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『銃』(主演:村上虹郎/2018年/97分)『イン・ザ・ヒーロー』(主演:唐沢寿明/2014年/124分)の武正晴監督の最新作『きばいやんせ!私』が、全国で公開されている。


原作・脚本は、脚本家で映画監督の足立紳。

武監督・足立脚本は、『百円の恋』(主演:安藤サクラ/2014年/113分)『嘘八百』(主演:中井貴一・佐々木蔵之介/2018年/105分)の名タッグである。

更に、足立の体験をヒントに武監督メガホンで『リングサイド・ストーリー』(主演:佐藤江梨子・瑛太/2017年/104分)をも生み出した、筋金入りの名コンビだ。

『きばいやんせ!私』ストーリー

努力に努力を重ねテレビ局に就職、晴れてアナウンス部に配属され、念願の番組MCを務めていた女子アナ「コジタカ」こと児島貴子(夏帆)。だが、社内スキャンダルを週刊誌にすっぱ抜かれ降格、左遷、今はディレクター兼レポーターとして、冴えない話題をレポートする日々。

やる気はゼロで、キツい仕事はAD任せ。不倫騒動の相手である局プロデューサーは相変わらず活躍し、自分の後釜の新人女子アナをチヤホヤする社内の空気にも苛ついている。貴子はすっかり、世間で称された「クソ女」になりつつある。

ある日そんな貴子は、『日本の奇祭47選』なる企画の話を聞く。地味この上ない仕事だが、貴子は小学生の頃1年だけ過ごした鹿児島県南大隅町のことを、そして、南大隅町には数10kmもの道程の途中一度も降ろさず神輿を担ぐ「御崎祭り」があったことを思い出す。アナウンス部への復帰を仄めかされた貴子は、嫌々ながら鹿児島へ向かう。

南大隅町で待っていたのは、飄々とした町長(榎木孝明)はじめ、お調子者の田村(坂田聡)、変わり者の野田(眼鏡太郎)といった役場の人々。貴子は、案内役としてかつての同級生・橋脇太郎(太賀)を紹介される。町の主産業である畜産業を継ぎながら祭の実行委員にも注力し、懸命に町を盛り上げようとする太郎だが、貴子は彼のことを覚えてすらいなかった。

九州最南端の1300年続く奇祭で、貴子は「クソ女」の汚名を返上できるのか――?


3月17日(日)、公開2週目に入ったセンチュリーシネマ(名古屋市中区栄)に登壇した、武正晴監督とキャスト陣の舞台挨拶を取材した。


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MC. お一言ずつご挨拶をお願いいたします。(アイエス・フィールド 佐藤)


坂田聡 どうも初めまして、坂田と申します。名古屋とは何の所縁もありませんけれども(笑)、来てしまいました。映画、如何でしたでしょうか?去年の今ぐらいの時期にようやく撮り終わって、1年後の今こうやって皆さんにお披露目できて、本当に嬉しく思っております。今日は宜しくお願いいたします。


武正晴監督 この映画の監督をさせていただきました、武です。本日は来ていただきまして、どうもありがとうございます。


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MC. 今だから言える裏話は、ありますか?


坂田 日本男児として本当に恥ずかしいんですけど、神輿を担いだことがなかったので、神輿というのは本当に痛いんだな、という……肩が痛かったです。ツルツル滑るんですよね、ちゃんとした力の入れ具合が良く分からなくて。あと、「どんひら坂」で坂道を神輿を担ぎながら降りるというのが、また……本当に、難しいというか痛かったです。


MC. あのシーン、雨でしたよね?


坂田 そうですね……滑るんですよね。強行突破でしたけどね。


武監督 本当に、坂を降りる時にちょうど降ってきちゃったんですよね。途中で止んでくれたから良かったんですけど。あそこ……神輿を担いじゃ駄目ですよね。


坂田 (笑)


武監督 いや、言うのもなんですけど、そういうような所でしたよ。


坂田 そうですよ。1300年あれをずっとやってたかと思うと、凄いなと思いますよね。


武監督 坂田さんは博多なんですよね。御神輿は担がなかったんですか?


