※新型コロナウイルスの影響により、3/14、15に開催予定の【おおぶ映画祭 2020】は、9月19日(土)20日(日)に延期となりました※
名古屋市に隣接する、知多半島の付け根に位置する工業都市、大府市。
大府名物といえば、新高梨にヤマノイモ、ぶどう、クチナシ、そして、忘れちゃいけない宝石商。
そして、もう一つ大府には、とびきり新しく、とびきり注目を集める映画祭があるのだ。
今年で第3回を迎える、【おおぶ映画祭】。
【大府ショートフィルムフェスティバル】から名前を変えた2020年は、おおぶ映画祭にとってリボーン・イヤーとなる。
3月14日(土)15日(日)に開催される本祭に先駆け、1月26日(日)に行われた【プレ上映会 part1】を取材した。
「【大府ショートフィルムフェスティバル】から、【おおぶ映画祭】に名前を変えまして、長編映画も募集し始めました。3月14日(土)15日(日)に本祭がございまして、そこでは当方オリジナルの映画も公開します。
今日は、昨年行われた【大府ショートフィルムフェスティバル】から作品を選んで上映させていただきます。勇気をもらえたり、優しい気持ちになったり、明日から頑張ってみようと思うようなラインナップになっております。
映画を観る時、ちょっと注目してほしいところがございます。所謂シネコンとかで流れる商業映画とは違い、こういうショートフィルムやインディペンデント映画の中には、監督たちのメッセージや想いが凄く色々なところに紛れ込んでいます。もしかしたら登場人物の一人は監督自身かもしれない、そんな場合もあります。そんなことを思いながら、前のめりになって観ていただけると幸いです」
映画祭プロデューサーの辻卓馬氏は、壇上で笑顔を見せた。
【おおぶ映画祭 プレ上映会 part1】では、【第2回 大府ショートフィルムフェスティバル】からのセレクション作品3作を含む、計4作の短編映画が上映された。
『GIRLS NIGHT OUT』(監督:泉原航一/27分)
辻卓馬プロデューサー ある場所で、4組の女の子たちが織り成す物語です。最後にアッと言わされる内容です。色々な葛藤があったり、不安があったりで、ケンカしながら未来に向かってもがいていく姿が描かれています。とても素敵な映画です。
『歌声を聴いてほしくて』(監督:八十川勝/34分)
辻 ちょっと……ネタバレになるので、なかなか言うのが難しいんです。「出会ったら、どうやってコミュニケーションを取るんだろう?」「どうやって恋愛になって行くんだろう?」「人間の関係性って、何だろう?」というところを、鋭い切り口で表現しています。全体的に優しい、監督の人間性が表れている映画です。
八十川勝監督 僕は知らない世界の話を聞くと、物凄く可能性を感じるんですよね。
辻 これぞ映画だという要素の一つとして、日常では絶対に知りえない世界がこの映画にはあるじゃないですか。「ああ、なるほど」という発見があります。
八十川監督 僕が描きたいのはファンタジーなんですけど、別に翼が生えた馬が出てこなくても全然よくて、日常の隣にあるファンタジー、まだ我々が気付いてないだけですぐ隣にある世界を描きたいんです。
辻 この映画は、色々な国で上映されてるんですよね?
八十川監督 25ヶ所くらいで上映していただいてて、最近僕も何ヶ国なのか分からなくなってるんですけど(笑)……10何ヶ国くらいかと。観た方から多くいただいた「あの二人は、この後どうなるの?」という問いを受けて、この作品の後に『夏の光、夏の音』という長編映画を撮りました。そちらも、僕たちの知らなかった色々な可能性をそのまま描いた作品です。
辻 「可能性」って言葉を使っていただいて、非常に嬉しいです。今年の【おおぶ映画祭】のテーマは、「映画の可能性を信じる」です。
八十川監督 僕は今、点字にハマッているんです。点字を自分で自由に打ってポケットの中でも確認できる面白アイテムをいつも持ち歩いてるんですが、指先で文字が理解できるって凄く面白いですよ。健常者が点字を勉強する時って、多分目で勉強しちゃうと思うんですが、指先で覚えるのが良いと思います。新たな能力を身に就けられるんです。
辻 僕にとっての「身近なファンタジー」は、八十川さんです(笑)。
『Happybirthday Raymond』(監督:渡邉高章)
辻 石川県から、俳優 星能豊さんがいらっしゃってくれました。
星能豊 ご無沙汰してます。
辻 前回の大府ショートフィルムフェスティバルの『センターライン』(監督:下向拓生)で初めてお会いして、一年経ちましたね。渡邉監督の作品は、沢山出られてますね。『Happybirthday Raymond』について教えていただけますか?
