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2011年、岩手県大槌町在住のガーデンデザイナー・佐々木格さんは、自宅の庭に電話ボックスを設置した。

死別した従兄弟ともう一度話したいという佐々木さんの思いから誕生したその電話に、電話線はつながっていない。

しかし、天国に繋がる電話として人々に広まり、東日本大震災以降3万人を超える人々が受話器を手に思いをぶつけた。

今も多くの人の来訪を受け入れている大槌町の電話ボックス、いつしか人は「風の電話」と呼ぶようになった。


映画『風の電話』は、そんな「天国に繋がる電話」を初めてテーマに用いた映像作品だ。


メガホンを取ったのは、『M/OTHER』(1999年)『不完全なふたり』(2005年)等、世界の映画祭で実力が認められた諏訪敦彦監督。

「シナリオなし」という実験的な手法で構築された物語世界は内外の映画界で高く評価され、フランスの至宝ジャン=ピエール・レオー主演の『ライオンは今夜死ぬ』(2017年)も圧巻で、弊サイトでもレビューを書かせていただいた。


主人公ハルには、モトーラ世理奈。

モデルとして唯一無二の存在感を薫り立たせるモトーラには同業者のファンも多く、女優としても『少女邂逅』(監督:枝優花/2018年)で受けた衝撃が未だに忘れられない。


そんな注目の若手女優を支えるのは、西島秀俊、西田敏行、三浦友和、渡辺真起子ら日本を代表する名優たち。

物語の中心にいなければおかしい名プレイヤーたちが、驚くほどさり気なくバイプレイヤーとして映画の脇を固める。


『風の電話』ストーリー

東日本大震災で家族を失ったハル(モトーラ世理奈)は、伯母・広子(渡辺真起子)が住む広島で高校3年を迎えようとしていた。

ある日、ハルが学校から帰ると、広子が部屋で倒れていた。病院で広子の回復を願いながら、ハルは心の中に抑え込んでいた感情と向き合い、津波で失われた故郷・大槌町へ向かう。

着の身着のまま広島から岩手まで旅をする道すがら、ハルは沢山の人々と出会う。倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)は、土砂崩れに被災しながら家族を支えていた。ヒッチハイクでようやく止まってくれた車では、優しいカップルが生まれくる生命の愛おしさを教えてくれた。原発事故の被災、復興を目の当たりにした今田(西田敏行)は、今も福島を離れずにいた。ハルの気持ちが痛いほど分かる元原発作業員・森尾(西島秀俊)は、旅を共にするうち頑なだった心境も変わろうとしているようだった。

長い旅の果て、ハルの心は何処かにたどり着くのだろうか――。


1月24日(金)から全国ロードショーが始まった『風の電話』。

諏訪敦彦監督、モトーラ世理奈が登壇したミッドランドシネマ(名古屋市中村区名駅)の舞台挨拶を取材した。


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モトーラ世理奈 皆さん、こんにちは。今日はお越しくださってありがとうございます。よろしくお願いします。


諏訪敦彦監督 日曜日、皆さん色々とやることもあると思いますけど、この映画を観るということを選んでいただいて、嬉しく思います。良い出会いになることを願ってます。


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MC 一昨日から上映ということで、色々と反響もいただいてると思います。如何ですか?(シネマパーソナリティ 松岡ひとみ)


モトーラ そうですね……


MC ……この間が好きなんです(笑)。監督、如何でしょうか?


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諏訪監督 実は初日に、こっそり劇場で観てたらしいですよ(笑)。


モトーラ (笑)。24日、新宿のピカデリーで。ちょっと観たいなと思いまして、ソワソワしながら(場内笑)。


MC 周りの人には見つからなかったんですか?


モトーラ 誰にも、はい。


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MC 自分で改めてご覧になって、如何でしたか?


モトーラ 大きなスクリーンで、映画館で観られるのが、まず凄く嬉しくて。でもやっぱり、周りの人がどういう風に観るんだろうというのは、ずっと凄くドキドキして(笑)。『風の電話』の空気の流れを感じてもらってるんじゃないかなって思いながら、一昨日は観てました。


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MC オーディションだったそうですが、どんな気持ちで臨んだんですか?


モトーラ 最初このお話を頂いて、台本を一回読んでる時に、もう悲しくなっちゃって……私は、絵本でも家族が亡くなるっていうのは小さい頃から辛くなっちゃうお話で。だから台本を読んでても、「本当はやりたくない」って思ってて(苦笑)。


諏訪監督 オーディションにも来たくなかったって(笑)。


モトーラ 一回目、「台本の台詞を覚えてください」というオーディションで、どうしても自分が悲しい気持ち、辛い気持ちが先に出てきちゃって、本当に何も出来なかったんです。「多分ダメだっただろうな」って思ってて(笑)、そうしたら「また来てください」って言われて、そこでちょっとやりたいと思って。二回目のオーディションで私は初めて即興芝居をやったんですが、自分自身が辛いという気持ちは出てこなくて、何か自然にハルって役に入れて、相手を全部感じてお芝居が出来たと思って……それで、「もっとハルを演じてみたい」という思いを持ったんです。


MC 監督は最初から決めていたというお話を聞いたんですが、如何ですか?


