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『カメラを止めるな!』(2018年)で、一躍映画界の時の人となった上田慎一郎監督が、ふたたびワークショップ映画を携えて還ってきた。


劇場長編映画第2弾『スペシャルアクターズ』は、【松竹ブロードキャスティングオリジナル映画プロジェクト】の第7弾企画。

2日間のワークショップで選ばれたのは、15人の個性的なノンスターだ。


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『スペシャルアクターズ』ストーリー

超能力ヒーロー『レスキューマン』を心の拠り所に売れない役者を続ける和人(大澤数人)は、極度の緊張状態におかれると失神してしまう病悩んでいた。ある日、5年ほど疎遠になっていた弟・宏樹(河野宏紀)の紹介で、俳優事務所「スペシャルアクターズ」を訪ねた。

社長(富士たくや)によると、スペシャルアクターズは俳優事務所とは別に、依頼人の要望に沿ってシナリオを立案し役者を派遣する、「演技を使った何でも屋」でもあるという。

宏樹のサポートもあり「スペシャルなアクト」をこなしていく和人だったが、スペシャルアクターズに大仕事が舞い込む。女子高生・祐未(小川未祐)の依頼は、「詐欺組織から旅館を守って欲しい」というものであった――。


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1/18(土)、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で初日を迎えた『スペシャルアクターズ』。

上田慎一郎監督、大澤数人、富士たくやが登壇した舞台挨拶を取材した。


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上田慎一郎監督 『スペシャルアクターズ』の監督、脚本、編集をしました、上田慎一郎です。1年半前『カメラを止めるな!』の時以来ですが、シネマスコーレさんは新作が出来たら来たいと思っていた劇場なので、帰って来れて嬉しいです。よろしくお願いします。


大澤数人 緊張すると気絶する役の、大澤数人です(場内笑)。本日は、ありがとうございます。


富士たくや 俳優事務所「スペシャルアクターズ」のボス富士松を演じました、富士たくやと申します。本日は、ありがとうございました。


上田監督 ちょっと、もう本当にありがたいです。満席ですね(場内拍手)。


MC. 皆さんが映画をご覧になっている間に、名古屋名物を食べに行ったんですが……(シネマスコーレ坪井篤史副支配人)


上田監督 あんかけスパでしたっけ。


MC. ちょっと、大変な目に遭いましたね。


上田監督 ひつまぶしとか味噌煮込みうどんとか、美味しい物を掻いくぐって「思い出を作ろう!」と。


MC. 大澤さんが残念な感じに……最後まで辿り着けないという。


上田監督 完食できず、でしたね(笑)。


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MC. 今日初めて『スペシャルアクターズ』を観たという方はいらっしゃいますでしょうか?


上田監督 結構いらっしゃいますね。


富士 ありがとうございます。


MC. 映画の成り立ちを聞かせていただけますか?


上田監督 『カメラを止めるな!』の公開前に頂いていたお話しで、『カメラを止めるな!』の公開は1ヶ月くらいしたら落ち着くだろうから、終わり次第動き出そうと話をしていたんですが……


MC. 予測不能でしたもんね。


上田監督 えらいことになりまして……動けない、動けない!っていう期間が1年くらい続いて、動き出した企画です。これも『カメ止め』同様、キャストをオーディションで選抜をして、ワークショップという演技レッスンを経て作った作品です。『カメ止め』の時は応募総数40通くらいだったんですけど、今回は1500通来まして。その中から選んだ15人なんですよ。だから、全員100人に1人の役者なんです。一点違うところは、『カメ止め』は企画、プロットが何となくあってキャストを選抜したんですけど、今回はキャストを先に選んで、キャストと時間を過ごして、キャストから物語をゼロから作り出そうとしたんです。15人で作れる物語を、ゼロから皆で一緒に作った映画です。


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MC. 主役の大澤さんも、もちろん書類を出すところから始めたんですよね?


大澤 はい。


上田監督 数人は……同い年なんですよ、見えないと思いますけど、35歳です(場内喚声)。数人は、今まで10年間で3本しか芝居の仕事をしたことがないくらいで、ご両親も役者をしてることを知らなかったんです。


MC. 凄いですね!今回は、何故久しぶりにお芝居してみようと思ったんです?


大澤 そうですね……。今回のワークショップをやって映画を作るっていう企画を前々から知っていて……


上田監督 「松竹ブロードキャスティング」っていう企画で、『恋人たち』(監督:橋口亮輔/2015年)なんかも、そうです。


大澤 受けたいな、と思いまして。


MC. 初めてお会いした時、どうでした?