坂田 山笠(博多祇園山笠)ですね。あれは、アスリート系のタイムレースなんで、一応ぼくエントリーは何度かしたんですけど、「お前、駄目だな」ってことで。あれは、選ばれし人間がやってますね。


MC. 監督は、愛知県ですよね?


武監督 知多です。


MC. こちらの方の代表的な神輿といえば…?


武監督 あ、知らないです。近所の子ども神輿を……法被着せられて神輿を担ぎましたけど、何の祭だか知らないです。


坂田 (笑)


武監督 それくらいですね……あるんでしょうけど、まるで知らないですね。山車はあるみたいですけど。元々そういう共同体に参加するのは苦手な方なので、あんまり……


坂田 そうです(笑)。


武監督 我々、そうですよね。そういうものにあんまり参加しないようにして生きてきてるので。ただ、今回の映画のおかげで、ちょうど一年前我々は1000年やってきた祭りを2回やってもらったっていう。


坂田 そうですよね。


武監督 去年(祭り)を2回させてしまったという、もの凄い協力していただいて。エンドクレジットの映像が実際のお祭りですが、映画と役者以外はほとんど出てる人が一緒という(笑)。つまり、地元の人が皆参加してくれたんです。撮影をしてるというよりも、祭りをもう一回やっていただいて、その中に我々が混じってたまたま撮影をしたに過ぎないようなことでしたね。


坂田 ありがたかったですよね、本当に。


武監督 段々皆、カメラを忘れてましたもんね。坂田さんも途中、普通の顔になってましたもんね(笑)。


坂田 本当に痛いんですよ(笑)。神輿は大変なんです。


武監督 一緒にいた眼(鏡太郎)さんが、全然担いでないんですよね。


坂田 身長が全然違うんで……神輿って、同じ身長で担がないと力が分散していかないんで。


武監督 どうしても演出上はあの並びになってもらわなきゃいけないんで……本当は野田くん(眼)が前に来て坂田さんが後ろなんでしょうけど……


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ここで突然、場内にトランペットの音が響いた。

『アメージング・グレース』のメロディだ。


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坂田 え?


武監督 え?


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トランペットを演奏しながら眼鏡太郎が登場し、大きな拍手で迎えられた。


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眼鏡太郎 済みません!


坂田 喋っちゃいましたね(笑)。


武監督 いや、喋って良いと思います(笑)。「めがね たろう」と書いて、「眼(がん)鏡太郎(きょうたろう)」さんです。


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 済みません、(入場は)このタイミングかなと思って(笑)。


坂田 これ、全然打合せなしですからね(笑)。勝手に(入って)来たんですよ。


武監督 流れでね。


 トランペットを吹くためだけに、新幹線で来ました(笑)。


MC. 本日ご案内はちょっと伏せておきましたが、急遽来ていただきました。実は、監督が「来い、来い!」って。


武監督 最初にトランペット吹いて出てくれば良かったよね、我々が入ってくる前に。


 いや、ずっとそれ言われてますけど(笑)。


武監督 次の大阪(の舞台挨拶)は、それやってください。


 はい、分かりました。


坂田 (笑)


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武監督 眼さんがね、(神輿で)届かないから……


 本当に……坂田さんは大先輩ですけど、本当に申し訳なくて。僕の分も坂田さんが……


坂田 本当に力が乗っかってないのに、眼鏡太郎は乗っかってる体(てい)で辛そうな顔をしているってのが、僕はもう本当にムカついてましたね(笑)。


 済みません!


