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下向拓生監督の映画は、台詞が多い。


台詞が多いのが印象的な映画を撮る監督は、何人か思い浮かぶ。


映画的文法の破戒者であり、創造主でもある巨匠、大林宣彦監督。

お身体のことは知りつつも、私達は「戦争三部作」の“次”を渇望して止まない。


台詞が詩篇となる、生粋の詩人、園子温監督。

あまつさえ『TOKYO TRIBE』(2017年/116分)では、全編ラップという前代未聞の「ヒップホップ・ミュージカル」を作り上げた。


スクリーンを通してエキセントリックに人生を模索する、銀幕の哲学者、山戸結希監督。

オムニバス作品『21世紀の女の子』(2019年/117分)は、成り立ちからして哲学的だ。


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だがしかし、下向監督の作品は、そんな「表現の多様化としての台詞量」を突き詰めるような性質とは一線を画す。

誤解を恐れず言い放ってしまうなら、単純に台詞の情報量が多いのである。


『菊とサカツキ』(2013年/20分)は、落ちこぼれ幽霊をトップセールスウーマンが教育するという奇想天外なブラックコメディで、「立て板に水」の台詞回しで主人公に説得力を持たせていた。


『N.O.A.』(201年/15分)は、ノーカット・ノー編集・ワンシチュエーションという驚愕の「0・0・1映画」で、エッジの利いた(というか、極限までブラッシュアップされた)台詞が最大限に活かされた究極の会話劇だった。


そして、最新作『センターライン』は、と言うと……

「近未来科学ミステリー」であり、「SF法廷エンターテインメント」、はたまた「超日常系ファンタジー」……

ともかく、誰も観たことのない、新感覚ドラマティック・コメディである。


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『センターライン』ストーリー

地方検察庁に勤務する新人検察官・米子天々音(吉見茉莉奈)は、着任早々上長に詰めよる。刑事部だけを希望し長年努力を積み重ねていた彼女にとって、交通部への配属は承服できない事態なのだ。

時は平成39年、社会生活全般にAI(人工知能)が浸透する時代。自動車の運転もAIによる完全自動運転(限定的レベル5:全ての場所でシステムが全てを操作。但し、緊急時は運転者が操作)が普及していた。

天々音は、車同士の正面衝突による死亡事故で、運転を制御していた人工知能のMACO2(Motorcar Autonomous Control Operator ver.2)を過失致死罪で起訴する。

前代未聞の裁判の最中、MACO2の驚くべき供述により、事件は思いもよらぬ展開となる。人工知能に、感情は、心はあるのか?それを立証し、裁くことが、果たして出来るのであろうか――。


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『センターライン』は、【福岡インディペンデント映画祭2018】でグランプリを、【第59回科学技術映像祭】で特別奨励賞(ドラマ作品として史上初)を受賞。

その他、国内の映画祭で数々の賞を獲得、【愛知県芸術文化選奨】(平成30年度)で下向拓生監督が文化新人賞を受賞したのも記憶に新しい。

海外でも、サンフランシスコ、ロンドン、チェコ共和国にて招待、上映されるという、予算、製作規模からすると考えられない快進撃を続けている。


これまで一般公開は限定上映が多かった『センターライン』だが、4月6日(土)よりシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で、4月20日(土)よりシネマ・ロサ(東京都豊島区西池袋)で公開される。


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「台詞の情報量が多い」作品は、難しい。

そもそも、観客に「説明ゼリフばかりだ!」と思われるようでは興醒めだ(しかも、恐らくそれは的を射ている意見なのだ)。

しかも、往々にして感情表現を纏わせることが困難なシチュエーションを要求されるので、キャストの技量がもろに現出してしまう。

その上、観客に知らせたい情報が多い作品にも拘らず、早口な台詞ゆえに聞き漏らされることが多いという、ジレンマを抱えているのだ。

肝心な台詞を聞き漏らした……重要な情報を知り損ねた観者は、その途端に映画を見限り、席を立ってしまわないとも限らない。


何故、そんな作品が支持されているのだろうか?

