監督・武正晴、脚本・足立紳(『百円の恋』主演:安藤サクラ/2014年/113分、『嘘八百』主演:中井貴一・佐々木蔵之介/2018年/105分)のゴールデンコンビによる最新作、『きばいやんせ!私』。
3月17日(日)、センチュリーシネマ(名古屋市中区栄)での舞台挨拶の後、武正晴監督、坂田聡、眼鏡太郎がインタビューに応じてくれた。
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『きばいやんせ!私』武正晴監督 坂田聡 眼鏡太郎 舞台挨拶レポート
Q. 足立紳さんの脚本ということで、以前よりお互いお忙しいと思いますが、どのように作品を立ち上げていったんですか?
武正晴監督 これは、大分前に書いてるものなんですよ。『百円の恋』の後くらいから企画が始まってるので。毎作品そうなんですが、ちょっと時間掛かるんですよね。『嘘八百』なんかもそうですけど、1〜2年というよりも、『百円の恋』の後くらいにシナリオに入ってるものが多くて。プロットは出来てるんですけど、シナハンなんかは前作の『嘘八百』のクランクアップ日に足立が鹿児島に行ってきて。また現地に行って色々見たもので直していったり、キャストが入ってきたことで、例えば野田(眼鏡太郎)さんだったらトランペットを付けるとか、そういう感じでどんどんブラッシュアップしていくんです。
Q. ヒロイン像としての監督の拘りは?
武監督 祭りの映画と言っても難しいし、どうしたら良いんだろうと考えた時、結果としてヒロイン、女性の方がやりやすいというところで。時代的に、セクハラやコンプライアンス問題、パワハラっていうようなものが我々の業界にもかなり押し寄せてきてて、ちょっと息苦しい感じがしていたところだったので、そういうものを女性キャラクターの中に放り込んだらどうかと思って。まず、我々もそうなんですけど、ストレンジャーが知らない所に行くっていう『不思議の国のアリス』の図式を取る為には、典型的ですけど東京からやってくるというスタイルを取る為には、何か取材だとかテレビが良いのかな、と。意外と、テレビとかマスコミっていうものに係わってるキャラクターの方が、今の世の中を投影しやすいんじゃないかなという部分が……一般の人に、セクハラ、パワハラみたいなものは入れられないんですけど、特にテレビの業界とか、まぁある意味、デタラメな業界ですから(笑)、風習も含めて。主人公が色々言ってるのは、僕らとか足立さんの思いなり台詞です。台詞が、台本が出来た時に、果たしてこの役を演ってくれるヒロインがいるのだろうか?ってことは首を傾げてましたけど、夏帆さんが手を挙げてくれて、「面白い!」って言ってくれたんです。「こういう役、演ってみたかった」って、意外とすぐ夏帆さんが決まったので、ありがたかったですね。
Q. 凄い「クソ女」を描かれたな、と思ったんですけど、実際のこういうアナウンサーをご存知で、そうしたんですか(笑)?
武監督 それはないですね(笑)。ただ、主人公が性格悪いと、やりやすいんです、映画を作るのに。僕も足立も、あまり良い人間の方ではないので(場内笑)、やりやすいんですよね。『百円の恋』も『嘘八百』そうですけど、映画のスタートの段階でちょっと微妙なキャラクターの方が、その成長の度合いが描きやすい。成長する必要は無いんですけど、映画が終わった後、我々の知らないところでちょっとまともになるんじゃないかって希望を、主人公に与えられるというか。きっと彼女は人間的には変わらないし、けれど何かを取り戻す。子供の時に何故この仕事をやろうかと思ったのか……それは我々にもあることなので、いつもそこに向き合って「俺なんでこの仕事してるんだろう?なんで今こんなことをやってるんだろう?」って時には、必ず原因があるんだという。そこが描きたかったんです。だから、女子アナでこういう人がいるっていうよりも、我々は何故この仕事をしているのか?ってことを、主人公と共に気付かせてもらったという。たまたま世の中で女子アナの人が不倫したってことで皆騒いでるし、テレビでどうのって騒いでるんですけど、僕らは逆に何のことだか分からないんですよ。僕も足立もテレビ観ないんで、世の中のことと余り関わりがないんで、「なんでこんなに騒いでんの?」って。もっと他で問題になってるところにマスコミは目を向けなきゃいけないんですけど、意外と喫茶店とかで喋ってる話題やテレビを観ると、「誰がどう不倫した」とかニュースになってて。今まではニュースになることがなかったのに、「なんで皆テレビでこういうことを真剣な顔してやってんのかな?」って、僕らにとっては不思議な世界で。そういう情報は全然知らないので、かえって足立が面白がってそういうものを書いていったんだと思います。彼のが、ちょっとテレビ観てるかな(笑)?
