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豊橋市や愛知県にゆかりの作品を上映する【ええじゃないか とよはし映画祭】も、今年が第3回の開催となる。

3月9日(土)、穂の国とよはし芸術劇場PLAT(豊橋市西小田原町)に、上映作品『ミスミソウ』(監督:内藤瑛亮/2018年/114分/R15+)の舞台挨拶を取材した。

登壇したのは、内藤瑛亮監督と、主演の山田杏奈。

内藤監督は、愛知県豊川市の出身だ。



内藤瑛亮監督 豊橋は、学生の頃からよく映画を観にきてました。そのミニシアターは、今はなくなってしまったんですけど。その地で映画祭が開かれて、自分の映画が上映できて、観てもらえて、凄く嬉しく思ってます。今日はありがとうございます。


山田杏奈 皆さん、こんにちは。野咲春花 役の山田杏奈と申します。豊橋は初めて来たんですけど、映画祭ということで凄くワクワクしてます。本日はよろしくお願いします。


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森谷雄 『ミスミソウ』は、ちょうど第1回の映画祭の後に撮られたんですよね?(MC/映画プロデューサー)


内藤監督 そうです。2年ほど前、映画祭の時がちょうど『ミスミソウ』の準備真っ盛りでした。


桃月なしこ と言うことは、3月くらいの時期に?(MC/コスプレイヤー)


内藤監督 3月中旬か、後半くらいに入ったと思います。


桃月 この映画はずっと雪のシーンでしたが、けっこう雪は解けてる時期ですよね?


内藤監督 ロケ地が色々あったんですが、クランクインまでの期間が短くて、雪が解けかけてるのでどうにか残ってる所ということで、長野や新潟に行って撮ってたんです。


森谷 けっこう転々と……雪を追っ掛けたんですか?2年前って暖かかったですよね?


内藤監督 そうですね。制作部は「雪がない!雪がない!」って(笑)。


森谷 でも、映画では本当に雪が効いてますよね。


桃月 本当に。真っ白な雪に、真っ赤な血が……杏奈さん、今日は赤を着てくださってるますね(笑)。


森谷 そこは、やっぱり狙ったんですか?


内藤監督 そうですね。「白と赤のコントラストで行こう」っていうことで、衣装部に話して。春花の服が、一番最初の登場シーンだと全体的に紺で、赤が差し色にちょっと入ってるんです。それが徐々に、彼女が罪を犯すに連れ、赤が広がっていって、最終的には全身赤、と。で、対照的に彼女と対峙する人は全体的に真っ白で、それが赤に染まっていったり、そんなプランで組み立てていったんです。


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桃月 今の話を聞いただけで、鳥肌が立ったんですけど……そこまで考えてらしたんですね。


森谷 吃驚しました。杏奈さんも、雪の中で大変だったんじゃないですか?


山田 寒かったですね。血糊も付いてるし、体温は下がっていくんですけど……でも、その寒さがあったからこそ、ああいう画になってると思います。今は撮影してても、あれより寒いことはないという感じです(笑)。『ミスミソウ』でそういう経験が出来て、凄く良かったと思います。


内藤監督 僕はまだ防寒着を着れてるんですけど、彼女は軽装で、ましてや血塗れなんで、ほぼ濡れているという状況でやってたんで、凄く大変だったと思います。


桃月 そうですよね。水かぶってるようなものですもんね?


内藤監督 そんなもんですよね。で、足りなければもっと掛けて。結果、寒すぎて目が死んでるみたいになったんですけど(笑)、でも内容的にはそれでアリな感じなんで……「死んだ目で演ってください」って。


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森谷 監督、オファーを受けた時は、どういう状況で?


内藤監督 原作(作:押切蓮介)のことは以前から知っていて、この企画は別の監督でずっと進んでたんですよ。プロデューサーのことはよく知ってて、「俺じゃないんだ……」というちょっと残念な気持ちで……たまに「どうなってるんですか?」って聞いたりしてて。で、2年前の2月頭頃にプロデューサーに呼び出されて……


森谷 え?


桃月 1ヶ月前くらいですか!?


内藤監督 「今すぐ会いたい」ってメールが来て。


森谷 恋人からのメールみたいですけど(笑)。


内藤監督 「家の傍まで行きます」って。


森谷 彼女じゃないですか、本当に(笑)。


内藤監督 「取りあえず飲みましょう」ってなって……でも、なかなか言ってくれないんですよ。しばらく飲んで、色んな他の現場の話とか、「大変だよね、あの組」みたいな悪口を色々言ってて。で、田坂(公章プロデューサー)さんに「『ミスミソウ』どうなんですか?」みたいな話をしたら、「いや、撮影1ヶ月前なんだけど、実は監督が降板することになっちゃって」「大変ですね!」「それを、内藤さんにやってもらおうと思ってるんだよね」って(笑)。準備期間が余りにも短いので、ちょっとどうしようか考えて悩んだんですけど……その時、山田さんは決まっていて、オーディション映像を見せてもらったんです。それが、凄く魅力的で。オーディション当時は……


