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令和元年10月26日(土)名演小劇場(名古屋市東区東桜)において、「LIUB名古屋2020」プレイベントが開催された。

「LIUB」とは“Light it up Blue”の略で、「世界自閉症啓発デー」の4月2日に自閉症など発達障害を広く知ってもらうための点灯イベント。

名古屋でも、テレビ塔やオアシス21が青くライトアップされている。


そんな啓発活動「LIUB名古屋2020」のキックオフイベントとして企画されたのは、名演小劇場にて公開中のイタリア映画『トスカーナの幸せレシピ』(監督:フランチェスコ・ファラスキー/2018年/92分)の上映会。

『トスカーナの幸せレシピ』は、元一流シェフとアスペルガー症候群の青年が織り成すバディ・ムービーである。


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【合言葉は、フルパワー!/『トスカーナの幸せレシピ』レビュー】


『トスカーナの幸せレシピ』上映後には、中京大学現代社会学部 辻井ゼミの学生たちの進行でトークショーが執り行われた。


劇中ルイジ・フェデーレが熱演したアスペルガー症候群の料理人グイドと同じように、自閉症と共に生きながらシェフとして働いている河合大樹さんの様子が紹介された。

豊川稲荷(円福山 豊川閣 妙厳寺)すぐそばの「af 珈琲 +(エーエフ カフェ オン)」(豊川市旭町12)は平日の昼のみの営業で、河合シェフが作る「ごろごろやさいカレー」が評判のカフェだ。


そして、3名のゲストが登壇した。


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堀田あけみ(作家、椙山女学園大学教授)

椙山女学園大学国際コミュニケーション学部で教授をしています。辻井先生とは、大学の18歳の頃に出会って現在まで……腐れ縁なんですね(笑)。3人の子供がおりまして、真ん中の子が自閉症スペクトラムの診断を受けております。


新井在慶(特定非営利活動法人ふぃ〜る工房、田原市障害者総合相談センター ソーシャルワーカー)

NPO法人ふぃ〜る工房の統括をやっております。普段は、田原で相談員をしています。今ご紹介いただいたカフェは豊川市にあるんですけど、河合さんと一緒にお仕事をしている職員を代表して、ここに来させていただきました。相談支援をやっていて10年前に「アスペ・エルデの会」熊谷(豊)さんに辻井先生をご紹介いただいて、それ以来師事させていただいてます。


辻井正次(中京大学教授、NPO法人アスペ・エルデの会CEO・統括ディレクター)

今回は素敵な映画を受けまして、「シェフと言えば、田原にイケメンのシェフがいた!」と思い出して、「af 珈琲 +」の河合くんに取材させていただきました。地域の中で生きていく、仕事を見つける、幾つかのことについてお話し出来ればと思います。


MC. 自閉症の方と接する時に大切にしていることをお話しくださいますか?


堀田 人と話したり接したりする時、人間は常識を相手に求めるんですね。「常識」を英語で言うと“Common Sense”なので「共有しているもの」という前提なんですが、実は共有されていない部分も多いんです。その「共有されていない部分」がとても多いのが、発達障害の方です。例えば教育や子育ての現場で、親や教員は「一々そんなこと言わないと分かんない?」って凄く言うんですよ。分からないんです、一々言わないと。人間って「日本人は、こうだ」とか、「男だから、こうだ」とかって良く言いますよね。私は女の子ばかりの大学で教えているので、うちの子たちは良く「女は、こうだから!」って言われます。オープンキャンパスの時に「女子大って、いじめ多いですよね?」って言われて、「そんなことないです。みんな仲良いですよ」って言ったりします。そんな先入観ではなく、コミュニケーションしていくには、一人ひとりの人を知らなければいけないですよね。その延長線上にあって、それぞれ自分なりの生き難さを持っていますので、「この人は、色々と違うところが多いんだ」「どこが違うんだろう」ということを、向かい合って一人ひとり知っていくこと。全体を知ってから、一人ひとりを知っていただくことが大事なんじゃないかと思います。