星能 渡邉さんとは結構長い間お付き合いがあって、度々呼んでいただいているんです。この映画の切っ掛けは、主演レイモンド役の鈴木(義君)さんをメインに撮りたいというのが先ずあって、そこから僕の知ってる役者さんを何人か紹介して撮った感じなんです。おかげ様で色々な映画祭に連れて行ってもらってて、冒頭の僕のシーンも三重県の灯台で撮ったんですよ。渡邉さんって、灯台が好きなんです(笑)。映画祭でも、プライベートで飲みに行く時でも捉え方の上手い人で、ちゃんと画にして切り取ってくれる。ダメな男、ダメな女でも、出てる役者に寄り添って、凄く愛らしく撮ってくれるのが、渡邉監督の良いところなんじゃないかと思います。
辻 渡邉監督の作品は僕も色々と観させていただいてますけど、結構生と死の問題について深く捉えられてる方かなという印象です。
星能 皆さん観ていただいて、それぞれ感じることは違うかも知れないんですけど、他の作品でも子供が生まれてからの1年間を追ったような映画があったりします。今回も「Happybirthday」、生まれるということをモチーフにして作っています。渡邉さんの上手いところは、そこにちゃんと物語を乗っけるところです。それも、敢えてあまり深い感じにしなかったり……渡邉さんと僕とで考えも違うかもしれないですけど。今はSNSが凄く発達して別に電話をしなくてもコミュニケーションが成り立つじゃないですか、でも僕自身は声を聴きたかったりするんですよね。レイモンドがわざわざ電話を掛けるところは、凄く面白いと思いました。僕も「会いたいな」と思って久しぶりに電話したら、「それLINEで良いじゃん」って言われたり(笑)。
辻 俳優として、演じることをどのように実践されていますか?
星能 お芝居って、本当に起こってることではないじゃないですか。それを観てる人が本当なのかと思ってくれるにはどうしたら良いかと考えると、僕は自分が上手いとは思ってないんですが、「自分は役の人ではない」と思いながら演じるのは大事だと思っています。役を演ってる自分がいて、それを見ている自分がいる感じがすると、その作品は出来上がりを観て凄く面白かったりします。
辻 なるほど、俯瞰が大事ってことですね。そんな星能さんは、出演作品が凄く多いですよね。去年の大府ショートフィルム映画祭でも『センターライン』に『ピンぼけシティライツ』(監督:東海林毅)に、それから……
星能 2月15日(土)【おおぶ映画祭 プレ上映会 part2】で上映される『repeat in the room』にも出ています。
辻 ちなみに『repeat in the room』は2月11日(火・祝)シネマスコーレでも……
星能 2月11日(火・祝)、名古屋のシネマスコーレ(中村区椿町)で特集上映していただくことになりました。5作品の中の1つが、長谷川汐海監督の『repeat in the room』です。今日は監督も来てるんですよね。
辻 星能さんが主演をされてる『repeat in the room』の監督で、我々が「世界のハセガワ」と呼んでいる、名古屋出身の長谷川汐海監督です。『repeat in the room』は、どんな映画ですか?
長谷川汐海監督 星能さん演じる「リピート」という一人暮らしをしている42歳の会社員が、突然仕事を失ってしまいます。そこから名前の通りの規則正しい繰り返しの生活が始まるんです。その中で過去のことを思い出して、中学生の頃の自分「リピートくん」が彼の部屋に現れます。そんな二人の話です。
辻 この作品、なんと斎藤工さんに講評していただいたんですよね?
長谷川監督 そうなんです。こないだ休刊になってしまいましたが、「映画秘宝」の斎藤工さんの連載で紹介していただきました。
『オーロラ・グローリー』(監督:永岡俊幸/27分)
辻 オーロラが東京で見れるのかという、ちょっと不思議なお話です。
永岡監督からメールを頂いています。
「瀬戸かほ、小山梨奈という美しい二人を魅力的に撮るにあたり、撮影が行われた東京を無国籍に撮ることを意識しました。
映画は観客の日常とは違う非日常、つまり彼岸の風景をスクリーンに映すものだと思っています。
ですので、この映画が皆様の「彼岸の風景」であれば嬉しく思います」
辻 実は、星能さん、長谷川監督、僕の3人は、永岡監督の映画に関わってるんです。切っ掛けは、何でしたっけ?