山田 15歳です。


内藤監督 10代の子たちの顔って、どうしても変わっていくじゃないですか。15歳その瞬間の山田さんを撮りたいなって、直感的に思いました。で、色々大変だなとは思いながらも、引き受けた感じですね。


山田 私もオーディションを受けて『ミスミソウ』をやらせてもらうことになった感じなんですけど……私も原作を知ってたので、原作を知った上で「『ミスミソウ』のオーディションがあります」って言われた時、「あ、あれ実写化やっちゃうんだ!」って思ったんです。原作を知ってるからこそ、凄く演らせてもらいたかったのがあったので、オーディションも自分の中で気合いを入れてやりました。そうしたら、春花役を演らせてもらうことになって……でも、「監督が……」って話を聞いていたので、「大丈夫かな?」って思ったんですけど、結果的に内藤さんとご一緒できて本当に良かったです。


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桃月 漫画に着いてるファンの方に、三次元化した時に「イメージが違う」と言われたり……漫画原作を実写化するのって、けっこうハードルが高いですよね?


内藤監督 山田さんの映像を見た時に、山田さんが春花っていうのは自分の中でバチッと嵌まったっていうのがありますね。他の出演者の方も全員オーディションで選んで良いとプロデューサーさんに言われたので、それがけっこう大きかったですかね。予算や宣伝的に「ネームバリューのある人で」って、中学生役なのに20歳過ぎの人になってしまうということが、どうしても商業映画の要請上あるんですが……今回に限っては「無名で良い、ちゃんと10代の役に嵌まる子で見つけましょう」って方針があって、それがかなり助かったところです。演技力というより、存在感とか資質みたいなところで選んでいったんで、流美(大塚れな)とか妙子(大谷凜香)は2人とも映画初出演だし、妙子に関しては演技経験がほぼ無かったんですよ。でも、凄く頑張ってくれて良かったです。


桃月 全然初めてのようには見えなくて、今聞いて吃驚しました。


内藤監督 大変だったんですよ(笑)。大谷さんは演技をやったことがないんで、ちょっと大丈夫かって雰囲気はあったんですけど、何か輝きを感じて。彼女を選ぼうということでリハーサルに呼んだんですが、経験なさすぎて全然演技が出来なくて……「おい内藤、なんて奴を選んだ!?」ってスタッフからの圧が来て(笑)。「頑張れば何とか、あの輝きが出るはず」と……撮影自体は日中で終わることが多かったんです。泊り込みで撮影してたので、夕飯までリハーサルを毎日やったんです。山田さんにも付き合ってもらって……


山田 はい、やりました。


内藤監督 山田さんがいない時は、僕が春花をやって(笑)。そんな風に重ねてったんです。


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森谷 昼も夜もという……持久走みたいな撮影だったんですね。


内藤監督 準備期間が短かったのもあって、演出部のチーフが決まったのは撮影の1週間前とか……準備が出来てないまま(クランク)インした感じで。例えば、重要なアイテムのMDプレーヤーは、撮影の前日に用意されてなくて。話をした時は助監督も決まってなくて、ラインP(プロデューサー)に「原作に無いけど、MDプレーヤーを使いたい」って言ってたんですけど、前日になって「無い」。「どういうことですか?」って言ったら、「いや、冗談だと思ってた」って……「どこが笑うポイントの冗談なのか?」って(笑)。でも、何とか新潟で持ってる人を探して。


桃月 映画の準備期間って、普通はどれくらいあるものなんですか?


内藤監督 どれくらいでしょう(笑)?


森谷 ……予算によるね。でも、1ヵ月は取りますよね?


内藤監督 1ヶ月前には、ある程度決まってますよね……スタッフィングやキャスティング、ロケ地、ある程度目星が着いてる。今回の場合は、山田さんと清水(尋也)くんだけが決まってて、キャスティングもスタッフも、ロケ地も一切決まってない段階でした。


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森谷 撮影秘話的なものは、ありますか?


山田 撮影秘話……雪の中を久賀くん(遠藤健慎)がどんどん行って私が追い詰めていくシーンがあるんですけど、あそこは崖みたいなところで……


内藤監督 完全な崖ではないんですけど……急な坂?


