山田孝之の主演で大変な話題となった「全裸監督」(総監督:武正晴/Netflix)。
そのモデルである村西とおる監督の熱すぎる「伝説」の一端を垣間見るドキュメンタリー映画『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』(監督:片嶋一貴/109分)が、11月30日(土)よりテアトル新宿、丸の内TOEIなどを皮切りに全国順次公開され、狂喜の絶賛が渦巻いている。
『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』作品解説
1996年、夏。北海道のとある草原で、全裸のモデル達が整列し、合唱していた。それは、かつてAV業界のみならず社会にその名を轟かせた伝説の男、村西とおる監督の撮影現場であった。
度重なる逮捕、事業の失敗により50億円もの借金を背負った村西監督は、世界初のDVD用Vシネマと、ヘアヌードビデオの撮影により再起を図る。だが、その現場はアクシデントの連続であった――。
12月15日(日)、公開2日目のシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)には、なんと主演の村西とおる氏が……否、「村西とおる監督」が舞台挨拶に登壇した。
今回、幸運にも村西とおる監督の単独インタビューを取ることが出来た。
Q. 『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』の片嶋一貴監督は、シネマスコーレの創設者・若松孝二監督とは縁の深い監督です。「全裸監督」の武正晴総監督も愛知県出身で、ここシネマスコーレとは縁が深いです。そんな劇場に村西とおる監督をお迎えして、本当に嬉しく思います。本日は宜しくお願いいたします。
村西とおる監督 片嶋さんも武さんも、非常に優秀な名監督で、私も感動しているんですよ。次の「全裸監督 シーズン2」も武さんがおやりになって、来年の3月から撮影に入るみたいですけど、期待したいですね。
Q. 心臓を悪くしておられたとか……もうすっかりよろしいのですか?
村西監督 そうです、7年前ですけどね。「体調悪いな」と思って病院に行きましたら、「余命1週間だ」と言われまして。「そんなことありえませんよ。そんな病気あるんですか?」と聞くと、「いや、あなたの場合そうなんだ。1週間って言うけれど、1週間以内、今日死んでもおかしくない」こういうことを言われまして、ショックで吃驚しちゃいまして。「成功するのは5割くらいの確率だ」という手術を12時間くらい受けましたが、生還できて今日を迎えているということなんです。「一病息災」って言いますからね。ああいう病気をしたことによって、現在の健康があるのかな、と。私は、約27年前に倒産したことがなければ、今ごろ命が無かった気がするんですね。酒池肉林といいますか、飲んだり食ったりやっておりましたんでねぇ。倒産という逆境があって、慎ましい生活を覚えて、命が今日(こんにち)までながらえているような気がします。「禍福は糾える縄の如し」と言いますけれど、何が幸せで何が不幸せかなんて、分からないですね。
Q. 「人生のピークを80歳に設定している」仰っていた監督でしたから、心配しました。
村西監督 85くらいをピークにしたいなと思っているんですよね。私がビニ本を作っていた時の印刷工場の社長は、帝国陸軍の軍曹上がりの方で、92歳でお亡くなりになる時まで現役だったんです。92でも頭脳明晰で、体力があって溌剌としているんですよ。私が遊びに行くと、86歳の奥さんがお風呂から上がってきたんです。すると、ソワソワしてきちゃって「帰れ!」って言うんです。「奥さんと楽しむんだ」って。92と86で始まっちゃって(笑)。人間というのは灰になるまでだな、という経験でしたね。ああいう道標になる人間を知ったことによって、何百億の財産をもらうより得をした気になりました。もし自分も92くらいまで生きられたら、あんな風に頭脳明晰で、元気で、死の瞬間まで溌剌と生きたいな、と。また、人間はそんな風に生きられるものなんだと勉強しましたね。
Q. 『狂熱の日々』は、『北の国から 愛の旅路』と、同時進行で撮影したヘアヌードビデオのメイキング映像が主要な内容ですが、『北の国から 愛の旅路』は初のアダルトDVD作品として撮られたものだとか?
村西監督 そうです。世界で初めての、4時間16分のDVDです。まだDVDが無かった時代で、アメリカでも、マイケル・ジャクソンの30分くらいのDVDが発売されているかいないかという状況でした。私はもう一回チャンスを掴もうと、果敢に挑戦したんですね。DVDなんて何が何だか分からなかった時代ですけど、4時間16分収録できるということで、相当濃密なものじゃないと皆見飽きちゃうだろうと女優さん70人くらい引き連れまして、2週間オール北海道でロケーションをいたしました。この撮影の様子をドキュメントで撮っておいて、将来何かのチャンスがあったら皆さんに紹介したいなと思ったんですよね。こういった映像をご紹介することは、私以外、誰にも出来ないだろうと、前代未聞になるはずだと、それでカメラを回したんです。
Q. 本当に、凄まじい現場でした。
村西監督 よくもこんなことをやってるな、という話ですよ。もう目も当てられない、「一人インパール作戦」で、もう泣けてきますよ。やることなすこと全部失敗だらけで、泣いてたけどね(笑)。
Q. 撮影中、現場で泣いてらっしゃいましたよね。
村西監督 私は北海道から東京に出てきて、AV監督となりました。北海道時代には営業マンをやっていて、マイナス2~30℃という極寒の地で英語会話の教材を売って歩いておりました。ようやく東京に出てきて功を成し遂げたにも拘らず、倒産して借金を抱えちゃった。再起を図ろうと思ってDVDに挑戦したのに、なかなか上手くいかないんですね。そりゃね、泣けてきますよ。「俺はどうなっちゃうんだろう?」という思いで、ずっとモニターを見ていたら自分の世界に入っちゃったんだね。もう、涙が止まらない。
