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令和元年5月26日(日)、名演小劇場(名古屋市東区東桜)スクリーン1(定員105座席)は、満員の観客で溢れかえっていた。


前日5月25日(土)に封切られた、京都造形芸術大学の映画制作プロジェクト「北白川派」が生んだ新たな傑作『嵐電』(2019年/114分)の舞台挨拶が開催されたのだ。


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【わらをも打って 笑いころげて 鈴木卓爾監督×井浦新『嵐電』レビュー】


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鈴木卓爾監督 本日は、「春はどこへ行った?」とても暑い日曜日ですけども、『嵐電』を観に来てくださいまして、どうもありがとうございました。こんなに沢山の皆様にお集まりいただけるというのは、本当に皆感激しております。今日は出演者が3名来ておりますので、紹介させていただきます。嵐電の街は撮影所の街でもありまして、映画を撮っているところの助監督「川口明輝尾」という役を演じました、福本純里さんです。


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福本純里 こんにちは。川口明輝尾を演じました、福本 純里(じゅり)です。「明るく輝く尾」と書いて「めてお」と読みます。今日はご来場いただき、本当にありがとうございます。私は地元が名古屋なので、今日この場に立ててるのが本当に嬉しいです。


鈴木監督 「ゾンビ花嫁」という……撮影所の中で撮っている映画『結婚オブ ザ デッド』に出てくる「菊乃真紗代」というスター女優を演じている、藤井愛稀さんです。


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藤井愛稀 菊乃真紗代を演らせていただきました、藤井 愛稀(いつき)と申します。本日は暑い中お越しくださいまして、本当にありがとうございます。名古屋には別の映画……バイオレンス映画なんで、ちょっと血が関わったりするんですけど、そちらで来させていただいたことがあって、面白い所だなと思っていたら……まさか、ホームページにも「ゾンビ花嫁」と紹介された劇場は初めて(場内笑)で、今日は楽しみにしておりました(笑)。


鈴木監督 嵐電の街で、嵐電を追い掛け続けている高校生、「有村子午線」役の、石田健太さんです。


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石田健太 有村子午線役の、石田健太です。本日は、本当にありがとうございます。ここに上がっていること自体が夢みたいなんですけど、名古屋は子供の頃来るのが夢で……天むすが大好きだったんですよ。「天むすを名古屋で食べたい!」という想いがあって、今日は本当に夢みたいです(場内笑)。ありがとうございます。


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鈴木監督 石田さん、出身はどちらなんですか?


石田 兵庫県の西宮です。


鈴木監督 藤井さん、出身はどちらですかね?


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藤井 私は京都出身なんですけど、親戚が今こっちに住んでいて、母の故郷です。


鈴木監督 藤井さんはこの映画の中でゾンビ花嫁を演じてますけども、京都の出身だったりするので、京都の出身じゃないけど京都出身の役を演じた人の方言指導を、現場でしてましたよね。


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藤井 はい、させていただきました。私は出てるシーンじゃない撮影日でもお邪魔させていただいて、ずっと現場で一緒にいさせていただいてました。方言指導するということで、声が聴こえないと指導しようがないので、録音部さんが使っている俳優さんのピンマイクの音を全部聴くことが出来る秘密の無線をお借りして。現場では主に大西礼芳(小倉嘉子役)さんに付かせていただいてたりしたんですけど、彼女の呼吸のリズムだとか、唾を飲む音だとか、そういう細かい音まで聴くことが出来て……あの、ヘンな意味じゃないですよ(場内笑)!完成した『嵐電』を観た時、息の感じとか本当に活かされてる、小さな音でも空気感として伝わって緊張感を与えることが出来る、そんなお芝居の些細なことも散りばめられていて……感じ取っていただけましたでしょうか?お楽しみいただけましたか(場内拍手)?


鈴木監督 嵐電は電車なんですけど、生き物のように街を走り続けているイメージがあったので、映画の中でも嵐電の音が画面の外から聴こえてきたり。しかも嵐電というのは、1975年くらいから走り続けているお爺さん……おじさんか、私は67年生まれですから、ちょっと年下くらいの。ブレーキの軋みとか凄く独特な音だったし、そんな音を大事にしたいなと思ったのと、同時に現場の録音で俳優の台詞の音も大事に録れたなと思います。


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鈴木監督 川口明輝尾さん……福本純里さんは今回助監督役を演じてるんですけど、映画の中で映画を作ってるっていう設定ですが、如何だったでしょうか?


福本 私は大学で俳優コースに所属していて、大学のゼミとかでも主に俳優として出ることが多かったんですけども、助監督役っていうことで、映画を作る立場、映画をどのようにしていくか考える立場の人間として、映画のことをよくよく考えるようになりました。


鈴木監督 監督の立ち居振る舞いみたいなのは、誰から学んだんですか?


