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今回は、尾張を飛び出しての、特別編。

美濃に遠征し、【『MIRAGE THEATRE』 一日だけのインディーズ劇場】を取材した。


そもそも、『MIRAGE THEATRE』の涼夏 支配人は、岐阜発 映画・エンタメ情報サイト『Cafe mirage』の管理人。

弊サイト『ゴチソー尾張』とは、ライバルであり、盟友だ。


「岐阜で自主映画を上映したい!」という想いで始まった『MIRAGE THEATRE』は、9月14日(土)19時、「カフェ 星時」(岐阜市神田町)で開催された。

涼夏支配人セレクトの自主映画3本が上映され、3名のゲストからたっぷりと撮影秘話を聞くことが出来た。


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『いきうつし』

(田中晴菜監督 2018年/30分)


ストーリー:

仏師として立ち行かず、見世物小屋の生人形制作で糊口をしのぐ亀八。ある土地の名士から不治の病の 娘を美しいまま写した人形制作を依頼される。一度も家の外に出たことのない椿と、興行で土地を 転々とする亀八は次第に惹かれ合うが、人形の完成が近づくにつれ、椿の身体は動かなくなっていく。


田中晴菜監督プロフィール:

栃木県で会社員として働きながら映画制作を行っている。 2016年伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2016『いきうつし』中編部門審査員奨励賞 2018年 『いきうつし』(製作・脚本・監督・編集)、『はつ恋はいつ』 (製作・脚本・監督・編集)


『いきうつし』:

第20回ドイツハンブルク日本映画祭公式上映

The 42nd Asian American International Film Festival 公式上映

あいち国際女性映画祭短編部門グランプリ (金のカキツバタ賞)

Kishhh-Kishhhhh映画祭 短編部門グランプリ

他受賞・入選多数


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涼夏 この作品を作ろうと思った切っ掛けは?


田中晴菜監督 「生人形(いきにんぎょう)」というものを作る文化が、江戸の末期から明治あたりの一瞬だけありました。生人形とは、見世物とされた人間そっくりの等身大の人形で、私は小中学生くらいの時に本で存在を知りました。念願かなって熊本などに残されている実物を見ると、木で出来ているのに重力を感じたんです。マネキンとかフィギュアはとは違い、「存在してる感」が凄くて。微妙に表情もデフォルメされて、かつ大きさも見世物用に若干大きめだったりしたんですが、毛は一本一本植えてある……変な雰囲気というか、作り手の執念の塊みたいな感じでそこに在ったんです。凄く心を奪われまして、作った人の話を書きたくなったのが切っ掛けです。とは言え、それを形にする術がなかったんですが……社会人になって映画学校に入って、一番最初に作品を撮る時、「私が一番書きたいものはこれだ!」、と。


涼夏 時代背景としては?


田中監督 きっちりと決めている訳ではなく、映画のコンセプトとしてちょっと耽美文学的なものを考えていたので、そんな雰囲気が出せたら良いと思っていました。


涼夏 何も前情報なく作品を観ていて、エンドロールで吃驚しました。役者さんに何役も演じ分けてもらうという構想は、最初から?


田中監督 最初60分くらいのシナリオだったものを、自分で撮れる範囲の30分くらいにしたんです。NHKの『おはなしのくに』が好きなこともあり、朗読劇にしようかと思った時期もありました。インサート以外は1つのスタジオ内で撮ってるんですか、作り物感というか、ハコ感のようなものを出したくて、全部ガチガチに縛った中で撮ってみようと思ったんです。「いきうつし」というテーマなので、「出会った所が違ったら、違う人だったかもしれない私達」「人形と置き換わっても、もしかして違わないのかもしれない私達」という意図も若干含まれていたりします。


涼夏 岡(慶悟)さんが、凄いイケボ(イケメンボイス)で……前々から知ってらっしゃっての起用なんですか?


田中監督 いえ、2人ともオーディションで募集させていただきました。男女別々にやったんですが、組み合わせのバランスで2人に決まったんです。確かに、岡さんに関しては声の響きが良くて……最初、朗読でやろうとしてましたし。あと、あの人の異様な色気(笑)。部屋に入ってきた時、滝のように流れる色気が凄くて、「なんだ、この人は?」、と(笑)。もう、数ミリ宙に浮いてるんじゃないか?って感じの人なんです。


涼夏 「あいち国際女性映画祭」でお会いしたんですが、作中の雰囲気とは全然違う方ですよね?


