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2018年11月17日(土)より、『銃』がロードショー公開となる。

芥川賞作家・中村文則が「偏愛している」という衝撃のデビュー作、映画化に当たりメガホンを揮ったのは『百円の恋』(2014年)『嘘八百』(2018年)の武正晴監督である。


『銃』ストーリー

夜、河原を歩いていた大学生の西川トオル(村上虹郎)は死体を発見する。だが、トオルの心を捉えたのは既に事切れた男ではなく、傍らに転がり雨に打たれるLAWMAN MK Ⅲ 357 MAGNUM CTG——銃であった。

ある日、トオルは大学でヨシカワユウコ(広瀬アリス)と再会する。しばらく留学していたというユウコは自分に好意を抱いているようだが、トオルは彼女とゆっくりと関係性を構築していきたいと思う。ユウコは嘘を見透かすようなところがあり、合コンやナンパで知り合う女とは違う何かをトオルに感じさせた。

同級生ケイスケ(岡山天音)と空虚で怠惰な大学生活を送っていたトオルの日常は、銃を拾ってから徐々に変わりつつあった。磨き、誰の目にも触れないよう大切に保管していた銃だが、やがて持ち歩くことに抵抗がなくなる。トーストとコーヒーを振る舞ってくれた女(日南響子)とは、ただでさえ刹那的であった関係が、快楽のみの繋がりと化していく。

ある夜、トオルは近所の公園で、瀕死の野良猫に向けて銃を撃つ。トオルはいつしか、銃を所持するだけでは飽き足らなくなっていたのだ。

アパートの隣に入居してきた女(新垣里沙)は、虐待とネグレクトに明け暮れている。夜中に聴こえてくる子供の叫び声を、トオルはクラシック音楽で掻き消そうとする。スナック勤めの母と幼稚園児くらいの男の子は、トオルに過去の忌まわしい記憶を呼び起こす。

ある朝、トオルは呼び鈴の音に起こされる。扉を開けると、中年の男(リリー・フランキー)が笑顔で立っていた。彼は刑事で、トオルに訊きたいことがあるのだ、という——。


『2つ目の窓』(監督:河瀬直美/2014年)『ディストラクション・ベイビーズ』(監督:真利子哲也/2016年)『武曲 MUKOKU』(監督:熊切和嘉/2017年)と、新世代のトップとして順調にキャリアを重ねてきた村上虹郎が、冒頭から結末まで、本当に手放しで素晴らしい。

紳士的でいながら虚無的で、臆病でいながら暴虐で……演技力の、否、人間力の振り幅を自ら試すかの如き、目が眩むほどくるくると移り変わる村上虹郎は、今作が新たな代表作となることは間違いない。


共演陣では、級友ケイスケ役の岡山天音(『ポエトリーエンジェル』監督:飯塚俊光/2017年『おじいちゃん、死んじゃったって』監督:森ガキ侑大/2017年)に注目だ。限られた出番の中、『神さまの轍』(監督:作道雄/2018年)で見せたような心の機微までも表現している。

ヒロインの広瀬アリスも、『銀の匙 Silver Spoon』(監督:吉田恵輔/2014年)に劣らぬほどの輝きを、そして闇を放つ。

また、“もう一人のヒロイン”日南響子の、『桜姫』(監督:橋本一/2013年)『シマウマ』(監督:橋本一/2016年)を凌駕する文字通り「体当たり」の演技を観逃さないでほしい。

そして、村上淳・虹郎の『2つ目の窓』以来2作目となる「親子共演」により、『銃』は本当の意味での衝撃作となるのだ。


そして、そして……リリー・フランキーである。

決して多いとはいえない登場シーンだが、リリー・フランキーの台詞は物語を支配し続けるのだ。


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2018年11月7日(水)、『銃』ロードショー公開に先立って行われた舞台挨拶にて、「トースト女」役の日南響子、武正晴監督、奥山和由プロデューサーに話を聞くことが出来た。


MC. 東京国際映画祭【日本映画スプラッシュ監督賞】受賞おめでとうございます。


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武正晴監督 よかったです。正直、手ぶらで帰ったら嫌だなと思っていて(笑)。頂けるものは頂けて、スタッフや奥山さん……苦労した、スタッフ、キャストに対して、本当に良かったなと思います。


MC. この作品を映画化した切っ掛けを教えていただけますか?