新井 河合大樹さんは、23歳になります。初めて会ったのはもう16〜7年前で、小学校に入る時でした。一緒にいたお母さんは、「学校に入る時、「もう今から18歳で卒業する時のことも考えて、事業所を探しとかないといけないよ!」って言われました。でも、断られちゃうんです」って、号泣されていました。映画のグイドさんと違って、知的にも少し課題があって中々コミュニケーションが取れなかったことを思い出します。もう僕はこの仕事に就いて20年ですが、映画を観て、実は今感情もぐちゃぐちゃです。後半はずっと泣いていました。「僕、グイドくんを知ってる。会ったことがある」というのと、20年前の僕がそこにいたんです。僕も、「なんで、こんなことするのかな?」「なんで、そんなこと気になるのかな?」「なんで、噛むのかな?」色々なことがあって、一つ一つ教わったんです。彼を好きになればなるほど、彼が何でそんなことをするのか分かってきたんです。段々大人になり、18歳になったら卒業して働かなきゃいけないですよね。彼は、細かな絵を描いたり凄く手先が器用だったんです。高校の実習で野菜を切らせたら、凄く楽しそうに切るんですよ。タマネギを炒める時も、みじん切りどころか木端微塵にするんです、キャッキャ言いながら、凄い笑顔で。「これ、料理できるよね」って、そこから始まったんです。でも、挽肉やタマネギをどこまで炒めて良いのかが分からなくて、困ったうちのスタッフが「無理です」って言った時、大樹さんが出来ないのは出来ないって決めてるからじゃないのかと、分かるように考えて。気の短いスタッフばかりですけど、タマネギが上手に炒められるようになり、次は挽肉が炒められるようになった2ヶ月間、ずっと焦げたものをメニューにして昼食を取ってたそうです。今は指示がなくても働けるようになったので、今のスタッフの夢は、彼をうちの正職にすることです。後の課題は、電車に乗ることです。雑音や人混みが苦手だったりするので。それが出来たら、使っている田原ポークの大きな肉の塊を細かく切ることです。「それが出来たら、僕は失職します」って、取材に来てた生徒さん達にも(スタッフが)言ってました(笑)。そうなったら、大樹さんは僕たちと一緒に忘年会に出るんですよね。一緒にお酒を飲んで、やっぱり好きな女性のところにお酌なんかをしに行くんだろうなと、映画を観ながら思って泣いてました。何よりも、本人さんを好きにならないと、本人さんは僕らのことを好きになってくれないですよね。そんな仲間を町中に増やして、その人が店に来てくれたら、生徒さんが来てくれた時のようにキャッキャ言いながら大樹さんはやる気になるのかなと思っています。


辻井 自閉症のことについて、ちょっとだけお話しておきますね。自閉症というのは、脳が発達をしていく時に、脳の発達がちょっとだけ人と違うことによって生じます。特に幼い時の方が苦労が多くて、治るとか何とかということよりはそういう個性を持ちながら成長していきます。グイドくんは、映画の中で「アスペルガー」と言われていました。最新の診断基準ではそんなに使われなくなっている用語ですが、自閉症の知的に遅れのないグループをアスペルガー症候群というような言い方をします。しっかりお話しできるし、自分の興味を持ったことに限定しては凄く覚えも良く、通常の能力も発揮できますが、それ以外のことには興味がなく、特に人との付き合いの距離感が掴めないんです。なので、大人になっていくと、女性との距離なんていうのは本当に難しくて。相手がどう思っているかがパッと分からないので、経験の中で一個一個覚えていく訳です。名古屋地区なんかは企業さんが結構雇ってくれるので、アスペルガーの方たちは就職は出来るんです。だけど、続けられるかというと、ちょっと違ったりするので、そこの難しさが結構あります。


MC. 周りの人に自閉症を理解してもらうには、どうすれば良いでしょう?