田中監督 そうですね。本人は(劇中で)やってることが嫌われるんじゃないかと思ってるらしく、「こんな人じゃないですから!」ってことを舞台挨拶で言うことが多いんです(笑)。


Q. 笠原(千尋)さんのことも、聞かせてもらえますか?


田中監督 映画で、彼女の「振り返り方」を観ていただけたでしょうか?オーディションに入ってきた時も、あの振り返り方をしたんです。それが凄く私は印象に残って、「この子が良い!」と思いました。世界観も作り込んで、更に2人だけの芝居の中で、どちらかというと彼女がリード出来るなと思ったんですね。結構突飛な役なんですけど、それも受け止めてくれる役者さんだと凄く信頼していました。そんなに大きなディレクションをしなくても、脚本から読み取って世界観に近いレベルで演ってくれる女優さんだったので、凄くやりやすかったです。



『桑の実』

(谷口未央監督 2018年/37分)


ストーリー:

大学を中退した時生は、地元の「長浜曳山まつり」に参加することになるが、祭りに馴染めないでいた。ある日、祭りの最大の呼び物である「子ども狂言」の子ども役者・渉太(しょうだい)の世話をするなかで、亡き祖父との記憶がよみがえる。それは幼き日の“桑の実”にまつわる記憶だった……。


谷口未央監督プロフィール:

2歳より小学校6年生まで滋賀県長浜市で育つ。2008年より上京し映画製作を学ぶ。2011年、主に長浜市で撮影した『仇討ち』が多くの映画祭で高い評価を得る。2012年、『矢田川のバッハ』(伊藤由美子原作/ショートストーリーなごや)の監督公募に選出。2013年、『彦とベガ』の脚本が「伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞2013/中編の部大賞」を受賞し、2014年に自ら監督し映画化(川津祐介、原知佐子主演)。「あいち国際女性映画祭2015/フィルム・コンぺティション長編フィルム部門グランプリ《金のコノハズク賞》」に輝き、2016年夏より東京を皮切りに全国で劇場公開された。2018年、長浜曳山まつり短編映画『桑の実』を監督。現在、長浜曳山まつり長編映画『いぶきの祭り(仮題)』を準備中である。


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谷口未央監督 このような限定された地区の映画を岐阜の皆さんに観ていただけて、本当に嬉しいです。


涼夏 長浜はそんなに遠くないですが、曳山まつりを見たことがある方は少ないですよね。谷口監督は、長浜の出身ですか?


谷口監督 生まれは京都なんですが、2歳から小学6年までを滋賀県長浜市で過ごしました。曳山まつりは子供の頃に馴染みがあった祭で、今私は長浜曳山まつりを題材にした映画が撮りたくて色々と頑張っています。そのPRの為に去年撮ったのが、この『桑の実』なんです。


涼夏 小さい頃、谷口監督もお祭に関わったことがあるんですか?


谷口監督 曳山の上には、男の子しか乗れないんです。基本は「山組」と呼ばれる地域の子供たちや大人たちがやっている祭で、私はその外側に住んでいたので直接関わってはないけれど、同級生が歌舞伎の役者として出たりしてました。本日(ほんび)の4月15日は小学校が休みになるので、歩いて数分の八幡宮に屋台を冷やかしに行って、神社の裏の川で遊んで帰る……そのついでに、チラッと歌舞伎が見えるといった感じでした(笑)。私は歌舞伎がやりたいとは思わなかったんですけど、(曳)山の上には凄く乗りたいと思っていたんです。映画を撮り続けている私が「故郷の映画を撮りたい」と思った時、故郷として感じるのは長浜で、長浜市の最上級の題材が子供の時に乗りたくても乗れなかった曳山のお祭だったんです。それこそ、祭の関係者の方も多分、女が「撮りたい」と言い出すとは思ってらっしゃらなかったと思います。以前に映画に取り上げたのは、山田洋次監督の『男はつらいよ』(第47作『拝啓 車寅次郎様』)だそうで。名もない女の監督が撮れれば、子供の頃に山に上がれなかった自分が、お祭に対して同等のことを出来るような気が、今はしています。


涼夏 撮りたいと思っている長編を本編とするなら、そのサイドストーリーといった感じで『桑の実』は作られたんですか?


