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2018年11月17日(土)、いよいよ本日よりロードショー公開となる、『銃』(97分/R15+)。


『銃』は、芥川賞作家・中村文則が今も偏愛しているというデビュー作で、原作に惚れ込んだ奥山和由プロデューサーが、数々の難現場を共に潜り抜けた盟友・武正晴監督(『百円の恋』2014年 『嘘八百』2018年)と共に、不可能と散々言われた映像化を見事に成し遂げた野心作だ。


つい先達て、ワールドプレミアとなった第31回東京国際映画祭にて【日本映画スプラッシュ監督賞】を受賞したことで、この衝撃作は大きな話題作となった。


『銃』ストーリー

夜、河原を歩いていた大学生の西川トオル(村上虹郎)は死体を発見する。だが、トオルの心を捉えたのは既に事切れた男ではなく、傍らに転がり雨に打たれるLAWMAN MK Ⅲ 357 MAGNUM CTG——銃であった。

ある日、トオルは大学でヨシカワユウコ(広瀬アリス)と再会する。しばらく留学していたというユウコは自分に好意を抱いているようだが、トオルは彼女とゆっくりと関係性を構築していきたいと思う。ユウコは嘘を見透かすようなところがあり、合コンやナンパで知り合う女とは違う何かをトオルに感じさせた。

同級生ケイスケ(岡山天音)と空虚で怠惰な大学生活を送っていたトオルの日常は、銃を拾ってから徐々に変わりつつあった。磨き、誰の目にも触れないよう大切に保管していた銃だが、やがて持ち歩くことに抵抗がなくなる。トーストとコーヒーを振る舞ってくれた女(日南響子)とは、ただでさえ刹那的であった関係が、快楽のみの繋がりと化していく。

ある夜、トオルは近所の公園で、瀕死の野良猫に向けて銃を撃つ。トオルはいつしか、銃を所持するだけでは飽き足らなくなっていたのだ。

アパートの隣に入居してきた女(新垣里沙)は、虐待とネグレクトに明け暮れている。夜中に聴こえてくる子供の叫び声を、トオルはクラシック音楽で掻き消そうとする。スナック勤めの母と幼稚園児くらいの男の子は、トオルに過去の忌まわしい記憶を呼び起こす。

ある朝、トオルは呼び鈴の音に起こされる。扉を開けると、中年の男(リリー・フランキー)が笑顔で立っていた。彼は刑事で、トオルに訊きたいことがあるのだ、という——。


11月初旬、『銃』ロードショー公開に先立って行われた舞台挨拶の後、武正晴監督、奥山和由プロデューサーが共同インタビューに答えてくれた。

大変に突っ込んだ話を聞けたので、封切りの今こそ、全ての映画ファンにお伝えしたい。

致命的なネタバレへの言及のみ、割愛させていただいた。


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真っ赤な、モノクローム『銃』日南響子 武正晴監督 奥山和由プロデューサー舞台挨拶レポート


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Q. 『銃』映画化に当り、武監督にはどんな要望を出したんですか?


奥山和由プロデューサー 昔々『SCORE』(監督:室賀厚/1995年)という酷い映画があったんですね……現場が酷いんですよ、出来は頑張ってくれたんです。予算が無いのに、地獄の行軍のような……その現場を支えてくれたのは、チーフ助監督だった武さんなんです。また、凄く難しい石井隆さんという監督が『GONIN』(1995年)をやった時……あの時代に『GONIN』を作るのは、狂気の沙汰だったんですけど……そこをまた支えてくれたのが武さん。「キラキラ青春もの」が主流の今、精神状態も含めて自分は原作(『銃』)にのめり込んで、やりたいと思った……あの時代を思い出すところがあって。自分の中で武さんの顔が思い浮かぶんだけど、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの武さんだから忙しいんだろうな……予算も無いしな……なんて思いながら、でも武さんがやってくれるんだったら何も言わずにお任せしようと思ってました。コミュニケーション量は大したことなくても、阿吽の呼吸のような……プロデューサーは映画の中では「人柱」みたいなところがあって、チーフ助監督も立ち位置が違っても人柱みたいで。そんな相通ずる共有感覚の中では、「何を語るか」なんてことは野暮くさいということで。渋谷のヒカリエの1階で打ち合わせをして「何か要望はありますか?」って聞いたら、「銃のリアリティだけ。あと、モノクロで行きたい」と。そこで、ズバッと……もう、全然OKでしたよね。