Q. 女優さんの我が侭で、キャストが交替になったり……
村西監督 もう、「よくここまで言うな」と思ったよね(笑)。
Q. 当日まで脚本が書きあがってなかった、なんてこともあったようで?
村西監督 色々なことが起きるから、これもダメ、あれもダメ……しかもロケハンする時間的な余裕もないままにやっているから、状況に応じて台本を書き直しながらやっていかなきゃならなかったんですよね。
Q. 朝食バイキングを食べながら、「自分だけ贅沢したりしない」と語るシーンが印象的でした。
村西監督 私は、そういう感覚なのね。監督だからって、特別扱いは無いんですよ。もう、みんな運命共同体だから。最前線で自分が仕事をしている時、スタッフの皆さん、出演者の皆さんと呼吸を同じくして仕事をしていかないと、前に進んでいかないですし。苦しみとか悲しみとか、そういう物を共有していく訳ですよ。差別的な扱いも出来ないですよ。一致団結して前に進もうとすると、お互いの思いを理解しあうことが必要になってきますよね。そういうのって伝わるから、人を率いるリーダーとして自分は合格点を付けられるんじゃないかと思っておりますけどね。
Q. 撮影のメイキング映像が、一本のロードムービーとして成立してて、凄く心を打たれました。
村西監督 嬉しいですねぇ。クリエイティブなお仕事をしている方にはご理解いただけると思います。お腹を空かせていない人に「どうだ、この麦飯は旨いだろ?」って勧めたところで、麦飯の良さは分からない。水を美味しいと感じるのは、砂漠を彷徨ってるような人です。でも私は、多くの人たちは困難に立ち向かって日々を生きてるのではないかと思うんですね。上手くいっている時の自分は人生の1〜2%くらいのもので、人生の98〜99%は困難な日々ですよ。希望を失って、失敗の連続、可能性が閉ざされたような時に、私たちが大切にしなければいけないことが、この作品の中にあるような気がするんですよね。この作品を観た時にイメージとして想像していただきたいことは、ボートを漕ぎながら一生懸命どこかにあるはずの陸を目指す自分自身です。そんな時に必要なのは、遠くから聞こえてくる励ましの言葉じゃないんです。ふと近くを見ると、ボートどころか小さな板一枚にしがみ付いて必死に泳いでいるパンツ一丁の男がいたとしたら、どうですか?「俺も頑張らなきゃいけない」って、「あいつに比べれば、まだまだ俺の方がマシだ」って、思いませんか?パンツ一丁で泳いでるって、私のことですよ(笑)。「こういう私でございますが、皆さんのお力になれますか?」ということで、私はこの作品を作ったようなものです。
Q. クライマックスの撮影では、全員の「作品を完成させよう!」という気概が伝わってきました。
村西監督 無我夢中になってやってるから(笑)。ジプシーみたいな集団なんだけど、2週間という時間をともにして一緒にやっていると、どんどん心が通じ合っていくんです。
Q. ……それにしても、あれは衝撃映像でした。
村西監督 やっぱり、映画に期待しているものが詰まってますよね。ドキドキ、ハラハラ。映画館に足を運んでみないと分からないスケールというものが、この映画にはある。
Q. 『狂熱の日々』観客の代表としてお聞きしたいんですが、『北の国から 愛の旅路』を観ることは出来ないんでしょうか?
村西監督 出来ますよ!年内か、来年の早々には発売する予定です。観てみたいでしょ?
Q. 観たいです!『狂熱の日々』を観た方は、皆さんそう言うと思います。
村西監督 面白いよ!おちゃらけて、どうにもならなかったようだけど、きちんとした作品だから。4時間16分、息をつかせないで観せるために驚天動地といっても差し支えない、意表をつく衝撃的な映像を詰め込んでいるんです。
Q. 監督のAV作品は、「ナマの性、ナマの生」が、その人が生きた時間そのものが写りこんでいたような気がします。
村西監督 言葉で紡いでいくという撮影方法ですから。その時の対象となるAV女優さんを、この地球上で私であればこそ、私でなければ撮り得ないような、最高峰のエロス、美しさで描けるという自信を持って撮ってまいりましたからね。その武器となっているのは、言葉の世界です。言葉というのは、100m走った訳でもないのにドキドキさせたり、殴られて痛い訳でもないのに泣かせたりする。言葉の力というものをアダルト映像の中に盛り込んだ「村西節」、村西でなければ出来ない言葉の表現の世界、そういうものを駆使してきたんです。新しい撮影方法、表現方法を、自分なりに表現でき得たのではないかと思っています。
Q. バブル時代の80年代後半、フェイクに浮かれていた私たちは、監督の作品に「生きる喜び」を見出していたんです。
村西監督 「本当に観たかった物」でしょ?「人間ってのは、面白いぞ」と、人間をむき出しにするような作品だと自負しております。
Q. 本日はどうもありがとうございました。
村西監督 「『北の国から 愛の旅路』を観てみたい」と言われたことが、本当に嬉しいです。どうもありがとうございます、生意気申し上げました。
大の男が、裸の女が、笑い、泣き、慌てふためき、もんどり打つ。
その様は、必ずや貴方の心に刺さるはずだ。
そして、必ずや貴方も『北の国から 愛の旅路』が観たくなるはずだ。
『M/村西とおる狂熱の日々 完全版』、絶賛公開中……否、狂熱公開中。
是非とも、劇場でナマで感じてほしい。
ナイスで、ゴージャスで、ファンタスティックな、狂乱の情熱を――。
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