サブ10-20190313-193548807

社会派映画


アクション映画


コメディ映画


ロマンス映画


ファミリー映画


ピカレスクロマン


ハートフルドラマ


ロードムービー


ミュージカル


オフビート作品


逃亡劇


そんな作風が好みの映画ファン全てを満足させてしまう、驚愕の怪作が公開されている。

ベネディクト・エルリングソン監督の『たちあがる女』だ。


「たちあがる女」サブ1-20190313-193512898

エルリングソン監督は、処女長編作『馬々と人間たち』(2013年/81分)がアイスランドのみならず世界中で絶賛され、日本でも公開されるや話題となった。

アキ・カウリスマキ、口イ・アンダーソンに続く「北欧の才能」と全世界が注目する、アイスランドの星である。


最新作『たちあがる女』も、【アカデミー賞®】(2019年)アイスランド代表、【カンヌ国際映画祭】(2018年) 劇作家作曲家協会賞受賞など世界の映画祭を席捲中であり、満を持しての日本公開となった。


サブ12-20190313-193558109

『たちあがる女』ストーリー

広大なアイスランドの大自然に似つかわしくない高圧送電線の鉄塔が、緑なす風光明媚な大地に林立している。環境活動家「山女」ことハットラ(ハルドラ・ゲイルハルズドッティル)は、今日もアーチェリーを使って送電をショートさせ、アルミニウム工場を操業停止に追い込む。度重なる妨害行為により手を引く海外資本も出つつあるが、工業化政策を押し進める政府の影響は大きく、取り締まりは厳しくなる一方だ。
そんな謎の環境活動家も、普段は田舎町の合唱団の講師として生計を立てている。ある日、ハットラに一本の電話が掛かる。長年なしの礫だった養子申請が認められたのだ。喜びつつも戸惑い迷うハットラを、姉でヨガインストラクターのアウサ(ハルドラ・ゲイルハルズドッティル/二役)が背中を押す。
念願の母親になるため、娘をウクライナに迎えにいくハットラは、「山女」としてアルミニウム工場に、アイスランド政府に、最後の戦いを挑むのだが――。

「たちあがる女」サブ4-20190313-193520726

主人公ハットラを演じたハルドラ・ゲイルハルズドッティルが、素晴らしい。

本当に、これに尽きる。

時にそっくりに映り、時に全く違う印象となる、姉アウサとの繊細かつ堂々たる演じ分けにも、是非とも注目してほしい。


思い通りに行かない日々にもへこたれず、周囲の人々からの苦言にも流されず、迷いながらも幸せを掴み取らんとするハットラの生き様。

世界中の共感を呼び起こした物語は、ハリウッドでジョディ・フォスターの監督・主演によるリメイクが決定している。


「たちあがる女」サブ3-20190313-193518751

舞台演出家でもあるベネディクト・エルリングソン監督は、強烈な社会風刺を独特なユーモアで表現し、骨太な縦軸を軽妙洒脱な横軸で包むことにより、実に飽きることのない濃密かつ軽快な101分に仕上げてみせた。

そして何より、『たちあがる女』では他の作品には見られない、唯一無二の表現方法が採られている。


誰でも、自らを奮い立たせる時、後悔に打ちひしがれる時など、心の中で「内なるもう一人の人格」と会話するものだ。

合唱団を指導するハットラにとって、そんな“アニムス”は音楽なのだ。

危機が迫るなど理性を働かせる時に、ハットラの周囲に突如ブラスバンドが現れて演奏する。

感情が昂ぶった場合は、女性コーラス隊が出現し、時に美しく、時に力強い歌声を聴かせる。


サブ8-20190313-193542867

楽団は、ドラム(パーカッション)、ピアノ(時にオルガン、アコーディオン)、チューバ(スーザフォン)のスリーピースという、実に独特な構成だ。

合唱隊も、ウクライナの民族衣装に身を包んだ三人の女声コーラスで、北欧神話にいう「運命の三女神」(ウルド、ベンザンディ、スクルド)を想起させる。


そんなハットラの頭の中にだけ在るはずの音楽隊が、突如スクリーンに登場するのだから、観客は大いに戸惑わされることとなる。

だが、それが良いのだ。

ハットラが自分だけに見えるミュージシャンとアイコンタクトを取る場面は、「自分を鼓舞する」「決意する」など感情表現の“新発明”なのだ。


サブ9-20190313-193545332

ハットラの「たちあがる姿」、「たたかう生き様」、「折れない心」から、大いなる力を受け取ってほしい。

ハットラをそこまで衝き動かすものは、ラスト近く彼女が描く絵に集約されているので、お見逃しなく。


そして、ラスト……

奏で、歌う音楽隊をパンニングしたカメラが捉える、恐ろしい映像。

それこそが、『たちあがる女』(原題:Woman at war)の忘れてはならない、魂のメッセージだ。


北欧神話を構成する重要な原典の一つ『古エッダ』、その冒頭であり最も有名な『巫女の予言』の第37節に、こんな詩篇がある。


彼女は館が建っているのを見た
太陽から離れて
ナーストロンドという地なのだ
その扉は北に向いている
毒気のある滴りが落ちてくる
屋根の天窓から入ってくる
その館は
蛇の背骨を編んで作られている


「ナーストロンド」とは、「遺体の岸辺」という意味だそうだ。

そして、「蛇の背骨を編んで作られている」館とは……思い起こさないだろうか、高圧送電線の鉄塔を――?


サブ11-20190313-193553751

映画『たちあがる女』

3月16日(土)〜名演小劇場(名古屋市東区東桜)

配給:トランスフォーマー


『たちあがる女』公式サイト

http://www.transformer.co.jp/m/tachiagaru/

©2018-Slot Machine-Gulldrengurinn-Solar Media Entertainment-Ukrainian State Film Agency-Köggull Filmworks-Vintage Pictures