堀田 まず、自閉症である、発達障害があるということを周りの人に言うかどうかという、凄く大きな問題があります。特に知的が伴わない場合は、診断を受けて周りに話して理解を求める人もいれば、自分からは言わない人もいます。また、自分がそういった状態にあるんだということを分からないまま「どうして自分はこんなに生き難いんだろう?」と思ってしまう人もいます。そういった障害があるんだと発信した上で、それは珍しいことではない、悪いことではない、普通のことだとずっと発信し続けていますが、まだ定着していません。けれど、私たちが大学生だった頃に比べたら、物凄く分かってもらえていると思います。周りの人たちに分かりやすく発信していく大掴みな部分と、個別に発信していく部分があるんですが、先ほど新井さんが言われた「好きになってもらう」ことはとても大事だと思います。私の夫は動物の写真を撮ってるので、小学校から「自然を大事に」という講演を頼まれます。行くと、学級委員長的な子が「今日はありがとうございました!僕たちはこれから自然を大事にしたいと思います!」とか挨拶しに来てくれるそうですが、夫は「良いよ、そういうことは」と言ってくるそうです。「ホタル、綺麗だよね。アザラシの赤ちゃん、可愛いよね。シロクマ、格好良いよね。これを好きになってほしいんだ。好きになって、「この生き物が絶滅しない環境を作るには、僕たちはどうしたら良いの?」って思ってほしい」と。それと一緒なんですね。好きになってもらって「この人を理解したい」となるように、私は一所懸命愛される子に育ててきたつもりです。発語はとても遅かったんですけど、一番最初に教えた言葉は「ありがとう」と「ごめんなさい」でした。これが言えるか言えないかで、人間関係は変わってきますよね。助けてもらった時に何も言わない人には、もう手を出そうとは思わない。「ありがとうございます」と言ったら、手を出そうと思う。ぶつかってきた時に「ごめんなさい」って言ってくれた人には、今度はこっちもよけてあげようと思いますよね。まず好きになってもらう、そういう子供を作ろうと思って頑張ってきたつもりです。ただ、彼に対して凄く頑張って、ちょっと2人の子たちには愛されるという部分をプッシュし足りなかったという感じで、むしろ上と下の子たちの方がマイペースに育っちゃったかなという気はしてます(笑)。


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新井 僕は相談員をする前ヘルパーをやっていた時代があって、河合さんと一緒に色んな所に外出をしたりしました。最初に電車に乗る時、お母さんが「周りの皆さんに迷惑を掛けるから!」と、どれだけ悲鳴を上げたか。僕も大樹さんとお付き合いが長くなっていたので、雑音や人混みが嫌いだったり、女性の濃い化粧の臭いが苦手だったり、知っていたので「全然大丈夫です」と。それを繰り返すことで、お母さんがまず大樹さんを信用してくれるようになって、僕らを信用してくれるようになったんです。彼は良い事か悪い事か判断することも苦手だったりするので、そこは僕らが一緒に判断してあげて。彼は謝ることが上手じゃなかったりもするんですけど、堀田先生が仰ったように謝らなきゃいけない時には謝るんですけど、僕はそんな時「こういう障害があるので」と言ったことは一度もありませんし、うちのスタッフも一度もないはずです。「こういうことが苦手なので、ちょっと迷惑を掛けちゃって済みません。気を付けますね」と、言います。それが段々いつも行く所だと、「ああ、この子こういうこと苦手なんだよね」って分かってくれる。そんな所を増やしていく中で、彼はそれを見て、「これをすると、また新井が頭を下げるんだな」「僕は嫌な思いをするんだな」って学ぶんです。やっていくことで、彼を理解してくれる人が町の中に増えていった。前に田原にあった「villa 波(ヴィラ ウェーブ)」という店は、フルオープンのキッチンでやっていました。それは、皆が働いている姿を見てもらいたいだけではなくて、「美味しかった!」「ありがとね」って言って帰っていかれるお客様の声を彼らに聞いてほしかったからなんですね。それは絶対励みになって、一人ひとりが繋がっていって、町と繋がっていって、障害とか何とかじゃなく一人の人間として、一人の河合大樹さんとして理解してくれて。「今日いつもより味濃かったんじゃないの?」なんて言われて愛想笑いの一つもしないんですけど、町の中で自分の居場所を作っていったかなという気がします。


