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『魅力の人間』(2012年/89分)で第34回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞し、海外の映画祭などでも絶賛された二ノ宮隆太郎監督が、新作『枝葉のこと』(2017年/114分)を携えて名古屋にやってきた。

『枝葉のこと』ストーリー

隆太郎(二ノ宮隆太郎)は、横浜郊外の自動車工場で働いている。仕事が終わると、同僚の志村(木村知貴)、水野(廣瀬祐樹)、橋本(三好悠生)らと居酒屋や、チヒロ(堀内暁子)やミキ(新井郁)のいる安スナックで、毎晩のように酒を飲む日々を送っている。
自分の周囲で下らない毎日を過ごす全ての人間を見下している隆太郎。だが、彼自身も一度は志した小説も書かず、惰性のような日常を繰り返し、心は常に鬱憤を抱えている。
ある日、幼馴染の裕祐(松本大樹)から電話が入る。「かあちゃんが会いたがっている」裕祐の母・龍子(矢島康美)には特別に世話になった隆太郎だが、病気のことを聞いてから一度も会いにいけずにいたのだった――。

監督自身の経験から創りだした物語を、監督自らが主人公を演じ、所縁の土地で、実際の場所で撮影し、実在の人物に自身を演じさせた『枝葉のこと』は、「私小説映画」という言葉では表しきることが到底できない凄味を帯びた傑作に仕上がっている。
この手法は二ノ宮監督の過去作『楽しんでほしい』(2011年/19分)を思い起こさせる。
『楽しんでほしい』では、哀愁と苛立ち、可笑しみが渾然一体となって、観る者が混乱してしまうような妙なリアリズムと圧倒的な説得力に溢れていた。
『枝葉のこと』では、更に研ぎ澄まされた妖気が作品全体を覆っていて、2時間弱という上映時間スクリーンに釘付けとなった。

2018年8月25日(土)、『枝葉のこと』初日の名古屋シネマテーク(名古屋市千種区今池)は、二ノ宮隆太郎監督と鈴木徳至プロデューサーを迎え、大勢の映画ファンが足を運んだ。

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MC. 『枝葉のこと』を作られた経緯を教えていただけますか?(司会進行:名古屋シネマテーク 永吉直之)

二ノ宮隆太郎監督 この映画は、実際に起きた出来事を基にしてまして、2013年に、自分の幼馴染の母親が亡くなりました。自分は小学校1年生の時に母親を亡くしてまして、そこから中学校1~2年まで、新しい母親が来ない間、母親代わりみたいな感じでお世話になった方だったんです。その亡くなる直前くらいに、数十万円お金を頂きました。僕が映画監督で、映画を作りたがっていることは知られていましたので、「それで映画を作ってくれ」と言って。亡くなった後、このお金は何に使おうか考えた時、おばちゃんの話を作ろうと思ったんです。おばちゃんの話を作るんだったら、自分とおばちゃんの実際にあった出来事を基にした映画を作りたいと思いました。

MC. 実話とはいえ、劇中の「隆太郎」と二ノ宮隆太郎監督とは、違いもあるんですよね?

二ノ宮監督 実際の僕はこんな感じで、何というか、良い子ぶってる感じがあるんですけど(笑)……普段、「人に好かれたい」だとか。でも、『枝葉のこと』ほど荒くれ者ではないですが、そんなに作ってる訳でもなく、「自分にすら見せない本当の自分」というのを曝け出すと言いますか、そんな感じです。ただ、こんな女性に酷いことをする……そういう人間ではないと(場内笑)、それだけは言いたいな、と(笑)。

鈴木徳至プロデューサー 監督は、映画でしか自分のことを表現できないんだというのは、日頃から付き合ってて思います……あと、泥酔した時と(場内笑)。意外とバランス重視しますよね。「殴られておけば、女に酷いことを言ってもOK」みたいな。

二ノ宮監督 (笑)。あれで、プラマイゼロにしたつもりだったんですけどね。

鈴木 ゼロになってなかったみたいですよね。あのシーン、怒る人は凄い怒ってましたもんね(笑)。

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二ノ宮監督 でも本当、こんな(名古屋)シネマテークさんで、上映できるなんて……。

鈴木 本当にこれは小さな映画で、こんな全国で上映できるなんて考えていなかったんです。先ほど話にもあったように、「おばちゃんの遺産」で自主映画として監督がどうしても作りたいと言って作った映画だったので。(エンド)クレジットでは、僕はプロデューサーで入ってなくて、おばちゃんがプロデューサーだと思ったんで名前を入れています。でも、出来たものは本当に素晴らしくて……ロカルノ(国際)映画祭など大きい映画祭に入ったり、僕も完成した作品を観てどうしても劇場公開したくなったので、自分からお願いしてプロデューサーという形で配給も一緒にやっています。イメージフォーラム(東京都渋谷区渋谷)さんで2ヶ月ロングランで上映していただいたり、作品が出来てからどんどん新しい方に届いています。監督自身もこういう規模でやるのは初めてだと思うので、毎日喜びを分かち合っている感じですね(笑)。

二ノ宮監督 本当に、作り終わってからどうするかってことが全く分からずで。その後、彼が全てをやってくれるという……本当にもう、ありがとね(場内笑)。

鈴木 (笑)。この間また一緒に新作を作りまして……ちょうど終わって一週間経っていない様な感じなんです。また『枝葉のこと』とちょっと似たような作品ですけど、今度は女性が主人公です。しかも、今までの作品は全部自分が出演するスタイルでしたが、今回は自分が出ないで、ある女優さんに託して……

二ノ宮監督 萩原みのりさんですね。

鈴木 女優さんに、己を託すという作品になっています。今『カメラを止めるな!』(監督:上田慎一郎/2017年/96分)という凄い話題になっている作品と同じプロジェクトの、今年版でやらせていただいてるんです。今ちょうど、クラウドファンディング中なんですよね(笑)。

二ノ宮監督 そうですね(笑)。

鈴木 撮影して、かなり手応えがあって、良い作品になると思います。良かったらそちらもチェックしてください。

MC. 作品のタイトルは何ですか?