坂田聡 足立さんは、ちょっと観てるかもしれないですね(笑)。
武監督 だから、足立が書いてきて「へえ、世の中って今こういうことになってるんだ」と、僕が気付かされたり。
Q. 夏帆さんは、演じる上でスッとこの役に入ってくださったんですか?
武監督 いや、難しかったと思いますよ。きっと出だしの掴み方っていうのは、演ってる中で「どこら辺のところからスタートしたら良いんだろう?」っていうのがあったと思います。ただ、果敢にチャレンジしてくれてる感じが凄くあったんです。あのベッドシーンだとか、パンツ履くところとか、絶対普通の女優だったら「書き直せ」って言ってくるところを、「いや、OKかよ!?」「ありがたいよね」って、足立さんとよく言ってたんです。大抵の女優さんは、「ちょっと」って言います。「監督、ちょっと」ってなったら、ヤバいんですよ(場内笑)。「脚本家、ちょっと」「監督、ちょっと」って言われたら、事務所に行って2人で説教受けなきゃいけないんですけど、それは無かったです。「ちょっと」って言われなかったですから。夏帆さんは、凄いありがたかったです。
Q. 坂田さんと眼鏡太郎さんに聞きたいんですけど……
坂田 わぁ、来たよ(場内笑)。
武監督 この流れなら、この辺で(質問が)来ないと(笑)。
坂田 (笑)。いやぁ、何でも答えちゃうね。
眼鏡太郎 (笑)。
Q. 坂田さんの方言は、聞き取れないくらいの鹿児島弁でした。鹿児島で合宿されたとか?
坂田 合宿になっちゃうんですよ。宿泊施設もそこしないですから。コンビニまで車で40分くらい掛かるところでしたから。空いてる時間に、そこら辺プラプラ歩いてたら、ちゃんと「余所者(よそもん)が来た」って見られてて、それでご挨拶をして、みたいな流れをしてる内に……もう、帰らせてくれないんですよ、東京に。4日間くらい(撮影に)空きがあっても、ずっとそこにいましたんで、住んでらっしゃる方々と普通にお喋りが出来ました。
武監督 それが良かったですよね。
眼 坂田さん、めちゃめちゃ人気ありましたよね、地元の人に。
坂田 オープニングに出てくる90歳の(言ってることが)ほとんど分からないお爺ちゃんが、凄いんですよ。
武監督 俺たちが撮影帰った後、坂田さんは「お前、いろ!」って(場内笑)。ずっーと……
眼 坂田さんが大好きで……
坂田 多分、地元の人だと思ったんでしょうね(場内笑)。役場の服を着てたし。
武監督 俺らは、そのおかげで帰れたんですよ(笑)。
坂田 あの方は、これから貴重な資料映像になると思います。何喋ってるか、ほぼ分からなかったです。
武監督 今、実は鹿児島弁は標準語化してるんですよ。坂田さんが喋ってる鹿児島弁も、多分標準語なんですよ……標準語じゃないんですけど。昔の人が喋ってない鹿児島弁なんです。
坂田 あのお爺ちゃんくらいが大体「原点」くらいだと思います。
武監督 テレビは非常に日本人の文化、言葉を変えていきましたから、方言というものがどんどん失くなってきているんですけど、あのお爺ちゃんは地元の人も「何言ってるんだか分からない」って。通訳がいましたもんね。
坂田 海賊文化なんですよね。暗号みたいな感じで、どんどん聞かれないようにしてった方言みたいですね。
Q. 地方で撮る映画だと、工夫されることはあるんですか?
坂田 それは、南大隅町の方々に喜んでいただくっていうのが……まずそこが無いとっていうのがありますから、方言に対しても出来るだけ丁寧に向き合おうと、宿題にしてましたね。まずそこをクリアしないと、中に入れてもらえないだろう、と。それが、凄い大歓迎されまして。お水とか、t(㌧)単位で来るんですよね(場内笑)。「財宝」っていうペットボトルを山のようにくれたりだとか、何かしら食糧に関しては色々いただけて。温かい感じでしたね。
