴロン監督の実力があってこそではあるものの、自他の差異を「異文化」として交流を重ねてきた人々の叡智が、ここに詰まっていると言って良い。

その上、『最高の花婿 アンコール』では、セクシュアリティについても言及している。


自分と異なる位相を持つ人とコミュニケーションを取らんとする時、私たちはついつい相互理解を期待してしまう。

だが、それ以前にもっと大切なことがある。

それは、お互いが如何に違うかを知ることだ。

そうして初めて、相手を尊重することが出来る。


そして、忘れがちだが、自己愛を捨ててはいけない。

自分を愛することが出来るからこそ、親愛を表した相手の心が動くのだ。


『最高の花婿 アンコール』でも、フランス、殊に物語の舞台となるアンドル=エ=ロワール県シノン郡への地元愛が溢れている。

かつて百年戦争を終結させた「勝利王」シャルル7世が宮廷を開いたシノンは、「フランス庭園の名花(La fleur du jardin de la France)」と呼ばれるコミュヌである。

数々の名所旧跡、風光明媚な景勝地のみならず、フランス人にさえもマイナーなシノン出身の偉人を紹介し、コミューンの現状にも言及する。

(シノンに、と言うか、フランスに、AVIREX社の工場があったなんて驚いた!)


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自分を愛し、他者も愛する人間が、心を砕いて思い遣るからこそ、人々は心を動かされるのだ。

婿らが決心した理由は、作戦が図に当たったからではない。

アンドレが心変わりしたのは、ンドレやデザートが食べたかったからでは断じてない。

彼女らの心遣いに感動した結果なのだ。


未知のウイルスが蔓延する中、世界は未曾有の不安と戦っている。

ウイルスと同じくらい恐ろしいもの、それはゼノフォビア(外国人恐怖症)かもしれない。

だが、新型コロナウイルスに対抗するには、それこそ世界が一丸となる必要があろう。


啀み合っている時ではない。

今こそ人類の叡智を結集し、パンデミックに立ち向かおう。


とは言え、コロナ危機を回避できたとしても、人類存亡の危機は霧消する訳ではない。

貧困、差別、温暖化、気候変動……人類を取りまく危機的状況は、残念ながら枚挙に暇がない。


だが、悲観に暮れることはない。

大変に難しいことは承知しているが、私たちは解決が不可能ではないことを知っている。


その為の第一歩、それがまさしく異文化コミュニケーションだ。

自分を知り、他者を知り、相違点を知る。

その上で、相手を尊重する。

それが出来たなら、世界は結束できるのだ。


そんな叡智が、『最高の花婿 アンコール』には溢れている。


本当に、映画とは私たちにどれだけのことを教えてくれるのだろうか――。


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映画『最高の花婿 アンコール』

3月27日(金) YEBISU GARDEN CINEMA

4月11日(土) 横浜シネマ ジャック&ベティ

4月18日(土) 伏見ミリオン座

ほか全国順次公開


© 2018 LES FILMS DU PREMIER - LES FILMS DU 24 - TF1 FILMS PRODUCTION


監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン『最高の花婿』

脚本:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン、ギィ・ローラン

出演:クリスチャン・クラヴィエ、シャンタル・ロビー、メディ・サドゥアン、アリ・アビタン、フレデリック・チョウ、ヌーム・ディアワラ、フレデリック・ベル、ジュリア・ピアトン、エミリー・カーン、エロディー・フォンタン、パスカル・ンゾンジ、サリマタ・カマテ、タチアナ・ロホ、クローディア・タグボ


YEBISU GARDEN CINEMA 5周年記念作品


原題:Qu'est-ce qu'on a encore fait au bon Dieu?/98分/2018年/フランス/フランス語/日本語字幕:横井和子  配給:セテラ・インターナショナル


『最高の花婿 アンコール』オフィシャルサイト