12月15日(土)に全国ロードショーが始まる『輪違屋糸里 京女たちの幕末』は、歴史小説の第一人者である浅田次郎の『輪違屋糸里』を原作としている。
浅田が新選組を題材としたのは『輪違屋糸里』が二作目になるが、第一弾に当たる『壬生義士伝』は滝田洋二郎監督により映画化(2003年)されたことで映画ファンにも馴染みが深い作品だ。
それまで歴史愛好家の間でも話題に上ることが皆無に等しい存在だった吉村貫一郎にスポットを当てた『壬生義士伝』は、幕末マニアですら興奮を禁じ得ない衝撃作であった。
そんな『壬生義士伝』に続いて執筆された『輪違屋糸里』もまた、新選組についての知られざる事件を大胆に洞察した、浅田次郎渾身の傑作である。
史実(資料)を忠実に紐解いた物語は、新選組結成初期の最重要事件「芹澤鴨一党暗殺」に、斬新かつ説得力のある新解釈を齎した。
新選組の初代局長筆頭であった芹澤鴨は、それまでの創作物とは大きく掛け離れた人物像で描かれている。
芹澤と共に惨殺されたにも拘らず、殆ど語られることの無かった平山五郎は、物語のキーマンとなっている。
映画では、実に的を射たキャスティングが行われているので、新選組隊士の演技に是非とも注目してほしい。
塚本高史は、時折見せる迷いを目の演技で表現し、人間味溢れる芹澤鴨を演じてみせた。
佐藤隆太は、台詞の一つ一つに心の機微を込め、想像力を掻き立てられる平山五郎像を提示した。
そして、新選組副長・土方歳三は、黒幕(フィクサー)であると同時に曲者(トリックスター)でもある。
溝端淳平の色気のある演技を、どうかお観逃しなく。
『輪違屋糸里』は、そんな幕末を駆け抜けた男たちの生き様を、そして散り様を、京女たちの視点で描写しているのが出色だ。
芸妓としてのプライドと女性としての幸せとの狭間で心揺れる吉栄には、飄々とした平山も本音を覗かせる。
心を寄せる鬼の副長・土方の目の前で、糸里は少女から女へと変貌を遂げる。
そんな幕末の京を生きる女たちを、現代のヒロインたちが艶やかに熱演する。
田畑智子は、匂い立つような妖艶さと相対する気風の良さで、芹澤の愛妾・お梅を物の見事に体現した。
すっかり女優の肩書きが板に付いた松井玲奈は、吉栄という時代に翻弄される難役をこなしてみせた。
『ソロモンの偽証』(監督:成島出/前篇・事件 2015年/後篇・裁判 2015 年)で鮮烈なデビューを飾った藤野涼子は、時代劇も遊女役も初挑戦となる。
無邪気な少女が一夜にして見せる豹変ぶりが、観客の心を奪う。
巷間では「手抜き」と扱き下ろされることの多い夜間のアクションシーンが、今作ではクライマックスを含む重要場面として何度か使われている。
敢えて書くが、このシーンに注視しないようでは、それこそ手を抜いた鑑賞だ。
スクリーンに映される、闇に浮かんでは消える白刃に目を凝らしてほしい。
劇場鑑賞を見越した絶妙の調光バランスには、TV『鬼平犯科帳』シリーズを手掛けた加島幹也監督の手腕、照明・美術・撮影スタッフの技術が、如何なく発揮されているのだから。
映画館の暗闇でしか味わえない銀幕に仄かに浮かび上がる登場人物たちの表情の機微を、観逃してしまうのは惜しすぎる。
「芸事いいますもんは、お武家さんの槍や刀の術よりも根っから尊い、掛け替えのないもんどす」
芸が生命である島原芸者を描くに当り、本作では芸事に一方ならぬ拘りが見られる。
三味、胡弓、鼓……芸妓たちが楽器を奏でるシーンは、どれも溜め息が漏れること請け合いだ。
また、芸に命を込める女性の代表として登場する音羽太夫役の新妻聖子にもご注目を。
見所いっぱいの『輪違屋糸里 京女たちの幕末』、名古屋では名演小劇場(名古屋市東区東桜)にて、12月22日(土)より公開となる。
拘りの詰まった時代劇を、是非とも劇場で——。
『輪違屋糸里 京女たちの幕末』
12月15日(土)より有楽町スバル座ほか全国順次公開
配給:アークエンタテインメント
配給協力:エクセレントフィルムズ
©2018銀幕維新の会/「輪違屋糸里」製作委員会
出 演:藤野涼子 溝端淳平
松井玲奈 佐藤隆太 / 新妻聖子
石濱朗(特別出演) 榎木孝明(特別出演) 田畑智子 塚本高史
原 作:浅田次郎『輪違屋糸里(上・下)』(文春文庫刊)
監 督:加島幹也
脚 本:金子成人、門間宜裕、加島幹
上映時間:116分 / 公式サイト:wachigaiya.com
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