絶賛絶望中サブカル・ニート女子、高円寺で、怒り、笑い、歌い、走り、恋をする——
西荻ミナミ監督『歌ってみた 恋してみた』が、いよいよシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で上映が始まった。
9月21日(土)公開初日、舞台挨拶に登壇する主演の上埜すみれさんにインタビューを敢行した。
『歌ってみた 恋してみた』の魅力だけでなく、多くの現場を踏んだ女優・上埜ならではの話を聞くことが出来た。
Q. 『歌ってみた 恋してみた』は、どんな映画でしょうか?
上埜すみれ 山奥での田舎住まいに飽き飽きしてしまった主人公のゆうこ(上埜すみれ)が、単身で東京に越してきて、高円寺に住む「男の娘」ひかる(大島薫)の家に転がり込みます。そこから始まる、一筋縄には行かない「東京ストーリー」です。ゆうこは拗らせた性格をしてるんですけど、更に拗らせたバンドマン(本村壮平)や、高円寺に住まう一癖も二癖もある人たちに出会って、自分の殻を破っていく物語です。
Q. 上埜さんは、元々俳優志望だったんですか?
上埜 そうですね。演劇の方を先にやっていたんですけど、山戸結希監督と大学の映画研究会で出会ってから、映像の女優もやるようになったんです。
Q. 山戸監督とは、ずっと盟友関係が続いてますよね。『ホットギミック ガールミーツボーイ』(2019年)にも出てらっしゃいますね?
上埜 はい。声の出演と、後は裏方でしたけど。出演者さんとの読み合わせのサポートや、ロケ地を巡ったり、スタンドインもやってました。
Q. 山戸監督の現場は、どんな感じなんですか?
上埜 スタッフの方も規模も増えて、どんどんクオリティが大きくなってるんですけど、監督自身は学生時代からあまり変わらないですね。やりたいことが凄く明確にあって、それを人に伝えるのが上手いんです。「あなただったら、こう考えるよね。こう考えるから、こうなるよね」みたいなことを、ちょっと早口の高い声で(笑)。
Q. 上埜さんと山戸監督というと、『あの娘が海辺で踊ってる』(2012年)のイメージが凄く強烈でした。こんな質問をすると気を悪くされるかもしれませんが、「ホトケの菅原の“呪縛”」のようなものはありませんでしたか?
上埜 『あの娘が海辺で踊ってる』が公開になった直後は、もしかしたらあったかもしれないですね。「本人も凄く穏やかで、優しいんじゃないか?」と思われたのか、穏やかな役、母性の象徴のような役を頂くことが多かったです。良い意味で、井口(昇)監督と出会って呪縛から解放されたような気がします。井口さんのところでは、どちらかと言うと三枚目役……霊に取り憑かれたり、暴走したり、色んなガジェットを付けて戦ったり(笑)、アクティブな役を頂くことが多かったので。
Q. そうか……井口監督の作品だと『ゴーストスクワッド』(2018年)のケイコのイメージが強いですけど、その前の『キネマ純情』(2016年)でも霊に憑かれてましたもんね。
上埜 (『ゴーストスクワッド』では)股間を殴ったりして(笑)。私も都市伝説や怖い話を聞くのが好きなので、そういう役が来ちゃうのかもしれないですね。
Q. 心霊スポットを回ったり?
上埜 いえ、それは怖いので行かないです。信じてる方なので。
Q. 今回の『歌ってみた 恋してみた』は、山戸作品とも、井口作品とも違う役でしたね。
上埜 そうですね。頂いた役の中では、いちばん現実味がある、普通の女性役だったかなと思います。そんなに自分と掛け離れた役ではなかったので、自分の延長線上として出来たかもしれないです。突拍子もない設定が付いてたり、自分と全然違う役柄だったりすると、「この人は、どういう人なんだろう?」というところから想像していくんですけど。今回のゆうこは、結構自分に近いところがあって……東京に住んでて、サブカル好きで、ちょっと拗らせてて。役作りと言うよりは、なるべく日常と同じ状態でいようと思って臨みました。
Q. オススメの場面を教えてください。
上埜 カラオケで、バンドマンのそうすけと口論になる場面があるんですけど、そこが観てほしいシーンです。自分としても共感できる台詞だし、恐らく監督がいちばん言いたかったことなんじゃないか、と。監督も元々バンドをやってた人なので、音楽活動について、自分のオリジナリティについて、色々と思うことがあってこの映画を作ったと思うんですね。その場面は、いちばん端的に本音が出てるように感じました。
