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人間以外のものを好きになる物語。

私たちは、そんな作品を数多く観てきた。


恋愛の相手は、様々だ。

動物、植物、機械、疑似生命体、死人、亜人類……

幽霊、妖怪、怪物、魔物、異星人、異次元人……

はたまた、悪魔、神(もしくは、ハーフゴッド)……

よくもまあ私たちは、多種多様なモノに惹かれ、陶酔し、愛でる対象としてしまう生き物なのだろう。


そんな一風変わった(と表現すると、意味が違ってしまうかもしれないが)ラブストーリーを求めるシネフィルには、ひょっとしたら今回の映画は「レヴェルが低い」とそっぽを向かれてしまうやもしれない。

10月13日(土)からロードショー公開となる『エンジェル、見えない恋人』(監督:ハリー・クレフェン/2016年/79分/ベルギー映画/フランス語)は、盲目の少女と姿が見えない男の子が織りなす、恋の物語だ。


透明人間……恋愛対象としては、いささか在り来たりではあるまいか。

上記した存在と比べれば、実在の怪しさだけは及第点と言えようが……一応、れっきとした“人間”なのだし。


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だが、そこは『神様メール』(2015年/115分)『トト・ザ・ヒーロー』(1991年/92分)を監督した「ベルギーの至宝」ジャコ・ヴァン・ドルマルが制作を務め、ドルマル作品に数多く出演経験のあるクレフェン監督のこと、目の肥えた恋愛映画マスターにも満足してもらえるような新機軸が備わっている。

実は今作、世にも珍しい「異種間による恋愛マニュアル」として鑑賞できるのだ。

しかも、透明人間側の目線で!


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自分を知ろう!

君の名前は、エンジェル。マジシャンのパパ(フランソワ・ヴァンサンテッリ)と、アシスタントのママ(エレナ・レーヴェンソン)との間に授かった男の子。

君は、普通の人と違い、姿が見えません。でも、ママのルイーズは君が大好きなのは、その名前からしても明らかです。

ただし、ママに頼りきりになってはいけません。パパがいなくなってから、ママは心を病み、体は弱っています。君は、いつかママの手を離れて生きていく時が来るかもしれないのですから。


相手を知ろう!

君は特別な存在ですから、「他の人と係わってはいけない」というママの言いつけは、ある意味真実です。でも、友達が欲しい気持ちになるのもまた、人間として当然です。

どんな人なら君と友達になれるのか、よく考えましょう。

君が気になっている、近所のお屋敷に住む女の子(ハンナ・ブードロー)は、どんな人ですか?なんと、目が見えないんですって……マドレーヌには気の毒ですが、君にとっては好都合ですね!


恋をしよう!

いくら君にとって理想の友達でも、仲良くなれるとは限りません。君の良さを、知らせていきましょう。

もちろん、マドレーヌのことも理解しましょう。ゆっくりお互いのことを知ってこそ、理想的な人間関係が築けるというものです。

時と共に成長するマドレーヌ(マヤ・ドリー)に、心が騒ぎますか?エンジェル、それが恋です。お互いの気持ちを確かめ合ったら、キスをするのも良いでしょう。


秘密を告白しよう!

恋人となった君とマドレーヌに、隠し事は厳禁です。特に、知られたらまずいことこそ告げておかないと、やがて大きな破局が待っているのは自明の理です。

秘密を打ち明けるのが、怖いですか?マドレーヌのことを、そこまで信じることが出来ませんか?

ならば、思い切って彼女の前から姿を消しましょう。運命の二人なら、再会することも出来るはず。いつか、大人になったマドレーヌ(フルール・ジフリエ)が君を探しに来るかも知れないのですから——。


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本作で描かれる透明人間エンジェルの存在感は、特殊効果を担当したスタッフの技量、工夫により、絶大なリアリティを生んでいる。

食事などの日常を描いた映画は数あれど、透明人間のラブシーンまで描き出した作品は類を見ない。(PG12のレイティングなので、ご注意を!)

圧縮空気によるエフェクトで生み出された官能的な場面、逆モーション撮影による不思議なシーンなど新鮮なカットがふんだんに散りばめられ、一時もスクリーンから目が離せないはずだ。


そんなリアリティがあってこそ、このファンタジックなおとぎ話は私たちに深い感慨をもたらすのだ。

『エンジェル、見えない恋人』が描くのは透明人間と盲目少女の恋であるが、実際のところ私たちが経験する「普通の恋愛」と変わりないことに気付くだろう。

恋の相手とは、自分にとって「ただの人間」ではないのだから。


ここでまた一つ、『エンジェル』の隠された物語を心に思い描くことが出来る。

失踪したエンジェルの父親も、実は透明人間だったのではないか?

彼の得意技は姿を消すイリュージョンなのだし、ドーランを塗ってステージに立っていたので正体がバレなかったのかもしれない。

だとすれば、劇中でエンジェルとマドレーヌに起こる幸運の幾つかは、姿が見えないパパが息子の恋をサポートしていたのではないか?


いつか機会があればクレフェン監督に聞いてみたいものだが……きっと監督は、こう答えるに違いない。

「物語は、観る人の数だけ存在するのだ」、と。


そう、恋と同じように——。


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映画『エンジェル、見えない恋人』

10/13(土)~@名演小劇場、イオンシネマ名古屋茶屋


【配給】アルバトロス・フィルム


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『エンジェル、見えない恋人』公式サイト

http://angel-mienai.com/