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奥山和由プロデューサー こちら(愛知県)出身の中村文則さんの原作ですが……私は4〜5年前、えらく病的に精神的におかしい時があったんですけれども、何か本を読もうかなと思って、中村文則さんの『銃』を……表紙が気に入ったんですね、ジーパンに銃を差してるのが。それで、主人公の気持ちにグーッと入っちゃったんですよ。3年前、東京国際(映画祭)のレッドカーペットを歩いてると(村上)虹郎が、「あ、奥山さんでしょ?」とタメ口を利いてきて(場内笑)、「こいつが主人公だ!」と思ったんです。これを武監督でやったら絶対良い作品になると思って、武さんに電話したら「向こう2年、埋まってますよ。忙しいんです」って(笑)。でも、「多分どこか、何か映画1本くらい飛ぶから」って(場内笑)、「何か飛んだら、教えてください」って言ったら、翌日電話をくれたんです。


武監督 翌日電話しましたね、本当に。誰かの仕業じゃないかと思いましたけどね(笑)。


奥山 ちょうど(武監督は)本屋さんにいらっしゃったんで、「タイトルは『銃』ですよ」って言ったら探してくれたんですよ。


武監督 銃、拾っちゃったと言うか(笑)。


奥山 2〜3週間しか空いてないってことだったんですけど、「やっちゃいましょう、やっちゃいましょう!」って言ったら、「そうですか……やっちまいましょうか?」ってことになり、それから俳優さんがどんどん(決まって)……リリー・フランキーさんに、そして最後に日南響子さんという拾いもん!……今、変な言い方をしましたね……


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日南響子 いやぁ……聞いてないです(笑)。


武監督 オーディションだったんです。


奥山 皆さん、観たら吃驚すると思いますよ。


武監督 吃驚するでしょうね。


奥山 ご本人がいらっしゃるから言う訳じゃないですけど、本当に素晴らしいです!中村文則さんも最初の試写を観て、「この映画の中で一番いいのは、日南さんだ」って、本当にそう言ったんですよ。


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日南 (笑)……いや、まだ(お客様は)観てらっしゃらないですから。


奥山 他の役者さんは、大体想像通りです。日南さんは、想像を絶するんですよ!本当に映画的ビッチな感じの女優ですよね。


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日南 (笑)


武監督 それ、褒めてるんですか(笑)?


MC. 「トースト女」を演じるに当たって、何か心掛けたことはありますか?


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日南 私は撮影が1〜2日だけという短い期間だったんですけど、ほぼ自分の部屋の中の場面なんです。トオル(村上虹郎)が訪ねてきて、表情が変化していく、心境が変化していくところに立ち会っている……そういう「キー」だったりするので、トオルがどういうことを通ってきたのかというのを余り知らない状態でやりたいなと思って、テスト、本番にぶつけました。


MC. 思い入れのあるシーンは?


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武監督 結構良いシーンが一杯あるんですけど……リリー・フランキーさんには驚きました。と言いますか、噂に聞いてた「初リリー」を僕もやっと経験できて(笑)。


MC. 「初リリー」?


武監督 リリー・フランキーさんって、何者なんですかね?元々俳優さんじゃないじゃないですか。だけど……また言いますけど、吃驚しますよ。シナリオで8ページくらいあるんですけどね、これ本当に憶えてきてくれるのかなっていう……普通の俳優でも出来ないのにっていうことを、リリーさんはペロッとやっちゃう。この映画の観ものだと思いますよ、リリー・フランキーさん恐るべしっていう。これが、「お前もようやく経験したか、「初リリー」を!」っていう、監督、俳優たちの中での「怪物リリー・フランキー」評……そうしたら、カンヌ(国際映画祭)でも評判になっちゃいましたしね。


奥山 村上虹郎、リリー・フランキー、広瀬アリス……皆さんそれぞれ、予想通りというか、予定通りというか。そこに武監督……それはそれは、なかなか良いコントラストなんですけど……日南響子が凄い!今日、初めて公表するような話なんですけど……この作品は村上虹郎が銃を拾う場面から始まるんですが、この間中村さんと武監督と3人で対談した時に、「あれ、女が拾ったらどうなのかね?」って話から、監督が「日南響子に拾わせたら面白いかもしれないね」って。


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日南 (笑)


武監督 拾いそう(笑)!


