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舞台役者、作、演出、はたまた俳優、映画監督、脚本家とマルチな才能を見せる宅間孝行監督が世に放つ、それまでとはガラリと違う衝撃のワンシチュエーション劇『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』。

1月18日(金)に全国ロードショーされるや、14年ぶりの映画主演となる三上博史の怪演と相俟って、大変な評判となっている。


『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』ストーリー

警察官の間宮(三上博史)は、ラブホテルの一室にビデオカメラを設置している。部屋へやってきたのは、デリヘル嬢の麗華(三浦萌)。勤務中、しかもカメラが回っているにも拘らず、間宮は麗華と情事に耽り、更には背任の証拠まで見せてしまう。  
そこに、婦人警官の詩織(酒井若菜)が踏み込んでくる。なんと、詩織は間宮の妻だと言う。詩織に糾弾された挙げ句、あれだけ貢いでいた麗華には客と風俗嬢の関係だと居直られ、間宮は弾みでが麗華を銃撃してしまう。

詩織と二人で途方に暮れる間宮は、ヤクの売人ウォン(波岡一喜)を呼び出し、死体の処理を依頼する。ところが、そこでまたチャイムが鳴る。部屋に入ってきたのは、連絡が付かない麗華を探しにきた、デリヘルのマネージャー小泉(阿部力)だった――。


1月20日(日)、センチュリーシネマ(名古屋市中区栄)には三上博史と宅間孝行監督が舞台挨拶に立ち、センチュリー1(154席)は大盛況となった。

舞台挨拶は上映終了後だったこともありネタバレ全開のトークとなったため、レポートは敢えて後日掲載させていただくが、登壇前のお二人を取材することが出来た。


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Q. これまでとはガラッと変わった作風で、作品を撮り上げた意義とは?


宅間孝行監督 そもそもローバジェットを前提として何か良いアイデアは無いかと言うような事をプロデューサーと話してた時に、僕の中でこういったワンシチュエーションのアイデアがある、と。どうせやるんだったら、観る側にとっても、やる側にとっても、何か色々な制約というか観たことのない物が一つ二つ三つ……要は、尖がったものを作りたいというのがあったんです。僕は48歳なんですけど、20代の時に出てきたセンセーショナルな作品に影響を受けてるところがあるので、例えば(クエンティン・)タランティーノの匂いのする映画が撮ってみたいというのは若い頃からずっとあったんで、どうせやるならタランティーノが観たら喜びそうなものが作りたいという思いはありました。ハンバーガーも、あの人には『レザボア・ドッグス』(1993年)も『パルプ・フィクション』(1994年)もそうでしたけど、ハンバーガーのネタが結構多いので……リスペクトやオマージュって訳ではないんですけど(笑)、ハンバーガーをネタにというところから広げていったところもあります。


Q. 三上さん、最初に脚本をもらって、如何でしたか?


三上博史 違う部分では今まであるのかもしれないですけど、これほど役者を信用してくれる作品って、監督って、無いと思うんですよね。だって、一蓮托生以上に、俺たちがこけたら皆こけちゃう、みたいな(笑)。あの手この手で「この人の悲しみって、こういうことなのね」って現場で若い新人にずっと稽古を付けるパターンもあるけど、今更そんなこと出来ないじゃないですか。だから、例えば「斜めから撮ろう」とか「背中をずっと移動して撮ってあげよう」とか、皆そうやって落とし所を探る訳ですよ。でも今回なんて、(カメラを)バーンと置いたまま……これもう、僕らが下手したら、作品台無しにしますからね。それくらい信用してもらって、やる。だからこそ、出来た時には、そういうものを観てもらえる。そういうところでは……いや、痺れる撮影ですよね。


宅間監督 もしかしたら、一番最初「こういう形でやりたい」って言っても、稽古を見たら目茶苦茶終わってたりしてね(笑)。


三上 それはもう……物凄い愕然とするでしょうね(笑)。「ああ……俺たちって、ダメなのね」って。いや、もう……それくらいの作品って、無いですよ。


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Q. リハーサルはかなり重ねられたとか。やっていく中で磨いていったんですか?