上田監督 映画で観てもらった通りの人間で(笑)、多分商業映画史上最も華のない主人公かなと(場内笑)。僕としても、大博打でした。10年で3本しか芝居の仕事をしたことがない彼が、最初150館から公開する松竹配給という大きな映画の中で主役を務めるというのは、本当に気絶しそうなプレッシャーがあって。緊張もストレスも凄くて、現場でも本当に気絶しそうな中で演技をしてたんですね。物語上でも実際でもそうだったんで、そんな虚実ない交ぜになった二度と撮れないものを撮りたいなと思って、博打したという感じですね。


大澤 本当に苦しくて、気絶しそうになりながら、頑張りました。


上田監督 チョコレートが大好きなんです。「DARS」ってあるじゃないですか、あれを1カット撮り終わる毎に食べないと精神が安定しないらしくて。ダースが見つからない時、パニックになってました(場内笑)。


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MC. たくやさんは、どうして参加したいと思ったんですか?


富士 僕は『カメラを止めるな!』を観て、凄くて、面白かったんですけど、ちょっとやっぱり演ってる側からすると悔しいというのがあったんですよね。自分もそういう場にいたかった、行ってみたいと思って、受けました。


MC. 上田さんは、たくやさんと初めて会ったんですよね?


上田監督 僕は前から『サッドティー』(監督:今泉力哉/2014年)なんかで冨士さんのことは観てたんですけど、会ったのは初めてでした。富士さんも映画のままというか、不器用なんですよ(場内笑)。ワークショップの最初に自己紹介をしたんですよ。ただ、ワークショップとかオーディションで自己紹介をやるのは当たり前なので、ある程度作ってくるじゃないですか。作られたものは見たくないと思っていたので、当日に「3分以上してください」と言ったんですね。そうしたら、数人とかは残り2分は「あー」とか「うー」とかしか喋ってなくて(場内笑)。


富士 全然喋ってなかったですよね(笑)。


MC. 今日、リアルな感じになってますね(笑)。


上田監督 「好きな食べ物はー……」とか言ってて(笑)。富士さんも、なに喋ってましたかね……凄い不器用な。


富士 済みません(笑)。僕は、天気のこととか……「今日、寒くないですか?」とか言ってましたか。


上田監督 自己紹介で、天気って(笑)!本当の、裸のその人がどんなのか見たいから、そんな風にしたんです。(河野)宏紀と数人が、一番喋れなかったですね。その二人の姿がよくて、そのまま映画で演ってもらおうと思いました。


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MC. たくやさん、念願の上田組はどうでした?


富士 凄く楽しかったですね、はい。


上田監督 結構緊張してましたよね、初日とか。


富士 僕は社長役なので、最初ちゃんとした社長を演ろうとしてたんですよ。


上田監督 そうなんですよ。シュッとした芝居をしてたんです。


富士 頼られる社長を演っちゃって、そうしたら上田監督に「それだと当て書きした意味がないんで」って(場内笑)。


上田監督 メジャーには技術のある人が一杯いる訳じゃないですか。ここで技術で戦っても、勝てる訳ないじゃないですか。だから、唯一無二の自分自身の素材でぶつかって、その人にしかないオリジナリティの芝居をしてほしかったんですよ。それが、誰でもなくなっちゃってて。そこまで無茶苦茶上手い訳でもない芝居をしちゃってたので(笑)。でも、皆緊張してましたよね、初日は。今回は低予算といえど、10人くらいだった『カメ止め』に比べると多分スタッフも3倍。そういう状況をあまり経験したことがない人が多かったので。


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MC. 現場でその緊張を感じた時、解くのはどうするんですか?


上田監督 基本的には、緊張を解くようにするのが、リラックスさせその人に戻そうとするのが、僕が主にすることでした。


富士 肩を揉んでいただいたり(場内笑)。でも、数人くんだけは……


上田監督 今回異例やったのは、数人は常にある程度緊張を強いられている役なので……心を鬼にして、数人には結構冷たくしてましたね。プレッシャーを与えてました。


大澤 富士さんの肩揉んでる上田さんとかを見た時に、接し方が違うので……ショックでした(場内笑)。


上田監督 3日目くらいに、プレッシャーを与えようというのもあって呼び出して「もうちょっとしっかりしてくれよ、お前主役なんやから」って言ったら、「え、主役なんですか?」って言われたんです(場内笑)。え?と思って(笑)。「いやいやいや、ホン(台本)読んでるやろ?出ずっぱりやん」って。主役っていう認識が、そこまではなかったんです。


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MC. たくやさんは、一緒に芝居する中で、大澤さんが緊張してるのを感じる訳じゃないですか。どうでした?


