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吉本ばななが自ら最高傑作と語る『デッドエンドの思い出』は、短編小説ながら多くの人々に愛される作品だ。


そんな『デッドエンドの思い出』が、映画化された。


日本国内に留まらず海外でも高い支持を集める原作に相応しく、映画『デッドエンドの思い出』は日韓合作映画となった。


監督は、本作が長編デビューとなるチェ・ヒョンヨン。

大学で日本文学と映画を学んだチェ監督は、短編映画『The after…』が国外でも高く評価され、2010年【あいち国際女性映画祭】に招待され短編映画『お箸の行進曲』を監督した経歴を持つ。

そんな縁もあり、物語の舞台を韓国と日本に移した映画『デッドエンドの思い出』は、全ての撮影が愛知県内で行われた。

『デッドエンドの思い出』ストーリー

韓国で暮らすユミ(チェ・スヨン)は、日本に配属された婚約者・テギュ(アン・ボヒョン)からの連絡が滞りがちなのを気に掛けていた。口うるさい母や世話焼きの妹・ユジョン(ペ・ヌリ)にも心配され、ユミはテギュに会いに行くことを決心する。行き先は、名古屋だ。

だが、テギュが住むマンションを訪ねてみると、ユミを出迎えたのは見知らぬ日本人女性・アヤ(平田薫)だった。話を聞くと、彼女はテギュと一緒に暮らしていて、将来を誓いあっているという。

ユミはホテルを引き払い、行く宛もないまま名古屋の街を彷徨い歩く。失意の中たどり着いたのは、「エンドポイント」という名の古民家カフェ兼ゲストハウスだった。なりゆきで泊まることになったユミに、オーナーの西山(田中俊介)は言った。

「次のお客さんは、いません」


2月16日(土)より新宿武蔵野館、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場ほかでロードショー公開となる『デッドエンドの思い出』は、2月2日(土)からシネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)で先行上映が始まっている。


2月3日(日)に登壇した、名古屋発のパフォーマンスユニット【BOYS AND MEN】の田中俊介の舞台挨拶をレポートする。


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田中俊介 西山を演じました、田中俊介です。よろしくお願いします。


MC. 田中さん、その頭は何ですか?(シネマスコーレ 木全純治支配人)


田中 もう、成人式みたいな感じですよ(場内笑)。今日は(『デッドエンドの思い出』公開の)お祝いですから、バシッと決めてきましたよ!


MC. 「バシッと」(笑)?


田中 バシッと(笑)!木全さんも今日、髪型決まってますね(場内笑)。


MC. 思い起こせば、僕が田中さんに原作をお渡しして、「読んどいてよ」って(場内笑)……


田中 ……そんな雑な感じじゃなかったですよね(笑)?


MC. (笑)。読まれて、どんな感じでした?


田中 吉本ばなな先生の作品は、もちろん存じてました。『デッドエンドの思い出』は物語が何本もある本の中のラストを飾る短編で、読み進めていく中で心が温かくなる物語だと思いました。これを映像化した時、そして短編小説だったので長編映画になった時に、どういった感じになるのか。そして、僕が演じる西山という役が本当に魅力的な男性だったので、どう表現したら僕がこのスクリーンの中に存在することが出来るのか……楽しみと、正直不安な部分もありました。


MC. 多分、今までスクリーンで観られた田中さんとは、かなり違ったのではないかと思うんですけど?


田中 いや、そうなんですよね。本当に、血が出まくる映画ばかりでしたので(場内笑)。そういう映画が立て続けに続いたので……実際のところは、そうでもないんですよ(笑)。映画やドラマ、幅広く観ていくと、別にそんなに血だらけにはなってないんですけど(場内笑)、あまりにもそういうイメージが付きすぎちゃって(笑)。


MC. 前以て台本をお渡しして、初めてスヨンさんとホン(台本)読みをしたのは、撮影の3日くらい前でした。印象は、どうでしたか?


田中 初めてスヨンさんとお会いして……「少女時代や……!!」って(笑)。足、細ッそ!って、思いました(場内笑)。でも、日本に来て、日本の映画での初めての主演という不安もあったと思うんですけど、作品への真剣な取り組み方を凄く感じられました。ホン読みから撮影に入るまでは数日間しかなかったんですけど、リハーサルや現場の下見が解散になった後、一緒にホンを読んでディスカッションがしたいと言ったら、何時間もずっと付き合ってくれて。作品への向き合い方だったり、映画への愛だったり、凄く近いものを感じることが出来ましたし、僕自身も凄く学ぶことも多かったです。この作品を通じて、初めて韓国人のお友達が出来た気持ちになれたので、僕にとってこの『デッドエンドの思い出』は役者として大きい作品になったと思います。


MC. スヨンさんと田中さんは、同い年でしたっけ?


