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情熱と芸術と料理、そして愛の国・イタリアから、とびっきりのバディ・ムービーが届いた。


『家への帰り道で』(2011年/監督:エミリアーノ・コラピ)『ザ・プレイス 運命の交差点』(2019年/監督:パオロ・ジェノヴェーゼ)に出演し日本でも馴染みのあるフランチェスコ・ファラスキが監督、脚本を手掛けた、『トスカーナの幸せレシピ』だ。

10月11日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショーとなる。


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『トスカーナの幸せレシピ』ストーリー:

無機質な部屋で、係官は慣れた手つきで所持品を並べ、男に返却する。所持品の中に、ソムリエナイフがある。男の名はアルトゥーロ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)、つい数ヶ月前まで三ツ星を獲得したレストランのシェフだった。共同経営者への傷害の罪で起訴されたアルトゥーロは、晴れて刑務所を出るのだ。

拘留期間減免の見返りに社会奉仕を課されたアルトゥーロは、「サン・ドナート園」で料理を教えることになる。チキンにのみ執着する者、口汚い英語でコミュニケーションを取る者、生徒たちは変わり者ばかりだ。「彼らには、正確な名前を使って会話して。比喩表現もダメ」元臨床心理士のアンナ(ヴァレリア・ソラリーノ)は言う。サン・ドナート園はアスペルガー症候群の若者たちの支援施設なのだ。

生徒の一人であるグイド(ルイジ・フェデーレ)は、興味の対象には天才的な記憶力を発揮でき、更には少しの味見で全ての食材、調味料を言い当てられる「絶対味覚」の持ち主だった。家族が祖父母しかいないため自立を急がねばならないグイドだが、神経質で他人に触れることが出来ない潔癖症とあって、アンナは特別に心を砕いていた。

グイドは、若手料理人の登竜門「ヤングシェフ・コンテスト」の書類審査に合格する。だが、指導者として開催地トスカーナに同行することになったアルトゥーロは、気が進まない。刑務所を出たばかりのアルトゥーロにとって、またとないチャンスの日もまた、刻一刻と迫っているのだ――。


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ファラスキ監督が主人公アルトゥーロに指名したのは、ヴィニーチョ・マルキオーニ。

『イラクの煙』(2010年/監督:アウレリーノ・アマディ)で、【ヴェネチア国際映画祭】イタリア映画記者賞、イタリア版アカデミー賞である【ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞】主演男優賞を獲得している。


グイド役には、若手の注目株ルイジ・フェデーレ。

フェデーレは、本作で【国立イタリア映画記者連盟賞】を受賞している。


二人の支援者であるアンナ役は、『いつだってやめられる10人の怒れる教授たち』(2017年/監督:シドニー・シビリア)など『いつだってやめられる』シリーズのヴァレリア・ソラリーノ。


そして、脇を固める俳優陣にもご注目。

可憐なジュリエッタ役で映画に華を添えるベネデッタ・ポルカローリ、人生の含蓄を佇まいだけで表現するチェルソ役のアレサンドロ・ヘイベル。

名優フランチェスコ・ファラスキが自身の監督作にキャスティングしたのは、やはり名優たちであった。


不器用で粗暴な「三ツ星シェフになり損ねた料理人」アルトゥーロと、アスペルガー症で「神の舌を持つ天才」グイド。

『トスカーナの幸せレシピ』は、二人が織りなす、笑いと涙と旅情を全編に散りばめた、至高のハートフル・コメディである。


だが、ちょっと待ってほしい。

『トスカーナの幸せレシピ』は、それだけに留まらないのだ。


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バザーリア法という法律を御存知だろうか?

精神科医フランコ・バザーリアが提唱した精神科病院の廃絶論に基いた、イタリア精神保健法180号法のことだ。

1978年にバザーリア法が公布されたことにより、イタリアは精神科病院の廃絶を目指す世界で初めての国家となった。


イタリアではバザーリア法により、精神科病院の新設、既存の精神科病院への新規入院、1980年末以降の再入院が禁止された。

予防・医療・福祉は、原則として地域精神保健サービス機関で行われる。

精神病患者が隔離されることは必要最小限に留まり、治療は患者の自由意志に委ねられる。


イタリア映画『人生、ここにあり!』(2008年/監督:ジュリオ・マンフレドニア)は、バザーリア法が施行されて間もなくの1980年代を描いた作品だ。

そして、『トスカーナの幸せレシピ』は、現在のイタリアにおける精神保健の在り方を示す最新レポートとも言える作品だ。

両作品に共通することは、ユーモアを交えたハートフル・エンターテイメントに仕上がっていることである。


アスペルガー症患者たちに対する、支援者や家族たち周囲の人々の反応に注目してほしい。

そこには、彼らを過度に特別扱いする雰囲気は一切ない。


グイドの料理の才能は天才的なものとして描かれているが、「アスペルガー症候群だからこその才能」とか、「アスペルガー症というマイナスを吹き飛ばす天才」というような、(イタリア以外での)ステレオタイプな描写は無い。

アスペルガー症も、料理の天才的才能も、グイドというキャラクターに与えられた単なる個性なのだ。


だから、『トスカーナの幸せレシピ』は、通り一遍な「ハンデを負った主人公の成長物語」とは一線を画す作品となっている。

アルトゥーロも、グイドも、等しく周囲に、そしてお互いに影響を与え合うのだ。

『トスカーナの幸せレシピ』がバディ・ムービーとして成立するのは、精神疾患の解放治療が進んだイタリアなればこそなのである。


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「究極のソース」を目指す者は誰も、自ら味見をしない限り「Quanto Basta」(=適量)に辿り着けない。

「L'ora d'aria」(=息つく時間)に向かって……合言葉は、「フルパワー!」――。


映画『トスカーナの幸せレシピ』

10月11日(金) YEBISU GARDEN CINEMA

10月26日(土) 名演小劇場(名古屋市東区東桜)

ほか全国順次ロードショー


監督・脚本:フランチェスコ・ファラスキ

製作総指揮:アンドレア・ボレッラ

出演:ヴィニーチョ・マルキオーニ、ルイジ・フェデーレ、ヴァレリア・ソラリーノ

2018年/イタリア映画/イタリア語/92分/5.1chデジタル/カラー/原題:Quanto Basta

配給:ハーク


© 2018 VERDEORO NOTORIOUS PICTURES TC FILMES GULLANE ENTRETENIMENTO


『トスカーナの幸せレシピ』公式サイト

http://hark3.com/toscana