シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町)の残暑を飾る特集上映【夏のホラー秘宝まつり2018】から、9月1日(土)『ファミリー☆ウォーズ』(監督:阪元裕吾/2018年/75分)が初日を迎えた。
出演者の辻凪子が登壇するということで、20時50分からというレイトショーとしても遅い時間からの上映にも拘らず、大勢の映画ファンが劇場に詰め掛けた。
『ファミリー☆ウォーズ』ストーリー
父(海道力也)、母(うみのはるか)、長男(吉井健吾)、次男(松本卓也)、長女(土許麻衣)、次女(上のしおり)、そして祖父(田中義則)。7人家族の福島家は賑やかで仲の良い一家だったが、伸介が認知症を発症したことで状況が一変する。
伸介の奇行がエスカレートしていくうち、次第に精神的に追い詰められていく福島家の面々。伸介が少女の轢死体を持ち帰ってきたことで一家の怒りが爆発、家族間の悪意は殺意に変わり、死んだ少女の両親(安田ユウ、辻凪子)、次女の親友(藤井愛稀)と彼氏(片山直樹)らを巻き込み、血で血を洗う殺し合いに発展していく――。
上映が終了すると、サプライズが。
初日舞台挨拶ということで、予定していた辻だけでなく、阪元裕吾監督も名古屋に駆けつけてくれたのだ。
阪元裕吾監督 こんな夜も更けた時間だというのに、ありがとうございます!
辻凪子 シネマスコーレさんは2人で共同監督した『ぱん。』(2017年/15分)以来です。早く戻って来たいと思っていたので、今日は来れて本当に嬉しいです。
MC. 今作は商業デビューということで、おめでとうございます。(司会進行:シネマスコーレスタッフ 大浦奈都子)
阪元監督 ありがとうございます(場内拍手)。
MC. お2人は、京都造形芸術大学の同期ですよね?
辻 はい、今年卒業しました。
MC. 卒業して1本目の作品が『ファミリー☆ウォーズ』ということで、どのようなお話があったんですか?
阪元監督 最初にこの人(辻)が主演の殺人カップルの映画(『べー。』2016年/38分)を撮って、【学生残酷映画祭】でグランプリを獲らせていただいたんですけど、新たに撮った『修羅ランド』(2017年/12分)という映画をキングレコードから販売するDVDの特典映像に付けるというグランプリの特典がありました。その時にプロデューサーの山口(幸彦)さんと知り合いまして、仲良くなって色々遊んでたら(笑)、「阪元くん、次【ホラー秘宝まつり】にやらない?」と言ってくださって。2月くらいに言われたんですけど、その時にちょうど認知症のお爺ちゃんの事件と、高校生が一人暮らしの老人にお餅を配るというボランティアがあったので、印象に残ったんで「これを是非とも映画化したい」と思って撮りました。台風で倒れてきた看板でアイドルの方が突然車椅子生活になってしまったり、某宗教団体の執行が7月に起きたり……全て脚本を書いた後で起こったんですけど、そういうことが重なった映画でした。
辻 それで、公開前にあらすじをTwitterで書いたら、「いいね」が8.7万くらい行ったんですよね(笑)?
阪元監督 そうなんです……ビジュアルとかも上げたんですけど、それくらいの「いいね」を頂きました。中々無いと思います、公開前で8.7万って(場内笑)。
MC. その時は、もう作品は出来てたんですか?
阪元監督 (Tweetを)書いた時は、撮影の真っ只中でした。結局それのせいで、元から打つ予定だったインタビューとか記事などの宣伝が色々と無くなって(笑)……その後もう一回炎上したりしましたし。
辻 炎上した彼も、出演してますからね。ナルセ(キヨト)くんっていうんですけど(笑)。
阪元監督 商業デビューと言われていますが、撮り方とかは以前の作品と変わってないですしね。
辻 変わってないですよね(笑)。主演の方(土許麻衣)はお迎えしましたが、『ハングマンズノット』(2017年/87分)の時と同じチームでしたし。阪元監督も、自分でカメラを回しながら、監督もやって。
阪元監督 大変でした(笑)。でも、そうしないと……8日間くらいで撮ってるんで、これ。照明とか立ててたら間に合わなかったり、普通の家を借りての撮影だったので狭かったですし。普通に住んでらっしゃるご夫婦の家を、週末だけ借りてやってたんです。
MC. 血だらけでしたけど(笑)……
阪元監督 「血だらけにさせてください」って言って誓約書を書いて……先に業者さんに、「幾ら掛けたら元通りに出来るか」という見積もりを出してもらって、あんな感じにしたんです。
辻 絶対イヤですよね……自分の住んでる家を、最後あんな風にされたら(笑)。
阪元監督 関西のメンバーでしたし、東京で売れるのかは凄く心配でした。東京では僕たちのネームバリューはほとんど無いですし、色々キャッチーなことをやろうと思ったんです。『スロータージャップ』(2017年/90分)という食人映画を撮ってるんですけど、それでも弱いと思ったんですよ。コミュ障と殺人鬼(『ハングマンズノット』)でも面白いけど……一番キャッチーなものは何だろうと考えたら、「お祖父ちゃん」かと思いまして。
MC. 凄いですね(笑)。お餅を食べさせるシーン、本当にヤバいんじゃないかと思って観てました。
阪元監督 あの方(田中義則)実は、演技経験がほとんど無い……関西でたまにエキストラをやる程度の役者さんなんです。劇団なんかを当たったりしようかとも思ったんですけど、近場で体力のある人が良かったので、登山とかしてるって話を聞いて「この人だ」と(笑)。あのシーン、実は餅は食べてないんです。ワンカットですが、カメラを外した瞬間に吐き出してもらって……凄く安全な撮影だったので(場内笑)。でも、自分は現場に行けなかった車のシーンは大変だったそうです。お祖父ちゃんが本当に運転してるんですけど、かなりスピードも出してもらって。自分(辻)のシーンは、どうでした?
