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9/13(金)より全国順次ロードショーが始まった、映画『みとりし』。

医療とは違う立ち位置で人の死に立ち会う「看取り士」を題材とした映画である。


日本看取り士会・柴田久美子会長と、俳優・榎木孝明が企画したヒューマンドラマのメガホンを取ったのは、『能登の花ヨメ』(2008年)『ママ、ごはんまだ?』(2017年)の白羽弥仁監督だ。


『みとりし』ストーリー

交通事故で娘を亡くして以来、生きる意欲を見失った柴久生(榎木孝明)。旧知の同期社員・川島(宇梶剛士)の急死による転勤を命じられたことで、柴は長年勤め上げた会社を辞める決意をする。

川島の墓参りに訪れた柴は、墓前で手を合わせる女性(つみきみほ)の話を聞いて驚愕する。人生に絶望した時に柴が聞いた「声」は、忌の際に発した川島のものだったのだ。その女性は家族ではなく、看取り士として旧友の死に立ち会ったという。

5年後、柴は岡山県高梁市で施設の所長を勤める看取り士となり、23才の新人・高村みのり(村上穂乃佳)の着任を迎えようとしていた――。


9/14(土)、名演小劇場(名古屋市東区東桜)では『みとりし』初日を迎え、舞台挨拶が開催された。

登壇したのは、白羽弥仁監督、主演の榎木孝明、嶋田豪プロデューサー、そして映画『みとりし』の「生みの親」である柴田久美子会長だ。


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榎木孝明 皆さん、こんにちは。終わって拍手される映画というのは、本当に嬉しいですね。


白羽弥仁監督 満場のご来場で、本当に胸が一杯です。私の亡くなった祖母が名古屋ですので、祖母のことを思い出しています。


柴田久美子会長 看取り士の柴田久美子と申します。お忙しい中、こんなに沢山の方々が観てくださって非常に嬉しく思っております。


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嶋田豪プロデューサー 榎木さんと柴田先生、お二人の出会いを教えていただけますか?


榎木 今から十数年前、島根県の知夫里(ちぶり)島で初めてお会いしました。私はプライベートだったんですが、柴田さんは島で「看取りの家」をやってらっしゃって、私はそこで初めて看取り士という言葉を聞きました。初めて出会ったその時、「いつか看取り士が全国区になれるよう、映像に」という話をしたのが切っ掛けだったんです。それが去年やっとここまで漕ぎ付けました。


柴田会長 離島にわざわざお出掛けいただきまして、お帰りになる時に玄関先で「柴田さん、死の現場はドキュメンタリーでは中々撮れないんだけど、映画として皆さんに紹介したいね」と仰ってくださったんです。それから12年後私ががん告知を受けて「やり残したことはなんだろう?」と思った時、榎木孝明さんとの約束を思い出して、映画で看取りの現場を観ていただきたいと思ったのが、この映画の切っ掛けです。


榎木 そういう言い方だと、今も大変な状況かと思われるので……今は、がんの方は?


柴田会長 完治しております(笑)。


榎木 でも、良い切っ掛けになりましたね。


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嶋田 そんな構想を実現していく中、どんなご苦労がありましたか?


榎木 映画作りには様々なパターンがありますが、まずは私が嶋田プロデューサーに相談して、何人かの映画監督の中から選ばれたのが白羽監督でした。それからは出演者との話し合いや脚本の話し合いを経ています。そんな感じで、白羽さんに白羽の矢が(場内笑)。


白羽監督 よく言われます(笑)。はっきりストーリーがある世界ではないので、現場での色んな事例と、あと柴田さんの人生をどうストーリーに起こしていくか……うんうん唸りながら考えました。柴田さんは、幼い頃お父さんを亡くされて、その後都会に出て誰でも知っている大きなレストランチェーンでバリバリ働いて、病気になられて会社を辞めて看取り士になられた。この人生の山を、映画の中では3人の登場人物に割り振っています。幼い頃の思い出は、村上穂乃佳さん。バリバリ働くうちに心身ボロボロになってしまったのを、榎木さんに。そして、看取り士になってからは、つみきみほさんが柴田さんっぽい感じで出演しています。この3人が同じ世界にいる脚本を一月か一月半くらい掛かって作り、作品がだいぶ見えてきたんです。


嶋田 今監督はサラッと仰ってましたけど、柴田さんの話は膨大で、中々大変でしたよね。


白羽監督 全部入れると3時間くらいの映画になるので、捨てたエピソードが沢山ありました。


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嶋田 脚本を読んで、ご自身の役作りや、若手俳優へのアドバイスなどご苦労されたことはありますか?