諏訪監督 そうですね(笑)。他にも会う人がいたので秘めておいたんですが、僕の中では最初のオーディションでほぼ決まっていたんです。二回目を呼んだ人って、ほとんどいないんです。即興は、どういう風に対応してもらえるかを知りたかったし、そのお芝居も素晴らしかったので、これはもう彼女で決まりだという感じでした。ハルっていう人がそこにいるような感じになって、びっくりしました。「この人を撮っていれば、映画は出来るんじゃないか」(笑)と、僕は思いました。


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MC 色々な話をしながら、ハルというキャラクターを作り上げていったんですか?


モトーラ そうですね。少しずつ「ハルはこういう子なんじゃないかな」って話を。


諏訪監督 具体的に「この人って、こうするかな?」「出来るかな?」「どうするんだろうね?」っていう話だったような気がします。


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MC ロードムービーというプランは最初から決めてたんですか?


諏訪監督 このプロジェクトの最初から、そのイメージが出来てたんですよ。少女が旅をする流れは、最初からありました。


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MC 広島から岩手まで移動しながらの撮影は、モトーラさんも全部移動されたんですよね?


モトーラ そうですね。話の流れと一緒に移動しました。


諏訪監督 最初のシーンが撮影の始まりで、最後のシーンが撮影の終わりという、その順番でした。映画というのは順番に撮るとは限らないんですけど、この作品は順番通りです。ハルが体験していく順番で撮りました。


MC 西島秀俊さんとご一緒されて、如何でしたか?


モトーラ 今こうして撮影を思い返すと、あんまり西島さんにお会いしたという記憶がなくて、それよりも西島さん演じる森尾に会ったっていう思い出の方があるんですよ。西島さんとはカメラが回ってないところではほとんどお話をすることがなかったので、そんな西島さんと私との距離感が、森尾とハルというキャラクターに存在してたのかなと思います。


諏訪監督 僕から見ているとむしろ、周りの俳優さんの方が注目してて、多分皆さん驚いてらっしゃいました。打ち上げの時に色々聞きましたけど、「何故この人はこんなに「受け」の芝居が出来るのか?」って、西田(敏行)さんなんかも仰ってました。周りの人が一所懸命話しかけたりしても、ハルは黙ってることが多いんですけど、周りで演じてる人は凄く色々なことを感じてるんですよ。


MC 監督は、西島秀俊さんや三浦友和さんとはご一緒されてますよね?


諏訪監督 僕としては、ちょっと同窓会みたいな(笑)。僕はそんなに映画を撮っている訳ではないんですが、一番最初の劇場映画(『2/デュオ』)を撮った時の主演が西島秀俊さんで。二本目(『M/OTHER』)が三浦友和さんと渡辺真起子さんで。この映画は渡辺真起子さんから始まるんですけど、最初は自分の映画の「昔の家族」に来てもらったような感じで、それで新しい家族を迎えていただきたいという気持ちでした。


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MC 撮影先では色々な美味しいものも食べられたとか?


諏訪監督 ロケ地先の色々な所でお世話になって、実際のお家をお借りしたりしてるんですが、色々と炊き出ししていただいて。


モトーラ 映画の中にも出てくるんですけど、「マミーすいとん」が美味しかったです。


諏訪監督 福島県ご当地の食べ物で、トルシエ監督が名付けたらしいんですよ。そんな話を西田さんが劇中延々と話されたんですけど、申し訳ないんですが使ってません(笑)。面白かったんですけど。


MC ロードムービーなので、名古屋も通るかと思ったんですが……。


諏訪監督 済みません。実際は通ったんでしょうけどね。昨日も大阪(の舞台挨拶)で、「通れば良かったね」みたいな話を(笑)。でも、実際にはこの辺りなんだろうなという距離感の場面は、あるんですよね。


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MC 来月、ベルリン国際映画祭に行くことが決まったとのことで(場内拍手)。


諏訪監督 僕たちが参加するのは「ジェネレーション部門」という、主に青少年に向けた作品の部門で、幅広い人に観せられる映画ということです。ベルリン映画祭って18歳以下は入れないんですけど、このセクションは14歳から入って良いことになってたと思います。10年前に『ユキとニナ』で、低学年向けた小さい子の部門で参加しました。面白かったですよ、いっぱい子供がいて。「質問ある人?」って言ったら、「はい!」って凄く手が挙がって、大騒ぎで楽しかったです。僕たちは、どちらかというとこの作品はささやかな映画だと思うんですね。女の子の目線で進んでいくお話で、そんなに大きな出来事が起こる訳ではないし。僕たちにとってはある種「祈り」みたいなものなんですが、そういうものがベルリンに届いたのは凄く嬉しかったです。向こうの青少年たちにどういう風に映るのか、楽しみにしています。


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映画『風の電話』公式サイト