あ

通りを埋め尽くす、ファッショナブルな若者たち。

男性はモッズ・コートを、女性はマリー・クヮントのミニスカートを身に着けて闊歩する。

男でも長髪、マッシュルームカットやモッズ・ヘア、女の子たちは、新進の美容師ヴィダル・サスーンが手掛けたボブスタイル。


目を奪うは、鮮やかな幾何学模様や、ドギツい色使いのカートゥーン調のビルボード。

後に、オプ・アートとかポップ・アートと持て囃されることになる。


耳に飛び込んでくるのは、The Beatles、The Rolling Stones、The WHO、The Kinks、The Animals……そして、マリアンヌ・フェイスフルの歌声。

ロックンロールという革命的大発明以来、誰も聴いたことがなかった新しい音楽たちの多くは、今日でもカテゴライズするのが困難なほどだ。


ここは、1960年代半ばのカーナビー・ストリート。

フォトジェニックな時代の空気は、「Terrible Three」と呼ばれた気鋭の若手カメラマンによって、世界へと発信される。

1966年のTIME誌で「The Swinging City」と称され、ファッション、カルチャーの最先端となった大英帝国の首都は、世界中の人々から「Swinging London」として耳目を集めることになった。


そんな「Swinging 60’s」のロンドンの空気をダイレクトに伝える映画は、『欲望』(監督:ミケランジェロ・アントニオーニ/1967年)、『ナック』(監督:リチャード・レスター/1965年)などがある。

また、「スウィンギング・ロンドン」当時を取り上げた映画は、『さらば青春の光』(監督:フランク・ロッダム/1979年)、『オースティン・パワーズ』(監督:ジェイ・ローチ/1997年)、『パイレーツ・ロック』(監督:リチャード・カーティス/2009年)など数多ある。


『マイ・ジェネレーション』★メイン

だが、スウィンギング・ロンドンをテーマにしたドキュメンタリーが製作されたのだから、どの作品も敵わない。

それが、1月5日(土)からロードショー公開となる『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(監督:デイヴィッド・バッティ/2018年/85分)である。

名古屋では、名演小劇場(東区東桜)で上映される。


スウィンギング・ロンドンについて何も知らない、初めて聞いた。

そんな人は、幸せだ。

この映画を観れば、たちどころに60’sのロンドンを学ぶことが出来る。

そして、たちまち魅了されてしまうこと請け合いだ。


そして、スウィンギング・ロンドンを知る世代の方。

そんな人は、一番の幸せ者だ。

映画『マイ・ジェネレーション』は、当時の世相を過不足なく拾い上げ、綺羅星の如く魅せる。

何より、エンターテインメントとしても楽しめる傑作なのだ。


『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』は、3つに章立てされており、一つ一つの章だけを鑑賞しても楽しめるくらいの贅沢な作りになっている。

しかも、通して観ることによって、スウィンギング・ロンドンの揺れ幅が齎した「光と翳」を、色濃く堪能することが出来るのだ。


『第1章・漂う気配』では、アカデミーで助演男優賞を受賞した名優マイケル・ケインの半生を追う。

コックニー訛りで一人前の人間として扱われなかった労働者階級の若者たちが初めて世に出たのは、60年代のことだった。

それは、取りも直さず若き日のマイケル・ケインそのものだ。

『アルフィー』(監督:ルイス・ギルバート/1966年)がそれほどの重要作とは、筆者はこの作品を観るまで知らなかった。


サブ1【Paul Popper Popperfoto  Getty Images】

『第2章・私は自由』では、労働者階級にも優れた才能があることに気付いた社会が、劇的に変わっていく様を追う。

ファッションモデル・ツィギーの登場により、ミニスカートは瞬く間に全世界へと浸透する。

だが、今でも世界に影響を及ぼし続けているのは、「そこに保温性など求めていない」と言い放ちスカートを短くした、マリー・クヮントその人なのだ。


『第3章・すべてが見た目とは違った』では、スウィンギング・ロンドンが齎した闇の部分を、徹底的に追う。

ある意味、このパートが『マイ・ジェネレーション』一番の見所と言えるだろう。

なかなか見ることが出来ない貴重なインタビューや記録映像による証言は、60’sロンドン通でも初めて知る話もあるに違いない。


注目したいのは、バッティ監督は新たに撮り下ろしたインタビューも、過去のフッテージ映像も、同等の扱いをしてるということである。

60’sのロンドンでインタビューされる、ローリング・ストーンズのミック・ジャガー……

後年になって回想する、ビートルズのポール・マッカートニー……

今、リアルタイムで当時を語るマイケル・ケイン……

その全てが、この映画『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』の為のコメントであると錯覚してしまう。

これが、ドキュメンタリーであるにも拘らず、類稀なエンターテインメント性を帯びている秘密だ。


そう……考えてみれば、私たちは既に、全ての記録が未来へ受け継がれる時代に、足を踏み入れているのだ。

「past(=過ぎ去った、過去)」などという言葉は、死後になる……そんな日は、すぐそこに来ているのかも知れない。


This is My Generation , baby !!!!!


サブ2【David Redfern  Redferns  Getty Images】

映画『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』

2019 年 1 月 5 日(土)より Bunkamura ル・シネマ 名演小劇場 他全国順次ロードショー

監督:デイヴィッド・バッティ
プレゼンター・プロデューサー:マイケル・ケイン
出演:マイケル・ケイン、デイヴィッド・ベイリー、ポール・マッカートニー、ツィギー、ローリング・ストーンズ、ザ・フーほか
原題:MY GENERATION/2018 年/イギリス/カラー(一部モノクロ)/85 分/英語/PG12/日本語字幕:野崎文子/字幕監修:ピーター・バラカン
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

© Raymi Hero Productions 2017

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』公式サイト

http://mygeneration-movie.jp