宅間孝行監督が世に問う、渾身のワンシチュエーション活劇『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』。
三上博史14年ぶりの映画主演としても話題となっている作品だが、とにかくその内容が観客に衝撃を与えている。
1月18日(金)に全国ロードショーされるや、リピーターが続出しているとか。
1月20日(日)センチュリーシネマ(名古屋市中区栄)で、三上博史と宅間孝行監督が舞台挨拶に立った。
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三上博史 宅間孝行監督『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』ロングインタビュー
司会・松岡ひとみ(シネマパーソナリティ)の名調子で、和気藹々と進む舞台挨拶。
だが、映画本編の上映後のトークということもあり、観客から質問を受けた辺りから徐々に変化が表れたのであった。
MC. 三上さんは、中部地区にご縁があるとか?
三上博史 母方が近くで、子供の頃からよく来てました。名古屋市内にも叔父さんがいたので……名古屋ネタですか(笑)?もう、きしめんから何から……
宅間孝行監督 今日我々、昼間ひつまぶしを食べましたよ。
三上 ねえ、美味しかったですよね。
宅間監督 目茶苦茶美味しかったですよね。
MC. 久しぶりの名古屋市ということで、宜しくお願いします。
三上 そうですね……この間の舞台(『タンゴ・冬の終わり』)も、東海市(芸術劇場)でしたもんね……こっち(名古屋)には来れなかったので、嬉しいです。
MC. 三上さん。映画の主演は14年ぶりですか?
三上 結構空いちゃったみたいですね。もう……無いんですよ、仕事が(笑)。
宅間監督 何を仰ってるんですか(笑)!?
三上 映画は本当にずっと続けていきたい仕事なんですけど、中々出会わないんでしょうね。
MC. それが、今回の間宮役……どんなところに惹かれたんですか?
三上 いつも『こいつ、どんな奴なの?』って思われていたいんですよね、役者として。出てきた時に、『どうやって観るかな?』って悩んじゃうくらいの存在でいたいんですよ。その為に色んな役も演ってきたし。そういう意味では今回、『クソ野郎』は凄っごくワクワクしました。『どんなにクソッてやろうかな?』って(笑)。
MC. 監督としては、如何でしょう?
宅間監督 人間の業というか、負の部分みたいなのは、割りと昔から映画のテーマとしてはありがちで。逆に言うと、定番中の定番だと思うんですけど、(出演者)全員が『クソ野郎』で、こんなに救いのない……っていうか、救いがあっちゃいけない人たち。この映画、海外に持っていく時は『Divine Justice』ってタイトルになるんですけど……「因果応報」(という意味)です。僕がもうちょっと若い頃にこれを作ってたら、最後は因果応報じゃなくて、悪いクソ野郎のまま突っ走って終わったと思うんですけど……
三上 (笑)
宅間監督 この歳になってくると、少々モラルみたいなことが出てくるんですよね。「こんなクソ野郎たちを生かしといちゃいけないだろ」ってことで、ああいうラストになりました。
MC. では、観客の皆様からも質問を頂きます。
Q. 部屋番号が「828」でしたが、少なくとも8階建てでフロアに20数部屋あるようなラブホテルって、あるんでしょうか?
宅間監督 まさか、こんな質問が出るとは。僕たちの間ではよくそういう話になったんですけど……素晴らしい。
三上 素晴らしい!
宅間監督 ありがとうございます。一応、歌舞伎町のラブホテルって設定なんですけど、この映画を制作し、出資をしてくれた人が8月28日が誕生日だったもので(場内笑)。これ、今日が初めてオープンにした事実です。僕らも「よく考えると、8階で20何号室って……そんなラブホテルないだろ!」って言ってたんです(笑)。
MC. こういう違和感って、大事ですよね。
三上 そうなんです!最近の作品とかで少々辻褄が合わなくても、「これは受け入れて観るべきなんだ」って何の疑問も持たずに、充てがわれるままに観ることも多いと思うので、疑問に思うところから始まる映画なんですよね。
Q. 監督は、「面倒くさい」と言われる三上さんに何故この役をお願いしたんですか?
宅間監督 (笑)!
