6月22日(土)から全国順次ロードショーとなる、フィンランド映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』が、凄い。
『アンノウン・ソルジャー』は2017年フィンランド国内で最大動員を記録した映画で、しかも『スター・ウォーズ』『パイレーツ・オブ・カリビアン』などハリウッド大作を大きく引き離してのぶっちぎりの動員数だったそう。
ヴァイニョ・リンナ「無名戦士」の映画化は、1955年、1985年、そして今作と、なんと3度目となる。
作者本人が経験した戦場を生々しく描写した「無名戦士」は、フィンランドでは知らない者がいないと言われる国民的小説である。
メガホンを取ったのはアク・ロウヒミエス(Aku Louhimies)監督で、脚本、プロデューサーも兼務している。
ロウヒミエス監督はフィンランドの首都ヘルシンキ生まれの50歳。
監督作『8-Ball』(2013年)『Frozen Land』(2012年)はヨーロッパ賞にノミネートされている北欧映画界の重鎮で、日本国内でも『4月の涙』(2008年)が公開されている。
『アンノウン・ソルジャー』は、第2次世界大戦時の祖国防衛戦、所謂「継続戦争」でソ連軍と戦ったフィンランド兵士の姿を描く戦争映画である。
ドキュメンタリーかと錯覚させるほどのリアリティと、1テイクに使用した爆薬の量がギネス世界記録に認定されたほどのアクションで、凄まじいスケールを感じさせる大作に仕上がっている。
『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』ストーリー
初めての戦争を経験する少尉・カリルオト(ヨハンネス・ホロパイネン)は、ヘルシンキに婚約者を残している。
人間性を捨て去ることの出来ないヒエタネン(アク・ヒルヴィニエミ)は、占領地の女性に激しく心を揺さぶられる。
ヴァンハラ(ハンネス・スオミ)は部隊のムードメーカーだったが、戦況の変化と共に笑顔が消え失せる。
カリルオトと同じく小隊を指揮する中尉・コスケラ(ジュシ・ヴァタネン)は、中佐の理不尽な命令を時に無視する。
彼らが所属する機関銃部隊に、英雄はいない。ただ、名も無い人々が最前線で命を削っている。
ある日、熟練兵ロッカ伍長(エーロ・アホ)が補充要員として配属されてくる。彼が家族で経営していた農場は、先の戦争でソ連に奪われたのだった——。
物語の舞台となる「継続戦争」とは、第二次世界大戦中の1941〜44年、フィンランドとソ連が戦った戦争である。
ロシア革命の折、帝政ロシアから独立を果たしたフィンランドは、1939〜40年にソ連による侵攻を受ける。
所謂「冬戦争」であるが、この戦いに敗れたフィンランドは、カレリア地方を含む全国土の十分の一もの地域をソ連に占領された。
1941年ソ連へ侵攻したナチスドイツに呼応し、フィンランドはソ連との戦争を再開した。
ドイツと手を組みソ連との戦争を開始したのではなく、飽くまで冬戦争の継続ということで、フィンランドでは「継続戦争」と呼ばれている。
補充兵ロッカは、「冬戦争」で故郷を奪われたのだ。
原作者であるヴァイニョ・リンナは第8歩兵連隊に所属、継続戦争で旧フィンランド領土ラドガカレリアの奪還を目指した。
映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』も、モデルとなった連隊の行動に沿って描写が進められ、鑑賞者に過剰なまでのリアリティを示す。
二人一組で進む、塹壕戦の恐怖。
手榴弾が炸裂し、流れ弾が耳をかすめる、戦慄の音。
歩兵目線での、戦車の圧倒的脅威。
対戦車地雷は、本来あんな使い方は設計思想にないはずだ。
流血の禍々しさと、屍体の虚無感。
泥に塗れ動かなくなった兵士は、敵味方の区別さえ出来ない。
大義があろうとなかろうと、奪われた生命を足蹴に歩いていくのが戦争だ。
そこに、被害者、加害者の線引きは何の意味も持たない。
まるで、観ている私たちにも、重すぎる十字架が背負わされるようではないか。
銀幕で明滅を繰り返す、白と赤、緑と土気色のコントラストを網膜に刻む観客の胸に溢れるのは、圧倒的な厭戦感である。
そうだ。
戦争映画には、常に反戦のメッセージが込められていなければならないのだ。
大義も正義も、取るに足らない。
勝ち負けなどは、何の意味もない。
誰の目線で、どんな方法論で、何を描くか、それは様々あって良い。
だが、戦争を否定しなければ、戦争映画の存在意義は無い。
映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』は、6月22日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショーとなる。
中部地方では、名演小劇場(名古屋市東区東桜)にて6月29日(土)より公開が始まる。
震え上がって、尻込もう。
酷い時代があったものだと、恐れ慄こう。
戦意高揚を煽る映画など、過去の遺物に追い遣ろう。
祖国のために戦い抜いた兵士たちが、英雄でなく「アンノウン」であるからこそ、私たちは今の平和を享受できているのだ――。
映画『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』【PG12】
フィンランド年間国内興行収入No.1(2017年)
6月22日(土)新宿武蔵野館
6月29日(土)名演小劇場 ほか全国順次ロードショー
配給:彩プロ
© ELOKUVAOSAKEYHTIÖ SUOMI 2017
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