ハアァ〜 あれは双葉の コォリャ
ヤレッサな 寄せ太鼓よ〜
胴太鼓と締太鼓が刻む簡素なリズムと、横笛の節回しに合わせ、歌い手が発するのは「双葉盆唄」である。
そこは、福島県本宮市……双葉町から80km離れた避難所だ。
「町自体が消滅状態じゃないですか。だから、残すって言ったら、今ない所に輸出するしかないわね」
太鼓の叩き手は、そう言って笑う。
『ナビィの恋』(1999年)『ホテル・ハイビスカス』(2002年)の中江裕司監督の最新作は、福島県双葉町の伝統芸能、ハワイのボンダンスを追ったドキュメンタリー映画『盆唄』だ。
創作太鼓の横山久勝、写真家の岩根愛、ハワイの日系人アルバート・サダオ・渡邉……
中江監督のカメラは、関係者の証言を引き出すというよりは、人々の心根に寄り添う。
「昔のBON DANCEは、フクシマオンドだけを何時間も続けたそうです」
歴史を追うことは、即ち、今を詳らかにすることだ。
ハワイに伝わった「フクシマオンド」は、マウイ島、オアフ島、ハワイ島で、少しずつ形を変えている。
「進化ですよね。場所も変わって、変化して、変化した所の方が意識が高い」
幼い頃から祭りを、盆踊りを愛してきた横山は、総勢7名の仲間を集め、「双葉盆唄」を伝えるため再びマウイ島の地を踏む。
震災後、帰還困難地区となった故郷・双葉町へ今も帰れる目途すら立たずにいる人々が、遠いハワイで盆唄の継承に尽力する。
いつか故郷に還る時、忘れ去られた盆唄を、今度はマウイの人々に教えを乞う日が来るかもしれないのだから——。
今から100年以上の昔、国策で日本からハワイに渡った移民たちの生活は、困難の連続であった。
ハワイ ハワイとよ 夢見て来たが
流す涙は キビの中
今日の仕事(ホレホレ)よ 辛くはないよ
昨日届いた 里だより
行こかメリケンよ 帰ろか日本
ここが思案の ハワイ国
プランテーション労働歌「ホレホレ節」は、艱難辛苦の一端を今に伝える。
「移民した時の気持ちは分かるよ……どんなに苦労したかというのが。我々だって避難してね、苦労が分かったもの」
そう言う双葉盆唄の踊り手・井戸川容子は、200年以上前に富山から相馬地域まで500km強の道程を徒歩で渡ってきた「相馬移民」の末裔だ。
富山・南砺地方には、盆唄の原型と伝えられる「ちょんがれ」が、今も歌い継がれている。
江戸時代末期の宝永、天明の御世、富士山や浅間山噴火による噴煙は広い範囲に大飢饉を齎した。
疫病にも見舞われ9万の人口が3分の1となったという相馬中村藩では、越中・加賀から移民を募ったのだ。
だがしかし、相馬移民たちに待っていたのもまた、言われなき差別……やはり艱難辛苦の連続であった。
そんな人々に寄り添ったのもまた、盆唄であった——。
人は、揺らぐ。
常に揺らぎつつ、生きている。
人生は艱難辛苦の連続だから、自身のアイデンティティを求め、生きる。
自分は、どこから来たのか。私たちは、どこへ往くのか。
苦しみは、どこから来るのか。人生は、どこへ向かうのか。
そんな揺らぐ心にいつしか寄り添うのが、盆唄——故郷からの、先祖からの歌、想いなのだ。
中江裕司監督の映像マジックは、冴え渡る。
モノクロ映像が、パノラマ写真が、アニメーションが、ミュージカル的演出が、ドキュメントをドラマに変える。
批判を承知で敢えて書くが、震災の、歴史上の、あらゆる人生の悲劇は、エンターテインメントに昇華される。
ラスト、涙しながらも躍動する心……こんな感動、否、激情を呼び覚ます映画は、他にはない。
太鼓よ、笛よ、唄よ、囃しよ、踊りよ……盆唄よ!
苦しみを、悲しみを、困難を、苦境を……鬼を、祓え!!
人生は祭りだ、やぐらを立てよ——!!!
映画『盆唄』
2/23(土)~ 名演小劇場
配給:ビターズ・エンド
©2018テレコムスタッフ
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