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フィンランド版アカデミー賞である【ユッシ賞】において、2011年度の最優秀ドキュメンタリーを獲得した『サウナのあるところ』。

名演小劇場(名古屋市東区東桜)でも、好評のうちに2週目の上映を迎えている。


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サウナーは蒸気ロウリュの夢を見るか?/フィンランド発ドキュメンタリー映画『サウナのあるところ』レビュー


『サウナのあるところ』公開を記念し、名演小劇場では10月14日(月 祝)にトークイベントが開催された。


テレビ東京系ではドラマ『サ道』も放映中で、巷では「サ活」で心身を整える「サウナー」が増殖中。

『サウナのあるところ』観客に鑑賞動機を聞いたところ、「フィンランド映画だから」より、「サウナに関する映画だから」という回答が遥かに多かった。


そんなサウナーを前に登壇したのは、創業60年を超えるサウナ&スパのパイオニア的存在「ウェルビー」代表取締役・米田行孝さんだ。

米田社長は、『サ道』第7話に出演した「サウナ界のゴッドファーザー」。


映画パーソナリティの松岡ひとみさんを聞き手に、サウナーならずとも聞き入ってしまう、興味深く、愉快なトークが繰り広げられた。


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松岡ひとみ 皆さん、『サウナのあるところ』は如何でしたか?


米田行孝社長 イメージと違いましたか?


松岡 そうかもしれませんね……いい小父さん達がお喋りしてる感じでしたもんね(笑)。


米田 私はこの映画は一度英語で観たんですが、今日のトークのために先週の金曜日に観直したんです。改めて思ったんですけど、静かな映画じゃないですか。「この後トークショーって、どうなるのかな?」ってドキドキしながら来たんです(笑)。


松岡 裸の付き合いというか、何でも話せちゃうところがサウナなのかなと思ったりするんですけどね。


米田 フィンランドの映画というと、マリメッコとか、ムーミンとか、『かもめ食堂』とか……お洒落な感じでこれを観に来た方も、今日いらっしゃるかもしれないですね。私も仕事柄フィンランドは良く行くんですが、この映画ってある意味すごくフィンランドらしい「リアルフィンランド」を描いている部分もあると感じました。


松岡 それは、どんな部分なんです?


米田 お洒落でシンプルっていうのは勿論あるんですけど、女性は元気なんですが、私の知り合いにも「この人、喋らない人なのかな?」と思う人がいたりして、男性は特にシャイな人が多いです。普段は内にこもってるんですよね。謙虚で、日本の人に似ているとも言われています。心を開くと友達になるんですけど、ほとんど喋らなくて「何を考えてるんだろう?」って人が多いです。でも、この映画の中にあったように、皆サウナに入ると不思議と饒舌になって、喋り出すんです。向こうでは、サウナは教会のように静かに過ごす場所だと捉えてますけど、実際に公共のサウナに行くと皆べちゃくちゃ色んな話を喋ってますね。


松岡 男の人も、女の人みたいに?


米田 けっこう喋るんですよ。


松岡 この映画の、フィンランドらしいところですね?


米田 非常に、リアルだと感じました。


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松岡 社長は、『天気の子』ならぬ「サウナの子」ですよね。もう生まれた時からサウナが周りにあったという(笑)。


米田 サウナの会社は、祖父からスタートしたんです。今は従兄弟がやっている神戸が発祥で、今年65周年の会社ですから、私は生まれた時からサウナがあって。もう、サウナで生まれた、みたいな(笑)。


松岡 この映画のポスターになっている電話ボックスのようなものとか、大衆のサウナでも面白い形のものがあったり、フィンランドには色々なサウナがあるんですね?


米田 現地の人たちは「何でもサウナにしたい」ということで、「モバイル・サウナ・フェスティバル」が今も毎年開催されてるんです。車を改造したり、トレーラーや消防車、軍用のトラック……フィンランドの全土から、本当に色々な形のサウナが集まります。舟もあったり、何でもサウナに変えてしまうんですね。


松岡 大好きなんですね?


米田 大好きなんでしょうね。


松岡 「サウナ」はフィンランドのものですけど、フィンランドが発祥という訳ではないんでしょうか?


