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まるで廃墟のような山麓の施設には、重度の認知症患者、障がい者、寝たきり老人たちが監禁されている。

家族から、社会から見棄てられた弱者が最後に頼りとするのは、ギャング団の吉岡(奥野瑛太)、元ヤクザの小田(國村隼)らアウトローたちだ。


女子高生・洋子(植田紗々)の裸体は、買春男(中島朋人)だけでなく、スクリーン越しの観客をも激しく魅了する。

援助交際に勤しむ彼女のことを同級生たちは陰で「ヤリマン」と呼んでいるが、当の洋子は乾いた笑みを浮かべる。


ダウン症の恋人たち(角谷藍子・門矢勇生)は、河原で生活している。

その歌声もダンスもとても魅力的だが、社会から隔絶して暮らす彼らに、運命は冷酷だ。


社会に適合できない女(豊田エリー)は、その救いを宗教にのみ求める。

生きていくための収入は最低限あるものの、子供を学校に通わせていない。


『タロウのバカ』サブF

大森立嗣監督の最新作『タロウのバカ』では、タブーを直視するシーンが、センセーショナルなカットが、衝撃的な場面が、次々と銀幕に踊る。

短いシーンの一つ一つは掘り下げれば長編映画になりそうなテーマを内包するにも拘らず、『タロウのバカ』では惜しげもなく散りばめられる。

否、打ち捨てられる、と言っても良い。


奥野瑛太と國村隼による冒頭のシーンは、必ずや観客を驚かすであろう……様々な、意味で。

『タロウのバカ』の凄味が凝縮された、名場面だ。


『タロウのバカ』は、問題作なのではない。

冷徹に、残酷に、率直に、問題だらけの社会を淡々と物語る、現代の寓話なのだ。


本作に溢れているのは、取りも直さず監督・大森立嗣の、怒りだ。


『タロウのバカ』ストーリー

現代の、どこかの町。学校が、団地が、ピザ屋があって、山を臨み、河が流れ、高速が通っていて、多くの人々が暮らし、ヤクザもいる。そんな、どこにでもありそうな郊外の街に暮らす思春期のタロウ(YOSHI)には、高校生のエージ(菅田将暉)とスギオ(仲野太賀)という仲間がいる。

タロウは、生まれてこの方一度も学校に通ったことがない。それどころか、名前もない。タロウというのは、スギオが彼を呼ぶために付けたものに過ぎない。

スギオは、臆病で繊細な、どちらかというと理性的。だが、内に秘めたフラストレーションが爆発し、度々暴走する。

エージは、将来を期待された部活動にも、スポーツ推薦で入った高校にも解け込むことが出来ず、街の半グレ集団とつるんでいる。

3人はエージの復讐を決行し、チンピラを半殺しにする。しかし、荷物の中から拳銃を奪ったことで、彼らの日常が徐々に変化していく――。


『タロウのバカ』サブE

『タロウのバカ』は、タロウ、エージ、スギオ、3人のティーンエイジャーが織りなす、「暗黒の青春映画」だ。

上で紹介したシーンを含む短いエピソードの数々は、全て3人の背景に密接に関わっている。


宗教にハマる女はタロウの母親で、河川敷のダウン症カップルはタロウの友達である。

援交する女子高生はスギオが片思い中だし、ギャング団の吉岡はエージをパシリ扱いした挙げ句3人から襲撃を受ける。

様々な色を纏うことにより、物語を覆う影は陰惨なほどに色濃くなる。


『タロウのバカ』サブC

暗黒の青春映画のど真ん中を突っ疾るタロウ役に抜擢されたのは、今作が俳優デビューとなる16歳のYOSHI。

香港人を父に、日本人を母に持つYOSHIは、早くから独自のファッションをOFF-WHITEやルイ・ヴィトンのデザイン・ディレクションを手掛けるVIRGIL ABLOHに見出され、多数の有名ブランドのモデルを務めている。

更に、5/15にファーストアルバム「SEX IS LIFE」をリリース、アーティストデビューを果たしたばかりという早熟の天才だ。


エージ役には、菅田将暉。

『そこのみにて光輝く』(14)、『溺れるナイフ』(16)、『セトウツミ』(16)、『あゝ、荒野』前後編(17)など、人気も実績も演技も磨き上げてきた菅田が、まだ26歳であることに改めて驚かされる。

様々な役柄を数々物にしてきた菅田だが、『タロウのバカ』ではどの作品にも見られなかった狂暴で破天荒なキャラクターを見事に体現した。


スギオ役には、仲野太賀。

『桐島、部活やめるってよ』 (12)、『ほとりの朔子』(14)、『淵に立つ』(17)、『きばいやんせ、私!』(19)など、鑑賞者が共感の中心に据える朴訥なキャラクターで日本映画界になくてはならない存在感を放つ。

『タロウのバカ』では神経質かつ暴力的という振り幅の激しい役柄を好演し、新たな境地を見せつけた。


『タロウのバカ』サブB

『セトウツミ』や『まほろ駅前多田便利軒』(11)『まほろ駅前狂騒曲』(14)シリーズなどの軽妙なタッチ、『日日是好日』(18)の奥ゆかしさ、『ゲルマニウムの夜』(05)『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10)『ぼっちゃん』(13)『光』(17)のような社会派作品。

大森立嗣監督の撮る映画は、実に多彩だ。


実は今作は、かつてデビュー作として大森監督が書いた脚本を基にしているそう。

『ゲルマニウムの夜』同様、アウトロー達が本能を剥き出しにした暴力的なシーンに目を奪われるが、『タロウのバカ』はそれだけに留まらない。

現代社会が目を背け続ける禁忌(タブー)を濃厚に絡めたことにより、映画はより先鋭的な、より急進的な、より嫌悪感を伴うメッセージを纏っている。

そして何より、どの大森監督作品にも無かったレベルで、死の匂いが明確に漂っている。


大友良英の音楽にも傾聴してほしい。

また、大森監督の実父・麿赤兒が主宰する大駱駝艦の出演を観逃さないでほしい。

幼い頃、暗黒舞踏に死の匂いを嗅ぎ取ったという大森監督が、どんな場面で大駱駝艦の舞踏を引用するのか、ご注目を。


『タロウのバカ』サブD

豊かな現代社会に於ける忌まわしいタブーとは、謂わば「真昼の満月」だ。

見ることの適わない真夜中の太陽と違い、くっきりと見えているのに誰も目を向けない、真昼の満月だ。


『タロウのバカ』でも、是非とも「真昼の満月」を見つけてほしい。

陰鬱な死の匂いが充満する映画の中に、狂おしいほど眩しい「生の匂い」を感じてほしい。


生と死の真実とは、禁忌を直視してこそ感じ取れるものなのだ――。


『タロウのバカ』サブA

映画『タロウのバカ』(R15+)

9月6日(金)〜

テアトル新宿

伏見ミリオン座

ほか全国ロードショー


配給:東京テアトル


Ⓒ2019映画「タロウのバカ」製作委員会


映画『タロウのバカ』公式サイト

http://www.taro-baka.jp/