台湾スイーツの王様、「豆花」。
日本では「とうふぁ」と呼んで親しまれているが、本場・台湾では「ドウファ」と発音する。
(主人公は「ちょっと可愛くなくなった」と言っていた 笑)
豆花は豆腐のようなスイーツで、謂わば豆乳ゼリーのようなもの。
豆乳に硫酸カルシウム(「にがり」の主成分)を化学反応させ柔らかめに固めたもので、食感はゼリーというよりプリンやババロアに近い。
だが、豆花の魅力はそれだけに留まらない。
ピーナッツ、芋圓、タピオカ、フルーツetc.…思い思いのトッピングに、店のオリジナリティが溢れたシロップ(黒糖、フルーツジュース、練乳など)が掛かり、その味わいは無限大。
その上、氷やフラッペを合わせた冷製豆花も、温かいスープで温製豆花も、オツなもの。
豆腐花、老豆腐、豆凍などアジア各地で様々に呼ばれ愛されている豆花は、台湾で人気を不動のものにした感がある。
そんな豆花をメインにした台湾グルメ、POPな音楽にも心奪われるアイドル映画、家族の在り方を問うヒューマンドラマ、主人公が掛け替えのない旅を経験するロードムービー……
ありとあらゆる「キラキラ」を詰め込んだ、贅沢でキュートで切なく、愛おしい映画が誕生した。
2月22日(土)より全国ロードショーとなる、今関あきよし監督『恋恋豆花(れんれんどうふぁ)』だ。
『アイコ十六歳』(1983年)の富田靖子、『タイム・リープ』(1997年)の佐藤藍子、数多の美少女たちの瞬間の輝きを銀幕に永遠に焼き付けてきた今関あきよし監督。
今作『恋恋豆花』で映し出されるのは、モード誌「装苑」でモデルデビュー後、ファッションショーや広告媒体で活躍するのみならず、映画やドラマでも存在感を放ち続ける女優、モトーラ世理奈。
『恋恋豆花』ストーリー
父・博一(利重剛)と二人暮らしだった大学生の奈央(モトーラ世理奈)の家に、父の3度目の結婚相手・綾(大島葉子)がやってきた。
家族の親睦を図るために計画していた旅行だが、博一が不参加となってしまい、奈央は綾との二人旅に出かけることになってしまう。
父の結婚相手を母とは思えず気乗りしない奈央と、新しい娘との心の距離を縮めようと積極的な綾、二人は1週間の台湾旅行に出発する。
台湾という異国の地、旅先では思いもよらぬ出会いが待っていた。
積極的だが寂しがり屋のバックパッカー、清太郎(椎名鯛造)。
奈央のモデルとしての才能を見出す俳優・ティエン(石知田/シー・チーティエン)、アルバイトをしながら女優を続けるピンシー(潘之敏/ヴィッキー・パン・ズーミン)。
小さなカフェを素敵なライブ会場に変える、シンガーソングライター・洸美(hiromi)。
エキゾチックな観光地と、大根餅、魯肉飯などの台湾グルメ。そして、何より絶品スイーツ「豆花」が、奈央の心を溶かしていく。
台北で、九份(ジゥフェン)、昇平戯院、雙連朝市(シャンレンザオスー)、寧夏夜市(ニンシャーイエスー)、龍山寺(ロンシャンス)、淡水金色水岸。
台中では、台中公園、台中第二市場。
台湾で寝食を共にするうち、次第に「母と娘」という間柄に近づく、奈央と綾。
だが、奈央が体調を崩してしまったことで二人は衝突し、追い打ちを掛けるようにとびっきりのトラブルが奈央と綾に降りかかる――。
とにかく何をさておいても、モトーラ世理奈が素晴らしい。
『少女邂逅』(監督:枝優花)、『21世紀の女の子』(監督:山戸結希、東佳苗ほか)、そして現在も公開中の『風の電話』(監督:諏訪敦彦)と、彼女の演技、存在感、立ち居振る舞いは観てきたが、今作では他の作品では観ることの出来なかったモトーラ世理奈に出会える。
これまで心に傷を負った儚げな少女を演じてきたモトーラだが、『恋恋豆花』では等身大の女性を演じる。
(少女ではなく、成人役であることにも注目)