理由は簡単、映画が面白いからだ。

『センターライン』には、練り込まれた世界観にどっぷり浸かりたいと思わせる程の魅力が溢れている。

多少台詞を聞き飛ばしてしまったとしても、「ならば、もう一度観たい!」と思わせる、圧倒的なパワーがある。

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注目すべきは、緻密な設定と巧みな筋立てと相俟った、豊かなキャラクター性だ。
そして、特筆したいのは、『センターライン』は吉見茉莉奈演じる新米検事「ヨネコ」を語り部とし、彼女を主人公としているにも拘らず、群像劇の雰囲気を持った作品であることだ。

恐らく、下向拓生監督は、既に複数のプロットを、よしんば脚本を準備しているに違いない……そう思えてならない。

少なくとも、『センターライン』の登場キャラクター2名と1体の具体的なストーリーは、下向監督の頭のなかに存在するであろう。


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時折まるで三兄弟俳優の次男である大御所役者さんが演じた刑事(或いは、その下敷きであろう配偶者が名推理するアメリカの刑事)のような語り口になる、あの人物視点で裁判を観たい。

断片での登場だった彼女が、如何に研究者の立場から母性を持つに至ったのか、「エピソード0」でじっくり観てみたい。

そういえば、あのキャラクターが供述を翻した理由も劇中では語られていない……そんなココロの動きを、下向監督はどんな手法で描くのであろう。

スピンオフ……否、続編を強く望む自分に気付く。


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そして、もう一つ。

『センターライン』は、作品世界が細かく練り込まれたハードSFであり、小気味よい会話劇が笑いを誘うコメディ要素を持ちつつも、ドラマティックな展開に唸らされるハートフルなバディ映画でもある。

だが、まるで非致死性の猛毒のように作品全体に忍ばされた、ホラー要素を忘れる訳にはいかない。


そんな不図気付けば背筋が薄ら寒くなるような「違和感」「不穏感」は、所謂ハードSF小説の古典と呼ばれる作品が共通して持つ。

例えば、I.アシモフの『ファウンデーション』シリーズ、P.K.ディックの『ヴァリス』三部作、C.A.スミスの『ゾティーク』シリーズ。

日本では、自身のSF作品を「SF=すこし ふしぎ」と称した藤子・F・不二雄の漫画が印象的だ。

手垢が着きすぎて誰も使わなくなった「ロボット三原則」に、もう一度立ち返る時なのかも知れない。

『センターライン』のラスト近く、人々がスローガンを放棄する中ただ一つ最後まで残ったプラカードの内容を、どうぞお観逃しなきよう。


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シネマスコーレで4月6日(土)より行われる上映は、下向拓生監督ゆかりの愛知県で、しかも『センターライン』が一宮市で撮られた作品ということもあり、久々の凱旋公開となる。


一週間にわたりイベントが企画され、連日ゲストが登壇する予定になっているので、是非ともご期待を。

次世代の才能が描く近未来を、刮目して牢記したい。

次世代、近未来……それは、リアルタイムで生きる現代(いま)そのものなのかも知れないのだから――。

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映画『センターライン』

【出演】
吉見茉莉奈 星能豊 倉橋健

望月めいり 上山輝
中嶋政彦 一色秀貴 近藤淳 青木謙樹 松本高士
もりとみ舞 一髙由佳 青木泰代 いば正人 藤原未砂希

【スタッフ】
監督・脚本:下向拓生

撮影監督:JUNPEI  SUZUKI
セカンドカメラ:山川智輝/村瀬裕志

録音:上山輝/木村翔/上道裕太
小道具:木村翔/上道裕太/上山莉央
演出補助:山川智輝

法律監修:弁護士 鈴木成公
音楽:山口いさお(ISAo.)

主題歌:「シンギュラリティ・ブルース」小野優樹
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション協議会/愛知県あま市企画政策課

『センターライン』公式サイト

https://centerline2027.wixsite.com/centerline2027


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