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現在公開中の『高崎グラフィティ。』は、一風変わった誕生秘話を持つ映画だ。
現在28歳の俊英・川島直人監督の初長編映画となった本作は、【未完成映画予告編大賞MI-CAN】第1回グランプリ作品。
堤幸彦、大根仁、平川雄一朗らが所属するオフィスクレッシェンドが主催した【未完成映画予告編大賞MI-CAN】は、3分以内で制作された予告編を審査し、優秀作には長編映画を制作するチャンスを与えるという試みで、川島直人監督の『高崎グラフィティ。』は応募作285編の頂点に立ったのだ。

大学で川島監督と同期だった佐藤玲(『リュウグウノツカイ』ウエダアツシ監督/2014年、『映画 夜空はいつでも最高密度の青空だ』石井裕也監督/2017年)が、予告編大賞に引き続き主演を務める。
また、萩原利久(『イノセント15』甲斐博和監督/2016年、『ウィッチ・フウィッチ』酒井麻衣監督/2017年)、岡野真也(『飛べないコトリとメリーゴーランド』市川悠輔監督/2015年、『下衆の愛』内田英治監督/2016年)、中島広稀(『スープ 生まれ変わりの物語』大塚祐吉監督/2012年、『キスできる餃子』秦建日子監督/2018年)、三河悠冴(『恋文X』市川悠輔監督/2014年、『帝一の國』永井聡監督/2017年)というフレッシュな面々が揃い、珠玉の群像劇を織りなす。
脇を固める、渋川清彦、奥野瑛太、川瀬陽太ら、実力派の存在感も大いに光る。

『高崎グラフィティ。』ストーリー

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群馬県高崎市のとある高校で卒業式を終えた幼馴染み、美紀(佐藤玲)、優斗(萩原利久)、寛子(岡野真也)、直樹(中島広稀)、康太(三河悠冴)の5人。3-5で一年間机を並べていたが、すっかり交流が途絶えた者、故郷を離れる者など、卒業を機に離れ離れになろうとしていた。
東京で服飾を学ぶことになっている美紀は、一人故郷に残す父(渋川清彦)のことが気懸かりだ。
進路が白紙の優斗は、父の経営する自動車整備工場と、先輩・君島(奥野瑛太)が働く悪徳中古車屋との狭間で、心を揺らしている。
バイト先の店長との同棲、結婚を想い描く寛子は、同じく地元に残る礼奈(佐藤優津季)、香澄(冨手麻妙)との関係に悩んでいる。
Fランとは言え大学に進学する直樹は、最後の故郷で良い思い出を残そうと躍起になるが、友人・太一(狩野健斗)、浩二(山元駿)から隠しごとを告白され荒れる。
東大を志望、進学する康太のことを皆は羨むが、康太はある重大な秘密を告げることが出来ず、悶々として夜を迎えている。
思い思いに卒業パーティーへ集まった彼らに、衝撃のニュースが飛び込んでくる。美紀の父・正晴が、入学金を持ったまま失踪しているというのだ――。

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2018年9月14日(金)、主演の佐藤玲がセンチュリーシネマ(名古屋市中区栄)へ舞台挨拶に駆け付けた。

佐藤玲 本日は、お越しいただきましてありがとうございます。名古屋に来るのは、二度目になります。『少女』(三島有紀子監督/2016年)という作品を豊橋で撮影しまして、オフの日にこの辺り(栄)で遊びつくしました(笑)。

フォトセッションも行われ、すっかり観客の心を奪った佐藤は、「写真を撮って、映画を観たからには、『高崎グラフィティ。』を宣伝してもらう義務がありますので!」と言って、客席をもう一度笑顔にした。

そんなスクリーンの中でも外でも観る者を魅了する女優・佐藤玲に、単独インタビューする機会を得た。

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Q. 佐藤さんは、どの段階から『高崎グラフィティ。』に係わっているんですか?