特筆すべきは、今作では「笑うモトーラ世理奈」に出会えることだ。
いや、そりゃあ「今までの作品で一度も笑顔を見たことがない」なんてことは言わない。
しかし、自然な笑顔を振り撒きまくる奈央は、女優・モトーラ世理奈にとって特別なターニングポイントとなる役であることは間違いない。
「そんな顔するんだ……初めて見た、そんな笑顔」
という「あやや」こと綾さんの台詞は、スクリーンを見つめる私たちの心の叫びそのものだ。
そんな綾を演じる大島葉子が、モトーラに負けず劣らず素晴らしい。
『恋恋豆花』、もう一人の主人公である。
母でも、継母でもない綾というキャラクターは、奈央にとっての謂わば「天敵」だ。
そんな「親子ではない母娘」が笑顔を交わすようになる、そんな展開に無理を感じさせない技量は、大島の「役者力」(≒演技力)あってこのことだ。
『朱花の月』(監督:河瀬直美)や、『ヘヴンズ ストーリー』(監督:瀬々敬久)で見せた存在感とはまた違い、綾はどこか「説得力」めいた空気感を放つ。
劇中、大島葉子が出ないシーンでは「早く戻ってきて!」と感じた。
大島演じる「綾」目線で物語を追う観者も少なくないはずだ。
そんな二人の主人公を魅力溢れる存在としたのは、今関あきよし監督の手腕に他ならない。
「復帰作」と呼べる『クレヴァニ、愛のトンネル』(2014年)で今関監督の帰還に快哉の声を挙げた映画ファンは多いだろうが、そんな方は今作を観て万雷の拍手を送るに違いない。
主人公の心象を斬新に現す、唐突なモノローグ、ギニョール、かみしばい、そして本人によるナレーション。
情報テロップのカットイン、大胆にコラージュされた場面転換、ミュージカルかと見紛うような心躍る音楽シーン。
そして何より、その全てを表現の一部として操り、『恋恋豆花』という一本の作品と成す構成力。
それはまるで、自然と電飾、東洋と西洋、伝統と流行が渾然一体となった、台湾そのものを見ているようだ。
そして、冷たくて温かい、古くて新しい、甘くて酸っぱい、「豆花」そのものを表現した総合芸術を観ているようだ。
「映画作家・今関あきよし」が、帰ってきたのだ。
おかえりなさい、今関監督!
2月22日(土)新宿ケイズシネマを皮切りに全国ロードショーとなる、『恋恋豆花』。
名古屋では3月7日(土)より、名演小劇場(名古屋市東区東桜)で公開される。
実は特報がある。
名演小劇場での封切前日の3月6日(金)、カフェ星時(岐阜県岐阜市神田町3-3 加藤石原ビル2階)で、【文基地シリーズ・MIRAGE THEATRE Vol.0】が開催される。
弊サイトでもお馴染み【Cafe mirage】管理人・涼夏さんが、「カフェ星時」とコラボして放つ、『MIRAGE THEATRE』の特別編だ。
なんと、
今関あきよし監督
洸美-hiromi- (『恋恋豆花』劇中歌書き下ろし・歌唱・出演)
お二人がゲストでやってくる。
詳しくは、こちらでご確認を。
見て、聴いて、そして味わう、映画『恋恋豆花』。
思わず「好吃(ハオツー)!」と叫びたくなってしまいたくなる美味しい映画だ。
だが、エンドロールでの旅を終えた二人の表情も観逃さないでほしい。
そして、一枚の写真の背景の壁に書かれた、「知足」という二文字を。
「おいしい!」と叫ぶのも良いが、「知足」に至るのが幸福への道だ。
奈央も言っていたではないか。
「私は大人になったのだよ、ふふふ」
ってね――。
映画『恋恋豆花』
2020年2月 新宿ケイズシネマほか全国順次公開
『恋恋豆花』公式サイト
名演小劇場 公式サイト
©2019「恋恋豆花」製作委員会
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