Q. モノクロは、武監督の発案なんですね?


奥山 そうなんです。「モノクロでやってみたいんですけど、駄目ですかね?」と言われ、「いや、駄目だなんて……ベストですよ!」って。通常よくこの業界では、「モノクロだとお客様が来ない」とか言われるんですけど、お客様なんか来なくても、良い物が出来ればいいという……「金は無いけど、やりたい放題どうぞ!」という、二律相反の話をお願いして、後は何も。キャストに関しては、既にお願いしてる方もいましたけど……(村上)虹郎さんとか。


武正晴監督 小説の中にあった「銃を撃ったら世界が変わる」というのが、どうやったら伝わるのか。僕が読んだ時、そこが小説の核な感じがしたんです。映像特有のコントラストで作れると思った時に、「フィルム・ノワール」が出来ると思ったんです。カラーでやるにしても、かなり色を落としたトーンでいきたいと……まだシナリオも何もない、小説を読んだ感じでそんなイメージがあって。煙草の煙が画の中で湧き立つような、こうしたらカッコいいかなっていうのをそのまま奥山さんに伝えたら、「それで行きましょう!」って(笑)。「もう出来上がってるじゃないですか!シナリオも書いちゃいましょう」ってなったんです。初稿があったんですけど、それを撮影稿にブラッシュアップしていく作業をやっちゃいましょうって(笑)。奥山さんが仰った『SCORE』や『GONIN』は、自分たちが修行時代の助監督の時に、映画の楽しさというか……「お前ら、やれるもんならやってみろ!」っていうくらいな最高のものを経験させてもらいました。今思い返しても、『SCORE』なんかは「もう一回やれ!」って言われても二度と出来ませんけど、若い時の青春のMAXですね。『GONIN』は、俳優も素晴らしい、スタッフも、内容も、監督も素晴らしい……僕は修行時代、凄く刺激になる作品を与えてもらいました。そして、修行時代に蓄えた物をこの映画にぶつけることが出来たんです。僕は助監督をやってなかったら、この映画は作れませんでした。


Q. 中村文則さんの原作を映像化する上で、苦労した点は?


武監督 原作の小説がかなりのレベルなので、この世界観を壊さないようにするのはかなりのプレッシャーですよね。奥山さんからも「原作寄りに考えてもらった方が良いんだ」って伺っていましたし、中村さんが凄く大事にされてる小説であることは当然知ってましたから。これだけの時間が掛かってもこの小説が映画化されてないっていうのは理由があることでしょうし、これを映画にするということは、生半可なものではいけないと思っていたんですよ。「自分がやりたい」ということよりも、中村さんの小説という世界観へどうやって自分が入り込んでいくか……先ずは、そこの苦しさがありましたよね。


奥山 そこを目指してもらったんで、上手く噛み合ったというところがあって。本当に中村さんご自身が言ってたんですけど、『銃』は彼の原作の中で、累計発行部数で断トツに売れてるんですね。アメリカでも、ウォールストリートのベスト10というのが毎年あって、日本の小説の中で唯一入った事のあるという……海外でも非常に売れているんですね。「この作品は、自分の原作としては熱烈なファンが数的にも圧倒的に多くいます。だから、いい加減な作り方は出来ない」って言われたんですよ。凄く難しいんです、脚本が。脚本化が難しい中村さん(の作品)の中でも、特に『銃』は難しい。桃井かおりさんで『火 Hee』(2015年)をやった時も思ったんだけど、文学者である中村さんの真髄を、肝心な部分を、演出する人が掴めるかどうかなんですよ。脚本はそれ以前にも、実は死屍累々と転がってたんですよ。誰が書いても、「駄目!」「駄目!」「駄目!」って感じで。じゃあ一回、原作に沿った形で、今回は宍戸(英紀)さんにトレースするように書いてもらったんです。それを武さんに、「この小説から一番肝心な所を掴んだら、後はどう直しても良い」と……そこは武さん、本当に素晴らしかった。良い監督だとは思ってたけど、中村文則さん自身も「こんなに簡単にOKしちゃうとは思ってなかった」、と。脚本のこともそうだけど、打ち合わせで武さんに言われること、言われること、全部腑に落ちたそうで……全幅の信頼をしてくれました。抜群のタッグでした。キャスティングにしても何にしても、やっぱり親分の武さんがこのキャラクターっていうこともあるんだけれども、近年稀に見るチームワークで、最高のメンバーでした……製作費が足りなかったっていうこと以外は(笑)。