佐藤玲 本当に、一番最初からです。自分が(川島直人)監督と一緒に「何かやろうよ」って企画をし始めたのは、大学を卒業する間際くらいだったんです。ずっと機会を窺って一年半ほど色んなことを考えたんですけど、なかなか映画という形にまとまらなかったんですね。そういった時に、この【予告編大賞】のポスターを監督が見つけてきてくれて。「3分以内」という規定だったので、「先ずはこれに挑戦してみよう!」と始めたんです。

Q. 佐藤さんは出演者のオーディションにも携わったとか。主要キャストの方々は、皆さんオーディションだったんですか?

佐藤 そうです。私は【予告編大賞】から引き続かせていただいて、予告編の時は自分たちの大学の友達であるとか周りの子に(出演を)お願いしたんですけど、いざ本編を撮るってなった時には結構色々な方に来ていただきました。同世代の方を中心に、何百人いらっしゃったんだろう……結構な人数の方と会わせていただいて、1次に10日間、2次に2日間くらい掛けて(オーディションを)やったんです。

Q. 主要キャストの皆さんの第一印象は如何でしたか?

佐藤 (萩原)利久くんは、このメンバーの中で一人だけ、歳がちょっと若くて……今19歳なんですけど、当時はまだ18歳でしたか。初々しさと瑞々しさと、あと人懐っこさがありました。人の懐に入るのが凄く上手で、男女問わず好みが分かれない、自然体の人なんだと思いました。
 岡野真也ちゃんは……それまで私は、真也ちゃんの色々な作品を何度も観ていて、イメージはあったんです。お芝居が的確で、ポイントを押さえていて、凄く色気のある人なんだと思いました。持っているミステリアスな雰囲気と、そこから笑った時のギャップにキュンと来るという。そんな魅力のある人だと。
 中島(広稀)くんは『WAKE』のCMのイメージがあったので、(歳が)1つ下だとは思ってなくて、もうちょっと若い方だと思ってたんです。最初に「オーディションにどういう人を呼びたいか」って会議をした時、「中島くんに来て欲しい」って私もお願いしていました。当初、中島くんは優斗役でどうかと思ってお願いしたんですけど、お会いしてオーディションが進むに連れ、段々と直樹役の方が良いんじゃないかということになったんです。最初はクールな印象だと思い込んでたんですけど、そんなことはなく、凄く人当たりの好い、いつもニコニコしている人だったので。
 (三河)悠冴くんは、それまでもその後も結構個性的な役が多くて。康太という役は、どちらかというと真面目なクラスの秀才のイメージだったので、「彼が演るとどうなるんだろう?」ってずっと楽しみにしていたんです。(オーディションで)凄く真面目なお芝居をしてくださった俳優さんも一杯いましたし、そういう方たちも魅力的だったんですけど……憎めなさ、抜けていて、ちょっとイジられるような雰囲気が、康太にピッタリだなと思いました。間の取り方が凄く上手な人です。

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Q. 【予告編大賞】の『高崎グラフィティ。』と本編は、佐藤さんの予想と違う部分はありましたか?

佐藤 予告編の時には、そこまで台本も出来てなくて、プロットも設定がちょろちょろっと書いてあるくらいで、何も決まってなかったんですよね(笑)。そこから台本になった時に、「あ、美紀はこうやって喋るんだ」というのは凄い発見でした。映画に携わる時って、基本的には先ず台本を読んで仕事が始まっていくじゃないですか。それが途中段階に来るというのは、凄く新鮮でした。美紀に固定的なイメージがあった訳ではないんですけど、「こういう風に喋っていくんだ」「こういう所が幼いんだ」とか……台本を読んでいくに従って、皆との関係性を知っていくという感じでした。

Q. 佐藤さんと美紀は、重なる所はありましたか?

佐藤 私もお洋服が好きで……どれくらいお洒落かっていうのは、何とも言えないんですけど(笑)。洋服に気を遣うこととか、それを仕事にしていきたいという意志を持っている所とかは似てると思います。洋服に気を遣うっていうことは、(美紀は)良くも悪くも「人からどう見えるか」を凄く気にしてる子なんだなと思っていたので……そんな客観性もあるのに、まだ未熟な所が高校生らしさなんでしょう。当時から何となくやりたいことがあったことは、自分に似ているかと思っています。年を経ていくと、「あ、意外とこっちじゃなかったな」ってことも出てくるんですけど(笑)、当時の「こういうことをやりたい!」「私は頑張るんだ!」っていう衝動は、自分にも似てるところがあると思います。