奥山 拾いそうだし、すぐに引き金を引きそうだし……。とにかく、「日南さんで、もう1本作ろうか?」って。良く、そんなことを言いながら話は流れるものなんです。だけれども、監督に「来年どうですか?」って言い続けて、ずっと「来年」を待ってたんです。この間も「どうですか、空いてきました?」って聞いたら、「……空いてきましたね」って(笑)。


武監督 今ここで言うんですか、ヤバいですよ(笑)!


奥山 是非、日南さんでやっちまいましょう!


武監督 やっちまいますか。


奥山 皆さん、ご覧になったら、納得していただけると思います。「日南響子が銃を拾うところが、観たい」と思っていただけると思うんですね。『銃』スピンオフ版を、来年は作ってるかもしれません。


MC. 日南さん、銃を手にしたら、実際どうでしょう?


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日南 今までの取材でも聞かれたんですけど……「やっぱり拾いますね」って(笑)。レザーとかを一日中磨いてる日があったりするので、拾った後は、まぁ磨くよな、と。引き金を引くかどうかは分からないですけど、まず飾るよな、飾って眺めるよな……って話を、先ほどの取材でもしたばかりです。


MC. 撮影現場の雰囲気は、如何でしたか?


武監督 小説の中にある中村さんが書いたトオルという世界に、虹郎ふくめ僕らは支配されていた感じで、撮影してても本当に苦しくて。演者たちがどんどん飲み込まれていく中で、そこを耐え切る、バランスを保っていくのは大変でした。


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日南 虹郎くんは役に入り込んでいるので、トースト女とトオルの関係性そのままの空気、距離感でいた感じでした。私も1日でトオルが訪ねてくる回数を重ねなきゃいけなかったんで……毎回迎える度に新鮮な気持ちで、顔を見てどんな変化があったかを感じなければならなかったんです。それは、大変ではあったんですけど……毎回楽しかったですね。


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奥山 皆さん、覚えておいてくださいね。日南響子は、これから凄いですよ。僕は寄る年波で、「これから出る」という人のオーラを見る能力だけはあると思ってるんです。(日南さんは)愛知県出身ですよ。あ……僕も、自慢じゃないけど、東山動物園の横で生まれたんです。


日南 そうなんですよね。


武監督 さっき聞いて、驚きました。


奥山 3人とも、この近辺でお世話になっております(笑)。少なくとも3年経ったら、「生の日南響子を見たぞ!」っていうのを自慢できますから。嗅覚の鋭い奴で時々「俺がずっと独占する!」と言うような監督が現れたりするんですけどね……銃を拾ったら、そういうのを撃ち殺すでしょうね(一同笑)。

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MC. 最後に、メッセージをお願いいたします。


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奥山 本当に、今時珍しい映画です。ちょっとショックを受けると思いますが、心してご覧ください。


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武監督 驚いていただけると、ありがたいです。今日はお越しくださり、本当にありがとうございます。楽しんでいってください……いや、楽しめるかなぁ(一同笑)?


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日南 トオルの心境の変化や、変わっていくストーリーが、本当にじわじわと楽しめるかなと思います。今日は本当にありがとうございました。


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期待に胸を膨らませている映画ファンは、迷わず飛びついていただきたい。

そうでもない、今はじめて作品を知った、そんな方には鑑賞の一助にでもなれば幸いだ。


『銃』、傑作である。


映画『銃』

2018年11月17日(土)より

伏見ミリオン座、ミッドランドシネマ名古屋空港、イオンシネマ名古屋茶屋ほか全国ロードショー


出演:村上虹郎 広瀬アリス 日南響子 新垣里沙 岡山天音 リリー・フランキー

企画・製作:奥山和由

監督:武正晴

原作:中村文則『銃』(河出書房新社)

脚本:武正晴 宍戸英紀

2018年/97分


映画『銃』公式サイト

http://thegunmovie.official-movie.com