Q. 映像だけでなく、音も凄く印象的でした。音のデザインや、大きさ、タイミング……これらは、監督の拘りですか?


奥山 全部、武さんですよ。


武監督 今回は白黒ものということもあったんですけど、サウンドデザインをもう一度一からやってみようと。そういう日本映画というものを、もう一度やらなければいけないなというのがあったんです。音に対しての不満が、日本の映画界にあって……これは技術者の問題ではなくて、演出だと思うんですよ。音に対しての提示、「こういうことが出来たら」というのは前から思っていたんで、それを試せる作品だと思ったんです。サウンドデザインに関しては、現場に入るからかなり音の詰めをやっていって、現場でどういう音を録っていくか、普通の撮影とは違うやり方を色々としました。だから、ダビングの時間が物凄く大変でした。最後の仕上げのところが、物凄く手強かったです。一人称の小説の映像化というところで、主人公に纏わりつく、カメラ、音……今の日本の社会の音に対する人々の感覚、耳を遮断していく社会に対しての提示というか、警告というか、そこを個人的にやりたい、と。銃声が鳴った時、その銃声に気付く人が今の日本社会で何人いるんだろうか、ということも含めて。


奥山 音は、最後の最後までやり直してましたもんね。


武監督 (笑)。そうですね。その最後の粘りが、一番効いたと思いますね。


奥山 大学の講義のところで、先生が咳をするのが一番好きなんですけど(笑)。


武監督 ああいうの、良いですよね。喫茶店のところで、余計な人の喋ってる声……あれが急に静まり返った時、周りを写さなくても音で表現できるという。自分でも、やってて楽しかったですね。


奥山 音楽もハマりまくりましたよね。


武監督 あれは、来ましたね!マイク・オールドフィールド『エクソシスト』(1973年)の音楽みたいなのが出来ないかと、撮影の前に音楽の海田(庄吾)さんと話してて……撮影前にあれが出来てしまったので、撮影中にあの音楽を掛ける訳ですよ。すると、妙な感じになるんですよ、撮影現場が……役者も、スタッフ達も。主人公がいつも家で聴いてるじゃないですか、ステレオにCDを入れてるから、実際に現場で掛かってるんです。掛けられない時もあるんですけど、基本的には虹郎はあの音楽を掛けながら芝居をするんです。虹郎くんは、撮影中あの部屋に住んでましたから。だから、彼が音楽を聴こうと思うと、あの音楽が流れるという(笑)。時々もう1曲、子どもの時に聴いてたベートーベンの協奏曲の2曲をCDを用意しておいて、彼が部屋の中で聴く仕掛けにしておいたんです。


奥山 何が良いって、東京国際(映画祭)でも何でもそうだけど、試写が終わってトークに役者さんや我々が出ていくでしょう、そうするとあの音楽が会場で掛かるんですよ。皆、その時の気分にサッとなれるから(笑)。


武監督 あれ、テンションちょっと来ますよね!


奥山 観客の方も、テンションが来てるのが分かる……便利な音楽ですよ(笑)。


武監督 映画音楽って、そういうもんですよ。「映画音楽を作ろうぜ」っていうのがいつも合言葉で、この海田さんは『百円の恋』もやってくれたんですよね。スタッフのチームワークは、かなり出来上がってきてると思います。


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Q. キャストを選定する際、決め手のようなものはあったんでしょうか?


武監督 奥山さんから電話で「虹郎、夏(撮影時期)空いてるんだよ」って言われた時、良いなあと思いました。ピッタリだな、と。で、「あの刑事、誰が演るんですかね?刑事、一番面白かったです」って言ったら、「リリー・フランキーってどう?」って。「最高だ、演ってくれたら良いなあ」と思いました。次はヒロイン探しで、やってくれそうな人を片っ端から候補を挙げていく中で、僕は「広瀬アリスが良いんですけど」と。年齢的にもジャストだし、ヨシカワを演るには良いんじゃないかと思って。それが、白黒で撮ったらより良かったという(笑)。


奥山 モノクロだからこそ、ね。ハッキリしてるし。


武監督 目が、もう……芝居も上手いんで、キャラクターに合ってるというところで。この人は中々難しそうかなと思っていたところが、すぐ演ってくれるという返事が来まして。リリーさんは、最後までどうなるか……って(笑)。