三上 芝居を固めるという意味ですか?そうですね、あらゆる角度から……宅間さんと悪巧みしながら。「じゃあ、この伏線はこれくらい置いときましょう」とか、「それは、伏線の裏の裏にしときましょう」とか。「この範囲で芝居をしてください、カメラをここに置くんで」って芝居をすると「何かリアリティが無い……(画角の)外に出て」って、そういうのを含めて全部、稽古で固めましたね。それを基に、一所懸命再現しようとして本番に臨むんですけど……とんでもないことになっちゃったりするし。それを良しとするか否かは、宅間さんに掛かってるので……楽しかったですよね?


宅間監督 はい。普通の映像の考え方だと、撮影って「素材」を集めるんですよ。それを、編集でどう料理していくかっていう。


三上 うん、確かに!


宅間監督 だから芝居をやってる僕らにすると、現場でやってるのは芝居をしてるんじゃなくて、素材を撮られて(取られて)いるという感覚が今は特に大きいんです。映像作家に近いような感覚の人たちが。僕は演ってる側の人間でもあるんで、役者の芝居がきちんと見れるんだったら、それを撮ってくれないと役者である意味が無いと思っていて。なので逆に言うと、現場にポンと来て、芝居を演って、撮って、はい!って……「大丈夫ですか?」って思う気持ちもあったり、「監督がOKなら、OKだな」って思ったりもするんですけどね。でも僕としては、やってる人たちが一つの作品を自分たちなりに解釈し、演じて、生まれる何かを撮ることが、そもそもの映画の考え方かと。もちろん結果的に、どう素材として切り取るかっていう作業もあるんですけど、まずはそこのベースが無いと……俳優たちを駒のようにっていうのは、何か勿体ないなと思うんです。まあ、それに耐えうる俳優さんじゃないときついので、現実的にカットを割ってどうにか編集で誤魔化してるところはあるんですけど、ちゃんと俳優さんと向き合って、俳優が持ってる力で物語を進めていきたいですよね。(木村)大作さんも言ってるでしょう、「カメラは、置けば良い。凄い雪山さえあれば、置いときゃ良いんだよ」って(笑)。


三上 随分昔に、岩井(俊二)さんもそう言ってて、「撮れ!撮れ!」って言うんですよね。僕が「こんな話撮りたいな。あんな話を撮りたいな……どう?」って話すと、「撮れ!」って言ってて。何故かって話で、映画の歴史ってそんなに(長く)ないじゃないですか。そもそもは小さな劇団、演劇みたいなところから始まって、役者同士が演り合ってるものをどうやって記録するかって話になって……監督という職業は無かった訳ですよ。役者が「じゃあ、こう撮ろう」って言ってたものが職業として独立して生まれた訳です。役者を見せることは、役者をやってないと分からないでしょうね。ロサンゼルスでPlayhouseっていう勉強する所があるんだけど、僕が行ってた時一週間に一回グループに分かれて発表会をやるんですよね。そこのPlayhouse、スクールに来てる人たちっていうのは、半分くらいしか役者はいないんですよ。後は、監督であり脚本家なんですよね。その人たちは監督から役者になろうとしてる訳じゃなくて、役者の生理を知りたくてワークショップに来てるらしいんですよ。でも、お客さんはそんなに役者の生態に興味は無いのかな?