三上 どこ情報なんですか、それ(笑)?
Q. ……Yahooで。
宅間監督 Yahoo(笑)!?
三上 監督、ウケすぎ(笑)!
宅間監督 (笑)……三上さんは「面倒くさい」って言われてるんですけど、僕が一番最初にお会いした時に、「ああ、同じ匂いの人だな」と思ったんです。
三上 同じ側の人間なんです。
宅間監督 僕も結構芸能界で「面倒くさい」って言われてる方なんで、非常に気が合うというか。面倒くさいというか、逆なんです。凄く、真面目なんです。凄いストイックで。何かを突っ張ることが、物作りに対する正義だったり、誠意だったりするんですけど、それをやると面倒くさいと言われちゃうんで、皆やらないようにしてるんです。こういう詰まんない物が世の中に溢れるようになった時、現場を止めたくないから皆言わないんですよね。でも、三上さんはある程度主演であったり背負ってる位置にいるし、どうしても譲れない時は「譲れません」って言ったりすることがあるので……
三上 (笑)!
宅間監督 あと、「ギャラが高い」とか(場内笑)、物凄く役を選ぶとか、そういうことをトータルして言われてるけど(笑)……
三上 ……どれも違うでしょ(笑)!
宅間監督 そういう話で、よくご飯に行って盛り上がってます。
三上 盛り上がってます……ご近所さんなんで(笑)。
Q. 三上さんと酒井若菜さんはドラマで共演(『遺産相続弁護士 柿崎真一』)されていますが、今回はそのドラマもあってのキャスティングだったんですか?
宅間監督 そのドラマは観てなかったので、知らないんですけど……
三上 酷いね(笑)。
宅間監督 (笑)。三上さんは、プロデューサーが以前「何かやろう!」と意気投合していて、「三上さんは如何ですか?」って提案されたんです。僕は、「え、絶対やんないでしょ!」って(笑)。
三上 (笑)
宅間監督 「頼んでみれば?どうせ無理だと思うけど」ってところから始まって……「金額合わないでしょ?」って(笑)。
三上 (笑)!いや、「(ギャラを)出す!」って言ってくれたんですよ(爆笑)!
宅間監督 ……無くなっちゃいますよ、予算が(笑)。三上さんは乗り気でやってくれると言うので、僕たちは本当に「こんな素敵なことはない!」ということでお願いして。若菜ちゃんも、僕とプロデューサーで色々話してる時に名前が挙がったんです。なので、その組み合わせを一番最初に、ってことではなかったです。
もう、この辺りで危ない雰囲気を感じていただいているのではないだろうか?
何が危ないって……
そう、お二人のトークは、映画のネタバレ全開になりつつあるのだ。
しかも、作品の核心部分に迫る勢いで。
実は、既にチラホラとネタバレがあるのだが、以下のトークではネタバレゲージ(?)が全開となる。
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』をご覧になっていない方は注意が必要……
否、敢えて書こう。
未観の方は、読んではいけない。
今すぐブラウザの「戻る」ボタンを押して、映画の上映スケジュールでも調べられると良い。
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』を観られた方、更にリピート鑑賞されているような強者は、是非ともご高覧いただきたい。
もしモヤモヤしている台詞やシーンの一つでも抱えている方には、福音となるかもしれない。
作品を観ていない方、もういらっしゃらないでしょうね?