Q. 大島薫さんは、共演されてどうでした?
上埜 凄く優しい方でした。実際に会ってみて、本当に可愛くて綺麗なのでビックリしましたし、性格が凄いイケメンだと思いました。1〜3月の凄く寒い時期、それも外での撮影が多い現場だったんですよ。待機場所が無くて外で待ってたこともあったんですけど、肩をトントンと叩かれて振り向くと温かい缶コーヒーを買ってくれてて……「超イケメンだ!」と思いました(笑)。見た目は、あんなに可愛いのに。
Q. 西荻ミナミ監督の演出は、どんな感じだったんですか?
上埜 今まで出会った中でいちばん演出をされない監督でした。否定するということが全然ない方だったので、凄く自由に演らせていただきました。私は色々ぶっこんで行きたい俳優なので、凄く助かったし、嬉しかったですね。人によってはディレクションが少ないと不安になるのかもしれないですけど、私は「何でもやらせてくれるなら、止められるまで演るぞ!」って感じの自由人なので(笑)、楽しかったです。
Q. 待機作を教えてください。
上埜 名古屋での上映はまだ分からないんですが、池袋シネマ・ロサで10月5日(土)〜18日(金)に上映される、PFF(2018年)観客賞やカナザワ映画祭(2018年)グランプリを獲った中元雄監督の『はらわたマン』に出ています。同時上映の『いけにえマン』のスピンオフなんですけど、メインキャストで登場して、血みどろになったり戦ったりするので、是非観に来ていただけたらと思います。名古屋で決まっている作品だと、井口昇監督の『惡の華』が、9月27日(金)から全国公開になります。私は村人の1人なんですが、夏祭りで浴衣を着ていますので探していただけると嬉しいです。それから、9月28日(土)〜10月4日(金)大阪のシアターセブンで公開される『阿吽』という作品にも出させていただいています。楫野裕監督とフランクフルトの「ニッポン・コネクション」へ一緒に行きましたが、面白い旅でした(笑)。名古屋で上映されるか分からないんですが、観ていただきたい作品です。
Q. 今後、演ってみたい役柄はありますか?
上埜 今思い付くのだと、凄く悪い役を演りたいですね。黒幕みたいな(笑)。アクションやサスペンスで人を殺したり、悪事をもたらす役も演ってみたいし、もっと日常的なことでサークルクラッシャーだとか、裏でいじめをしてる人とか、とにかく悪意のある役を演ってみたいですね(笑)。被害を受ける人とか、善良な役、何かを救う役……光の方に立つことが多かったんですけど、私は陰か陽かで言ったら陰キャラなんですよ。なので、翳のあるキャラクター、ダークサイドの役は演ってみたいですね。
Q. 最後に、『歌ってみた 恋してみた』のお客様に向けて、一言お願いします。
上埜 監督が認めてくださるかは分からないんですが、私的には「和製アメリ」って言ってるんですよ。『歌ってみた 恋してみた』は、『アメリ』(監督:ジャン=ピエール・ジュネ/2001年)の日本版だと勝手に思っていて。一見すると可愛くて女の子受けする映画かと思いきや、『アメリ』は一人の女の子の孤独にガッツリ向き合った作品だと私は思っています。(『アメリ』は)人と上手くコミュニケーションが取れなくて、外の世界と関係することが出来ない女の子の話だと思ってるんですけど、それは『歌ってみた 恋してみた』も同じだと思うんです。一見すると可愛いけれどそれだけじゃない『歌ってみた 恋してみた』の世界を、楽しんでいただけたら嬉しいです。
『歌ってみた 恋してみた』公開期間、シネマスコーレではトークショーが目白押しだ。
『歌ってみた 恋してみた』トークゲスト
9/22(日) 上埜すみれ
9/23(月) ナカムラルビイ&西荻ミナミ監督 MC:梅乃ジンタ&iKUYA
9/24(火) 西荻ミナミ監督 MC:梅乃ジンタ&iKUYA
9/25(水) 西荻ミナミ監督 MC:DJ波
9/27(金) 佐藤ザンス MC:DJ波
上埜さんは、今日も舞台挨拶に立つ。
しかも、2日目となる今夜は、何か趣向を用意しているとか……?
是非とも「和製アメリ・ゆうこ」に会いに劇場を訪れ、あなたも「高円寺ライフ」にどっぷり浸ってほしい——。
映画『歌ってみた 恋してみた』公式サイト
シネマスコーレ公式サイト
http://www.cinemaskhole.co.jp/cinema/html/home.htm
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