田中 同い年なんですよ。


MC. そして、なんと(チェ・ヒョンヨン)監督が、2歳上なんですよね。


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田中 ……同い年では、なかった(場内爆笑)!?今の流れだと、「なんと、3人とも29」かって思いましたが(笑)。2個上で、同世代ですね。


MC. 同世代の監督との話し合いは、どんな感じでしたか?


田中 監督は、とにかく話し合い、ディスカッションする場を設けてくださって、現場であるカフェにも「全然行って良いよ。そこで、感覚を掴んで」みたいな感じで。「どういった映画にしていく?どういう役にしていく?ユミと西山はどういったコミュニケーションを取る?」そういう話し合いを撮影前に設けてくれるところから演出が始まってたのかなと思います。とにかくコミュニケーションを取る、それが監督の演出の意図だったのかと思いますね。


MC. コミュニケーションといえば、カメラは全部韓国の人たちだったんです。そして、照明は東京から来ていただいて、名古屋部隊は美術と録音でした。皆3日くらい前に集まってやり始めるんですけど、そう簡単に撮影部や照明部と意思の疎通が出来た訳ではないんですよ。その辺り、俳優部も結構大変だったんじゃないですか?


田中 そうですね……今回は日韓合作で、撮影は日本だったんですけど、現場を飛び交う言語は韓国語だったので、韓国に来て韓国映画に出演している気分になるくらいでした。僕自身、「え、何言ってるの?」「僕を置いて行かないでよ(場内笑)!」そんな状況が多々あったんですよ。でも、そんな中で西山を演じるに当たっても、とにかくコミュニケーションを取ること。撮影以外の空いてる時間、そして別の仕事でもプライベートな時間があったら現場に行ってコミュニケーションを取る。そういったオフの時間の空気感が、作品に乗っかると僕は思ったんです。今までそういった取り組み方をしたことがなかったんですけど、初めての挑戦で。韓国人の皆さんにも日本の皆さんにも一杯喋って、コミュニケーションを取った印象です。


MC. 「田中さんは無口」と聞いてたんで、吃驚しました(笑)。


田中 本当に、『デッドエンド』以前の作品は、とにかく現場では一人でポツンといて(笑)。『恋のクレイジーロード』(監督:白石晃士/2018年/18分)でも、相手役の方(芦那すみれ)が「ねぇねぇ、何やってんの?」って寄ってくるんですけど、僕は「(小声で)ごめん。ちょっと集中したいから」(場内笑)。そういった感じだったんですよ。今回は、もう真逆な……とにかく一杯喋った感じでした。


MC. 今回、私はケータリングを担当したんですが、田中さんも上手い差し入れをしてくれるんですよ。そうしたら、スヨンさんも差し入れしてくれたんですよ。エビ(フライ)サンドを(場内笑)!


田中 コンパル、美味かったですね(笑)。


MC. 田中さんは、なんと……入浴剤を(場内笑)!あれ、どこで発想したんですか?


田中 ……恥ずかしいな(笑)。春ではあったんですけどまだまだ寒い時期で、皆さん疲労困憊だったんで……どうやったら皆さんが気持ちよく進むことが出来るかなと思った時に、もちろん食べ物も良いんですけど、皆ずっとホテル住まいで落ち着く時が無いのかなと思って。俺だったら何が欲しいか……「いつもシャワーだけど、たまにはお湯を溜めてゆっくりしたい」……ああ、じゃあ入浴剤か!って。


MC. スヨンさんも、凄く喜んでましたよ。


田中 喜んでくださいましたよね。


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MC. そんな感じで、撮影初日を迎えます。ちょっとネタバレですけど、言ってしまいますね。


田中 え、言ってしまうんですか(場内笑)!?ギリギリでお願いしますね(笑)。


MC. 桜のシーン、本当はラストに持って行きたかったんですけど、(撮影期間の)去年は開花の時期が早く桜が満開っていうことで最初に撮りましたよね。気持ちの持って行き方としては、如何でしたか?


田中 物語的には、頭からの色んな関係性があって(撮影を)迎えた方がより自然だとは思うんですけど、今回は撮影に入る前から一杯コミュニケーションを取っていたので、あのシーンでの空気感はお互い出せると信じてました。ですから、その辺の問題は無かったです。


MC. あのシーン、大変だったんですよ。田中さん、焼きそば何杯食べました?


田中 (場内笑)……そうですね、3杯くらい食べたかな(笑)。


MC. 印象に残ったシーンは?