谷口監督 劇場公開できる長編を撮りたい思いがありながら、私は「私は何を求めるのか?」が、お祭サイドも「何を協力すれば良いのか?」が初めはまだ見えていなかったので、ネットで観られるような5〜10分くらいの簡単な動画を撮らせていただく話をさせていただいたんです。許可を頂いてPR動画を撮らせていただき、求めていること、出来ること、出来ないことが分かったのは長編を迎えるにあたり凄く良かったんですが……観ていただいて分かる通り、ネットで観る作品じゃないですよね。お祭の場面は本番を撮っていて、並行してドラマも撮っていますが、カメラはたった1台です。エンドロールには沢山の名前がありましたが、映画のスタッフはカメラマン1人、録音1人、助監督さん、私……精々5〜6人です。私が撮りたいだけの映画なのでどこからもお金は出てないんですが、沢山の方が関わることで何とか成立した、普通では不可能な奇跡のような映画だと思います。


涼夏 私もチラッと出てましたが(笑)、祭の合間にドラマを撮ってるんですけど、監督は本当にいつもいらっしゃらなくて。寝てなかったんじゃないですか?


谷口監督 監督は変なテンションになってるから、寝なくても何とかなるんですけど(笑)……演出助手で付き合わせた田中(晴菜)さんが寝れなかったのは、本当に済みませんでした。


田中監督 いえいえ(笑)。


Q. 私は、養蚕をやっている者です。とても素晴らしい作品でした。


谷口監督 ありがとうございます。これも私の子供の頃から記憶に残っていることで、長浜では「浜ちりめん」という地場産業の絹織物が盛んでした。絹糸を作る為には、お蚕さんが必要で、その餌になるのが桑の葉になります。養蚕業が盛んな所には桑畑があって、当時もう少なくなってましたが、通っていた小学校の裏にもありました。遊びに来た祖父が桑畑を通りかかった時に「これ、食べれるんだ」と桑の実を食べさせてくれた思い出があり、自分の体験をしっかりと生かしたいと思って作品に投影しました。お祖父ちゃんから渡された桑の実が、地元で生きていくか悩んでいる時生という青年が子供役者に飴をあげることによって繋がっていくシーンは、是非撮りたかったんです。ドラマは長浜に限定した物語かもしれないですけど、親から子へ、子から孫へという普遍的なことは、多くの方に響くのではないかと思って。この映画の最初の編集を観てもらった時に、祭の方が「意味が分からない」と言ったんです。「僕たちが観て意味が分からないと、次の長編に誰も協力できなくなる」、と。この短編に限っては、本当に地元の方に愛していただく形にしなければいけないので、映画の質は求めたいのでそこは譲れないんですが、アートっぽくしたり、分からない所を分からないまま残すことは控えました。これ(現在の編集)を観ていただいた関係者の方は、手放しに褒めてくれる方ばかりではないですが、少なくとも地元への愛を表現していることを分かっていただけたので、どうにか長編を作ることを続けられています。



『なみぎわ』

(常間地裕監督 2018年/20分)


ストーリー:

高校卒業を間近に控えた大吾(18)と、高校に通うことのできなかった大翔(18)は小さな港町で暮らしていた。友達である2人にとっての何気ない日常が、これからの2人とって特別な1日へと変わっていく。『大人』と『子供』、その間で揺れながら生きる2人の物語。


常間地裕(ツネマチユタカ)監督プロフィール:

1997年神奈川県生まれ。2015年俳優活動を開始。現在は多摩美術大学(在学中4年生)にて演劇を学ぶ。大学2年次に映画美学校フィクションコースに入学。同校初等科修了制作作品『なみぎわ』が国内多くの映画祭にて入選、上映され現在5つの映画祭でグランプリを獲得している。


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涼夏 常間地監督は今日来ていただけなかったんですが、コメントをいただきました。


常間地裕監督コメント(抜粋)

 ただいま新作仕上げ作業中でして、スケジュールが合わず伺うことができませんでした。『なみぎわ』は、自分たちにとっても特別な作品となりました。新作は『ゆうなぎ』というタイトルですが、『なみぎわ』の心の続編としています。「心の続編」とは、観ていただいたラストの正解を出すのではなく、自分たちの中で考えた先という飽くまで一つの未来です。

 『なみぎわ』は、iPhoneにアプリを入れて、手ブレを抑えるスタビライザーを付けて撮影しております。移動手段は、全て僕が追い掛けました。商店街なども、走って追い掛けています。実は、現地でリハーサルをやった際には別のカメラマンがいました。その際にはもっと大きな機材で、カメラもiPhoneでない物で撮影を試みましたが上手くは行かず、打ち合わせをして色々あり、「撮りたいところを分かっている監督がカメラを回した方が良い」と、僕がやることになりました。iPhoneは、部屋を出たり入ったり細い路地も通ったりすることから、小型で機動力に長けて、露出などの変化にも強いということで使用することに決まりました。