奥山 決めてる癖してね、返事してこないんですよ(笑)。


武監督 後で分かったんですけど、それは色々な(映画監督の)組でもそういうことがあるらしく……最初の頃は分からなかったんですけど。あと、元モー娘の新垣(里沙)さん。何というか……僕、まさかそんな風には見えないような、本当に幼い顔の人が道端で子どもを引っ叩くのを見たことがあるんですよ。その時に、舞台を観たことがあった彼女を思い出して。彼女は今回、凄くやってもらって良かったです。日南(響子)さんもオーディションだったんですけど、これくらいの(キャリアを積んだ)人になってくると、皆が演りたがらない役なんですよ。それを平気でやってくれることは、凄いと思いますね。


奥山 平気って言ってもねえ……日南ちゃんなんかは、監督がもう一回口説いて……


武監督 やっぱり難しいですからね。台本から受ける印象だと、「これ、私どうなっちゃうの?」みたいな。でも、「こんな風に写りますよ」「こういう役割なんです」って色々説明してあげたら、「分かりました!」ってスパッと演ってくれた凄さが、あの映像に……何か清々しいというか。台本に1行「コーヒーを淹れている」って書いたんですけど、「本当にこの1行を書いて良かったな」って思う、あの神々しいフォルムが。皆に尻込みして断られた役だったんですよ。こういう俳優がいるからこそ、作品が出来上がる。だからこそ、凄く「この映画を皆観てくれ!」っていう気持ちになるんです。キャスティングは、演ってもらいたい人が全部出てくれて、中々ここまで上手く行くことないなと思いますね」


Q. 岡山天音さんは、はじめ岡山さんだと思わなかったです。


武監督 皆、よくそう言ってくださいます。


奥山 本人は大人しそうな子なのにね……あんな、「歩くペニス」みたいな(笑)……


武監督 何か、変わるんですよ、彼は。この人も虹郎と一緒で……来ますね、この10年で。僕この前も一緒だったんですけど、20代なのに「ここまで役作りをしてくる?」という……いい人達が揃いましたよね。


奥山 俳優ではないけれども、ぴったりだったよね、ジャルジャルの……


武監督 後藤(淳平)さんは良いですよ。あの頼り無さそうな警官っていう、いそうな感じ。よく演ってくれました、中々難しい役なんですけど。僕は井筒組の『ヒーローショー』(監督:井筒和幸/2010年)でご一緒していて、それ以来だったんですけど。多分、相方(福徳秀介)は「何で俺じゃないんですか?」って、会ったら言われそうですが(笑)。後藤くんはめっちゃ喜んでましたけどね、「俺を選んでくれて、ありがとうございます!」って。他に何か(役が)無いかなと思ったんですけど……(コンビの)片方だけキャスティングすると、難しいですよね。


奥山 「まあいいや、(相方も)入れとこう」とか思うと、全体が崩れることになるしね、気遣いが命取りのなったり(笑)。


武監督 それから、村上淳さんがいてくれたのは、本当に大きかったです。スタッフにとっても、僕にとっても、虹郎くんにとっても大きくて。あの役を誰にするかがキーだったんですが、彼が来てくれたことによって現場が締まったし。メイクしたまま休まず現場にいるムラジュンさんがいて、虹郎も離れない……「映画の撮影って、本当に幸せだな」と思った瞬間でした。


奥山 村上淳さんという話になった時、「虹郎はOKかなあ?」と思ったんですけど、本人は……


武監督 「面白いっすよね」って(笑)。作り手達の発想に乗ったんでしょうね、「この人たち、面白いこと言うな」って顔して、ケロッと言ってました。そう言ってくれたのが有り難くて、それでムラジュンさんも乗ってくれたんですよね。


奥山 明らかに、張り切ってたもんね。


武監督 衣装合わせの時、めっちゃ良い顔で入ってきました。「監督、この「野球帽被ってる」ってのが、本当によかったよ」って、そればっかり言うんですよ(笑)。「普通、このト書き書けないよ」って。海外でも、あのシーンは気に入ってくれる人が多くて。親子ということを知らなくても、二人の演者が良かったので。


奥山 あの時の虹郎、本当に良い顔してるよね。


武監督 あれは本当、若い人特有で。中村さんと会った時、「青春なんですよ、この小説」って言って、どの口でいってるんだろうと思ったんですけど(笑)……「22、3歳の時に書いた小説か。俺もそんな時あったよな」って思って、凄く楽になったんですよ。「文学を映画にしなきゃいけないんだ」っていう気持ちから解き放たれて。誰もが持つそんな時期を重ねながら、虹郎という素材に乗っかっちゃおう、と。