武監督 それを坂田さんに聞いて、今日はそこをチェックして観てたんですけど……確かに、あれは一緒にやってた人は相当ムッとしたでしょうね(笑)。


 手で上げてる体っていう……。


MC. あのシーンは、もの凄く危険だったということで、役者の皆さん鹿児島弁を喋っていたのが素になってたとか。


坂田 本当にそうですね。


武監督 一番分かるのは、太賀くんですね。「滑るよ!」とか、そんな言葉が(笑)。でも、坂田さんとかアフレコでちょっと誤魔化しましたよね。坂田さんも普通の言葉で……


坂田 「ダメだ!ダメだ!」って(笑)。


武監督 「オッケー」とか言ってましたもんね(笑)。あの辺は、ちょっとさすがに直しましたけど。でも、本当にあそこは一番緊迫するところで、よくぞ俳優の皆さんは……地元の方の支えもあって。後で聞いたんですけど、階段らしきものがあったじゃないですか、石が足場に埋めてあるところが。あれは江戸時代くらいから続いてる足場で、先人の人達が神輿の足の運びを「こういう順番に行きなさい」っていう石が置いてあるんです。あれが無いと、本当に危なくて。昔の人が次の人に向けて、神輿を担がせることによって、何か知らせるという物ですね。そういう、大人の世界に若者が入っていく通過儀礼として必要なものを……我々は(参加)して来なかったということですよね(笑)。


坂田 そうです(笑)。


武監督 ようやく出来て良かったですよね。僕も映画を切っ掛けに、そういうことに参加させていただいて、本当にありがたかったなと思います。


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MC. 南大隅町で映画を撮ることになった経緯は?


武監督 いや、「撮れ」って言われたからです(場内笑)。足立(紳)さんの【市川森一賞】の授賞式にめでたいということで付いていったら、そこでプロデューサーの高橋(康夫エグゼクティブ・プロデューサー)さんに「二人で鹿児島を舞台にした映画を撮りませんか?」って。「僕、たまたま父親が鹿児島(出身)なんですよ」なんて話をしているうちに、お祭りの話になって写真を見せられたんですけど、「これで映画なんて出来るのか?」って思ったんです。足立さんが1年後くらいにシナハン(シナリオ・ハンティング)に行って「お祭り見てきました」って全然浮かない顔をしてるんで、「どうだった?」って聞いたら、「いや……担ぎ手がいないし、御神輿トラックで運んでましたよ」って。「大丈夫か?」って言ってたんですけど、「それでも映画にしなきゃいけないんだったら考えなきゃ」って。「それをもうそのまま映画にしちゃったら良いんじゃない?」ってシナリオを作って。一番の問題は、町の人が怒り出すんじゃないかってことで……


坂田 そうですね。


武監督 (役者2人を指して)こういう役場の人とか、町長もあんな感じで(場内笑)。実際の名前を借りて、実際の場所で撮る訳ですから。「クソ祭り」とか「クソ田舎」とか台詞もあるし……。でも、全部OKだったんです。凄いなと思って。一番ハードルが高かったのは、女人禁制ということだったんで、恐る恐る聞いたんです。そうしたら、「撮影の時は神様は乗ってないんで、良いですよ」って(場内笑)。大らかなところだなあ、と(笑)。後で聞いたら、シナリオの足立さんのお母さんも鹿児島出身だったんですね。お互いその話は全くしてなかったんですけど、凄い偶然で。榎木孝明さんと同じ高校に通ってたとか。


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坂田 薩摩半島の方は新幹線も通ってメジャーなんですけど、大隅半島は本当に忘れ去られたというか……。


武監督 薩摩半島、ちょうど対岸で『RAILWAYS』(かぞくいろ RAYLWAYS わたしたちの出発)を撮ってましたね。「こっちはレールねぇよ!」って(笑)。かたや、『西郷どん』も、撮ってて……鹿児島は、撮影が凄かったですね。空港から2時間半、3時間半という感じで……


 まさか、鉄道が無いとは思わなかったですね。


武監督 その後、(南大隅町に)行きました?