Q. 役作りで大変だったことはありますか?

佐藤 言葉の物言いが凄くきついので、監督とも話をしました。「ここまで酷いこと言うかな?」っていう箇所が結構あったんですよね、相手にはどう聞こえるかって考えられない言葉の鋭さが。お父さん(渋川清彦)に対しても、本当はもっときつく言ってる所もあったんです。私が思う美紀は、結構きつく言うけどお父さんへの愛情が無い訳じゃない、と。甘える所は甘えるんですけど、母親が亡くなっていることで「お父さんの面倒を看なくちゃいけない」って感覚で過ごしてる子だから、ただただ娘として甘えるというより「なんでちゃんと出来ないのよ?」って叱ってるニュアンスを若干感じていました。そういう言葉使い、そういう物の言い方を、監督と話し合いました。

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Q. 川島監督は、現場ではどんな監督ですか?

佐藤 俳優のお芝居に凄く任せてくれる所があります。ただ、5人で、男子だけで、女子だけでと、事前に都内でもリハーサルは積み重ねてやっていて、その空気感が作られれば何を喋っても良い、と仰っていました。役を掴むまでの行程に関しては、凄く丁寧に説明したり、相談に乗ってくれて、本番では5人の衝動に任せる、5人の関係性に委ねる、そんな監督さんです。

Q. アドリブっぽい台詞も多かったですもんね。

佐藤 凄く「空気、空気!」ってずっと言ってました。空気感を大事にしてほしいから、噛もうが噛まなかろうが、真意が通ってれば……その人に言ってほしい台詞の内容さえあってれば、言い方も別に全然変えてくれて構わない、そんな感じで。お父さんとのシーンも、渋川さんは主軸だけ押さえてバーッと喋ってくださってたので、自分はもう反応するだけって感じでした。その反応も、アドリブといえばアドリブ……内容に沿ったアドリブですね。5人の朝食のシーンも、台詞通りに喋ってるんだけどクスクス笑ってたり(笑)。最後の方は完全にアドリブです……康太の「『グーニーズ』観た……いや、観てない……いや、観たかな」とか、あれは素で皆ずっと笑っちゃってる感じです(笑)。

Q. まだ『高崎グラフィティ。』をご覧になってない方に、一言お願いします。

佐藤 映画を観る時って、凄く集中して観て、引き込まれていくと思うんですけど……この映画に関しては、引き込まれると言うよりは、自分のアルバムをめくりながら、照らし合わせながらっていう感覚に近いのかなと思っています。凄くテンポが良い訳でもなく、むしろ空気感をメインにしているのでダラッとした所もあるんですけど……そういう微妙な空気感を、演出で無理矢理こじつけなかった所は、自分の昔を思い出したり、自分と照らし合いながら観るにはピッタリかなと思います。是非、自分のことを思い返しながら、もしくは親世代とかの視点も感じながら、観ていただけたら嬉しいです。

Q. では、既に鑑賞された方に、一言お願いします。

佐藤 多分、一番最初のカットを2回目に観ると、凄く印象が変わっていると思います。描かれていない彼らの高校生活まで透けてくるようなカットが、実はたくさん忍ばされているので。高校時代の友達、中学時代の友達、娘、親……色々な人と一緒に、2回3回と観ていただけたら嬉しいです。

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後から思い返せば、特別な分岐点だったと気付く、何でもない一時
そんな一瞬の空気を封じ込めた1時間47分を、是非とも劇場で味わってほしい。

どこか懐かしくて、どこか切なくて……たまらなく愛おしい瞬間が散りばめられた『高崎グラフィティ。』
スクリーンの中に、きっと自分を見つけ出すだろう。

『高崎グラフィティ。』、名古屋ではセンチュリーシネマで9月21日(金)まで公開中だ。
長雨の秋には、映画館がよく似合う。

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映画『高崎グラフィティ。』公式サイト


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