福本 監督補の、浅利(宏)さんです。


鈴木監督 浅利さんは、東京から呼んだプロのチーフ助監督さんで、今回僕と一緒に脚本も書いてくださってます。


福本 はい。撮影が始まる前から、浅利さんを見て盗もうと思って、凄い見てました(笑)。ちょっと大柄で、ドカドカドカッみたいな方なんです。凄く声が大きくて。あと、卓爾さんも、ちょっとだけ……。


鈴木監督 私ですか(場内笑)?


福本 (鈴木卓爾監督は)俳優もされてるんで、ちょっとあれですけど……そこに自分の要素も入れながら演れたらなと、思ってました。


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鈴木監督 『嵐電』は京都造形芸術大学の映画学科でやってる「北白川派」という映画運動の中で、学生とプロが一緒に働いて劇場映画を作るというものの第6弾なんです。福本さんと藤井さんは今年の3月に卒業したんですけど、子午線役の石田健太くんは今、3回生の……


石田 映画製作コースです。


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鈴木監督 だけど、俳優を?


石田 そこ(俳優)と、あとは監督を目指して、入りました。


鈴木監督 俳優に回心した、と?


石田 回心……しました(笑)。続けるか、分からないんですけど。


鈴木監督 石田健太くんは『嵐電』の現場で、実は演出部……助監督のコースもやってたんですね。演じることと、演出部を兼任したんですけど、それは如何でしたか?


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石田 正直なことを言うと、凄い辛くて(一同笑)。毎日、出来ない自分が悔しくて……「なんで先輩はこんなに出来るのに、出来ないんだろう?」と泣いてたんですけど、これを言うとメイクのあや(こやまあやこ)さんに「泣くなんて、贅沢なんだよ。こんな幸せなことで、泣いちゃダメだ!」って怒られて、このことはあんまり言わないようにしようと(場内笑)……


鈴木監督 ……言ってるじゃないですか(笑)。


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鈴木監督 最後に、映画の中の「ここのところを持ち帰ってください」みたいなことを一人ひとり……


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藤井 一度観た後の印象は、凄く優しくて柔らかいと思うんです。確かに不思議な心地がして、凄く気持ち好い心地を感じていただけたかなと思うんですけど、その中に散りばめられた一人ひとりの人間が現実的に抱えている問題に対する苦悩を……卓爾さんは「映画とは、何か?」ということをメディアでもよく話されることがあるかもしれないんですけど、私は「人とは、何か?」みたいなことを考えさせられたんです。個人的には何回も観て感じ直したいと思うので、よろしければ皆さんも何度か観ていただけてば感じ方も違ってきて面白いと思います。


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福本 映画を観終わった後って、帰りに映画のことを話したりだとか、その日が終わっても何気ない時に映画のシーンが思い返されたりだとか、そういうことってあると思うんです。この映画もきっと観ていただいた方にとって、何か普通に生活している時にふと思い出すことがあると良いなと、思っています。映画の中で、重なるところがあると思うんです。(主要登場人物6人の)3世代のどこかに何かしら重なる部分があるんじゃないかと思っています。どんな形でも良いんですけど、観ていただいた方の中に残る映画だと思うので、出てくる人たちや嵐電に会いに来てくれると嬉しいなと思います。今日はありがとうございました。


鈴木監督 ……時間が無いので、終わりにして良いですか?


石田 良いです(場内大笑)。


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鈴木監督 今後この3人が色んな映画に登場する未来があったら、是非それを見守ってください。それから、「『嵐電』、何かよく分からなかったな」という方もいらっしゃると思うんです。でも、それ大丈夫です……その通りです(場内笑)。ストーリーを追おうとすると道に迷う、そんな映画だと思ってください。もし面白かったらSNSで、またお友達やご家族に「こんな映画だったよ」と言葉にしていただけると、とても僕たちは嬉しいです。お客さんの中で作品が完成するのが映画を観せることだと、私たちは思って作りました。この隙間を、皆さんお帰りになられながら色々思い出して、考えていただければ、こんなに嬉しいことはないです。本日はどうもありがとうございました。


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時を空けず行われたサイン会には、名古屋に縁のある女優お二人の縁者も含めた多くの観客が押し寄せ、作り手と映画ファンとのディスカッションはしばらく続いた。


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電車は、駅に停まることと同じくらい、駅と駅とを繋いで走ることが重要だ。

それは、作り手が設けた作品の隙間を、観客が埋めていって初めて完成する、総合芸術と似ている。


人はそれを、「映画」と呼ぶ——。


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映画『嵐電』

テアトル新宿、名演小劇場
ほか絶賛公開中

【配給】ミグラントバーズ、マジックアワー

映画『嵐電』公式サイト


名演小劇場 公式サイト