 後は、問題は音です。音のクオリティで一気に映画として変わってくるので、プロフェッショナルな機材や清音までは行けなかったんですが、出来るだけのことをやりました。ワイヤレスのピンマイクと、iPhoneのカメラマイク、そして僕の後ろにガイド的にいた録音部の音を、ひたすら合わせました。あまり期待していなかったiPhoneのマイクが、とても生きています。自転車の音などは、後から作りました。台詞は1箇所以外は、現場の生の音になります。劇場で掛けていただける機会にも堪えるものになったのは、とても大きかったと思います。

 スタッフは、裏でずっと連絡を取って、連携を取っていました。人員の配置から役者の移動まで、時間を掛けて打ち合わせしましたが、本番の裏で何が遣り取りされていたかは、僕は実は分かりません。スタッフ。キャスト全員の力で出来た撮影だったと思います。完成から少し期間が経ち、客観的に自分の作品を観れるようになってきて、やはり気になるところも出てきましたが、それは次の作品に生かしていくといたしまして、今となっては自分でも撮れない映画だと思っています。


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涼夏 今日は俳優の星能豊さんが観にいらっしゃってますので、ご紹介します。


星能豊 僕は『なみぎわ』にはでてないんですけど、『ゆうなぎ』に大吾の先輩役で出ています。


涼夏 常間地監督とのご縁は?


星能 「(自分と同じ名前の)ユタカって人がいるな」と、初めて会ったのは愛知県の「おおぶ映画祭」でした。『いきうつし』の田中さんも、そこで初めてお会いしたんです。自主映画って、そんな感じで色々繋がったりするんですよね。『なみぎわ』で映画祭に来てた(常間地)監督が、僕の出てた『センターライン』(監督:下向拓生)を観ていただいて、「次を撮りたいと思ってるんです」「じゃあ、よかったらお願いします」みたいなことを言ってたのが実現して、この前(『ゆうなぎ』の)撮影が終わりました。凄く良い作品になってると思います。11月に新宿で上映が決まってるんです。今、それでずっと編集が……


涼夏 ……あ、それは来られないですよね(笑)。私、相当ムリを言ったんですね。


星能 凄く来たがってたんですけど、本当に今大変らしくて。編集もそうですし、他の映画祭に通ってて、その準備もあるみたいです。僕は、代わりでも何でもないんですけど(笑)。僕も地元の金沢で上映会を自分でやったりしてるんですけど、こういう雰囲気を味わいたいと思い、今日は来ました。


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涼夏 最後に、皆さんの告知などを。田中監督は、『いきうつし』を撮ってから、2年くらい経ってますが?


田中監督 前々から考えてはいたんですが、今回岐阜に来させていただいたこともありまして、和傘をモチーフにした作品を撮りたいなと思っております。実現の際には、ご協力いただけましたら幸いです(笑)。まだ細かいところまで決まっていませんが、明日取材させていただいて、短編を撮りたいな、と。今日歩かせていただいたんですが、商店街も街並も素敵ですし、是非撮影させていただけたら嬉しいです。


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涼夏 谷口監督は、長編ですか?


谷口監督 そうです、長編です。まだお話しできることがないんですが、この長編に限っては恐らく商業映画という形になります。プロデューサーはもう決まっております。まだ先になるとは思いますが、助けてほしいこと、お手伝いしていただきたいことの呼びかけを常にしていきますので、よろしければFacebookやTwitterをフォローしていただいて、気に留めてください。必ずヘルプを出しますので(笑)、応えてくださると嬉しいです。必ず良い映画にしますので、どうかご期待いただければと思います。


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涼夏 星能さん、待機作はありますか?


星能 まずは、常間地さんの新作『ゆうなぎ』。それから、『なみぎわ』で大翔役のサトウヒロキくんと『クレマチスの窓辺』(監督:永岡俊幸)という島根県で撮影する映画に参加してきます。12月にはシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)さんで、「湖畔の映画祭」で俳優賞を頂いた『土手と夫婦の幽霊』(監督:渡邉高章)を記念上映していただきます。


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上映会は予定の時間を過ぎて閉幕したのだが、観客は閉演後も中々星時を去ろうとはしなかった。

一人ひとりの感想や質問は、監督や主催者、店主との間を熱く行き交い、まるで一つの作品の誕生を見ているかのようであった。


そこにあったのは、まさしく「MIRAGE THEATRE」……そう、「幻想の劇場」そのものであった——。


Cafe mirage

http://cafemirage.net


星時な日々

http://hoshidoki.jugem.jp