8月23日(金)より全国ロードショーが始まる、映画『火口のふたり』が凄い。
2010年『ほかならぬ人へ』で直木賞作家となった白石一文の『火口のふたり』が原作で、白石作品は今作が初の映画化となる。
脚本、監督は、鬼才・若松孝二と時代を築いた日本映画界のレジェンド、荒井晴彦。
出演者は、柄本佑、瀧内公美2人だけという大胆な手法で、R18+作品の域を悠々と飛び越える大いなる人間ドラマとなった。
『火口のふたり』ストーリー
バツイチで現在休職中の賢治(柄本佑)は、秋田に帰省する。父の話によると、従妹の直子(瀧内公美)が10日後に結婚するのだという。
故郷で再会を果たした二人は、一緒に昔のアルバムを見る。モノクロームの写真の中では、富士山の火口をバックに裸で抱き合う賢治と直子がいた。
「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」
直子は、賢治に尋ねる――。
文筆家であり論客である荒井晴彦は、『KT』(監督:阪本順治)『ヴァイブレータ』(監督:廣木隆一)『共喰い』(監督:青山真治) 等、数々の名作を手掛ける脚本家として名高い。
そして、寡作ながら映画監督も務める。
2015年には『身も心も』以来18年ぶりの監督作品である『この国の空』を世に送り、喝采を浴びたことも記憶に新しい。
昨年、若松孝二監督の逝去以来となる久々の若松プロダクション作品『止められるか、俺たちを』(監督:白石和彌/脚本:井上淳一)が公開され、こちらも大変な好評であった。
『止められるか、俺たちを』は、1960年代後半から70年代前半の若松孝二監督を中心とした映画人たちが活写された、実録青春群像劇だ。
劇中、藤原季節が演じたニヒルな皮肉屋たる荒井晴彦像が印象に残っている映画ファンも少なくないであろう。
そんな男と女のエロティシズムを表現し続ける荒井晴彦が新作に選んだのは、直木賞作家・白石一文の『火口のふたり』。
震災後の日本、そして国が崩壊しかねない状況で、欲望の赴くままに身体を合わせる男女を、赤裸々な筆致で描写する、壮大で卑小な人間ドラマである。
レイティング(年齢制限)によるハンデを厭わない荒井監督の徹底した性描写は、原作小説の内包する根源的なテーマを映画ならではの表現へと昇華させた。
写真家・野村佐紀子によるモノクロ写真が、下田逸郎による劇伴が、更に作品を深化させている。
主演は……否、出演は、2人。
賢治には、『フィギュアなあなた』(監督:石井隆)『きみの鳥はうたえる』(監督:三宅唱)等、邦画界になくてはならない実力派俳優・柄本佑。
賢治の台詞は、総じてどうしようもない戯言ばかりだ。
だが、柄本が発すると、どれもこれもが名言になる。
直子には、『彼女の人生は間違いじゃない』(監督:廣木隆一)での演技が絶賛され、日本映画プロフェッショナル大賞新人女優賞を獲得した瀧内公美。
直子の台詞は含蓄があり、心に刺さる。
だが、それ以上の身体的表現が、観客を目くるめく官能の世界に引きずり込んで放さない。
時として、官能は芸術性を帯びる。
否、性表現は、須らく芸術に附帯する存在である。
性は、生の根源であるのだから。
だからこそ、立心扁に生きると書くのだろう。
性とは、生への意思なのだ。
性衝動、食欲、睡眠欲……
すべて、生(せい)そのものである。
まぐわい、食べて、寝る……
このすべては、2人だけが出演者の115分に、余すことなく表現されている。
『火口のふたり』は、映画という芸術表現の、一つの到達点と言って良い――。
映画『火口のふたり』
8月23日(金)
新宿武蔵野館
伏見ミリオン座
ほか 全国公開
出演:柄本 佑 瀧内公美
脚本・監督:荒井晴彦
原作:白石一文「火口のふたり」(河出文庫刊)
音楽:下田逸郎
製作:瀬井哲也 小西啓介 梅川治男
エグゼクティブプロデューサー:岡本東郎 森重 晃
プロデューサー:田辺隆史 行実 良
企画:寺脇 研
企画協力:㈱河出書房新社
撮影:川上皓市 照明:川井 稔 渡辺昌
録音:深田 晃 装飾:髙桑道明 衣装:小川久美子
美粧:永江三千子 編集:洲﨑千恵子 音響効果:齋藤昌利
制作担当:東 克治 助監督:竹田正明
写真:野村佐紀子
絵:蜷川みほ
タイトル:野口覚
特別協力:あきた十文字映画祭実行委員会 よこてフィルムコミッション 秋田フィルムコミッション研究会
製作:「火口のふたり」製作委員会
制作プロダクション:ステューディオスリー
配給:ファントム・フィルム
115分 R18+
映画『火口のふたり』公式サイト
https://kakounofutari-movie.jp/
© 2019「火口のふたり」製作委員会
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