富士 いや、別に……僕も緊張してたので(場内笑)。


上田監督 皆が一杯いっぱいなので、役者として「こういう芝居をしてやろう」とか「爪痕を残そう」みたいな下心を持ってる余裕は無いんです。カメラに芝居が向かっちゃうと、生っぽさというかライブ感が無くなってくるんで。目の前のことに対応するのに精一杯というのが、『カメ止め』とも共通項としてあるんじゃないかと思います。


MC. ちなみに、順撮りではないんですよね?


上田監督 それが、助監督の方が気を遣ってくれて、16日間だったんですけど、ほぼ順撮りだったんです。最初と最後のオーディションのシーンは、普通に考えたらセッティングも同じなので1日で撮っちゃった方が良いんですよ。でも、あそこは和人……というより、この数人本人の成長が出た方が良いなと思って、いちばん最初は何の練習もせずに演ってもらったんですよ。で、色んなシーンの冒険を経た後に、最後を撮ったんです。数人自身の成長が……写った?


大澤 ……そうですね(場内笑)。


MC. それは面白いですね。我々は映画として観てるんですけど、今お話を聞くとドキュメンタリーなんですね。


上田監督 現場では、ドキュメンタリーを撮ろうと思ってるんですよね。


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MC. 『スペシャルアクターズ』も、公開から3ヶ月ですか。上田さんの映画は、本当に息が長いですね。


上田監督 東京では池袋シネマ・ロサが90日、3ヶ月くらい続けてくれまして、毎日キャストも駆けつけてくれて、ありがたいことです。


MC. 映画を観たお客さんは、大澤さんのことを主役として見る訳じゃないですか。どうですか、その感覚は?


大澤 感覚……?……そうですね……


MC. お客さんから、感想を頂けました?


大澤 ……感想……(場内笑)


上田監督 ……大丈夫か?済みません、あまり男の人に問い詰められると(場内笑)。でも、隣で見てて、公開してからも結構成長してるのを感じました。今まで舞台挨拶に立つことがなかったのを、何回も何回も繰り返して。だから、途中もっと喋れるようになってたんです。でも、今ちょっと間が空いてしまったので(場内笑)、また喋れなくなってしまってるんです(笑)。


MC. たくやさんは、今一緒に公開されてる『ミドリムシの夢』(監督:真田幹也)にも出演されてますね。


富士 そう、ですね。


MC. 緊張が、伝染してしまってるみたいですね(笑)。


上田監督 投げても、最低限の球しか返ってこないと思います(場内笑)。


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MC. 『スペシャルアクターズ』は、今後も上映が続くんですか?


上田監督 はい。キネカ大森であったり、川越スカラ座であったり、上映は続きます。


MC. 皆さん、今後の告知はありますか?


富士 僕は、今のところ無いですね。


MC. ……『ミドリムシの夢』がありますよ(笑)。


富士 ……済みませんでした(場内笑)。『ミドリムシの夢』、こちらでは24日まで。その後、来週25日からは大阪のシアターセブンで1週間やって、また都内の方に戻ってくるかもしれません。


MC. 大澤さんは、どうですか?


大澤 無いです(場内笑)。


上田監督 「まだ言えないですけど仕事はあるので、楽しみにしてください」っていうのはある?


大澤 あ、そうですね。


上田監督 もう、全部言っちゃったけど、俺(場内笑)。


MC. (笑)。監督は、どうですか?


上田監督 『スペシャルアクターズ』の上映がまだ続きますし、3人で共同監督した『イソップの思うツボ』(監督:上田慎一郎・中泉裕矢・浅沼直也/2019年)が2月5日にDVDが発売されます。今は次回作などに向けて、動いているところでございます。


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「レスキューマン」で、フォトセッション

トーク後、新幹線までの時間が無い中、サイン会が開かれた。

「まだサインもらってない方、いらっしゃいませんか?」と声を掛け、立ち上がって列を作った観客のパンフレットにギリギリまでサインをする上田監督が印象的であった。


黒山の人集りを見た通りすがりの男性数名が、「誰?有名人?」と足を止めた。

『カメラを止めるな!』の監督だと聞くと、人集りに加わった。


名古屋駅に向かって走り出す監督と大澤数人の背中を見送った後も、シネマスコーレ前に残った観客は『スペシャルアクターズ』の余韻に浸り続けているのだった――。


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映画『スペシャルアクターズ』公式サイト

シネマスコーレ公式ホームページ