辻 私は……風呂のシーンは、ほんまに苦しかったです(笑)。
阪元監督 あれ、脚本になかったですもんね。
辻 何も決まってなかったんですけど、「お風呂に水溜めたいな」ってことになって。あんなに頑張ってたのに、最期は呆気なく(笑)。死に際は一人ひとり見せ場があって、面白いと思いますね。でも、彼(阪元)は生き残ってるんですよね(笑)。監督も、出てますので。
阪元監督 自分も出たいな、と思って(笑)。
MC. 結構、出たがりなんですか?
阪元監督 出たいんですよね。演技って、楽しいんで。
辻 毎回出てるんですよ、自分の作品に(笑)。『ハングマンズノット』にも、『修羅ランド』にも。
阪元監督 『修羅ランド』は、3回出てますね(笑)。
辻 いつも体当たりの役ですよね。
阪元監督 酷い目に遭うのが演りたいな、と。自分がやらないと、役者が着いてこないので(笑)。
MC. 辻さんの役も、強烈でした。
辻 私はこんな感じの役をやるのが初めてだったので、自分と掛け離れた感じにしたかったんです。母親の役なので、ネグレクトのこととかも勉強したんですが、実際こうやって観てみたら、そんなことは無意味やったんやないか?って(場内笑)。でも、あの子供さんは演技がめっちゃ上手くて。
阪元監督 そう、ちゃんと演技してくれてるんですよね。何故だか助監督が血糊を冷蔵庫に入れてて、キンキンに冷えたんです。付けたら「冷たい!」「もう嫌だ!」って言ってたんですけど、「用意……はい!」って言ったら、ちゃんと……死を表現してくれて(笑)。で、OK掛けたら、「わー、疲れたー!」って(場内笑)。
辻 5歳なんですけどね(笑)。実際、お母さん役(うみのはるか)の実の娘さんなんです。
阪元監督 だからお母さんもずっと現場にいたので、車のシーンも「もっと、攻めてください!」って(場内笑)。「編集で、後で出来ますよ」って言ってるんですけど、「迫力出ないですよ!」って(笑)。
MC. 共演の方も、皆強烈でした。
辻 次男(松本卓也)、めっちゃクソですよね(笑)。
阪元監督 撮ってて気持ちよかったですからね(笑)。
辻 彼は普段もめっちゃ喋ってて、しかもモテない……顔はイケメンやのに(笑)。彼も同期で、めちゃ良い奴です。
阪元監督 キャラクターに関しては、最初に先ず父親が出来て……こういう『サザエさん』みたいなのを信仰してる父親みたいな。最近そういうのにNOを突きつける映画が多いじゃないですか、血縁じゃない家族の人間関係を描く映画が。それを、敢えて思いっきり……血縁によって縛られてしまう映画を、というのが先ずありました。その後に、爺……そして、童貞とヤリチンが兄弟で、ここで戦わせるべきだろう、と。アイドルが酷い目に遭うのは『スロータージャップ』からやりはじめてるんですけど、今まで頑張ってた……例えば3歳の頃からピアノをやってて、やっと音大を出て親の反対を振り切り東京に行って、プロのクラシックの道に進むんだ!という瞬間に、事故で手が切断されたらどんな気持ちになるんだろう?って……そういうこの世で一番恐ろしいことを絶対やろうと思ってるんです。ちなみに、隣人(能塚昌幸)は脚本にも存在しないキャラクターです。撮影中に友達の家に泊まってる時に、「隣人みたいなのを出したいね」「いいね!」ってことになって、その友達が出てくれたんです。ボクシングをやってて、『べー。』とかにも出てます。あれ、全部アドリブなんです(笑)。次女(上のしおり)と親友(藤井愛稀)に挟まれる男(片山直樹)が、気の悪い台詞を吐くじゃないですか、あれも脚本には無かったんです。しょぼんとしてる男の予定だったんですが、「気ィ悪くしてくれ(させてくれ)」って言ったら、アドリブで「Wi-fi無いっすか」って(場内笑)。
MC. 今回、本当に色々と詰め込みましたね?
阪元監督 そうですね。何か新しいことに挑戦するんじゃなく、今までやってきたことを詰め込もうと思いまして……殺し合いとか、変な奴が突然出てくるとか。新しいことといえば、今まで主人公が入れ替わったりしてたんですけど、最初から最後まで一人の主人公というのは初めてですか。『ファミリー☆ウォーズ』は、今までやってきたことの集大成です。逆に言えば、次の映画は違うことをやっていきたいと思います。
この日が誕生日ということで、今度は劇場から辻凪子にサプライズ。
バースデーケーキが贈られた。
観客からの『ハッピーバースデー』が響く中、辻は満面の笑顔でロウソクの炎を吹き消した。
『ファミリー☆ウォーズ』は9月7日(金)までの連日、シネマスコーレで20時50分から上映される。
9月5日(水)、6日(木)は、阪元裕吾監督が再度ゲストを引き連れて登壇する予定とのことで、続報を御見逃し無きよう。
残暑がまだまだ厳しい頃来、血みどろの夜で長月を迎えては如何だろう。
映画は、劇場は、もっともっと自由であって良い――。
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