Q. 眼さんは先程の舞台挨拶で「この作品は替えの利かない映画」って仰ってたんですけど、そんなシーンを教えていただけますか?
眼 僕もそんな上手いこと言えない、感覚的なものですけど……まず、神輿を担ぐだけのシーンは、他に無いかと思ったんですよね。地元の人たちと作った映画だし、そこに1300年受け継がれてきたものを、撮影の為だけに住んでる人たちが本当に協力してくれて……本当の祭りじゃないのに、本当の祭りみたいに喜んでくれて。映画だと牛牧(伊吹吾郎)さんら昔の人から受け継がれてきたものを担ぐというのは、言葉じゃない部分で凄く感動すると言いますか。……担いではいないですけど(笑)。
武監督 担いでましたよ。
眼 僕は方言も喋らなかったんで、皆さんが方言で凄い苦労されてて、部屋に篭って練習をするのを見ていて、凄く
申し訳ない気分になってたんです。大体坂田さんの部屋で飲んでたんですけど、「今日は来ないでくれ」みたいな日も……
坂田 「今日は、ちょっともうやらなきゃ」っていう(笑)……
眼 本当に、もう申し訳なくて……僕と、あんまり方言を喋らない宇野(祥平)さんで「本当に申し訳ないね」って、2人で飲んでました(笑)。
Q. 坂田さんが登場した時は、地元の人なんじゃないかと思いました。
坂田 いや、嬉しいですね……ありがとうございます。
Q. 太賀さんも凄く方言に馴染んでらっしゃいましたが、方言を話す俳優さん同士で練習し合ったりされたんですか?
坂田 練習し合ったっていうのは無いです。限られた時間でイントネーションなり近付けてはいくんですけど、結局やっぱり地元の人にはなれないんですよ。なろうなろうと思うと、演らなきゃいけない感情部分、役者業の方が意外と疎かになっちゃうっていうのがあるので。平均点、70点以上の“方言力”は望まなくて良いから、それよりかは感情を……「感情でイントネーションを多少怠ってしまっても、それは良しとしよう」って、太賀くんとは喋ってましたね。
Q. 今回映画を撮ったことで、町の人の意識は変わるでしょうか?
武監督 そうなると思いますよ。盛り上がってほしいですよね。
坂田 でも、大変な祭りなんで……軽トラに載せる部分が、ちょっとでも短くなれば(場内笑)。
武監督 どこの街もそうだけど、若者は外に出ていきますからね。「祭りの時くらい帰ろうかな」って気になっていただければ。
坂田 なってもらえたら嬉しいですね。
武監督 「見に行こうかな」「懐かしいな」っていただければ……そこの変化かなと思いますね。
坂田 あと、吃驚したんですけど、鹿児島の方も知らないんですよ、「御崎祭り」の存在を。
武監督 でも、愛知県だってそうでしょ。伊良湖岬でどんな祭りをやってるかなんて知らないものね。だから、それと同じで。もっと言うと、南大隅町の人が、佐多の祭りを知らない……山があったりするから。
坂田 山があるだけで違うんだと思いましたね。
武監督 元々は佐多って地区の祭りだったんですけど、南大隅っていう合併した後の大きな部分で映画は捉えたので、南大隅の人の全体が御崎祭りを知ったというのがありましたよね。
坂田 盛り上がってくれると良いですよね。太賀くん辺りが毎年行って(場内笑)。
武監督 「あれが出来る人はいない」って皆喜んでて。「跡継ぎが出来た」「毎年来てほしい」って(場内笑)。本当に、あれが出来る人はいないんです。本当に、俳優が凄いんですよね。俳優だから出来るんですよ。みんなそうだと思います……映画の撮影だから出来るんですよ。
坂田 (笑)。
Q. 祭りのシーンは、映像と音楽だけの演出になっていました。その演出は、どの辺りで決めてらっしゃったんですか?
武監督 台本の段階ですね。挑戦ですけど、そんな映画観たことないし、そんなの面白いのかよって思うんですけど。でも面白くしなきゃってなった時に、どうしたら良いのか、と。音楽はかなり拘った部分で、最初から台本を作ってる時にもうスペインの音楽で行こう、と。行進ですね。「パレード」をテーマにしたので。なので、映画のサイズも敢えてシネスコにしたんですね。横長のサイズにして、パレード、行列、行進……音楽に乗せて「歩む」ってことをテーマとして捉えたんです。あと観てくれる人がそこに乗っかるかどうかは、我々の腕次第だなと思ったんですね。『嘘八百』の時もそうでしたけど、果たして茶碗を作るということを映画にして面白いのか、と。僕は、映画にすると面白くなるんじゃないのかなと思っていて。つまり、普段面白くないものを映画にすると面白いということを証明しない限り、我々のやってることの価値が無い。そこら辺が勝負ですよね。毎回毎回お題が大変で、「どうしたら良いんだ?」って最初は悩むんですけど、それがやる価値のある仕事なのかなと思います。映画というのはこういうものなのかなと思って、いつもやっていますね。