Q. 撮影現場は緊張感に溢れていたのでは?


武監督 意外と、良い雰囲気でした。あんまりガチャガチャしなかったです、内容ほどは。虹郎も、テストとか本番は「ガーッ」となりますけど、普段はマイペースでした。一番は、電車のシーンでしょうね、緊迫感があったのは。シーンの内容が本当に難しかったにも拘らず、鉄道会社が本当に稀有な、有り難い人たちで、「じゃあ、この時間で」って。初めAV現場の痴漢電車のセットでって言われた時、一時間ぐらい悩みましたよ「ここでどう撮るんだ……でも、ここしかないのか」って思いながら。だけど、やっぱり「NO」って言いました。色んな撮り方を考えたんですけど、「ここでは無理だ」って。「どうですかね?」って言われて、(スタッフは)皆静まり返って……その時がいちばん緊張感ありました(笑)。「この監督は何て言うんだろう?」と、皆が僕の返答を……ああいう時、嫌ですね。「NO」って言った時、皆ちょっとホッとしてましたけど……あれ、「やる」って言ってたら、スタッフは離れたでしょうね。そのシーンは本当の電車で決められた時間で撮らなきゃいけない厳しい状況ですから、スタッフも相当気合い入っていましたよ。一番の見せ場なので、人も多いですし。そこではもう、飯も何も食わずに集中してやってましたから。その日だけは僕もモニターを見てないですから。カメラの横でずっと「用意、スタート」掛け、役者と一緒にやっていたという……何かちょっと、昔ながらの撮影方法でした。


Q. 映像化が難しいと言われる中村文則さんの原作ですが、そうまでして映像化したくなる魅力はどこにあるんでしょう?


奥山 非日常の中で普遍的な人間の奥底にある何か……そうとしか言い様がないんだけど、それをちゃんと描いてくれるんですよね。テレビや他の媒体では不可能な、映画でしか出来ない表現を、映画館の暗闇で真っ直ぐ向き合ってるから伝わるものの原石を、活字で書いてくれてるんですよ。最初に中村さんと話をした時、「残念ですね、(『銃』は)他で話が決まってて、役者も決まってます」って言われたんです。でも、何となく自分の方に原作が来るような気がして、単行本で『銃』と一緒に入ってる一番映画になりそうにない『火』をやらせてくれないかと言ったら、「そうだね、これは誰もやらないわ」という話になったんです。それで、そそくさと桃井かおりに連絡して「原作を読んでみて」と言うと、「今ちょうど飛行機に乗るから、良いわ」と。ロスに着いたら、「良い、やるわ。監督は誰?」って言うから、「決まってない」と言うと、「私がやるわ」って(笑)。当たる映画にはならなくても、中村さんに対して挑戦的になったんです。「他の奴ではやらないことを、みせたるわ」と。桃井かおりが一番野放しになるように「自宅だったら何をやってもらって構わないから」ってやってもらったら、それを中村さんは気に入ってくれて、そこで信頼関係が生まれたんです。武さんが『銃』を撮ってくれたのは、僕の中で喪失していたものを取り返す切っ掛けをくれたと思ってるんですよ。僕はあまり現場に行かない方だし、武さんは現場を完全に仕切る人だけど、同じ時代の同じ空気を吸ってきたという思いがあって……この映画を作りながら、そんな息吹が無理なく蘇ってきたんです。サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969年)で、ウィリアム・ホールデンがアーネスト・ボーグナインに「行くよ(Let's go!)」って言ったら「もちろん(Why not?)」って着いていくじゃないですか……あの感じ(笑)。


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公開が待ち詫びていた映画ファンも多いであろう……迷わず今日、初日に観に行かれるといい。

必ずや、もう一度観たくなる。


その理由は……


相当に突っ込んだ内容に踏み込んだこのロングインタビューでも、明らかにすることはできない。


まだ『銃』を観ていない方を、心の底から羨ましく思う。

貴方は、あの衝撃を味わうことが出来るのだ——。


映画『銃』

2018年11月17日(土)より

伏見ミリオン座、ミッドランドシネマ名古屋空港、イオンシネマ名古屋茶屋ほか全国ロードショー


出演:村上虹郎 広瀬アリス 日南響子 新垣里沙 岡山天音 リリー・フランキー

企画・製作:奥山和由

監督:武正晴

原作:中村文則『銃』(河出書房新社)

脚本:武正晴 宍戸英紀

2018年/97分


公式サイト

http://thegunmovie.official-movie.com