山田 急な坂に雪が積もってるところを歩いてくんですけど、足跡が着いちゃうから誰も行けなくて、どこまで行っても大丈夫なのか安全性もないまま、久賀くんが第一人者でどんどん歩いて……どこから落ちるのかが分からないのに(笑)。大丈夫なところでやってるんですけど。


内藤監督 一応、地元の人に聞いたんですけど、「あの辺は、大丈夫」「この辺は、10mくらい下だから」って言われて……「え!?」って(笑)。


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山田 私は久賀くんの足跡を辿っていけば良いので、大丈夫なんです。「久賀くんが落ちたら止まろう」って(笑)。大丈夫だったんですけど。足跡は大変でしたね、毎回消して……血の跡も。


内藤監督 リテイクする時は、血が付いてる雪を一回排除して、綺麗な雪を乗せなきゃ出来ないですからね。普通そういうのはスタッフに任せるんですけど、僕も一緒に雪掻きして。


山田 監督が一番やってましたよ。


内藤監督 立場上一番偉い僕がやったら、「皆やってくれるよね?」って。皆でやってました、メイキングの方とか……


山田 アクション部の方も。


内藤監督 芝居に都合の良いところだけ雪が残る訳じゃなくて、なくなってるところもあって。「ここに雪、用意しといてください」って言ったところに雪がなくて、要らないところにメッチャ盛ってたり(笑)。バス停(のシーン)は、そうですね。あそこは全く雪がなかったんですけど、運んだんです。


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森谷 雪をなくす現場は一杯やってますけど、雪を持ってきた現場は経験ないです。


内藤監督 穴で殺人が起きるシーンは、完全に雪がないところで撮影して、その後トラックで雪を運んでるんですよね。でも、天気がよくて撮影中どんどん雪が解けちゃって、「もう一杯、雪!」みたいな感じでトラックで持ってきたら、また3時頃に「ない!」とか(笑)。


山田 みんな死体で埋まってるところは、本人たちが埋まって演ってるんですよ……本当に、あれが一番寒そうでした。


内藤監督 一応、防寒のために中に毛布とか仕込んでるんですけど……「可哀相に……俳優って大変だな」って(場内笑)。


森谷 監督っていうのは、基本的にSですね(笑)。





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これまでのトークもちょくちょくネタバレだったが、これ以降は致命的なネタバラシとなる。


『ミスミソウ』未見の方は、読むと絶対に後悔するので、読み飛ばすことをお薦めする。





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本当に、読みますか?


原作漫画の『ミスミソウ』を読んだことのない方にも降りかかる、本当に致命的なネタバレですが?





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以下、ネタバレ注意!!


桃月 原作と映画で違う箇所があったじゃないですか?その辺りの意図は?


内藤監督 1ヶ月ちょっと前にオファーを受けたので、ホン(脚本)作りの中には関わってないんですよね。ほぼ頂いたホンと変わってなくて、そこから削るくらいの感じでやってたんですね。僕も原作は読んでたんで、大きくはラストが違う……妙子は、原作では死んでるんですよね。で、お爺ちゃんが生き残って終わるんです。それに関しては、僕は素晴らしい脚色だなと思っています。漫画と映画の時間の流れは決定的に違っていて、特に連載漫画だと3年くらい掛けて物語を追っ掛けていくんですね。だから、途中で出てくるお爺さんが最後を飾るのも全然アリで。でも、映画の体感としては、途中から出てきた人がポンと最後に来るのは、ちょっと違和感がある。尚且つ、妙子だけが唯一、贖罪をしたんですよね……他の子共たちは、自分の罪から目を背け続けた。なので、妙子が生き残るっていうのは、ある種救いにも感じるし、重い罰にも感じる……彼女は、背負って生きていかなきゃならない、と。そういう意味で凄く良いと思ったし、山田さんとも話してたんですけど、春花が一声掛けるあの場で妙子は死ねなくなっちゃったんじゃないかなって思います。それが、2人の演技に反映されたんじゃないかと思うんですが……どうですか(笑)?


山田 妙ちゃんにとって、この先も生きてかないといけないってことが一番の罰じゃないですけど、重さですし……一番辛い、大変な選択じゃないですか。何なら自分で命を断った方が……っていう。


内藤監督 「いじめっ子だから、あいつが死ねば良いのに」と思う方もいるんですけど、僕はその方が楽だなと思って。彼女だけは唯一罪の意識を持ち得たので、生きざるを得ないのかなと……そういう残酷さもあるんじゃないかと思ってます。


……ネタバレ、以上。


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ある意味、自分のキャリア的にも転換期になると思っている作品を、地元の映画祭で掛けられて、良かったなと思ってます。ソフトも発売してまして、メイキングの中で寒さに震えながら撮影してる僕らが見れますので、よかったら観てみてください。今日はありがとうございました


【ええじゃないか とよはし映画祭】をクラウドファンディングで支えたサポーターの代表の方から花束を受け取った内藤瑛亮監督は、そう言った。


『ミスミソウ』は、完成披露試写からちょうど今日で丸1年なんですよね。1年後にこういう場所で上映できるのが、凄く嬉しいなと思っていて。初主演映画で凄く印象に残っているので、こうやって今も皆さんに観ていただけることが、凄く嬉しいです。私自身、凄く思い入れの深い作品なので、これからも色んな人に観ていただけたらなと思います。今日はありがとうございました


監督の言葉を受けて最後を締めたヒロイン・山田杏奈に、満場の拍手が送られた。


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『ミスミソウ』は、これからも愛され続けていくに違いない——。


映画『ミスミソウ』公式サイト

http://misumisou-movie.com/sp/index.html


【ええじゃないか とよはし映画祭】公式サイト

http://etff.jp