映画を観てから、お読みくださいな。
それでは、トークを再開させていただく――
MC. 今回、相当長いカットもあったとか……
宅間監督 一番長いので、40分弱というのがありました。
三上 皆さん、そんなの意識して観ないと思うんですけど……意識して観なくて良いと思うんですけどね、通常は5秒、10秒の世界なんですよ、1カットって。長く撮ってて、それを編集したり、中をアップにしたりすることはあるんだけど、そんなものなんですよ。1分単位とか、10分単位とか、ありえないんですよね。そういう場合、皆さん飽きてしまうので、カメラが動くんですよ……手持ちだったり、アップに寄ったり、横に移動したり、引いたり、クレーンを使ったり。今回は「バーン!」と(カメラを置いて、そのまま動かない)。これはもう、役者としては腹を括るしかないですよ。
宅間監督 やり直せば、一回一回変わってくるんですよ、テンションや熱で色々と。今回、特に40分のシーンはアクシデントも一杯あったんですけど……もう、録音部の人が見切れてたりとか。
三上 (笑)
宅間監督 カメラマンの人がサドルバッグをそのまま忘れていって、切り替えした時に全部写ってるとか、ケーブル捌いてる人が思いきり(写って)いたりとか……全部何とかしたんですけどね、三上さんが「もうやりたくない」って言ったんで(笑)。
三上 こうやって言うと、「嫌だ!」とかいう話じゃないですか(笑)。そうじゃなくて、「出来ますよ。でも、あれ以上のものは絶対出ません」っていうことを言っただけなんですけどね。
宅間監督 熟(こな)れない芝居にも、熟れない良さがあるので。この作品の中で生きてる人たちは非常に際際(きわきわ)なところにずっといる……特に三上さんと(酒井)若菜ちゃんは、あるPLANを元に二人で結託している役なので、人生懸けた……本当に人一人殺して、二人殺してって作戦を立ててる二人の話なので、普通とはちょっと違うテンションになってる方が良いと思いまして。今回は散々リハーサルをしましたが、熟れてない方が(良い)、というのはありました。
Q. 麗華(三浦萌)をバスルームに運ぶシーンで、足が動いたような気がしました。あれは、わざとなんですか?
宅間監督 あれは、残念ながら偶然なんです(場内笑)。引っ張ってる途中に足が動いちゃったんですけど……要はこういうところを、頭からもう一回テイクを撮り直すか、これで行くかという時に、設定からしても「もう良いじゃないか」、と。それを伏線として捉えてもらえれば、アリだねって。逆にあれを観て、「何だよ、この映画?」「緩いなぁ!」って思ってくれるくらいの方が(場内笑)、ちょうど良いと思います。ありがとうございます、良いところに引っ掛かってくれて。
Q. 気付かないような伏線もありそうですね?
宅間監督 基本的には、全部の芝居に意味を持たせています。間宮と詩織(酒井若菜)の芝居に関して、もし次に観てもらえるなら注意していただきたいのは、二人が本音で喋ってるシーンが幾つか……大きく言うと、4つありまして。麗華が入ってくる前の三上さん(間宮)と、最後皆がいなくなって二人になったところからは、本音です。それ以外に、間宮と詩織が「どうしよう?」って話してたのは麗華に聞かせてるんですけど、バスルームを閉めて二人になった時の会話は本音の話なんです。「上手く行くかな?」「ウォン(波岡一喜)がどう出るかだな」って言ってる時、「これを切っ掛けに本物の夫婦になったりして」って言うのは実はあの状況で詩織を口説いてるんです(場内笑)。サイテーですよね……キスしようとするという、どうしようもないクズなシーンなんです(笑)。もう一つ、ウォンが入ってきて「ここで切り刻むか?」って言ったら、間宮は「ダメ、ダメ、ダメ!当初の通りで行こう」って言うんですけど、詩織は「良いんじゃない、アリなんじゃない?」、と……詩織がとてもクズなシーンなんです。「今やっちゃえ!」って(場内笑)。次に観ていただくと全部意味が逆転して観えてくると思うんで、そういった楽しみ方が出来ると思います。
ネタバレ全開トーク、如何だっただろうか?
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』は、未消化のまま胸につかえているシーンも多いと思う。
腑に落ちる場面の一つでもあれば、望外の喜びだ。
MC. 宅間さんは演者さんでもある訳じゃないですか。その点で、他の監督さんとは違うところはありましたか?