二ノ宮監督 仮タイトルですが、『お嬢ちゃん』です。11月にイベントって形で上映できると思います。

鈴木 劇場公開ではないですがK's cinema(東京都新宿区新宿)さんでイベント的に上映させていただいて、映画祭に出品したりして、来年の公開に向けて準備していこうと考えています。

二ノ宮監督 良い、悪い、は色々だと思いますが、今までに無い映画になると思います。

鈴木 手応えはありましたね。

二ノ宮監督 ありました!

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MC. 海外の映画祭でのエピソードを紹介していただけますか?

鈴木 二ノ宮監督は自分が出演するということで、北野武監督に例えられたりすることもあったんですけど……

二ノ宮監督 「リトル北野」とかね(笑)。

鈴木 ……ちょっと調子に乗ってる部分はありましたよね(笑)。

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二ノ宮監督 ロカルノもそうですが、特にヨーロッパの映画祭はアジア人が少なくて……王兵(ワン・ビン)か、俺、みたいな感じで(笑)。

鈴木 (二ノ宮監督と)似たような人がピザ食べてたら、王兵だったりしましたからね(場内笑)。

二ノ宮監督 そんな感じで目立ってて、しかも自分で出てるので発見されやすくって。

鈴木 そうそう。海外の映画祭に行くと、「あ、リュウタロウだ!」みたいな感じですよね(笑)。韓国(釜山国際映画祭)でも、結構人気者でしたよね。

二ノ宮監督 そうですね……何か、今までで一番モテたんじゃないかと(笑)。

鈴木 『枝葉のこと』は家族の話なので、ロカルノで……ロカルノはスイスで、所得の高そうなご年配のお客様が多かったんですけど、結構感銘を受けて迎え入れてくださったようです。割りと幅広く届く映画なんだと、実感として掴んだような気がしました。

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MC. 家族ということで、公式パンフレットに監督とお父様との対談が載っています。ご自分の映画に実のお父様を、しかも本人役で……演出は難しかったのではないですか?

二ノ宮監督 親父を出すことと、自分が出ることは、最初から決めていたんです。親父も、まあまあ「素人にしてはやる男」だと信じてたので(笑)、取りあえず、台詞だけ覚えてきてもらって。殴られるシーンから親父とのシーンは、ほぼ順撮りで……

鈴木 ボコボコにされた後に、お父さんに会いに行く、映画の通りの順番で撮ってたんですよね。また、横位置で撮ってるので分かりにくいんですけど、本当にボコボコにされた息子を前に、父親は演技をさせられているという変わった状況だったんです。

二ノ宮監督 あれ、分かりにくいですよね(笑)。こっち(顔の左側)は結構腫れてたんですけど。

鈴木 でも、緊張感は凄く伝わったと思います。前も何回か、お父さんとは作品と作ってきたんですよね?一番最初の作品(『楽しんでほしい』)もお父さんを出してて……結構、芸達者ですよね。

二ノ宮監督 それも、「前よりちょっと上手くなってるな」と(場内笑)。あのシーンは、1回しか撮ってないんです。

鈴木 これだけ劇場公開して、その間に結構お父さん褒められてましたよね。若干……

二ノ宮 ……調子に乗っちゃってる感じですね(場内笑)。

鈴木 「新作は、台詞が無いのか?」と言われたとか(笑)。

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Q. 主人公が歩いている後姿とか、身体の動きとか、凄く印象的でした。監督自身、どのように演出されたんですか?

二ノ宮監督 「そこまで考えてない」というのが本当でして……ガニ股だったりするのも、自分では気付いてなかったり。あんなに胸を張って歩かないですけどね(笑)。

鈴木 執拗に歩くシーンを撮りたがるので、現場でも疑問に思ったんですよ。カメラマンも「ナルシシズムが凄ぇな」って(場内笑)。

二ノ宮監督 (笑)。いや、映画として、必要だと思ったんですよ。

鈴木 そう。繋がったのを観たら必要だったから、凄いなと思いました。歩いてる時、どういう気持ちだったんですか?

二ノ宮監督 いや、もう演ってる時は、何にも考えずに演ってましたけどね(笑)。

鈴木 それも凄いですよね。何も考えずに、あれだけの数やるって(笑)!

二ノ宮監督 いや、必要だと思ったからですよ(場内笑)!

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舞台挨拶の後、名古屋シネマテークのロビーにて行われたサイン会は、列を作った観客のほとんどが感想や質問を二ノ宮隆太郎監督にぶつけ、23時近くになってようやく終わる盛況ぶりだった。
「お客様、アツいですね」鈴木プロデューサーは感慨深げに呟いた。

歩く、食べる、飲む……繰り返す瑣末なことは、日々を生きる当事者にとっては“枝葉のこと”ではないのだ。
それを当人の手により丹念に描き出した時、枝葉の先端は針のように尖り、観る者の心を鋭く、深く、穿つのだ――。
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映画『枝葉のこと』公式サイト


名古屋シネマテーク公式サイト