榎木 直接アドバイスしたことはあまり無いんですけど、休憩中や一緒にご飯を食べたりしてる時には、色々な話をしました。私自身は再生運動もやっているくらい時代劇が大好きで、戦後すぐの時代劇と何が一番変わったかと言うと、「死生観」、死と生の違いの感覚があるかないかです。昭和2〜30年代の映画を観ていると、戦争の生き残りの方々がキャストにもスタッフにも一杯いらっしゃいます。黒澤(明)さんの時代もそうですよね。例えば、東京大空襲を経験された方、外地から命からがらかえってらっしゃった方。そうすると、表現の中に全く違う空気感があるんです。特に時代劇は、生と死が表裏一体で在る世界ですから。ところが最近の時代劇には、残念ながらそれが欠けてます。エンターテイメントのとても楽しませる時代劇は一杯あるんですけど、生と死が背中合わせで在るということを認識してやるのとやらないのでは大違いだと私は思っています。残念ながら大河ドラマも含めて、時代劇の現場でそんな話は無いんですよ。何とか死生観をもう一度認識し直すことが出来ないかと思った時にお会いしたのが、柴田さんだったんです。私が小さい頃は、まだ死と生が自宅にあった。私も納戸で生まれたり、お祖母ちゃんは神棚の下で亡くなったりしたんですけど、今は皆病院に入ってしまいます。死が遠くに行ったことの延長上で、今のいじめも自殺も、残念な状況が増えたんじゃないかという気がしているんです。とても大事なことなので、何とか映像と通じて死と生を認識することが出来たらと思っていたんですが、看取りの家ではそれが坦々と為されていました。しかも、暗く、辛く、悲しく、怖いマイナスイメージの死が、そこでは決して暗くないんです。


柴田会長 人は死んで終わるのではなく、子や孫に命をバトンされていく。それが私たちの死生観です。私たち664名の看取り士の夢は、全ての人が最期「愛されている」と感じて旅立てる社会を作ることです。それに榎木さんが共感していただいて、今回の作品が出来上がり、とても嬉しく思っています。


嶋田 去年の9月は、3百何十名と仰ってませんでしたっけ?


榎木 勢い凄いですね。


嶋田 僕ら3名は、看取り士の講習を受けて現場に臨んだんです。


白羽監督 僕は、柴田さんに看取られる方をやってもらったんです。本当に……昇天する感じがよく分かりました。寝ていて、鼻から真っ直ぐ上にシューッといく感じが、確かにしたんですよ(場内笑)。ただ付け加えると、恐らくそれは柴田さんだからだと思うんです。何百人と看取られた主義というものが伝わってきまして、中々得がたい体験でした。もちろん、それは映画の中で生かしたつもりです。


榎木 赤ちゃんが生まれてくる時には「おめでとう」と言われますけど、歳を取っていくと段々疎外感も増えてきますし。私は、日本は年寄りに優しくない国だと思っているんです。年金やら色んな問題ありますよね。でも、本当はそうじゃない。ちゃんと社会で経験したことを生かしてやることがあれば、生き甲斐にもなりますし。『みとりし』の映画が切っ掛けになって、生と死をもう一度ちゃんと考え直すことが出来ないかと望んでいます。死は怖いだけのものじゃなく、人生の通過点……死のことがちゃんと分かると、今生きてることの意味がもっと分かると思います。死のことは学校教育でも社会でも教えられることがないので、映像を通じて伝えることはとても大事な気がします。


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柴田会長 ありがとうございます。お二人の言葉を受けて、凄く勇気が湧いてまいりました。この会場にお見えで共感いただけた皆さんには、10人の方にこれを伝えてください。


榎木 1人10人ですね(笑)?


柴田会長 この劇場で長く『みとりし』を上映できるように、お力添えを頂けたらとても嬉しく思います。私たちの活動はまだまだ小さいですが、皆さんのお力で大きな花になって、全ての人が「本当に良い人生だった」と思って旅立てる国になることを、私は心から願っています。


嶋田 こちらの劇場の記録が、12週(上映)だそうです。


白羽監督 1人10人がまた10人に言ってもらって、13週を目指すということで(笑)。


榎木 100年したら、ここの中の人たちは誰も生きていません。生まれたら、全員が死にます。死を忌み嫌うのは仕方ないことかもしれないですけど、考え方ひとつだと思うんですね。前向きな死は、絶対にあるはずです。老人の方も、子供たちも、死について皆さんもっと喋って良いんじゃないかな。日々色々大変な事件が起きます。震災も一杯あります。でも、皆に来る死をちゃんと話すことで、受け止め方は全然違うと思うんですね。若い人はついつい「考えたこともない」と遠くにあるものと思いがちですけど、そんなことはないです。死は、明日あるかもしれない。これから後期高齢者の方々が増える2025年問題が、本当に間近です。国や病院の対応も間に合わなくなるんじゃないかと言われていますが、一番大事なのは私たちが如何に認識するかだと思います。この映画を切っ掛けに、皆さんご自身の死について、周りの死について、是非考えていきましょう。


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9/22(日)12:30の上映回には、「映画『みとりし』応援舞台挨拶」ということで、柴田久美子会長の再登壇が決まっている。

是非とも名演小劇場にご来場を。


劇場には、様々な出会いが溢れている。

出会いはゴールではなく、スタートだ。

時に映画とは、人生を変えるものだから――。


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映画『みとりし』

9月13日(金)より有楽町スバル座

9月14日(土)より名演小劇場

ほか 全国順次ロードショー


榎木孝明 村上穂乃佳

高崎翔太 斉藤暁 大方斐紗子 堀田眞三 片桐夕子 石濱朗

仁科貴 みかん 西沢仁太 藤重政孝 杉本有美 松永渚 大地泰仁 白石糸

川下大洋 河合美智子 つみきみほ 金山一彦 宇梶剛士 櫻井淳子

原案・企画:柴田久美子

監督・脚本:白羽弥仁

企画:榎木孝明 嶋田豪

主題歌:「サクラの約束」歌:宮下舞花 作詩・作曲:犬飼伸二

配給:アイエス・フィールド

2019/日本/カラー/110 分 /ビスタサイズ


映画『みとりし』公式サイト

http://is-field.com/mitori-movie/index.html