宅間監督 凄く辛辣な言い方をすると、日本は非常に民度が下がってると思ってるんです。「何をするのが、本当で、嘘で」「これは、子供騙しでやってるのか、ちゃんと観るべきものなのか」っていう事を、観る側がどれほど分かっているか……実はこの映画、そこにちょっと肝があるんです。色んな伏線があるんですけど、その伏線っていうのはつまり違和感なんですよね。違和感を感じてたところが、最後に「あ、だからああやってたんだ!」って伏線になるんですけど、違和感を感じてもらえないこともあって。と言うのは、無茶な設定のドラマや映画が当たり前になってるから。僕らも現場で「ちょっと整合性おかしくないですか?」って言っても、「大丈夫!」って……「あぁ、分かりました」って言うしかないですよね(笑)。これが、結構多くて。


三上 多いよね。


宅間監督 観てても「話おかしいな、緩いな」って思うんだけど、それをお客さんはそういうものだと思って観てるから……「おかしいじゃん、このドラマ……60分ワンカットで生放送するTVなんか、ありえないでしょ!」って何も思わないんですよね。……『カメラを止めるな!』ですけど(笑)。物語を成立させるための設定ってことを何とも思わないで過ぎちゃうと、例えば最初に三上さんがもらう電話を違和感として感じられないですよね。「この映画、ちょっとおかしくない?ちょっと作りが甘くない?」って思う人には伏線になると思って作ってるんですけどね。


三上 当てがわれたものに対して疑問を持たないというか……観る方も、想像力を要らなくして観てるんだと思うんですよね。そういう作品が多いからなんだろうけど、まさに勿体ないなって思いますよ。


宅間監督 疑いを持ってほしいというか、突っ込んでほしくて伏線になったりしてるんですけど……皆が色々素直に受け入れてくれるから、「あれ?」って(笑)。「ダサいドラマの展開だな」くらいで観てくれれば、ひっくり返り感が凄いはずです。


三上 キャスティングとかもそうですよね。何か、アイコンのようにキャスティングするじゃないですか、「この人が出てきたら、こうなんだ」みたいな……もう、観る前から分かっちゃうみたいな。自分の身は自分で守んなきゃいけないんで、僕はそういうイメージが付かないように……「この人出てきたけど、どっち!?」って先ず思わせる役者でいたいですね。「この人、悪役なの?」とか、「本当は良い人なんだよね?」とか、惑わすような役者でいたいです。


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Q. ネタバレ厳禁と言って作品を紹介すると、「それが既にネタバレだろ!」とお叱りを受けることがあります。今作はまさにそういう作品だと思うんですが、監督ご自身ならどう紹介しますか?


宅間監督 (笑)……本来これ難しいところで、前にやった『あいあい傘』(2018年)でもクライマックスの一番いいシーンを予告に入れてるんですよ。「あ、入れるんだ!?」と思ったんですけど、興味としては持ってもらわないと1800円払う切っ掛けにならないので。宣伝とクリエイティブは別ものだと思ってるんで、基本的には任せちゃってるんですけど……何の情報もないところに1800円を掛けるのって、非常にリスクがありますから。こっちとしてはタイトルとその雰囲気で「多分、怪しい映画だな」と分かってもらえると思うんですけど、「タイトルが長すぎるから、宣伝としてはよろしくない」とか、「LOVEHOTELってタイトルに入ってると、テレビでは宣伝できない」とか、色々あったんですけど、そういうことは先ず取っ払って。『Lock, Stock & Two Smoking Barrels』(1999年)を、最初は間違いなく覚えられなかったように(笑)。でも、あれでガイ・リッチーにぶち抜かれた人は沢山いて。そういうところから「ああ、そういう匂いのする映画なのかな?」ってことを、映画が好きな人に感じてもらうしかないかな、と(笑)。今回の映画は、色々な人たちの感想を見ても「エンドロールの最後まで立つな!」みたいなことは皆言ってて……観ている人たちが、「大事なところはネタバレしないように」と思ってくれているようで。でも、言ってみれば、どの映画でもネタバレは厳禁といえば厳禁、「観て楽しんでください」ってところがあるので。


三上 でも、何て言ったら良いんですかね(笑)。


宅間監督 確かに……何も引っ掛からないと、来てくれないですもんね。


三上 難しいですね(笑)。


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Q. ラブホテルで鏡張りもありましたが、写り込まないようにするのは大変だったと思います。役者の皆さんだけでなく、スタッフさんも含めてリハーサルを重ねられたんですか?