 いや、行ってないです。


坂田 いやぁ……だから、行かなきゃですよね。


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武監督 ラッパ吹きに行った方が良いよ(笑)。この人は、この曲しか吹けないんです(笑)。特技に「トランペット」って書いてあったんで、最初にお会いした時に「済みません、今回の役は台詞抜きなので申し訳ないです」って話をしたんですよ。トランペットを吹けるってプロフィールに書いてあるから、「これ、やりましょう!」って言ったら、「いや……実は、一曲しか吹けない」って(場内笑)。しかも、ケラ(ケラリーノ・サンドロヴィッチ)さんの演劇でやって以来、吹いてないって……ほとんど、嘘なんですよ。


 (笑)


坂田 嘘つきなんですね(笑)。


武監督 だけど、その一曲のおかげで、ああやってシナリオにトランペットを吹くシーンが。


坂田 そうですね……豚が鎮まる訳ですからね。


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武監督 『アメージング・グレース』って権利が取れる曲で、自分の映画を観ると大体この曲を使ってて(笑)。3回続けて作品でこの曲なんで……「またこの曲かよ」って、情けなくて(一同笑)。でも、結果意味が付いて、凄く良い感じになったんですけどね。今日は、あんまり上手くなく入ってきたのが良かったですね。


 いや……素です、本当に。


武監督 このコースがきつかった?まさか、(センチュリーシネマの作りが)こう来てこう曲がるとは思ってなかったでしょ?


 そうですね、遠かったです(笑)。


武監督 息が切れましたもんね。尺もあってなかったし。


坂田 広島の(舞台挨拶の)時、凄く上手かったんですよ。


武監督 確実に、練習してきてるんですよ。


坂田 今日は、何で上手くなかったの?


 監督にそう言われたんで、あの日以来一切練習はしてないんです。あとは……本当に緊張して(笑)。


MC. お時間もなくなってきたので……


武監督 なんかグダグダで……


坂田 本当に、済みません。


MC. いえいえいえ!もう皆さん、爆笑の渦で(場内笑)。


武監督 いやいやいや、そんなことないでしょう(場内笑)!凄いまとめ方で(笑)。


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MC. 最後に、ご挨拶をお願いします。


坂田 皆さんの口コミだけが頼りでございます。もしよろしかったら、「この映画よかったよ」って色々拡散していただけたら本当に嬉しいです。今日はどうもありがとうございました。


 この映画でしか観ることが出来ない色々なものが詰まってる映画だと思います。替えの利かない映画だと思いますので、是非お近くの方に広めていただいて、皆さんに観ていただきたいと思います。宜しくお願いしいたします。本日はどうもありがとうございました。


武監督 20代、本当に忙しい中仕事をしてる若者、もしくは30代、中堅のところで奮闘してる皆さんに観ていただければ。「仕事とは?」「仕事をするということとは?」「自分にとって仕事とは何ぞや?」ということで僕たちは作った映画なので、そんな世代の方にも何か伝わると良いなと思っています。それと、日本の端々で御崎祭りという1000年以上続いてるお祭りがあるということは、本当に奇跡的なことであるということを、それを更に未来へ続けていくという人々がいるということを、知っていただけたらと思います。今この時期、良い映画を沢山やっています。この劇場でも特にアカデミーの『グリーンブック』はじめ各国の本当に素晴らしいプログラムがある中で、今日は選んで来ていただいたのは本当にありがたいことです。この劇場も含めて、我々の映画も広めていただけたらと思います。今日はどうもありがとうございました。


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万雷の拍手を送り席を立つ観客は、皆笑顔でスクリーンを後にした。


映画『きばいやんせ!私』

2019年3月9日より絶賛公開中


夏帆

太賀 岡山天音

坂田聡 眼鏡太郎 宇野祥平

鶴見辰吾 徳井優 愛華みれ

榎木孝明

伊吹吾郎


監督:武正晴
原作:足立紳

脚本:足立紳 山口智之

配給アイエス・フィールド
2018年/116分


『きばいやんせ!私』公式サイト

http://kibaiyanse.net/