辻井 多くの人たちが当たり前にパッと出来ることが、パッと出来ない。その中で幾つかは「こんな風にやれば良いんだよ」って覚えてやっていくようになることもあるし、難しいことは周りの人が「この子はこれが苦手なんだもんね」ということの中で受け入れながら、一緒に暮らしていけるようにしていく。きっと日本中の色んな所にグイドくんが居て、そこで皆がサポートしながらやってきているんですよね。グイドくんは能力が凄く高い部分もあるんだけど、でも音楽は同じものばかり聴きたがったり、柔軟性が乏しかったりする。少し周りが「この子は、そうなんだよね」と理解することで、出来ることもあるでしょう。地域の中で生きていこうとすると、誰かと一緒に共有できる楽しいことを見付けることがとても大事です。グイドくんには料理があって、高い能力もある。彼が作る料理で、色んな繋がりが出来たりする。仕事と好きなことが重なるのは、理想的な姿だと思います。


MC. ありがとうございました。最後に一言ずつお願いいたします。


堀田 この会場には、グイドくんみたいな子供、大人、そんな人たちとずっと接してきた人も居れば、「まだよく分からないな」という人も居ると思います。でも、結局最後は最初に言いました通り、一対一の人間の関係であるということです。私は子供を社会に送り出す親の立場ですが、どうしても親って欲目が出てしまうんですね。きっと本人よりも親の方が、「もっと良い学校に行けるんじゃないか?」とか「別の仕事が出来るんじゃないか?」と思ってしまうことがあります。もちろん向上心を持つことは大切ですけど、その人が居る場で何が出来るかを考えることが大事なんじゃないかと思います。私は先ほど「愛される子に」という話をしましたが、自分の居場所を大事に出来る子に育ててきたつもりなんです。「彼が幸せになるには、どうしたら良いんだろう?」と、彼の視点で考えてきたんです。彼は今、働いています。職場で可愛がられています。お掃除の仕事をしてて、一度「結構色んなことが出来る子だから、そんな誰にでも出来る仕事させなくても良いんじゃないの?」「もっと良い仕事あるんじゃないの?」と言われたことがあります。でも、彼は自分でピカピカにした所を「綺麗になったね!」って言ってもらえることがとても幸せなんだと思ってます。そこで働いている人は皆々価値があって、詰まんない仕事なんかないんだと、発達障害がある人も、他の障害がある人も、そうじゃない人も、確認しながら生きていったら良いんじゃないかなと思います。


新井 今回は素敵な機会を頂き、ありがとうございました。僕は河合大樹さんと17年も付き合ってるので、もう色んなことを分かってるつもりだったんですけど、実はまだまだ全然分かってなかったんです。取材に来てくれた彼女たちを見てキャッキャ言ってる、あんな声を聞いたことなかったです。家に帰ってからも「跳びはねてますけど、どうしました?」ってお母さんから電話をもらうという(笑)。そりゃ、そうですよね。23歳だもんなって。今後彼はもっと成長していくだろうし、僕も彼のことをもっともっと知っておかなきゃいけないって思います。今日ここに来させていただいて、グイドさんを観させていただいて、20年前の自分を思い出して初心に帰ることが出来ました。改めて、僕は信頼される人間にならなきゃいけないと思いましたし、皆さんも是非「この先輩なら」「この方に」という信頼できる人を見付けたら、また次の素敵なステージが待ってるんじゃないかと思います。


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辻井 沢山の自閉症の方たちが、地域で仕事を持って暮らして、色んな発信をしたり、色んなことに参加したりしております。色んな場面で自閉症の方たちと一緒に過ごせるような機会を皆さんも持っていただけると、大変ありがたいと思っています。また、来年4月2日オアシス21で、世界自閉症啓発デーのイベントを進めていきたいと思っております。


特定非営利活動法人 アスペ・エルデの会 HP

http://www.as-japan.jp


映画『トスカーナの幸せレシピ』公式サイト

http://hark3.com/toscana


名演小劇場 公式サイト

http://meien.movie.coocan.jp