グレタ GRETA/メイン


「グレタ」と聞くと、旬な名前として、グレタ・トゥーンベリさんの名を思い出さない訳にはいくまい。

国連で演説した彼女のスピーチは、彼女が金曜日に行っている抗議活動を知らなかった人々の心をも打った。


そんな16歳の環境活動家と同じ名前をいただく映画『グレタ GRETA』が、間もなく公開になる。

実にタイムリーな「持っている」映画であることは間違いないところだが、実はこの『グレタ』、そんな風に興味本位で観るのは勿体ない作品なのだ。


監督・脚本は、『クライング・ゲーム』(1992年)でも観客をアッと言わせる物語を書いた、ニール・ジョーダン。


主演は、『主婦マリーがしたこと』(監督:クロード・シャブロル/1988年)『沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇』(監督:クロード・シャブロル/1995年)『ピアニスト』(監督:ミヒャエル・ハネケ/2001年)など、代表作は数知れない大女優、イザベル・ユペール。

惜しくも受賞は逃したが、『エル ELLE』(監督:ポール・バーホーベン/2017年)の怪演はアカデミー賞主演女優賞に相応しい演技で、健在ぶりを世界にアピールした。


そして、もう一人の主人公、物語の主観を担うのは、ハリウッド若手スターのトップ、クロエ・グレース・モレッツ。

『キック・アス』(監督:マシュー・ボーン/2010年)『モールス』(監督:マット・リーブス/2010年)『ヒューゴの不思議な発明』(監督:マーティン・スコセッシ/2011年)とヒット作には事欠かないが、今作で更にステップアップした感がある。


グレタ GRETA/サブ1

『グレタ GRETA』ストーリー

ニューヨークに暮らすフランシス(クロエ・グレース・モレッツ)は、マンハッタンのレストランでフロア担当として働いている。彼女は地下鉄で帰宅する際、座席に黒い革のバッグを見つける。

夜も遅く駅の遺失物窓口も閉まっていたため、フランシスはバッグを持ち帰る。同部屋に暮らす友人のエリカ(マイカ・モンロー)はネコババを提案するが、持ち主の名前と住所が分かったフランシスは、エリカの反対に耳を貸さず直接届けることを選択する。

古びたアパートを訪ねると、落とし主のグレタ・ヒデッグが一人で暮らしていた。グレタはフランシスの行動に感激し、部屋に招き入れる。最愛の母を去年亡くしたばかりのフランシスは、グレタに友情以上の感情を持ち始める。

フランシスは、夫を亡くし、娘は遠いパリにいるというグレタの境遇に共感を覚え、飼い犬を迎え入れるグレタを手伝い、頻繁にメールを送り合う。まるで本当の親子のように過ごす二人だったが、フランシスはある夜、グレタの家で想像を超えた事実を知ってしまう。

エリカのアドバイスもあり、グレタと距離を置くようするフランシスだったが、徐々にグレタの行動が常軌を逸するようになる。フランシスのスマホには数えきれないほどの着信やメールが記録され、エリカと暮らす部屋の固定電話にまでのべつ幕なし電話が来るようになる。やがてグレタは、フランシスの働くレストランにも姿を見せるようになり――。


グレタ GRETA/サブ2

人は、認識のずれを感じる時、そこはかとない恐怖を感じ始める。

意図せず生命の危機に瀕した時などは、その最たる例だ。


戦慄の源泉は、様々だ。

大きな音、暗闇、グロテスクな事物、気味悪い生物。

その中でも本能レベルで忌避してしまう対象は、抱いているのは恐怖感というよりも、嫌悪感なのかもしれない。


そんな脊髄反射に近い嫌悪とは別に、不図したことで背中を伝う恐怖を覚えたことはないだろうか?

凪のような穏やかな心境から、一転して引き摺り込まれる深淵のような恐怖を。


人間は、自分が安全だと認識していた事象が揺らぐ時、強い戦慄を覚えるものだ。

信頼していた人物の裏の顔を垣間見た時、あなたは平常心でいられるだろうか?


劇中でイザベル・ユペールが演じるグレタは、僅かな時間で想像を絶するほど人物像が豹変する。

それは取りも直さず、クロエ・グレース・モレッツが演じるフランシスの認識が大きく変化したということである。

信じていたグレタの人物像が音を立てて崩壊していく様は、フランシスにとって大いなる恐怖に他ならない。


娘がパリにいるというグレタは、時折フランス語を操る。

片言で付け焼刃のような発音を微笑ましく感じるのは束の間で、彼女の正体が次第に仄めかされるうち、怖気さす気味悪さが勝つようになる。


物語の中盤、グレタはハンガリーの出身だと判明する。

この事実は単なるマクガフィンのようなものであるが、フランシスが描いていたグレタ像が崩壊する顕著な例として見ると、実に興味深い。

そういえば、意識的に使っていたフランス語の他に、グレタはドイツ語も操っていた。

そもそもグレタ(Greta)という女性名はマルガレータ(Margaretha)の短縮形で、ドイツ語の影響を強く感じさせる名前である。


ハンガリーという由緒正しき大国の出身であるが、むしろドイツ文化の影響が顕著に見られる。

そんなグレタの特徴は、実は彼女が敬服する「交響詩の父」フランツ・リストと合致する。

王政ハンガリー出身でハンガリー王国を祖国と呼んだリストだが、ドイツ移民を先祖に持ち現在のドイツやオーストリアなどで活動していたこともあり、「新ドイツ楽派の旗手」として認識されることが多い。

ハンガリー語は近隣のヨーロッパ諸国とは系統を全く異にする独特の言語だというが、リストは生涯ハンガリー語を習得することはなかったと伝えられる。


リストの作品は、劇中グレタによって幾度も演奏される。

イザベル・ユペールは、全て実際に演奏しているという……さすがは、『ピアニスト』の主演女優だ。

だが、『愛の夢』の美しい旋律は、徐々に狂気を帯び始める。


グレタは、歪んでいるのだ。

「グレタ」の基となった「Margretta」という名は、元々「真珠」を表すそうだ。

真円ではない歪んだ真珠のことを、「バロック(Baroque)」という。

バロック……フランク・リストが脱却を目指した、ヨーロッパ音楽の源流だ。


グレタ GRETA/サブ3

クロエ・グレース・モレッツが見せる、『キック・アス』とも『モールス』とも『キャリー』(監督:キンバリー・ピアース/2013年)とも違った感情の爆発を、是非とも観てほしい。

「箱」の中でフランシスが覚えた恐怖は、近年のホラー映画で表現される戦慄とは違うものだ。

「戦慄(Horror)映画」と、「恐怖(Terror)映画」は、似て非なるものなのだ――。


映画『グレタ GRETA』

11月8日(金)~

TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿

TOHOシネマズ名古屋ベイシティ、伏見ミリオン座

ほか全国ロードショー


原題:“GRETA”


イザベル・ユペール


クロエ・グレース・モレッツ


マイカ・モンロー

スティーヴン・レイ

コルム・フィオール


監督:ニール・ジョーダン


脚本:ニール・ジョーダン、レイ・ライト


配給:東北新社、STAR CHANNEL MOVIES


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『グレタ GRETA』公式サイト

http://greta.jp