宅間監督 あれは、倉庫に立てたセットなんですよ。1セットで、1カメで、1カットで行くということを前提に色々相談して、美術さんが素敵なセットを作ってくれたんです。要は、方向が変わると色味が全部変わるようなシステムになっていて、最初は赤が凄く目立つ、こっちは白い壁、あっちは緑というように、部屋の中でなるべくルックが変わるように計算されてるんです。リハーサルに関しては、役者のリハーサルが前提なんですけど、今回は特に大変なのはスタッフの方なんですよ(笑)。裸になる人が結構いるからマイクを仕込めないので、録音部は役者を追っ掛けてたりカメラの後ろにいるんですけど……言ってしまうと、結構バレてる(画角に入ってしまう)んですよ。消したりもしてるんですけど、40分近い長回しの部分では一箇所……ケーブルとか、色んなことがバレまくってて(笑)。普通の映画では考えられないくらいのことをやってるんですけど、僕は芝居だけのことしか見てなかったんでOKだったんです。ところが、OKどころの話じゃない、と……だったら途中で止めてくれよ!って話なんですけど、誰も長回しは止められないんですよね。「どうする?」って言った時に、「流石にヤバいだろ?」ってなったんですけど、三上さんが「やらない!」って(笑)。


三上 全部、1テイクにしてもらいました(笑)。


宅間監督 俺はプロデューサーに、「お金掛かろうが何しようが、消せるんだったら、芝居はOKだから」って……「でも、どうしても無理だったら、もう1本やらないといけないんじゃない?」って話をして。そしたら、「いやだ!」って(笑)。


三上 (爆笑)


宅間監督 じゃあ、どうしようかってなったんですけど……そこから実は、面白いアイデアが一杯出てきて。トラブルを乗り越えることによって、人間って頭を使うんで新しいアイデアが生まれて。逆に言うと、この映画により深みを与えた……結果論なんですけどね。CGも使わず、思いっきりバレてる人たちをどう消すか……そういうところも含めて、頭を使ってやったら楽しかったですよ。そういうことを裏話としてDVDの副音声とかでやったら、面白いところが目茶苦茶一杯ありますよ。「ここにサドルバッグがあったんだよな」とか、「はい、ここ消しました」とか(笑)。


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練りに練られたPLANは全て、俳優陣の力量に全幅の信頼を置いた結果に他ならない。

演技者として確たる実力がある宅間孝行監督だからこそ、描き出す事が出来た世界……それが、『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』だ。


張り巡らされた伏線との情事の涯て、貴方は何を観るのか?

その答えは、是非とも劇場で……映画館という名の、LOVEHOTELで——。


映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』

監督・脚本:宅間孝行
三上博史 酒井若菜 波岡一喜 三浦萌

樋口和貞 伊藤高史 ブル 世戸凜來 / 柴田理恵

阿部力
製作:原口秀樹

エグゼクティブプロデューサー:前田紘孝 プロデューサー:相羽浩行

撮影:山中敏康 照明:松本竜司

美術:佐藤彩 スタイリスト:吉田奈緒美、志戸岡睛

サウンドデザイン:浅梨なおこ 録音:池田雅樹

ヘアメイク:徳田芳昌 編集:松山圭介 

音楽プロデューサー:伊藤薫、柴野達夫 作曲:鈴木めぐみ

助監督:伊藤拓也 制作主任:伊神華子 スチール:佐藤里奈

制作プロダクション:ソウルエイジ

協力:テイクオフ

配給:HIGH BROW CINEMA

©︎2018 SOULAGE
2018年/日本/カラー/ビスタ/5.1ch/105分

公式サイト:http://love-hate-movie.jp