星能 いや、おおぶ映画祭ですよ。
長谷川監督 そうですよ。
星能 1年前に『オーロラ・グローリー』が上映されて、僕はそこで永岡さんと知り合ったんです。その時に辻さんも知り合って……そこから急展開で(笑)。
長谷川監督 私の『repeat』もちょうどその日に上映していて、永岡監督と星能さんが一緒に観てくださって。
辻 映画が繋いでくれた縁なんです。「はじめまして」から、1年で一緒に映画を作るんですから。『クレマチスの窓辺』という、島根県の松江市で撮った、所謂「バカンス映画」というものです。松江という街を映画で残したいという想いで、我々3人に声が掛かりまして、島根で一緒に合宿して撮影してきました。
永岡監督のメールにも、
「本作は、3月の【おおぶ映画祭】本祭で初披露させていただきます。辻さん 星能さん、長谷川さん、トークお任せしちゃって済みません。今度、松江で鯖しゃぶ奢ります」
辻 そうなんです。『クレマチスの窓辺』は、3月15日(日)日本で初めて大府で上映されるんです。永岡監督は「僕には喜劇です」って仰ってましたが、喜劇の捉え方について僕は随分悩みました。
長谷川監督 喜劇だったんですね、初耳でした。
辻 松江って、良い街なんですよね。何が良いって、鯖しゃぶが美味しい(笑)。
長谷川監督 「良い所だな」って思ったのが、ちゃんと写ってる映画になってると思います。
辻 星能さん、遺跡に入ってましたよね。
星能 そうなんですよ。実際に古墳の中で撮影させていただきました。僕は映画があるので、行ったことのない街での撮影は本当に有意義な時間です。今回も色々なキャストさんと一緒に旅行しているような撮影だったので、凄く楽しかったですね。
辻 そうですね。我々が映画制作という名を借りて、バカンスに行った感じで。蓋を開けてみたら、凄く大変でしたけど(笑)。でも、映画が広げてくれた縁でこの場に立てていることは本当に幸せなことで、これからももっと繋げていきたいと思うんです。大府は2月も3月も映画のイベントがあるんですけど、愛知全体で映画を盛り上げていこうとしています。大府では、映画祭だけでなく映画を作っています。
山田将人(Future Cinema Project代表) 大府市で生まれ育った僕は、縁あって中学生の学習支援事業をやっています。子供たちと色々と関わっていく中で、学校でも学習支援でもない場所で子供たちがチャレンジできる舞台を作りたいと思っていたのが、映画作りの切っ掛けです。1年くらい前から辻さん含め色々なクリエイターの方と手を組んで、3月に『スイッチバック』という映画を上映します。
辻 たまたま大府市が市制50周年で、映画制作に全面的なバックアップも頂いたんです。
竹田未知留 主人と「engawa」という屋号で広告を作っておりまして、私はコピーライターです。私たちは映画作りは全く素人なんですけど、市制50周年の映画制作の話を聞いて「面白そう」と乗っからせていただきました(笑)。本当に、縁だと思います。
辻 僕は名古屋市の人間で、映画祭以外で大府に関われてなかったんですけど、今回の映画制作でようやく道が分かるようになってきました。ナビ使わずに、愛三会館や横根に来れるようになりました(笑)。
山田 子供たちの現実を切り取った映画を作っていく中で、大人が思っている以上に子供たちの状況は様々です。元々大府に住んでいたり、外国にルーツを持っていたり、家庭に事情があったり。そんな子供たちのリアルが垣間見れてきたのを感じています。
竹田 『スイッチバック』は大府の街がメインで撮影されているので、市民の方には馴染みのある場所が写っていますし、区画整理等で移りかわる街も記録されています。この先の50年、大府の未来に残る映画なのかなと思っています。
辻 この『スイッチバック』にしても、『クレマチスの窓辺』にしても、映画を作るよりも作った先どうするか、それが地域とどう結びついていくか、可能性をひしひしと感じています。街を記憶に残す、子供たちのことを考える切っ掛けになる、そんな意味で映画は良いんじゃないかと思っているんですよ。
山田 ちょっとネタバレになっちゃうんですけど、大府にあった飛行場なんかもテーマになってるんですね。子供たちのリアルを切り取るだけじゃなくて、大府の街を今後未来に残していけるような作品になれば良いなと思ってます。
辻 そうですね。大府だけじゃなくて、抱えている問題は全国でも一緒だと思うんですよ。この映画が大府から羽ばたいて、全国、世界へ行ってくれると何よりですよね。それが一番、大府にとって良いと思います。『スイッチバック』は、3月15日(日)プレミア上映でございます。『クレマチスの窓辺』もやります。
竹田 映画の中で(内海)紗花ちゃんは、震災で福島からこちらに移住してきたという設定です。多分、日本人の子でも色んなバックボーンを抱えてることを表現しているんだと思います。(岩田隼之介)監督は、大府にある「あつまり処わのや」さんにも取材していました。私も、【心ひとつに3.11】という東日本大震災復興支援イベントに関わっていまして、毎年3.11の近く、今年は3月7日(土)に開催します。ちょうど【おおぶ映画祭】の前の週なので、よろしければ足をお運びください。
辻 3月14日(土)・15日(日)が【おおぶ映画祭】の本祭ですが、2月15日(土)に【プレ上映会 part2】がございます。あ、その前に2月11日(火・祝)シネマスコーレで【星能豊 特集上映】もありますね。と言うことで、3月まで映画三昧の日々をお過ごしいただきたいと思っています。『スイッチバック』では、大府市の子供たち、皆さんの子供たちが本気でやってくれています。彼らの雄姿を是非見届けていただきたいと思いますし、彼らのこれからに拍手を送っていただけたら良いなと思っております。
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