三上 やっぱり、同じ物を作ってるんだけど、映像作家さんとは全然違うんですよね。宅間さんは役者さんだから、役者のことは分かってる訳です。役者が如何に狡いか、如何に弱いか……とにかくダメダメなんですよ、役者って。すぐサボろうとするし(笑)、手を抜こうとするし、早く帰りたいと思うしね。でも、そういうところを全部分かってて、武器をどうやって使ったら一番効果的かってことも分かってるんです。そんな裏の裏を読まれてるので……もう、まな板の上の鯉ですよね(笑)。
宅間監督 いやいやいや(笑)。
三上 だって、あんなフィックス(固定カメラ)でドーンと置かれたら、役者は怖いですよ。全部素養が出ちゃいますよね。「こいつ、何も出来ないじゃん」とか、「やっぱりこいつ、わざとらしいんだ」とか、全部分かっちゃうんですよね。
宅間監督 演ってる人たちの全てが観えちゃうんで、誤魔化しようがないんです。普通は編集で誤魔化しちゃうんですけど、出てる人たちが全てを表現しなくちゃいけないことになってます。
三上 出会わせてくれたこの取り合わせが、本当に凄く嬉しくて。若菜ちゃんは前にも(一緒に)演ってますけど、浪岡さんは初めてで……本っ当に、嬉しくて。一緒に稽古してて本当に楽しかったですよね。あの人は、本当にバランスが良いですよね……大好きです!
MC. 監督、この映画の舞台化はありますか?
宅間監督 いつか、そういうお話があるのであれば……もうホン(台本)が出来てるってのは、非常に楽なので。
三上 (爆笑)!
宅間監督 「やれ」と言われれば、喜んでやります。三上さんがやってくれるかどうかは分かんないですけど(笑)。
三上 (笑)……(ギャラが)高いっすからね(爆笑)!
MC. 最後に、お一言ずつお願いします。
三上 そんなに久しぶりとは自分では思ってなかったんですけど、久しぶりなんですよね。結構前に撮ってたんですけど、やっと生まれました。ようやくこうして公開に漕ぎつけたことは、本当に幸せです。一人でも多くの方に観ていただきたいので……隣近所の方に(笑)、リンゴでも持って(場内笑)、宣伝してください。宜しくお願いします。
宅間監督 この作品は、非常に好き嫌いが分かれる作品だと思うので、気に入っていただける方もいれば、「ん?」って方もいると思います。テレビ局が主導でやると、放送コードのことを考えたり、「もっと分かりやすく」とか色々なことになっていくんですけど、こういうローバジェットの映画をクリエイターが自由な発想で作れる場というのが無くならないことが、結果的にはエンターテイメントの幅が広がることに繋がると思います。この映画を応援いただけたら嬉しいですし、こういう素敵な劇場で小さい映画も皆さん観続けていただけたらと思います。どうぞ宜しくお願い致します。本日はありがとうございました。
舞台化も楽しみで仕方ないが……
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』、もう一度映画を観返したい衝動に駆られているのではないだろうか?
間宮、詩織、麗華、ウォン……罪深いキャラクタたちは、同時に魅力的である。
三上博史、酒井若菜、三浦萌、波岡一喜……演じる者たちが、それに輪を掛けて魅力的だ。
美術が、照明が、録音が、カメラが……スタッフたちは一丸となって、プロの仕事をやり遂げた。
それもこれも、脚本あってのこと、演出あってのこと……取りも直さず、宅間孝行監督の手腕だ。
一度ならず、二度。
二度ならず、三度……
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』に振り撒かれた毒は、観る者を中毒へと誘う。
なんて罪深い作品に出会ってしまったのだ――。
映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』
監督・脚本:宅間孝行
三上博史 酒井若菜 波岡一喜 三浦萌
樋口和貞 伊藤高史 ブル 世戸凜來 / 柴田理恵
阿部力
製作:原口秀樹
エグゼクティブプロデューサー:前田紘孝 プロデューサー:相羽浩行
撮影:山中敏康 照明:松本竜司
美術:佐藤彩 スタイリスト:吉田奈緒美、志戸岡睛
サウンドデザイン:浅梨なおこ 録音:池田雅樹
ヘアメイク:徳田芳昌 編集:松山圭介
音楽プロデューサー:伊藤薫、柴野達夫 作曲:鈴木めぐみ
助監督:伊藤拓也 制作主任:伊神華子 スチール:佐藤里奈
制作プロダクション:ソウルエイジ
協力:テイクオフ
配給:HIGH BROW CINEMA
©︎2018 SOULAGE
2018年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/105分
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