貧困、性的虐待、家庭内暴力、いじめ……
子どもたちが日々さらされる、地獄のような現実。
アルコール依存、ギャンブル依存、共依存、同調圧力……
大人たちが日々うみだす、社会の闇。
文部科学省で、教育の現場、子どもたちの現実、家庭環境の問題と向き合ってきた、企画・統括プロデューサーの寺脇研、企画の前川喜平。
元官僚の二人が投げかけた問題提起を、脚本・監督の隅田靖(『ワルボロ』2007年)が物語を形作り、映画『子どもたちをよろしく』は生まれた。
映画『子どもたちをよろしく』ストーリー
デリヘル嬢を送迎する運転手で食いつなぐ貞夫(川瀬陽太)は、妻に逃げられ、息子・洋一(椿三期)には中学に給食費を納められないほどの貧困を味わわせている。
洗濯はおろか入浴もままならない環境で、洋一は稔(杉田雷麟)達のいじめのターゲットとなっている。
稔は、父・辰郎(村上淳)から酷い家庭内暴力を受けている。父の再婚相手である義母・妙子(有森也実)とは未だに馴染むことが出来ないが、義姉である優樹菜(鎌滝えり)には心を許している。
ある日グループの中心である美咲(大宮千莉)から、稔はショッキングな情報を聞く。美咲は、貞夫が運転するデリヘルの送迎車から、優樹菜が降りるのを目撃したと言うのだ――。
2/29(土)より全国ロードショーが始まった、『子どもたちをよろしく』。
3/1(日)、ミッドランドスクエアシネマ2(名古屋市中村区名駅4丁目)にて、舞台挨拶に立った寺脇研プロデューサー、隅田靖監督を取材した。
寺脇研プロデューサー本作を語る
『ワルボロ』以来久々の隅田靖監督
どうしたら「子どもたちをよろしく」出来るか?
映画『子どもたちをよろしく』について
隅田靖監
寺脇研プロデューサー
舞台挨拶後、東京での舞台挨拶への移動時間という極めて貴重な時間を割いていただき、隅田靖監督にインタビューすることが出来た。
Q. 舞台挨拶でも話題になっていましたが、鎌滝えりさんが素晴らしかったです。
隅田靖監督 「この子は根性がある」と思ったから、現場でも結構厳しく当たりました。さっきも言った通り「優樹菜」が良くないとこの映画は成立しないと思ったので、彼女と心中するつもりでした。彼女も色々質問してきたし、僕もそれに対してちゃんと答えました。子役たちは事務所に集めてリハーサルをやったんですけど、彼女はそういう訳にいかなかったので、現場で色々なやり取りをしました。この映画は11日間で撮ってるんですけど、実は村上淳さんとのシーンは初日に全部やってるんです。2日目は有森(也実)さんとのシーンでした。だから、包帯巻いてるシーンは初日にやっちゃってるんです……非常に覚悟が必要ですよね。「14歳の時……」っていうお母さんとの階段でのやり取りも、初日でした。それで結構肝が据わった、と言うか、この作品の色合いが決まったという印象が強いですね。
Q. 子役の皆さんも、かなり精神的にきつい役でした。現場では如何でしたか?
隅田監督 それは、そうでもなかったですかね。寺脇さんが2回くらい、皆を集めて心構えを言ってくれたのが大きかったです。あと、洋一役の椿三期は、ドラムをやってる奴なんですよ。ミュージシャンだからなのかあっけらかんとしてて、「僕、いじめられる役で良いですよ」なんて言ってたくらいで。最初、三期には「稔」と「洋一」の両方を出来るようにって言ってたんですが、最後の最後に杉田雷麟が決まって、彼は「稔」だと思いました。で、「三期、お前「洋一」で良いな?」って言ったら、「分かりました!」って。ミュージシャン的なノリというのか、コミュニケーションの取り方も、また役者と違うんですよね。雷麟とも凄く仲が良かったし、裏の方で纏め役もやってました。現場が終わったらすぐ仲良くなってるような感じだったので、悲痛な感じは全然なかったですね(笑)。
Q. 『子どもたちをよろしく』の脚本は、寺脇プロデューサーの原案の時点で構想は固まっていたんですか?
隅田監督 そうですね。最初は、洋一の方の家庭を中心にやろうと思っていたんです。この作品は、回想シーンが一回もありません。普通の映画なら回想を入れる展開になると思うんですけど、僕はやるつもりがなかったし、寺脇さんも好きじゃないということで。日本の社会全体は、終身雇用制が崩壊してしまって、派遣社員が増えて大手も首を切ったりしています。そうなると、子どもたちに一番しわ寄せが来るんですよね。僕も非正規で働いているんですが、希望すべき将来が見えないから、結婚してない人ばかりですよ。そんな状況で結婚して子どもが出来たとしても、離婚して親権が母親だったりしたら、生活のために風俗で……そんな話、よく聞くじゃないですか。そして、子どもが邪魔に……そんな事件もあったりする。昔からいつも、子どもって社会の影響を受けやすいんじゃないかと思いますね。また、今は横の繋がりが希薄になってます。僕らの子どもの頃は団地とかもあって、労働組合もしっかりしてましたよね。今はそういうのがどんどん分断されちゃってるから、個々人の格差が本当に広がりますし。そうなると、やっぱりしわ寄せが来るのは子どもたちです。もちろん寺脇さんも、前川(喜平)さんも、お感じになってると思うんですけど、僕なんかもそんなことを感じて脚本を膨らませていったんです。
Q. 監督の好きなシーンを教えていただけますか?
隅田監督 やっぱり、窓ガラスを割るところなのかな……。あと、動物園も好きですね。それから、キャッチボールのシーンも好きです。有森さんも、脚本を読んだ段階で「キャッチボールのシーン、良いね」なんて言ってました。動物園の場面から、物語が好転していくかと思いきや、全然そうではない(笑)……それを象徴するのが窓ガラスのシーンですし。そして、キャッチボール……その3つが、この作品の肝なのかと思いますね。
子どもに与えられるものは、しわ寄せではなく、幸せであるべきだ。
新たな感染症により、「不要不急の外出は出来るだけ控える」などと言われる今日。
だが、不要ではない命題が、『子どもたちをよろしく』にはある。
急を要する作品を、映画館は上映している。
マスクをしても、目と耳は塞ぐべきではない。
何より、心を閉ざすべきではない――。
映画『子どもたちをよろしく』
配給:太秦
© 子どもたちをよろしく製作運動体
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