米田 蒸し風呂自体は、世界中どこにでもあるんですね。日本も元々蒸し風呂文化で、銭湯など今みたいにお風呂に浸かる文化は江戸時代以降です。フィンランドだけが特別じゃないんですが、彼らが偉いのは、蒸し風呂の文化を自分たちのアイデンティティとして、「サウナ」という言葉で世界に発信してることです。フィンランド人のアイデンティティを表す「3S(スリーエス)」があるんですが、作曲家のシベリウス(SIBELIUS)、大和魂ならぬ「フィンランド魂」のシス(SISU)、そしてサウナ(SAUNA)なんです。同じようなものを、ロシアでは「バーニャ」、バルト三国では「ピルツ」「ピルティス」、ネイティブアメリカンでは「スウェットロッジ」と、それぞれ独自の蒸し風呂文化があります。


松岡 日本では、「サウナ」以外の名前が思い浮かばないですね。


米田 日本ですと、今でも「岩風呂」「石風呂」が瀬戸内海の広島の辺りに残っています。洞窟を刳りぬいた所に、石を温めて、筵を敷いて、水を掛けます。元々は、仏教伝来と共に、病の人や貧しい人に蒸し風呂を施す「施浴(せよく)」が入ってきていたんです。蒸し風呂は我々が元々持っていたアイデンティティなんですけど、西洋化など色々な文化が入ってくる中で、忘れてしまっているんです。それを今一度フィンランドに教えていただいて、見直されてるのかなと思いますね。


松岡 思い出させてもらっているんですね?「サウナ」という名前になって、分かりやすくて良いですね。


米田 けど、反省もあるんです。日本でサウナは高度経済成長の頃にレジャーとして広まったんでが、私のお店もそうですけど「汗だくの小父さん達の行く場所」というイメージが固定化されてしまって。私自身フィンランドに行って、スモークサウナに入って湖に飛び込んだ時、サウナの本質は自然と繋がることだと感銘を受けました。サウナに対する捉え方をしっかりとお客様に伝えて、サウナの誤解を解いていきたい思いがあります。


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松岡 男性だけでなく女性も含めて、サウナは凄いブームですよね。


米田 実は、日本だけじゃないんです。発祥の地と言われているフィンランドでも、公共サウナの数が一気に減り数軒にまでなるような状況がほんの数十年前まであったんです。不思議なことなんですけど、世界中で日本と同じように女性も含め若い人を中心に、サウナ、蒸し風呂が都市部で新しいカルチャーとして見直されてるんです。


松岡 今後の展望としては、如何ですか?


米田 サウナが出来ることは、この現代社会において沢山あると考えています。皆さんに注目していただけるのは凄く良いことですが、まだ道半ばと言うか、我々が情報発信する力がまだまだ足りないと思っています。サウナが「ブーム」と言われているうちはまだまだで、最終的にはサウナが当たり前にある生活になるところまで頑張りたいと思います。


松岡 フィンランドでは、サウナのある生活が当たり前なんですもんね。


米田 そうですね、「サウナ・リテラシー」が高いと言いますか(笑)。サウナ室においても非常に自由で、マナーだとか色々なルールとかも無いんですよ。長い歴史の中でカルチャーとして根付いてるのというのが、日本がまだまだ追い付かない部分です。


松岡 栄の「Sauna Lab(サウナラボ)」では、新しい試みもされてるんですよね?


米田 ウェルビーは男性専用で、Sauna Labは男性も入れるんですが女性中心、レディファーストになっています。やはりサウナはまだまだ日本においては男性のものというイメージがあって、女性からの「なぜ女性用のサウナは無いんですか?」というお話を受けて……その圧力に屈して(笑)、Sauna Labという実験的な店舗を作らさせていただいています。


松岡 映画にも出てきましたけど、石に水を掛けるのは日本でもあるんですかね?


米田 「ロウリュ」と言います。あれがまさにフィンランド式なんですね。日本のサウナは電気で、100℃とかになって、暑くてカラカラで苦しい。フィンランドのサウナは本来、熱く焼けた石の上に水を掛けて、その蒸気を浴びる形なんです。私どもだけでなく、少しずつ全国に広がって行けば良いなと思います。


松岡 サウナに入りたくて仕方なくなってきました(笑)。最後に一言お願いします。


米田 この映画は、静かで、後からじんわり来る映画だと思うんですよね。サウナの中に入ると心が解(ほど)けるので、普段は寡黙な人も心の底の汗を掛けると思います。皆さんも是非サウナに入って、日頃のストレスや色んなものを、汗とともに出していただけたらと思います。

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心身が整っていない映画ファンも、整っているサウナーも、行ってみては如何だろう?

そう、「サウナのあるところ」に――。


映画『サウナのあるところ』公式サイト

https://www.uplink.co.jp/sauna


名演小劇場 公式サイト

http://meien.movie.coocan.jp


サウナ&カプセルホテル「ウェルビー」公式サイト

https://www.wellbe.co.jp


Sauna Lab(サウナラボ)公式サイト

http://saunalab.jp