Q. 皆さん、「落ち込んだ時の対処法」はありますか?
武監督 大体普段落ち込んでるんですけど(場内笑)……僕はやっぱり映画くらいしか。こないだ『グリーンブック』(監督:ピーター・ファレリー/130分)を観て元気になりましたし。撮影終わったばっかりでどん底に落ち込んでたんですが、東京帰って『グリーンブック』を観た時に、また「映画って、こんなに素晴らしいものだ」って思って、「自分も、もう一つ頑張ってみよう」って気になって。あとはやっぱり、映画を観てくれた自分とは縁も所縁もないお客さんが「良かったですよ」って言ってくれる一言。今の世の中って、人を褒めることを忘れている世の中になってしまっていて、ネットの中でも人の駄目な部分ばかり目に付く。何か「こういうものはダメだ!」って(言われると)非常にきつい状況になるんですけど、今日もそうなんですが初めて会った方の「この映画、良かったです」って一言は、次の一歩に繋がるありがたいものです。そこしかないのかな、と思ってます。
坂田 褒めてもらうことは少ないんですけど、褒めてもらった時のことをちょっと覚えとく。何かしら落ち込んだ時に、それを思い出す(場内笑)。
武監督 財産ですよね。
坂田 財産ですから(笑)。落ち込もうと思うと、役者なんてどこまででも落ち込めますからね。ベースの部分をちゃんと保つっていうのを、自分で心掛けてるところです。
武監督 このタイトルは足立さんが考えてくれたんですけど、普段タイトルは全然冴えないんですよ、彼は(場内笑)。今回は良いと思ったんですよね。本人は「これで良いですかね?」って自信なかったみたいですが、「いや、何か良いんじゃない!」って。「きばいやんせ、私」って、普通言わないですよね。「頑張れ、わたし」だと何かちょっと辛いな、と。でも、「きばいやんせ、私」になった瞬間、何か……僕が言ったのは、「ビックリマーク(!)にしてみたら?」って。その方が、何か映画的だねって。「きばいやんせ!私」って、落ち込んだ時に言われると良いかも。
眼 僕も凄く、落ち込んでばかりいて(場内笑)。
坂田 何なんすか、これ(笑)?
武監督 落ち込んでばかりですよね(笑)。
眼 帰ったらすぐ、トランペットのことで落ち込むんですよ。
坂田 (笑)。「あのタイミングで良かったのか?」とか?
眼 本当に音が出なかったな、とか。本当に、落ち込もうと思えば、幾らでも……ずっと落ち込んでられるんですけど(笑)。今は子供が出来たので、家に帰れば役者のことを考えずに済む、強制的にそうなっちゃうんで。自分の人生の中でガラッと変わって、前ほど長時間悩まなりました(場内笑)。
Q. トランペットを吹く行為自体は、ストレス解消になったりするんですか?
眼 ならないです(場内笑)。
武監督 与えられたものは、本当に無理矢理な状況だったから……
眼 いやいや、あれメンタルが響く楽器なので。緊張してると、息が出なくなっちゃうんですよね。
坂田 ……だって(笑)。
武監督 プロみたい(笑)。
眼 舞台で一回吹いて、全然音が出なくて……まともに吹けた回が一回もなく終わって……
坂田 トラウマだね(笑)。
武監督 即興で、いきなり「ここで吹いて」とか言ってたんですけど、それがまた面白かったりしたんですよね。
映画とは?
仕事とは?
武正晴監督の作品には、いつもそんな「映画の真髄」が詰まっている。
『きばいやんせ!私』は、そんな武監督作品の真骨頂だ。
作品が、映画が持つ力を、是非とも劇場の大スクリーンで肌で感じていただきたい。
明日の自分に、きばいやんせ!私――。
映画『きばいやんせ!私』
2019年3月9日より絶賛公開中
夏帆
太賀 岡山天音
坂田聡 眼鏡太郎 宇野祥平
鶴見辰吾 徳井優 愛華みれ
榎木孝明
伊吹吾郎
監督:武正晴
原作:足立紳
脚本:足立紳 山口智之
配給 アイエス・フィールド
2018年/116分
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