5月6日(月 休)、10連休という超大型休暇となった元号跨ぎのゴールデンウィーク最終日、吹上のライブハウス鑪ら場(たたらば:名古屋市千種区千種)を訪ねた。
令和最初のライブ参戦となるこの夜、鑪ら場のステージに立ったのは4組のミュージシャンだった。
グロリア
疾走感が心地好いアコースティックギターの弾き語りと歌で、オーディエンスを魅了した。
「弾き語りのライブは久しぶり」とは、本人の談。
ギターを始めて10年とのことだが、スリーフィンガーを初めてステージで披露し、訪米した折に作った新曲をセットリストに入れるなど、真摯に音楽と取り組む姿勢に好感を持った。
ピアノの弾き語りも、ライブでは初だとか。
Tシャツの背中にさり気なく示されたメッセージも熱い。
鍵盤ハーモニカの演奏でも活躍しているそうで、今後また是非とも観聴きしたいアーティストだった。
平井亜矢子
普段はキーボードの伊藤誠人とのユニット「いとまとあやこ」でボーカルを担当する彼女だが、ソロのライブも精力的にこなしている。
いとまとあやこの楽曲も弾き語りで歌われると、また違った印象になる。
特に『うみうし』は、独特の世界観と相俟って観客を虜にしていた。
「ステージにボックスティシューを持ちこんで、済みません……アレルギーと喘息で。もし今夜何か伝染されても、犯人は私以外にいますので(笑)」
「ギターに触って25年になるんですけど、未だにコードが分からなくなる時があって。ギターって、どんなコードでも合ってるような気がしません?新解釈?」
軽妙なMCで客席を沸かせたと思えば、直後に演奏した『どろぼうねこ』で瞬く間に魅了する……変幻自在なステージが繰り広げられた。
また、「今年は新たなことにもチャレンジを」ということで、ギターだけでなくピアノの弾き語りも披露され、令和元年に相応しい聴き応えのあるライブだった。
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タナ・カミオとレインズ
トリを飾ったのは、こちらのスリーピースバンド。
磯たか子(Pf.Cho.)
浅野紘子(Fl.)
1曲目の『夢の端』からパワフルな歌と息の合った演奏でオーディエンスの心を奪い、最後までダレることのないステージを見せた。
観客のハンドクラップ、そしてアンコールをも引き出し、新元号のGWを見事に締め括った。
タナ・カミオ「ライブ前は余裕かな、と思ってたんですが……富山さんのステージを観て、くっそ緊張してます(笑)」
浅野紘子「もう泣いちゃって……化粧直しが出来るように、一揃い持ってくれば良かったです(笑)」
素晴らしい楽曲と歌で客席を大いに沸かせたタナ・カミオとレインズのメンバーに、こんなことを言わせてしまうその人こそ、今回レポートする富山優子である。
富山優子 東京から来ました。今日はゴールウィーク最終日ということですが、皆さん如何だったでしょうか?多分、楽しかったと思います(笑)。よろしくお願いします。星の名前の曲……
1.フォーマルハウト
オープニングは、最新アルバムで「弾き語り四部作の完成盤」と謂われている『Fomalhaut』のタイトルナンバー。
『僕らの時代』『おおグリーン』『おんがくのかみさま』と、ピアノの弾き語りというシンプルなスタイルで、自身の「過去(憧憬)」「現在(懊悩)」「未来(願望)」を歌いあげてきた彼女は、『Fomalhaut』で「再生」を高らかに告げる。
フォーマルハウトとは、彼女がいう通り星の名前。みなみのうお座のα星で、アラビア語のファム・アル・フート(=大魚の口)が語源だとか。
2.Danza homeopathy
アルバム『Fomalhaut』収録。
ホメオパシー(homeopathy)とは、民間医療、代替医療の一つで、「同種医療」などと訳される。
患者に、病症と似た症状を惹き起こす物質を希釈した薬(レメディ)を処方する治療法で、レメディは希釈が進むほど効果を発揮するとされるのが興味深い。
『Danza homeopathy』では、実在と仮想の境界が曖昧になった現代が象徴的に歌われ、富山自身は「ホメオパシーのダンス」と紹介する。
富山 ありがとうございます。ちょこちょこ名古屋には演奏に来ていて……と言っても、年に2〜3回とか。凄く好きな所です。今日は初めて鶴舞公園が「つるまこうえん」だと知って……ずっと「つるまい」だと思っていたので、衝撃的でした(笑)。結構広かったし、桜がいっぱいで、緑の中気持ちが好かったです。
3.ゆっときたい
アルバム『Fomalhaut』収録。
『Fomalhaut』は「再生」がテーマ……などと勝手に書いたものの、この『ゆっときたい』のように揺れ動く心情をストレートな歌詞で歌う楽曲も、凄く魅力的だ。
「ゆっときたい」ことに想いがストンと落ちる心地好さは、前半の歌詞に共感できるからに他ならない。
4.ハイデリッヒ
アルバム『おおグリーン』収録。
この日の『ハイデリッヒ』はインプロヴィゼーションを利かせた長いイントロで始まったが、あまりにも美しい旋律が何よりの特徴であるこの曲はすぐに分かる。
『若草の頃』『ラストシーン』『おおグリーン』など、アルバム『おおグリーン』には過去の情景を美しく表現した楽曲が多い。
その全ては美しく、同時に切なくもあるのだが、その到達点がこの『ハイデリッヒ』だ。
5.ぜいたくな穴
アルバム『おんがくのかみさま』収録。
『おおグリーン』が美しい過去を描いたアルバムとすれば、『おんがくのかみさま』は未来への指針を強く宣言するような力強さを感じる。
『CPU』(『僕らの時代』収録)のような「ない物ねだり」な自分とは、『てにふれ』や『新しい自分』で決別し、『おんがくのかみさま』で見事に昇華する。
だが、人は迷う。迷ってこそ、人だ。
ポジティブなアルバム『おんがくのかみさま』に在ってこそ、『ぜいたくな穴』や『ひとつだけ』のようなネガティブな曲が、光り輝く。
富山 ありがとうございます。短い時間でしたが、今日も楽しかったです。明日(5/7)は大阪のワンドロップで演奏します。私のゴールデンウィークは、まだ終わってません(笑)。また今年はあと2回くらい名古屋に来るつもりなので、どこかで見つけたら是非よろしくお願いします。
6.光のトレモロ
タイトル通り、印象的なトレモロ奏法のイントロが始まった。
ステージを締め括るのは、アルバム『Fomalhaut』のラスト曲『光のトレモロ』だ。
この曲は、アウトロに『フォーマルハウト』のフレーズが使われており、それがまた「再生」を強く想起させる。
彼女は、バンドでも活動している。
ベースに 上田哲也 を、ドラムスに よしじまともひと を加えたスリーピースで、「富山優子トリオ」という。次回はバンドを引き連れてステージに上がるのか?
はたまた、次も弾き語りのソロライブとなるのか?
こうなると、邪推が止まらない……『Fomalhaut』を弾き語り4部作の完成盤と称したのは、バンド活動への移行を示唆しているのではないか……?
次のステージをやきもきしながら待ち侘びる私たちの心情に、『光のトレモロ』歌詞の最終行が図らずもリンクする。
——怖いわけじゃないの ただ
また会いましょう——
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