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長編映画初監督の『ゆらり』(2017年)を見事に成功させた横尾初喜監督の最新作『こはく』が、いよいよ名古屋でも公開が始まった。


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【想い出がとける時 横尾初喜監督×井浦新×大橋彰(アキラ100%)『こはく』レビュー】


初日である7月13日(土)は舞台挨拶が行われ、シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)は早朝の6時過ぎからチケットを求める行列が出来た。


それもそのはず、『こはく』初日舞台挨拶に登壇したのは、横尾初喜監督、そして主演の井浦新だったのだ!


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横尾初喜監督 監督をやりました、横尾です。こんなにたくさん来ていただいて、ありがとうございます(場内拍手)。


井浦新 ただいま、皆んな(場内拍手)!ありがとう!若松(孝二)監督の映画以外で、僕シネマスコーレは初めてです(場内笑)。変な気分です。皆様、今日は朝6時から並んでくださった方たちもたくさんいらっしゃって、こんな満席のお客様で、本当に心からありがとうございます(場内拍手)!


横尾監督 本当に、ありがとうございます!


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井浦 皆さんの大切なお時間を、労力を、使っていただいて……でも、皆さんの心に必ず届くであろう映画だと、僕たちは確信してます。自信を持って、皆さんにお届けできてると思います。今日は初日、皆さん足を運んでくださって、本当にありがとうございます。本日は時間が短いんですけど、皆さんと映画の話が出来ればと思います。宜しくお願いいたします。監督、どうですか……若松孝二監督の、映画館ですよ?


横尾監督 いや、もう……畏れ多いです。新幹線に乗りながらお話させてもらってたんですけど、この『こはく』を選んでいただけたんだと思うと、凄く嬉しいですし、感動してます。


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井浦 僕も結構、来てます(場内笑)。……木全(純治・シネマスコーレ)支配人、ようやく……ようやく、若松監督作品以外を……結構映画やってるはずなのに、全然掛けてくれなくて(場内笑)。支配人、僕のこと嫌いだから(笑)。


横尾監督 そうなんですか(笑)。


木全 (苦笑)。ちょっと、(映画の)内容に行ってください(場内笑)。


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井浦 この映画は、監督の半生を……


横尾監督 はい。僕は母子家庭で育って、父を知らない自分がいて。兄貴にある日「俺は目茶苦茶お父さんを恨んでる」って話を聞いて、自分はその言葉が衝撃で。そこから、「父親ってどんなだったんだ?」ということをベースに作らせてもらった映画です。回想シーンも、僕が覚えてる断片のお父さんの記憶だったりをベースに、作らせてもらいました。


井浦 僕が演じた亮太そのものは、監督の分身のような存在だったりしますし。亮太の家族の状況とか、やってきたことというのは、監督の体験がベースであったりするんですよね?


横尾監督 そうですね。


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井浦 前妻の子供というのも、実際の……


横尾監督 はい。実際の話をベースに置かせてもらったので、一番最初に覚悟を決めてやって。ただ、自分は父親を知らずに、最後のクライマックスをどう作れば良いのかと思って。一応クライマックスは作ってたんですけど、「きっと、こうならないな」って思って現場に入って……タイトル『こはく』は、「心の中に固まってる温かい思い出」という意味合いで付けさせてもらったんですけど、意識的にも無意識的にも自分で蓋をしてたところに自分で気付かないまま現場に入ってたと思うんです。そこを、新さんが……開けてくる訳ですよ(場内笑)。開けてくださる……「開けなさいよ、あなた!」って(笑)。


井浦 凄い、バッチバチでしたよね(笑)。


横尾監督 (笑)。穏やかでしたけどね。


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井浦 監督も腹を括って自分の人生を曝け出す訳ですから、中途半端にやるのが一番良くないであろうということで。自分自身の話がベースで、それを美しいものにするって、観てられないくなるんじゃないかな、とか色んな思いが僕の中にあって。作品を俯瞰で見ている監督が亮太に関してはどうしても主観で見てしまうので、監督が描く亮太と違うものをどんどん生んでいかないといけないんじゃないかという思いがあったり。せっかく監督の分身である亮太を演じさせてもらうに当たって、言ってみれば僕にとって目の前の監督の存在が「答え」なので、その答えから直接答えを貰うんじゃなくて、その奥にある本人が気付いてないことこそ掘り起こして、それを全部栄養にしていきたいな、と。監督にとっては、結構キツい……映画を作る、撮るだけでも大変なのに、撮りながら自分と向き合わざるを得ない状況になっていったり。熱出して倒れたりしましたよね、撮影中に(場内笑)。