田中 上映前ということで、深くは言えないんですけど……台本には台詞以外に、例えば「○○と歩いてる」とか書いてある「ト書き」というものがあるんですけど、映画の中に台詞が無くト書きだけのシーンがあるんですよ。そんなシーンは、台詞を含めて完全にお互いアドリブです。僕とスヨンさん演じるユミのシーンなんですけど、そこが上手く行ったと思えるのは、多分コミュニケーションを図ったからより自然に出来たと思うんです。僕が今までやってこなかったアプローチの仕方が生きたシーンになったと思うので、そこは気に入っています。


MC. この作品の核は、「エンドポイント」というカフェですね。


田中 本当に、素敵な場所でした。今、実際に営業してるんですけど、古民家を改装した素敵なカフェです。美術の方が凄い丁寧に作ってくださって、初めて行った時から本当に温かみがある場所だと感じました。僕も一度、(劇中で)出てくる「ミソトースト」を食べてみまして、とても美味しかったです。


MC. このミソトースト、私が作りだしたんですよ(場内笑)。


田中 そうなんですか(大袈裟に)!?急に、「僕の手柄なんですよ!」みたいな感じですが(場内笑)。


MC. しかも、今かなり進化してまして。


田中 僕が食べた時から?


MC. それだけじゃなくて、コーヒーも凄く美味しくなって……宣伝じゃないですけど(笑)。


田中 誰がどう聞いても、宣伝ですよね(場内笑)。シネマスコーレさんは色々なものを振る舞ったりとか、凄く温かみのある劇場だと思うので、そういったものも含めての映画体験だと思います。今から『デッドエンド』を観てもらって、面白いと思ってくださったら、その余韻のまま楽しんでもらえれば、素敵な一日になると思います。


MC. 釜山国際映画祭に一緒に行きましたよね。印象はどうでした?


田中 釜山はずっと憧れていた映画祭だったので、まさかそのレッドカーペットを歩く日が来るなんて!とにかく感動して、また是非帰ってきたいと思いました。今まで携わってきたものは何事においても愛情を注いでやってきたつもりなんですが、そういったことが形となって、そして形となったものを応援してくれる皆様と共有することが出来た。釜山映画祭のことに限らずなんですけど、今までも大事にしてきましたが、これからも一緒になって喜んで、分かち合っていけたら良いなと感じました。


MC. 最後に一言、お願いします。


田中 こうやって沢山の方に集まっていただいて、本当に幸せです。生きてたら自分が想像もしなかったことにぶち当たって、不安な気持ちになったりすることもあると思います。そんな時の支えは、人と人であり、出会いだと思うんですよ。僕自身そんな出会いを大事にしていきたいし、皆にも僕が力になれれば。どういった形で皆にパワーを与えることが出来るか分からないんですけど、全ては出会いだと思うんです。この作品は、凄く出会いの力を感じられる作品です。そして、心が温かくなる作品です。観てもらって、もし良かったなと思ったら、是非SNSで「でら面白かった」または「정말재미있었다……とても面白かったよ」とTweetしてもらえれば、日本の方も韓国の方も「おっ!」となると思います(場内笑)。楽しんでいってください、お願いします。


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「デッドエンド(dead end)」とは、「行き止まり」「袋小路」、そして「八方塞がり」といった意味である。

映画でのユミの状況はデッドエンド(行き止まり)といえるし、物語の舞台となるゲストハウス兼古民家カフェ「エンドポイント」はデッドエンド(袋小路)にある。


そして、劇中で仄めかされる西山の過去は、まさしくデッドエンド(八方塞がり)である。

西山の現在は、どん底な過去からの到達点なのだ。


西山を演じた田中俊介が所属するのは、名古屋発のパフォーマンスユニット【BOYS AND MEN】である。

地方からエンターテイメントで勝負するという無謀とも思える挑戦を、ボーイズアンドメンはオリコン連続1位という快挙で、ドーム公演の成功という偉業で、達成してみせた。


ボイメンの田中は、西山というキャラクターを誰よりも体現した役者なのかもしれない。


そして、共通点がもう一つ。

西山も、BOYS AND MENも、田中俊介も、まだ道半ばなのだ。

また、それは映画『デッドエンドの思い出』も同様である。


どこまで到達するのか……彼らの行く末を、ずっと見守っていきたい――。


映画『デッドエンドの思い出』

2月2日(土)〜 シネマスコーレ先行公開中

2月16日(土)〜 新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー


監督:チェ・ヒョンヨン
原作:よしもとばなな『デッドエンドの思い出』(文春文庫刊)
出演:チェ・スヨン(少女時代) 田中俊介(BOYS AND MEN)
配給:アーク・フィルムズ


『デッドエンドの思い出』公式サイト

http://dead-end-movie.com/