横尾監督 あんまり覚えてないんですけど、多分あの時はアドレナリン出てて……こうして改めて新さんと話してると、「あれ、そう言えば熱出したな」っていう(笑)。


井浦 撮影の時は、何とか立ってられましたけどね。


横尾監督 (笑)。そうですね。


井浦 皆さん観ていただいた通り、この映画から感じていただいた通りの、作品から滲み出てる温かさとか、優しさ、柔らかさ……そのまんまなんですよ、監督は。でもきっと、監督自身の優しさの奥底にあるものは、自分でも気付かず蓋をしてしまった苦しさとか、悲しさ。本当、僕は心理カウンセラーみたいになってました(場内笑)。「はい、ここを開けていきましょう」「曝け出していきましょう」って。


横尾監督 「あぁ……新さん、そこを開けるんですかぁ!?」(場内笑)……ってやりとりを、撮影が終わって毎晩やらせてもらって。自分はまだお父さんに会えてないんですけど、順撮りに近い形で撮らせてもらってたんですが、最後のクライマックスで号泣して止まらなくて。カットを掛け忘れてて……彰(大橋彰=アキラ100%)さん倒れる!っていう(場内笑)。


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井浦 あのシーンの撮り方が、ちょっと特殊でしたよね。順撮りで、僕らもクライマックスに向けてワンシーン、ワンシーン丁寧に撮っていって……あそこだけはテスト無しの一発本番で、鶴見辰吾さんとも本番まで会わないようにして、「そこで何が起きるのか」実験というか。観ていただいて分かると思うんですけど、兄ちゃん……裸になってる人が(場内笑)、凄いんですよ。僕は自分のことを不器用だって言うんですけど、僕より不器用な人がいたから「ヤバい!凄いぞ、この人」と思って(場内笑)。その不器用な人が心を込めて苦しみながら一生懸命やってる姿が、本当に「兄ちゃん」そのもので。観ていただいて、皆さんにも彰さんの芝居が伝わったと思います。あのシーンは始まるまで2時間くらい準備が掛かって、僕らも「凄い時間掛かるな……」って思ってたんですけど……彰さんは誰とも喋らないで、下向いたまま車の中に入って、出てこないままずっと気持ち作ってて。で、一気にドーンと出すんですけど、監督がカットを掛けないもんだから、彰さんはずっとその状態で、過呼吸になっちゃって。


横尾監督 本当に、凄かったですよね。


井浦 監督の「カット!」が聞こえた瞬間にバタッと倒れて、「はぁ、はぁ……良かった」「良かった、もう一回は出来ない……」って(場内笑)。命懸けだったんですよ。


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横尾監督 凄いシーンを撮らせていただいたなと、本当に思いますね。2週間くらいの撮影で、天気にも本当に恵まれて、他の日はずっと晴れてたんですよね。でもその日だけ、まるで兄弟の気持ちを察したかのように、雨は降る、雹も降ってきたりとか。


井浦 そう、雹が降ってきたんですよ、あのシーンをやる直前に……意味が分からないですよね(場内笑)。春ですよ、春……桜が咲き終わった頃だったんですけど。


横尾監督 雹が降ってきたので、準備に時間も掛かりつつ。で、あのシーンを撮り終わった瞬間に、虹が架かったんですよ。奇跡がたくさんあった映画でしたね。


井浦 そろそろ、お時間のようですけど……せっかくシネマスコーレに来させていただいて、これだけ映画マニアの方が集まってくださってますので、「監督、これどうなんだ?」っていう質問のある方はいないですか?


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Q. 子供たちと別れる時のお父さんの顔が凄く優しく笑っていて、泣けてきました。前半では笑っていなかったんですが、考えがあっての表情ですか?それとも、役者さんから出たものですか?


横尾監督 ありがとうございます。僕自身の体験でいくと、3歳の時に母に預けられて、父の良い話は聞かなかったんですよね。でも、この映画を撮ると決めて、地元の色んな人にお会いしたり、お話をお伺いすると、確かに愛されてたってことが分かったんですよ。この物語はもちろんフィクションなんですけど、まるでドキュメンタリー……父を知っていく旅が出来たり。あと、僕たちを抱きしめてる写真が出てきたんですね。愛してくれていたという表現がしたくて、笑顔にさせてもらいました。


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トーク終了後、お二人はスコーレカフェの前に移動した。

『こはく』公式パンフレットを既に購入されたお客様に、直筆サインを施したパンフレットと手渡しで交換するためだ。


次のスケジュールが迫る中ギリギリまで自らの手でサイン入りパンフレットを配る二人に、降り出した雨を物ともしないファンが次々と熱い感想を述べるのであった――。


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映画『こはく』

全国順次絶賛公開中

7月13日(土) 〜シネマスコーレ


配給:SDP


映画『こはく』公式サイト

http://www.kohaku-movie.com/